折れた剣   作:Furfur

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2話

 

 

母親に鞭打たれる少女の姿を見た瞬間、俺の中の何かが壊れた音がした。

俺が垣間見、密かに憧れていたかもしれなかったささやかな日常は、既に終焉を迎えていたのだ。

 

 

「何を呆けているの?」

 

 

プレシアに声をかけられて我に返る。

 

感覚を失っていた四肢に気を張り巡らせ、ばらばらに砕け散った(ぜつぼう)をかき集めて、エミヤシロウを再構築する。

 

状況の把握。周囲に目をやる。

 

崩れた石柱や神像が並び、枯れた木々が赤い光に浮かび上がる。

まるで廃墟と化した神殿のようだった。

 

……さっきのところより落ち着いて話がしにくいじゃないか、ここは。

 

まあ、フェイトがいないところに場を移せたのでよしとするしかない。

 

 

「早速だけど、ある世界に行ってジュエルシードというロストロギアを集めて欲しいのよ。最低でも14個。フェイトが1個集めたから最低残り13個。多ければ多いほど良いわ。大至急、集めて頂戴。細かいことはフェイトから聞いて。あの子にも同じ任務を与えているから」

 

 

プレシアは一方的にそう言って、こちらの反応を見ている。

 

質問するなら早く済ませないと、プレシアはすぐに奥に消えてしまうだろう。

 

再会してからは、いつもそうだった。

 

しかし、ロストロギア―――?

 

ロストロギア―――滅びた世界の遺した強力なマジックアイテム―――と言ってもピンキリあるし、ジャンクのようなものなら俺も持っている。

 

だが、中にはとてつもない代物もゴロゴロしているのも事実。

 

狭義では相当な力を持つもののみロストロギアと呼ぶこともあるくらいだ。

 

用途が気になるな。

 

 

「2つだけ、直接あんたに聞いておきたい。

集めるのはロストロギアだよな? 時空管理局が出てきたらどうする?

そこで退くか、時空管理局から隠れながら集めるか―――どうして欲しい?」

 

 

次元世界は広い。ロストロギアがらみなら必ずしも管理局が出張ってくるというものではないが、ロストロギアの回収は彼らの主な任務の一つでもある。

 

 

「なんとしてでも、手に入れて。貴方はそういう裏の仕事だって手慣れたものでしょう?」

 

 

「意味がわかって言ってるんだろうな、プレシア。下手をすればあんたもフェイトも犯罪者になるぞ」

 

 

「そうね、管理局が出てくるのは万に一つだけれど、別に構わないわ。

……彼らから逃げる術も、隠れる術も、私には十分にある。

私が管理局に怯える理由はないわね。

どうしても嫌なら、管理局が出てきたらあとはあの子にまかせてしまっても構わないから。ええ、その可能性について、フェイトに指示しておくのを忘れていたわ。ありがとう。

あの子に、もし管理局が立ち向かってきても躊躇わずに戦うよう、言っておいてくれるかしら?」

 

 

口元をサディスティックに歪めながら、蛇を髣髴とさせる凄絶な視線を投げかけてくるプレシア。

 

……俺が、フェイトを見捨てられないと分かって言っているのは間違いない。

 

 

「ふん、まさか。その伝言は聞かなかったことにさせて欲しいな。

管理局が来たときには、俺が泥を被ろう」

 

 

「そう」

 

 

そっけない、だが、愉悦のこもった一言。

フェイトをダシにされ、俺はもう後に引けなくなっている。

しかし、管理局を敵に回しても構わないと来たか、ヤバイかもしれないな。

 

 

「まあ、管理局は出てこないことを願うとして――――次の質問だ。

一体、そのロストロギアを何に使うんだ?

あんたは、そんなにジュエルシードってやつが欲しいのか? 管理局を敵に回してもいいくらいに?」

 

 

この問いにプレシアはしばし瞑目すると、珍しく真剣に、俺の目を見つめ返した。

 

思わずたじろぐ。こんなの初めてじゃないか?

 

いや、『あの頃』には何度かあったことだ……

 

 

「そうね、何に使うかなんて、あなたに言ってもわからないけれど」

 

自嘲するように伏せられたまつ毛が上がり、再び真っ直ぐに俺を射抜く。

 

「――――でもね、私には、どうしてもそれが必要なの。この事実は、どうしても変わらないわ」

 

 

プレシアは、俺にとって、大切な人であり、恩人だ。

そして――――守れなかった人でもある。

 

――――脳裏に浮かぶ少女の死体は、誰のものだったか――――

 

いや、感傷は断ち切るべきだ。プレシアの考え次第では大惨事になりかねない。

………とはいえ、もしプレシアを止める側に回るとしても今は依頼を受けてしまったほうが有利、か。

 

 

「わかったよ、その依頼、受けよう」

 

 

『貴女が、本当にそれを欲しいと言うなら仕方ない』

という感傷と、

『どうやってプレシアの真意を調べるか』

という打算が同時に頭に浮かんだ。

 

いやいや、もう一つ大切なことがあるだろう。

ロストロギアとプレシアの危険性について考えるのはもう少し後からでもいいはずだ。

 

 

「ただ、一つ条件がある。

報酬はいらない。

代わりに、成功した暁にはフェイトのことについて、いくつか頼みを聞いてもらうぞ」

 

 

まだフェイトがプレシアを愛しているのなら望みはある。

プレシアが、フェイトをもっと理解できさえすれば………ずっとそう思っていた。

 

俺も、リニスも。

 

フェイトは、本当に良い子だ。

 

プレシアがフェイトに愛情を抱けさえすれば、プレシアもフェイトも、本来得るべき幸せを享受できるのだ。

 

そのための機会を作ろうと、リニスはずっと根気よくプレシアの説得を続けて――――そして、徒労に終わった。

 

だが、彼女は諦めなかったし、俺もまた諦めるつもりはない。

 

まだ取り返しのつかないことになどなっていない、必ず、幸せな母娘を取り戻してみせる。

 

先ほど抱いた想い(ぜつぼう)を振り払う。

 

まだだ、まだ終わってなどいない。

 

終わらせてなどやらないからな、プレシア――――

 

そしてそれが、アリシアへのせめてもの償い。いや、弔いだ。

 

 

そう言えば、リニスを見ていないな。

 

彼女がいればプレシアがフェイトを鞭で打つなんてこと、許すはずがない。

彼女の残したメッセージの件もある。嫌な、予感がした。

 

 

「ふん…………まあ、いいわ。

ジュエルシードを必要なだけ集めてくれば、そのくらいのお願い、いくらでも聞いてあげる」

 

 

珍しい。

 

プレシアはフェイトのこととなると何でも面倒くさがる。

 

いや、むしろ嫌悪さえ浮かべかねない。その彼女がこういう願いをすぐに承知してくれるのは稀だった。

 

 

「よし、約束だからな」

 

 

間髪いれずに即答した。

不安は大きいが、この機会は逃せない。

 

 

「ええ、頼んだわよ」

 

 

そう言ってプレシアは身を返し、

 

 

「ちょっと待て、俺からも用件があるっ」

 

 

あわてて口を挟む。危ない危ない、最初の目的を忘れるところだった――――なんだか今更になってしまったが、これは俺一人の問題じゃない。

プレシアは大儀そうに振り返ると、不機嫌そうに顎で話を促した。

 

 

「ヒュードラ事件の真相とその企業についてだが、告発の準備がもうじき完了する。あのときの主任補佐と幹部数名、あらかた牢獄送りに出来る。

この依頼が終わった後、できればあんたにも……」

 

 

まあ、万が一管理局を敵に回してしまった場合、俺もプレシアも表には出られないから同士たちに頼みっきりになるわけだが。

 

 

「嫌よ。そんな暇は無いの。この仕事が終わってから、好きにやって。

じゃあ、もう行って頂戴」

 

 

やはりと言うべきか、プレシアは疲れたように応えると、今度こそ最奥部へと去っていってしまった。

 

 

 

 

 

 

――――少々、時を遡る――――

 

 

 

 

 

 

 

Side アルフ

 

あたしはそのとき、鞭の音とフェイトとの精神リンクから伝わってくる恐怖に怒り悲しみ、震えていた。

だからすぐ近くにあいつが来たことに、話しかけられるまで気がつかなかった。

 

 

「アルフ……だよな。この音は何だ?」

 

 

顔を上げると、あたしより背の低い、でもフェイトと比べるとだいぶ背の高い少年が立っていた。

褐色の肌に白髪が印象的なその顔は、見覚えのあるもので――――

 

 

「シロウッ!」

 

 

エミヤシロウ。

昔、プレシアに世話になったという少年。

まだリニスがいた頃にときどきやってきてお菓子をくれたり、プレシアから依頼を受けたりしていたのを覚えている。

あの頃はまだ幸せだったことを思い出すと、つい目尻に涙が滲んだ。

 

 

「あの鬼婆だよ、フェイトにやつあたりしてるんだ。

おかしいよ、あいつっ!

いつもいつも、いつもいっつも無茶なことでヒステリー起こして、フェイトに酷いことするんだっ!」

 

 

堰を切ったように怒りの言葉があふれ出して止まらない。

 

思えば、今までこんなことを遠慮なく言える相手はいなかった。

 

フェイト本人にはときどき不満を漏らしたが、そうすると主人であるその少女をかえって悲しませてしまうのだ。

 

この少年は以前に何度も、プレシアにフェイトに対する接し方を変えるように訴えたこともあって、積もり積もった不満の言葉をぶつけるのに格好の相手だった。

 

しかし、その少年は信じられないと言った表情で

 

 

「プレシアが………フェイトを? 嘘だろ……?」

 

 

などと口走りやがった。

怒りのあまり拳が勝手に動く。

 

拳は呆然とする少年の横っ面に直撃し、たたらを踏ませる。

 

そして再び、鞭の音とフェイトの悲鳴が上がった。

 

 

「……いつもなのか、これは?」

 

 

押し殺した声でシロウは言う。

 

生身にあたしの拳を喰らって痛くないはずが無いし、実際に顔には酷い青あざが出来ていた。

 

にもかかわらず彼は痛むそぶりも見せずに、真剣に尋ねてくる。

 

気勢がそがれて、思わず情けない声が出た。

 

 

「そ、そぉだよ。今回みたいのははじめてだけどさ。

フェイトにいろんなお使いを任せておいて、頼んだ本に知りたいことが書いてなかったりとか、気に入らないことがあるとフェイトをひっぱたいたり殴ったりするんだ。

フェイトは、昔は優しいお母さんだったんだって、フェイトのために叱ってくれてるんだとか、いつかまた優しいお母さんに戻ってくれるからとか言うけど……」

 

 

ギリッと、奥歯を強く噛み締める音が響いた。

 

 

「――――でも絶対、おかしいよあの女っ!

フェイトは……フェイトはあの女の言うなりになってることなんてないのに……」

 

 

もう涙で前が見えなくて、そんなに親しくない、しかもプレシアに恩があるというコイツの前でこんな醜態をさらしているのが情けなくて――――

でもそれ以上に、リニスがいなくなってからのこの1年が悲しくて悲しくて、言い終わると顔を伏せて嗚咽を漏らすしか出来なかった。

 

 

「止めて来る」

 

 

「ダメだよっ! 邪魔するかえってフェイトが酷い目に遭わされるんだ……だからっ!」

 

 

急いでフェイトの元へ行こうとするシロウの腕を掴む。

 

 

「だからって、ここで黙ってじっとしていられるか!」

 

 

その気持ちはうれしくないわけじゃなかったけれど、止めようとすれば使い魔の躾がなってないって言って、かえって酷いことをされる――――あたしにとってはあたりまえで絶望的なこのルールを知らないコイツの能天気が憎かった。

 

そうしてしばらく力比べになり、狼素体の使い魔であるあたしに勝てるわけが無いと悟ったのか、シロウは急に力を抜いて――――

 

瞬間、天地がさかさまになった。

一瞬混乱したが、どうやってかあたしは後ろ向きに倒されていて、あいつはあたしの腕から逃れてフェイトの元へ――――

 

 

「って、だから行かせないよっ!」

 

 

力だけじゃなくてスピードもこっちのほうがずっと上だ。

あわてて立ち上がり、再びシロウに組み付こうとするが、腕を掴まれて関節を極められそうになる。

 

させるかっ!

 

 

「こんのーーーーっ!」

 

 

「くっ、なんて馬鹿力だ、お前っ!」

 

 

体勢と関節技に優れるらしいシロウと、力自慢のあたしとでしばらく拮抗する。

と、唐突にシロウの力が抜けた。

 

さっきみたいに罠かと思い、あわてて身を一歩離してファイティングポーズを取る。

が、シロウは気まずそうに喋りだした。

 

 

「――――冷静になってみるとだな、俺はプレシアに用があってここに来たんだ。

元々フェイトの状況を知って、プレシアを止めに来たってわけじゃない。

だから、俺がプレシアのところに行ってもその用件の話になるだけで、フェイトはそのまま解放される見込みが強いんじゃないか?」

 

 

―――――今の言葉を頭の中で反芻する。

 

 

「早く気づいてよあんた! ってか、それなら早く行けーーーーーーーっ!」

 

 

「ん、ああ、言って来る」

 

 

半泣きになりながら背中を蹴飛ばすようにして送り出すと、シロウは走ってフェイトのところに向かっていった。

 

――――これで、プレシアのお仕置きが止まるといいけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年が行ってからしばらくして、おぼつかない足取りでフェイトが戻ってきた。

バリアジャケットはあちこち破損し、手足には鞭の後が残っている。

その痛々しい姿を見て思わず駆け寄り

 

 

「大丈夫かい、フェイトッ?」

 

 

つい、愚問を口にした。

 

 

「うん、大丈夫。平気だよ、全然……」

 

 

応える前から分かりきったはずの答えを口にする、自身の主の姿に心が軋んだ。

フェイトの体を抱きとめて支え、体力を消耗した主に代わり不得意な回復魔法をかける。

 

そもそも回復魔法とは、魔法の普及していない管理外世界でしばしば信じられているような、万能かつ強力なものではない。

 

基本的に、身体が自然に備えている治癒能力を多少水増しするだけのものにすぎないのだ。

 

実戦向けの回復魔法ならば急速に傷を癒すことも出来るが、せいぜい1週間分の自然治癒を短時間で行えるという程度。

 

限度を越えた魔法治癒はかえって体組織や神経系に後遺症を残すことになるらしい。

 

他にも回復魔法に長けた魔導師なら、止血、太い血管や皮膚の縫合、滅菌、特定微生物の除去ワクチンとかもできるというけれど、これらは魔法を用いない医学でも出来ることだ。

 

重傷を負えば、例え強力な回復魔法を用いようとも、時間をかけても治しきれない後遺症を負う事や部位の欠損を招くことも珍しくない。

 

自分の使える回復魔法では、人体が本来備えている自己治癒能力をこころもち増幅することと、再生能力を身体の一部位に集中させる位のことしか出来ない。

 

あたしやフェイトの回復魔法では、この傷を完治させるのに早くても数時間はかかるだろう。

 

下手をすればもっとずっとたくさんの時間がかかる。

特に最近は生活が不規則で代謝能力が落ちているのだから。

そして、治るまでフェイトは鞭の傷跡からもたらされる痛みに耐えなければならない。

 

 

「あの女ぁ……」

 

 

「アルフ、本当にたいしたことないから……

それにさっきは、途中でシロウ……あの、昔、何度か来てくれた人、覚えてるよね?」

 

 

そう、あの頃は、今となってはもう嘘のように遠い昔――――

 

 

「ああ、途中であったよ。

そいつが来て、それでおしまいになったのかい?」

 

 

「うん、だから……大丈夫」

 

 

そう……と頷いて、そういえば一発顔を殴ってしまったことを思い出す。

悪いことをしてしまった。

 

回復魔法を使えばフェイトの傷よりは早く直るだろうけど、しばらく痛むはずだ。

 

その一方で転ばされた自分は無傷。

後で謝っておこう。それと、感謝も。

 

1年前にリニスが消えて、フェイトが今のようにしょっちゅう理不尽な目にあうようになってからというもの、自分がいつもイライラしがちでかっとなりやすくなっているという自覚はあったけれど、どうしようもなかった。

 

 

「もう終わったんならもう帰ろうよ、フェイト」

 

 

今は、早くあの女のもとから帰りたかった。

 

 

「ううん……母さんが、待っていてって」

 

 

最悪だ。

シロウの用件が済んだ後、またお仕置きされるのだろうか。

それ以外に考えられなかった。

 

うーっと唸り、片手で頭をがしがしと掻き毟る。

ここであたしが怒っても、フェイトの負担になるだけだ。

お互いに無言で、じりじりした気持ちのまま時を待つ。

 

意外に早く、シロウが戻ってきた。

この後、プレシアからフェイトに念話が来るか、それともシロウがプレシアの言伝を持って、再びあの玉座の間に戻らされるのか……

身を硬くして待ち構える。

 

 

「今日は。お久しぶりです。シロウ。

母さんから何か伺っていませんか?」

 

 

あたしから身を離したフェイトが先に、シロウに向かってたずねる。

 

 

「ああ、久しぶり。フェイト。

プレシアから、ジュエルシード集めの依頼を受けた。

詳細は君に尋ねるように、だそうだ。

できれば君と一緒させて欲しいんだけれど、いいかな?」

 

 

ぎこちない笑みを浮かべてそう応えた。

 

 

「「……え?」」

 

 

予想外の返答に、あたしもフェイトも一瞬硬直した。

 

 

「む、駄目なのか?

まあ確かに、得体の知れない男と一緒に任務ってのも難があるか。

じゃあせめて、情報だけでも教えてもらえないかな?

それと、悪いけど現地への次元転送も頼みたいんだが」

 

 

ってこら、勝手に話を進めるなっ! しかも、たぶん間違った方向にっ。

 

 

「あ、いえ、その」

 

 

フェイトがあわてて対応しようとするけれど、消耗しているせいか上手く言葉が出ない。

こういう状況になると内気なところのあるフェイトはちょっと弱い。

むしろ全く知らない人相手ならフェイトも毅然と応えられるんだけど……

あわあわしているフェイトの姿を見るのは久しぶりで、我が主ながら本当に可愛い。

って、いけないいけない、ここはあたしが助け舟を出さないと。

 

ジュエルシードに限らず、今までフェイトとあたしだけでやってきたところに、第三者が入ることは初めてだ。

 

コイツが本当に信用できるのかもわからないし、第一コイツはプレシアに恩が有ると言っていた。

でも、フェイトの負担が減ることは良いことだし、コイツはフェイトを心配してくれた。

 

だから――――

 

 

「ひとまずは一緒でいいよ。

でも、任務の都合とかもあるだろうし、場合によっては別行動してもらうかもしれない。

フェイトもそれでいいかい?」

 

 

「ああ、それでいい」

 

 

シロウはあっさりと返事をした。

こういう交渉に慣れているのか、余裕しゃくしゃくなところがちょっと癇に障る。

 

 

「私も、それでいいです。

シロウ、よろしくお願いしますね」

 

 

「よろしく頼むよ」

 

 

「ああ、フェイト、アルフ。

こちらこそよろしく、だ」

 

 

こうしてフェイトとあたしだけのはずだった任務に、一人のイレギュラーが加わった。

このことは、これからの自分達の運命にどんな変化を及ぼすのだろうか。

願わくばそれが、フェイトにとって良い運命でありますように。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

 

 

「すまない、唐突で悪いんだけど、これを持ってくれないか」

 

 

話がまとまると突然、シロウは虚空から大きな鞘を掴み取って私に指し示した――――保管魔法?

 

反射的に受け取る。

 

重いけれど、見た目ほどではない。何で出来ているのだろうか?

 

何で私に持たせたのか、その意図を測りがたくて、私の顔よりかなり高い位置にあるシロウの顔を見上げる。

 

アルフはとっさに怒って何かを言いそうになったけれど、シロウの顔を見て何かに気がついたようにぽかんと口を開けた。

 

どうしたんだろう? シロウの顔に何もおかしいところはないと思うんだけれど。

 

 

「これはまあ、俺のレアスキルみたいなもんなんだ。

本来は主に俺の傷を再生するためのものだけどーーーー」

 

そう言いながらシロウは自分の顔を指差してアルフに視線を送った。

 

「こうやって鞘の形を取らせて誰かに持ってもらうと、その人の傷を癒す効果がある――――って説明すればわかり良いかな。

効果も身体への負担も、肉体損傷に限れば高位の魔導師の治癒にもそうそう負けないはずだ。

スピードなら瞬間治癒用の魔法には劣るけどな。

もう少しすれば、フェイトの傷跡も消えるだろう」

 

 

確かに、薄い傷を見るとどんどん小さくなっていくのが見えた。

 

 

「ありがとう………ございます」

 

 

凄い。確かにこの人は少なくとも回復魔法に関しては一流かもしれない。

正直、今までこの人の魔法の実力はたいしたことないだろうと思っていたけど、認識を改めなくちゃいけない。

 

 

「あ、あたしからもお礼を言うよ。ありがとう。それと、さっきはゴメンよ」

 

 

「いや、これから協力して任務に当たるなら、細かいことで礼を言ったり言われたりというのはよそう。

むしろこれからは俺のほうが足をひっぱることが多そうだしな」

 

「それは、どういう……?」

 

「――――そうだな、具体的には、俺は時空間転移をするだけで死にかけるんだ」

 

 

……え?

いや、確かにこの人の魔力は低そうだけど……死にかけるって……

アルフもぽかんと口を開けている。

 

 

「四捨五入しての説明になるけど、俺は魔力が低いのと魔法理論がいささか苦手な分をレアスキルで補っているんだ。

基本的にはCランク以下の魔道師で、何枚かは一流の手札を持っているキワモノだと思ってくれ。

とはいえ、これでも今までに一通りの依頼はこなして来た。

君達とはできることとできないことが大分違う、ということを覚えていて欲しいんだ。

あと早めに言っておくと、俺が念話で話しかけられるのは視界内なら50メートル、視界の外からなら20メートルが限度だから」

 

 

さらさらととんでもないことを言う。それってほとんど念話の意味がないんじゃ……。

いけない、呆っとしていないでちゃんと覚えておかないと。

アルフ以外と組んで仕事をするのは初めてだから、気をつけないといけない。

今しなきゃいけないことは……。

 

 

「わかりました、覚えておきます。まずは、私達の拠点まで案内しますね。アルフ、シロウの転送お願いしていいかな?」

 

 

「いや、フェイトの分もあたしがやるよ。

フェイトは疲れてるだろ?あたしは元気が有り余ってるからさ」

 

 

「大丈夫だよ。そのくらいはなんとかなるから。

3人も転送するのはアルフだって疲れちゃうし」

 

 

「だけどさ……」

 

 

アルフがちらっとシロウに視線を送った。

ひょっとすると――――

 

 

「俺もアルフに賛成だな。君は今は体力の回復を第一に考えるべきだ」

 

 

「平気です。私、強いですから」

 

 

念話を送ったのか、視線だけでシロウが察したのかはわからないけれど、気を使わせてしまうのは申し訳ない、バルディッシュを起動して次元転移を開始する。

大丈夫、私は強い。だから、こんなのなんでもない。

 

 

「あ、フェイトッ!」

 

 

転移先は、第97管理外世界、現地名称を地球。

日本という島国にある臨海都市、海鳴市にあるマンションの屋上だ。

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