折れた剣   作:Furfur

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5話

 

Side 士郎

 

朝靄の中、人里から離れた高台の草むら。

あたかも無害な、ただの綺麗な石ころのように『それ』は落ちていた。

その実は内に莫大な力を秘めた、物騒極まりない蒼い宝珠――――ジュエルシードを慎重に拾い上げる。

まだ発動はしていないが、念のために―――

 

―――投影、開始トレース、オン―――

 

投影した聖骸布でジュエルシードをぐるぐると包み、きつく縛り上げた。

ずいぶん不恰好になってしまったが、こうしておく限り、まず暴走することも覚醒が進行することも無い、安定な状態になるはずだ。

とりあえずはこれで仮封印といったところ。後でフェイトにきっちり封印してもらおう。

 

 

「3日探して1つ。まずまずといったところかな」

 

 

まだ全く発動しようとしていないジュエルシード。発動までにはかなり時間がかかっただろうし、フェイトの探索魔法でもまだ探知できないはずのものだ。俺にしては運がいい。

今は遮蔽が無く広い地形から優先的に探しているから、探索が進むにつれそうした地形も少なくなり、次第に効率も落ちるだろう。

とはいえ、俺にジュエルシード探しが出来ることも判った。これならフェイトたちの足をひっぱらずに済みそうだ。

 

悠長なことをしているようだが、今はまずフェイトとプレシアへの信用を得るべき時だ。急いてはことを仕損じる。

これでプレシアの求めるジュエルシード14個のうち2個の収集が完了したところ。

まだ、ジュエルシード集めに専念していていいだろう。

次の報告のときには何らかの決断を迫られるだろうが……

 

そろそろ早朝6時。時間も丁度いい。そろそろ戻って食事の支度をする時間だ。

今日の朝食はどうしようか。たしか、冷蔵庫の中には……………よし、戦力は十分。

料理でフェイトの笑顔を取り戻せるとは思えないけれど、彼女が朝から気分よく働ける助力くらいはしないとな。

 

……さあ、俺達の住処に戻るとしよう。

 

 

 

 

 

*   *   *   *   *   *   *   *   *   

 

 

 

 

朝食があらかた完成し、最後に目玉焼きを焼いていると、フェイトが台所を覗き込んでいるのに気がついた。

珍しいな。いつも大きなベッドに力なく横たわっているか、地図と睨めっこをしているか、バルディッシュのメンテナンスをしているか……とにかく、任務に関係ない行動は日常でもしないのに。

しかもそわそわして落ち着きがない様子だ。今日は雨か嵐か? むしろ槍でも降ってきそうだな。

小窓から空を見る。別に暗雲が立ち込めていたりなどしない。

 

 

「どうした? 朝飯はあと5分ってとこだぞ」

 

 

「え? あ……その、今日の朝ごはんは何かな……って思って……」

 

 

小動物のようにびくっと震えるフェイト。

つい口元がほころんでしまった。まあ、食欲が出てきたのは良い事だ。

 

なんか懐かしい………そうだ、セイバーとのやり取りみたいだな。

 

 

「うぅ………そんな風に笑わないで……」

 

 

「ああ、いや、フェイトを笑ったんじゃないよ。

料理人として嬉しかっただけさ」

 

 

だから、これくらいのことで耳まで真っ赤にしてうつむかないで欲しい。

 

 

「……そ、そうなの?」

 

 

「へー、やっぱあんた料理人なんだー。

まあ今更だけどねぇ。シロウって骨の髄まで料理人根性染み付いてるし」

 

 

腕組みしながらにやにや笑うアルフ。おのれ、どこから湧いて出てきた。

 

 

「アルフ、今のは言葉のあやだ。

俺の本分は魔術使いで、戦う者だからな」

 

 

「へぇ~。ほぉ~」

 

 

当然の抗弁をするが、聞いちゃいねぇ。

何かやたら噛み付いてくるな、この娘。というか獣編で狼。

今までたまりに溜まったストレスの解消なんだろうか?

それで気分が晴れるなら――――まあいいんだけれど。

 

 

「魔術使い……って魔導師じゃなくて?」

 

 

さっきまでおろおろしていたフェイトが怪訝そうに尋ねてくる。

ああ、説明していなかったな。

 

 

「ああ、俺はミッド式以外の系統の《魔法》を使うんだ。

ミッド式魔法も使うから、便宜上はレアスキル扱いってことにしてる。

その系統は【魔術】って呼んでるから、俺は魔導師というより【魔術使い】ってことになる」

 

 

「そっか。あの剣の鞘も【魔術】なの?」

 

 

「まあ、そんなところだ……ってところで、もう出来たぞ。

盛り付けるから運んでくれ」

 

 

「まーたごまかしたねぇ。っと、あいよ~」

 

 

アルフは一瞬眉を引きつらせたが、それだけで素直にスープ皿を運び出す。

俺が全てを語っていないことに感づいたようだが、特に詮索する気はないようだ。

このあたり、彼女のさばさばした性格はありがたいな。

 

 

「うん。こっちはアルフのかな?」

 

 

「ああ、今朝は鶏肉だ」

 

 

「肉~♪」

 

 

とたんに上機嫌になるアルフ。現金なヤツめ………微笑ましいじゃないか。

 

 

「あとこれな。後は俺が運ぶから」

 

 

 

「「「いただきます」」」

 

 

挨拶をして、食事を始める。

今日のメニューは軽く焼いたクロワッサン、目玉焼き、ソーセージ、あとはポタージュと野菜ジュース。

最近はフェイトもしっかり食べてくれるんで作りがいがあるというものだ。

 

アルフはいつもどおり肉をがつがつと貪っている。

フェイトは……ポタージュをよく味わうようにゆっくり飲んでいたが、こくりと首を傾けて、そのまま固まったように動かなくなってしまった。

……あれ? なんかまずかったか?

 

フェイトはスプーンを口から離すと、おそるおそる尋ねてきた。

 

 

「これってひょっとして、リニスの、味……?」

 

 

「ああ、食べなれたものが良いかと思って、リニスの料理の味付けを真似てみたんだけど、どうかな?

ひょっとしてどこか変だったか?」

 

 

「う……ううん……美味しい。

美味しいよ……その、ちょっと、昔を思い出しただけ……」

 

 

『昔を』―――そう、9歳の女の子の言葉とは思えない言葉を呟くと、フェイトは暗い顔をして俯いてしまった。

 

………しまった。完璧に再現しすぎたか。

フェイトはリニスがいなくなるまで彼女の料理を食べていた。

俺の料理をありがたがってくれるのは、リニスがいなくなって食生活が悪化したせいもあるのだろう。

そのことにフェイトは気がついていなかったようだが、俺が今、リニスの料理を再現して見せたことで、昔と今、その落差を今更ながらに実感させてしまった。

あの頃だって完全な幸せとは言いがたかった。

でも、リニスの存在はフェイト達にとってどれだけ救いになっていただろうか。

 

アルフもフェイトにつられて暗い顔をしている。

 

俺はリニスの代わりを果たせていない。

他人が本当の意味で誰かの代わりを果たすことなんてできやしないのは判っている。

だからと言って、今の俺のふがいなさを赦す気にはなれなかった。

 

 

「あっ……ごめん。

えっと……その、そういう意味じゃなくて、懐かしい味だなって」

 

 

ちらりと俺のほうを見たフェイトが慌てて口にした言葉に、再び愕然となった。

 

なんで、フェイトが謝るんだ。

どうして、お前がそんな引きつった笑いを浮かべて、あからさまな無理をしてまで、俺やアルフを安心させようとしている?

俺は断じて、こんな笑顔を見たかったわけじゃないっ!

 

暗くなった空気を元に戻そうと、ぎこちないままに喋り続けるフェイトが痛々しくて……

思わず、手が伸びていた。

一瞬、怯えたように身を竦めるフェイト。

まさか、殴られるとでも思ったのか? そう考えて腸はらわたが熱くなる。

 

 

「………え?」

 

 

フェイトの頭の上に手を載せる。

そのままわしわしと、フェイトの頭を撫でた。

 

 

「フェイト、君はまだ幼い。

そこまで強くあることはないんだ。

……悲しくなったら泣いたっていいんだからな」

 

 

――――逡巡の後、フェイトはただ悲しそうに首を振ると、視線を落とし、消沈したように瞑目する。

そして目を見開くと、堅い意思を込めた瞳で真っ直ぐに俺の眼を見返してきた。

 

 

「大丈夫だよ。私、強いから。

そうでないと、母さんを悲しませるから。

いつかまた母さんが優しい母さんに戻ってくれるから、私は大丈夫」

 

 

絶句する。

違う。それは間違った強さだ。

剛くて硬い、鋭い刃………でも、きっと脆い。そんな強さ。

 

無性に、腹が立った。

だが、ここで激昂しても始まらない。怒りをぐっと腹に溜め込む。

フェイトは、セイバーとは違う。俺と言い合いになっても、真っ向から思ったことを反論してくれるとも思えない。たぶん、そうしたらフェイトは黙り込むだけだろう。

言いたいことはたくさんあるが、今は俺が黙るしかない――――

 

 

「そ、そういえばさ――――」

 

 

気まずそうにしていたアルフが強引に話題を変えようとする。

今の俺にはまだ、この子を救うことはできない―――その助け舟に乗るしか出来なかった。

なんて、無力か――――この俺は。

心にも無いことを言ってフェイトを励ますことすらできない。

ならばせめて、朝から雰囲気が気まずくなるのは避けよう。

フェイトにこれ以上、痛々しい作り物の笑顔を浮かべさせ続けるわけにはいかないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

空気はぎこちないままだったが、無理矢理テンションを張り上げたアルフに付き合って会話を進めるうちに、いくらかマシになって来た。

そんな中、アルフが今朝のことについて質問を投げかける

 

 

「シロウは今日の朝も探索してたんだよね、どうだった?」

 

 

「ああ、ひとつ、発見したよ。しかも完全に未覚醒だ」

 

 

「えっ? もう見つけたのかい?」

 

 

話を振っては見たものの、本当に見つけられたとは思わなかったんだろう。

アルフは演技でなく素の驚きの声を上げた。

それに、ただ頷いて返し、フェイトに声をかける。

 

 

「仮封印しておいたから、後でちゃんと封印しておいてくれるか?」

 

 

「―――う、うん。

……えっと、シロウ、一つ発見してくれたらどうやって探してるか教えてくれるって言ってたよね」

 

 

「ああ、そうだそうだ。そういう約束だったね。で、どうやったのさ?

完全に未覚醒のジュエルシードを見つける方法なんて、ちょっと思い当たらないんだけど」

 

 

「一言で言うと―――目視だ」

 

 

「はぁ!?」「……え?」

 

 

「俺は人よりちょっと目が良いから」

 

 

「いや……どれだけの広さだと思ってるのさ?

目がよくったってどうにかなるもんじゃないだろっ?

こんな小さなものを、どうやって!?」

 

 

「うーん、もともと目がよくて、加えて視覚強化の魔術も得意なんだ、俺は。

あとは根性だな」

 

 

……あ、フェイトが絶句してる。

 

 

「とことん非常識なヤツだね、あんたは……」

 

 

「俺に言わせれば君らのほうがよっぽど非常識なんだけどな。

俺はただやり方が君達とちょっと違うってだけだよ。

まあ、視界のいいところから探してるから、だんだん探索効率は落ちるはずだ。

その辺はフェイトの探索魔法と逆だな。最後のほうはフェイトの探索範囲から探すことになるだろ」

 

 

「……なるほど。

はじめの内はシロウは単独で調べて、私の探索魔法で範囲が絞れてきたら連携していくってことだね」

 

 

任務の話は反応がいい。

フェイトの生真面目さが判るというものだが、彼女が自分の母親のためにどれだけ一生懸命に、必死になっているかが痛いほどに伝わってきて――――見ていて苦しい。

 

 

「フェイトのほうはどうだ?」

 

 

「うん。怪しいところはあちこちにあるんだけど、絞り込むのに時間がかかりそう。

ほとんどのジュエルシードはまだ目覚めるまでに時間がかかるから、それまでに場所を絞り込むつもり。

でも……やっぱり目覚める直前にならないと難しいみたい。

目覚めてからなら探索魔法を使わなくてもすぐに分かるんだけどね。

でも、そうなってからだとこの町の人たちに迷惑をかけちゃうから、早く見つけないと」

 

 

「じっくり腰をすえてかかるしかないな」

 

 

「……でも、何とかもっと早く出来ないかな。

母さんをあんまりまたせちゃいけないし……」

 

 

フェイトの顔がまた暗くなる。

 

 

「まあ、どうしようもないだろ。変に焦っても返って逆効果になりかねない。

とりあえず、大半のジュエルシードが覚醒するまでは俺が頑張るから、今は体力を蓄えててくれ」

 

 

「……うん………そうするしか、ないのかな。ごめんね、シロウ」

 

 

「だから謝らなくて良いって。

後のほうはフェイトに頼りっきりになるんだからな。

今フェイトにこんなことで謝られてたら、そのうち俺が毎日土下座することになるじゃないか」

 

 

「あっはっは、それはそれで面白そうだねぇ。

まあ、シロウじゃ封印だってまともにできやしないんだから、気にしちゃだめだよ。

いや、ここで謝っておいて、あとでシロウが毎日土下座するのを見るのもそれはそれで……」

 

 

「アルフ。君、少し黙れ」

 

 

そうすると今ここで謝るのはフェイトなんだからな?

 

 

「うん……足りないところを補い合っていけばいいってこと……かな?」

 

 

「ま、そういうことだな。

俺は足りないところだらけだからフェイトやアルフには迷惑をかけると思うけど」

 

 

何分へっぽこだからな。

 

 

「そんなこと無いと思うけど……シロウは、今まで誰かと一緒に戦ったりしたことはあるの?

私は今までアルフとしか組んだことがなかったから、アルフ以外との連携ってしたことがないんだ」

 

 

「まあ、何度かある。

俺のできることはかなりでこぼこだらけだけど、いろんな分野のことを飛び飛びにいろいろできるからな。

戦闘もオールレンジで戦えるし、連携は得意だ。

だから、連携は俺のほうで合わせるからやりやすいようにやっててくれ。

 

でも実際のところ、あんまり他人と共闘したことはないな。結局いつも独りでやってきたよ」

 

 

「そっか……」

 

 

そう言って目を伏せるフェイト。

なんとなくまたぎこちなくなって会話が途切れてしまった。

フェイトは詳しい事情を聞くのを遠慮して黙ったのだろうが、俺としても面白い身の上話が出来そうにない。

アルフも、フェイトが聞かない以上俺に突っ込んだことを聞くわけにもいかないようだ。

 

スプーンでポタージュをすくって口に運ぶ。

 

 

「………あ」

 

 

あーあ、冷めちまった。

 

 

 

 

 

再び沈黙が続く。本当に、脆い日常だ。

 

 

「…………………あの」

 

 

気まずいままにスープをすすっていて気がつくのが遅れたが、フェイトが何か言いたげにこちらを見ている。

 

 

「あ、悪い……暖めなおすか?」

 

 

「え……ううん、そうじゃなくって……」

 

 

フェイトはもじもじしながらちらちらとこちらを見ていたが、意を決したように喉を鳴らし、こちらに向き直った。

 

 

「えっとね……言うのが遅れちゃったんだけど……」

 

 

言うタイミングが遅れた? 何のことだろうか。

ちなみにアルフは肉を食うのに夢中になっていたのか、今になってきょとんとしていたりする。

 

 

「さっき、励ましてくれて……あ、ちがうのかな? えっと……その……慰めてくれて………

あの、とにかく、ありがとう。シロウ」

 

 

――――さっきの言葉、気遣いとしては受け止めてくれていたのか。

そう、俺はこの娘のためにろくなことができていないけれど、それでも何か、確かにフェイトの力になれているのなら――――

 

 

「気を使わせちまったかな、こちらこそありがとうな、フェイト」

 

 

不安げな顔をしていたフェイトがほっと胸をなでおろす。

 

そんな様子を見ているうちに、この身に力が漲ってくるのが感じられた。

内心、苦笑する。

俺のほうがフェイトに力づけられてどうするんだ。

ならばせめて、今フェイトに貰った力は、フェイトの為だけに使おう。

 

 

 

――――結局この日は前日の3割増しの範囲を目視探索したのだが、ジュエルシードは見つからなかった。

 

その上、昼食と夕食には思いのほか力が入ってしまい、アルフのみならず珍しくフェイトまで満腹のせいで探索効率が落ちてしまったことを教訓として胸に刻み込んでおく。

 




自分の作品をまさか覚えて頂いているなんて思ってもなかったのでとても嬉しいです。
完結目指してゆっくり頑張ろうと思います。
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