うららかなある春の日。
今日ものんびりしていようと思えば、何だか表がざわついている。
騒がしい声に、二度寝は無理かと欠伸を噛み殺して家を出た。
「何だ・・・?」
ざわざわとどこか浮かれているような近隣住人を見渡して、数人が指さす方向を見上げる。
「あー・・・」
ピクニックなどで、小学校やらがよく向かう山に見慣れない不穏なモノが見える。
「・・・しろ、か?」
おどろおどろしい暗雲が立ち込める山の頂上に、見た事のない巨大な城が立っている。
昨日まであんなものはなかった。
一夜にして建設された城に、街中の人間がカメラやムービーに納めて楽しそうだ。
「あ、シノノメさん。シャッターお願い」
「ん?あぁ、いいぜ」
知人に頼まれてポラロイドカメラを受け取る。
「ハイ、チーズ」
「いえーい」
パシャ、ジー・・・ガション。
「わーい!ありがとー」
「いいえー」
デジカメが普及している現代で、ポラロイドカメラなんて珍しい。
昔はよく使っている人を見たものだが、今じゃ希少価値が高いモノだ。
その隣では、三脚に眼レフを構えてバシャバシャと連射しているオヤジがいる。
「またアルバムを作るんですか?」
確か、去年も一昨年も、その前も写真を取っていた記憶がある。
「あぁ。去年の半分と合わせて、今年の分で1冊たまるからな」
「あぁ・・・それはキリがいいですねー」
後で見せてくださいとお願いをして、家から出てきた隣人たちの所へ向かう。
「よう、シノノメ」
「よう、サダオカ・・・今年も来たのか」
「あぁ、来たっぽいなぁ」
あー・・・と、嫌そうに近くの山の上を見上げる隣人。
そんな彼の横に、他の隣人たちが集まって来た。
「よう、ヒガ。ヤマダさんも来たのか」
「外が騒がしくてな・・・」
「どうやら・・・今年も来たようですね・・・」
時間は午後2時半。さんさんと、輝かしい太陽が青空に輝いている時間帯だ。
季節は春なので、ぽかぽかとしたちょうどよい暖かさとなっている。
「みんな楽しんでるなぁ・・・」
辺りを見渡してヤマダが呆れた声を上げる。
まぁ、無理もない。
「そりゃあまぁ・・・恒例のイベントと化しているからなぁ・・・」
「アレ、どうやって立てたのかな・・・」
「アレじゃね?今はやりのプレハブ。ほら、パタパタって建てていくやつ」
「いや、張りぼてと見た」
顎を撫でながら、ニヤリとヒガが笑う。
「裏はきっとベニヤ板だろう」
「というか、今年はどうするよ」
「えー・・・正直面倒。放置でよくね?」
「おいおい・・・」
「勇者がそれでいいのかよ」
「もう引退したっていいだろー・・・ピッチピチの若造に任せようぜ?」
「「いや、無理だろ」」
「託宣持ってるのお前だけだろうが・・・」
「ちっ・・・」
「ほら、舌打ちしてないで、準備したら行ってこいよ」
コキコキと、首を鳴らす隣人に呆れる。
我が隣人にして、勇者と神殿から託宣を受けた中間管理職のサダオカ(35)がハッと鼻で嗤った。
「去年はリストラされたさえないオヤジ。一昨年は突発的に思い立ったフリーター・・・そいつら相手に、あそこの城へ乗り込むあのむなしさ!!ダンジョンはべニヤ板!トラップは金ダライ!!あの惨状で、あの手の抜き具合でやる気をだせと!?」
「いや、今年は結構金がかかってるぞ?ほら、コウモリ飛んでるし。門があるみたいだし」
「うーん・・・」
「今年は誰だろうねー」
「というかさ、突発的に〔魔王〕になろう。なんて、普通の奴は思い立たないだろ」
「今時〔勇者〕だとか〔僧侶〕だとか〔拳聖〕とか〔魔法使い〕もないと思うが?」
「お前の隣に揃っているそいつらは?」
左側の隣人がサダオカなら、右の隣人は僧侶と託宣を受けた八百屋のヒガ(36)。
そして道を挟んで正面の家には魔法使いと託宣を受けたマジシャンのヤマダ(45)。
そして、我が家の裏に住むのは、拳聖と託宣を受けた肉屋のタカマツ(40)。
何でも、双子の弟(魚屋)は剣聖だとか。
彼は隣町にいるので、今一応こっちに向かっているらしい。
電話口で、間に合わなかったらごめんねーなんて笑っていたとか。
「これで魔物使いがいたら笑えるわ」
「あぁ、あと踊り子とか?」
「ん?いるぞ、この町に踊り子」
「マジか!!」
「だれ?」
顔を輝かせるオヤジ達に笑顔で答えた。
「タバコ屋のばーちゃん」
「「「…………………」」」
「一応、まだ現役のピッチピチな70歳だから、声かけて・・・」
踵を返したオレの肩を、4人にがっちりと押さえられた。
「シノノメくーん。大丈夫だよ、そんな事しなくても!」
「あぁ、お年寄りは労らないと・・・」
「あんなお山の上までは連れていけないからね、うん」
「でも、あそこ駅あるぜ?」
直通のロープウェイ(片道100円)の駅を指さす。
冬は雪が程良く振るので、町民は皆それ使って山へスキーに行くのだ。
まぁ、去年は暖冬であまり降らなかったのだけど。
「いやいや!大丈夫、大丈夫だからね!!」
「そうそう」
かなり必死な彼らに呼びに行くのをひとまず止めた。
昔はかなりの美人だったのになぁ・・・
無論、美人がそのまま年を取っただけなのでとても可愛らしい女性だ。
「というか、まだ魔王って決まったわけでもないですし・・・ほら、映画の撮影とか・・・」
『臨時ニュースです』
ヤマダの言葉が終わらない内に、すぐ傍の電気屋のテレビからの声が聞こえて視線を移す。
『昨夜未明に突如建設された建築物の所有者が、全テレビ局へ手紙を送ってきました。内容はいたってシンプルです。〔自分は魔王だから、勇者のパーティよ、さっさとかかってこい〕とだけ。なお、人質などはおらず、警察は歴代の馬鹿な魔お・・・失礼いたしました。過去の模倣と見て、今年も勇者の皆様へ依頼をされるようです。なお、本庁は建築物違反などで逮捕状を・・・』
馴染みのニュースキャスターの言葉を聞いて、ゆっくりと視線を勇者たちへ向けた。
「行って来い」
ぽん、と肩を叩いてやる。
オプションとして、貼り付けた笑みを浮かべておいた。
「オレ仕事・・・」
「オレも店を閉めるわけにはいかねーんだよなぁ・・・」
「あ、俺も夜から営業・・・」
「俺だってそうだ」
「あれ?弟は来るんだろ?」
「だって、アイツ嫁さんがいるからさ。仕事頼んで出て来られるんだよ」
「独り身はつらいよなぁ・・・」
「うるせぇ」
「こんにちは」
「うん?」
わいわいと言い合う自分たちに後ろから声がかかる。
それにふり返れば、穏やかな笑みを浮かべる壮年の男性。
隣人たちと同じくらいよく顔を合わせる人物だ。
「おや、ジンノさん」
「こんにちは、いいお天気ですね」
「えぇ、気持のいい日ですね」
「あんなもの見なければさらに良かったです」
「でしょうね・・・あぁ、そうだ。はい」
「はい?」
神殿の神官がやって来て、ぽん、と封筒をサダオカに手渡す。
「あの・・・?」
受け取った彼へ、にっこりと慈悲深い笑みが向けられた。
「巫女様からの託宣です」
「・・・まだ生きてたんだ、オババ」
「えぇ、とっととくたば・・・ごほん。まだまだご健在ですよ」
ちらりと本音を漏らした神官から渡された封筒を、嫌々ながらサダオカが開く。
「うぁ・・・」
「何だ?」
呻いた彼の横から、残りのメンバー共々覗き込んだ。
〔 12時間以内に魔王を倒せ。さもなければ、罰金100万じゃ。
P・S これを読んだ瞬間からカウンターが回ります 〕
読み終えた直後、頭上にデジタルタイマーが出現した。
「ぬお!?」
「ちょ、何でこういう時だけ神通力を使うかな!!」
「あぁ、もう・・・本当に毎回無駄な労力を・・・・・・」
「お暇な方ですからねぇ・・・」
「そーいう問題じゃねーだろ!!」
バタバタと、家の中へ入っていく隣人たちを見送って、自分の頭上に浮かんだタイマーを見上げる。
「・・・オレもですかー」
「みたいですね。巻き添えみたいですけど」
頷くジンノに頬を掻きながら尋ねた。
「でもオレ・・・魔王ですよ?」
「だからこそ倒さないと。存在理由無くなるじゃないですか」
「あぁ・・・確かに」
ぽむ、と手を打って納得した。
今から100年ほど前の事だ。とある薄暗い城の中で、オレは魔王として生まれた。
そうして、お約束のごとく巨大な城で魔王になるための英才教育を10年受けた。
何故10年か?まぁ、理由は簡単だ。脱走したのである。魔王の城から書き置きを残して。
〔 自分の存在意義を探します。探さないでください 〕
後で聞いた話だが、それを見て両親は寝込んだとか。
よかったのか、現役魔王がそれで。
「正直さー・・・アレですよ。魔王とか、勇者とかって・・・結局は神様の暇つぶし」
城の外にで、色んな場所を転々として気付いた事があった。
それは、どこに行っても〔神〕がテコ入れをしてくること。
「たまたま、車に轢かれそうになった子猫を助けるでしょう?その直後に、その子猫が川で溺れるんですよね。で、結局周囲は『何故助けなかったこの疫病神』と罵るわけですよ」
「あー・・・つらいですねぇ・・・」
うんうんと頷く彼にゆっくりと頷く。
「で、放浪・・・というか、歴代の魔王がどうしていたかの確認?それに出たんですけどね・・・」
まぁ、面白くない事この上ない。
どれだけ強かろうが、結局は勇者に倒されてお終いだ。
地を割るほどの力を持った魔王は、勇者によって頭上から隕石を召喚されて圧死。
海を割るほどの力を持った魔王は、大賢者によって生み出された雷によって感電死。
空を飛べた魔王は、大魔法使いによって生み出された乱気流に巻き込まれて墜落死・・・などなど、ろくな死に方をしていない。
自分も、親がそんな風に死なれると目覚めが悪い。なので、強硬手段にでた。
「アレに付き合うのが嫌で、本気で世界征服したんですよねー」
まだ現役の父親が魔王として当時の勇者達とやりあっている間に、各国の王を跪かせたのだ。方法は簡単だ。力・・・ではなく、弱みに付け込んでみた。
叩けば埃どころか、粗大ごみの出てくる連中だ。簡単に降参した連中に色々指示を出して、城へ戻って父親と勇者達の戦いに飛び込んで止めた。
激怒した双方に城の外の状況を教えてやれば、両方蒼くなっていたのを思い出す。
「今となっちゃいい思い出だけど・・・当時は凄かったなぁ・・・親父は怒り狂っていたし、勇者たちは打ちひしがれていたし・・・」
「おや、そうなのですか?」
「そうそう。だって、親父も知らなかったんですよ。神様のゲームに付き合わされているって・・・勇者達だってそう。だからこそ、やってられっかこんちくしょうってことで」
結局、勇者達は普通の生活を送って、普通に結婚して、子供たちに看取られて墓の下だ。
隣人達全員託宣持ちです。