それでも諦めきれなかった神は、次の勇者を選んだ。
それが、我が隣人たちである。
「勇者と魔王が争ったら、ようやく俺らの国の住人・・・まぁ、獣人とか悪魔系とかさ。そいつらと国交持っていたっていうのに、バランス崩れたら水の泡だろ?」
「えぇ、あなた方のおかげで平和そのものです」
「だから、一応現役の魔王であるオレが、勇者と仲良くなって回避しようと思いましてね」
今から20年ほど前の事だ。巷で流行りのゲームの主人公たちみたいに、ピッチピチの10代になる前から、彼らとよい友好関係を築いておいた。
そうして、神の事も暴露しているので、彼らとの争いはない。
というか、できる事なら神を撲殺しようと目論んでいる。
さすがにそれは止めておいた。誰であろうと、殺人は犯罪だ。
「頑張るな、神。次のコマを送り込みやがった」
「そういえば、生まれつきの魔王と他の魔王は違うのですか?」
「生まれる前に託宣受けて力を持っているか、生まれてから与えられるかの違いですね」
「ほう・・・」
「まぁ、放浪していて気付いた事ですが。一度力を与えた相手に、神は直接干渉できないようでして・・・おかげで、今の所消されずに済んでいます。当面は、彼らが生きている限り平穏ですね」
「大変ですねぇ・・・」
しみじみと同情する、くどい様だが聖職者のジンノに軽く肩を竦めた。
「結局、善と悪が神か魔王かの違いだけで・・・何度シュミレーションしても、どちらが善であろうと、平穏な世界になるんですよ。だからこそほら・・・」
指をさした先には、笑い合う人間と虎らしき獣人と半分機械の人間。その向こうには鳥のような翼の生えた人間と、コウモリのような翼を持った人間が話している。
「平和でしょう?」
「平和ですねぇ・・・」
「今はもう、種族差別も、外見の差別ありませんし」
「あぁ・・・確かに」
うんうんと頷きあう聖職者と魔王のオレ。
んー・・・と、大きく背伸びをして空を見上げる。
あー・・・お陽様がまぶしい。ぽかぽかしていて、絶好の昼寝日和だ。
「・・・寝るか」
「ダメです」
ぽつりと呟けば、速攻で却下された。
「いや、絶好の昼寝日和だし」
「魔王を討伐しに行ってください」
「えー・・・」
「戦争が起きるのは嫌なんでしょう?」
「まぁ、それはそうですけどー…」
にこにこと笑みを絶やさない神官に反論しかけた直後、襟首を掴まれて引きずられる。
「ぐぇっ!?」
「さーいくぞ。とっとといくぞ、諸悪の根源を倒しに!!」
「ちょ、伸びる!!襟が伸び・・・ぐえ!!」
「さっさと終わらせてオレは寝る!!今日は昼まで休みだったんだよ、こんちくしょう」
「んじゃ。オレが獲物を落とす時に使う、このブラッディハンマーで壁を壊すか」
「では私がマグロの頭を一撃で落とす、このエクスカリバーで柱を解体しよう」
「では、私が切れ味と破壊力が上がるように術をかけますか」
「じゃあ、僕は魔法で邪魔する戦闘員を排除するよ」
「というか、弟くん。それ、エクスカリバーって言うんだ」
「あぁ・・・5代目だ。4代目は昨日、臨終されてな・・・」
「え、何で?」
なんとか自力で歩ける状態になって、落ち込むタカマツ弟に問いかける。
「昨日、鮫を解体していたんだが・・・オリハルコンの銛を飲みこんでいたみたいで・・・」
「あぁ・・・」
「って、また無駄に強度のある銛を飲みこんでやがったな…」
オリハルコンは確かにかなりの強度を持っているが、加工が大変なうえに高価なので滅多に見ないレアメタルの一つだ。
「まぁ、おかげで美味いフカヒレが食べられたが」
「いいなー」
「他の部分は?」
「もちろん喰ったぞ。和え物にしたり、ダシとったり・・・」
「へぇ!どうやるんだ?」
「まずは、皮を剥いで・・・」
料理講座を始めたタカマツ弟の言葉に相槌を打ちつつ、ポケットからメモを取り出す。
家に帰ったら両親に食わしてやろう。
余談だが、オレの一族は元々長生きだ。両親は200歳近くになる。
平均寿命50歳を軽く越しているので、本当に素晴らしい事だ。
まぁ、その一端である勇者との争いもないしなぁ・・・
「・・・あれ?タカマツ、お前ナックルは?」
「あぁ、素手で殺ろうかと。そういうヤマダさん、杖は?」
「あぁ、コレですか?」
シュッと、音を立ててヤマダの袖の中から出てきた棒が伸びる。
「携帯用の仕込み杖で・・・ほら、先端に魔力収集用の砡があるでしょう?この下に継ぎ目があって・・・」
「あぁ、鉤爪・・・」
「いえ、魔力が刃になって大鎌になるんです。これで、魔王の首を・・・」
「殺したら殺人罪で、刑務所行きだからなー」
「大丈夫、半殺し」
「僕も首を刈るだけですよ。ほら、柔道とか空手の技にあるでしょう?首狩り」
「いや、ないから」
「あってもそれでやられたら死ぬと思うが・・・」
「引っ掛けて吹っ飛ばすだけです。コレ、新品なんで筆おろしにでもと思って・・・」
「え、実験台?」
「というか、首を鍛えていないと、やっぱり死ぬと思うんだが・・・・・・」
半笑いを返した直後、ふと気になって人数をカウントする。
「あれ?足りなくね?」
「え?」
ひーふー・・・と数えてやっぱり足りない事に気付く。
「勇者のサダオカ、僧侶のヒガ、魔法使いのヤマダ、拳聖のタカマツ兄、剣聖のタカマツ弟・・・」
「揃っているだろ?」
「そうそう、5人」
「いや、サブが数人いただろ」
「お前」
「オレは傍観者」
というか、オレは魔王であって勇者じゃない。
「連絡ねぇの?」
「いや、実はメールがきて・・・アーチャーのトシオさん、ぎっくりやっちゃったって」
「あぁ、もう65歳だしなぁ・・・」
「今、病院で治療中だとか」
「あとで、メロンでも送るか」
「それに盗賊のアンリさんは娘の運動会だとかで欠席」
「それじゃあしょうがないな」
「家族は大事にしないとな」
うんうんと頷いていると、サダオカが溜息を吐く。
「オレらも仕事あるんだけどなぁ・・・」
「あぁ・・・」
「だよなぁ・・・」
ブツブツと、何事かを呟きながら彼らが歩いて行く。
後ろからそれを眺めて、不意に込み上げた笑いに口を歪めた。
「どうした?」
「いやー・・・」
不思議そうに笑う隣人たちに笑った。
「平和だなぁー・・・って」
おそらく、今この状況に一番ぴったりで、一番的外れであろう解答を返して足を速めた。
なんせ、残り時間が10時間を切ったから。
***************************************
何だかんだと準備が進んで、トラップがどんどん仕掛けられていった。
「あの・・・」
「はい?」
「それ、当たったら死んじゃうのでは…」
「あぁ、大丈夫です。もしそうなっても、きちんと保険がおりますから・・・」
「で、でも僕が刑務所に入ってしまうんじゃ…」
「ご安心ください。神がついております」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
笑顔を返す黒い服の女性に困惑する。
神・・・?自分は、その神に選ばれた勇者と戦うために選ばれた魔王なんじゃないのか?
数日前にいきなり手紙が届いて、それからよく分からない内にここへ来る事になってしまった。運動神経も悪くて、魔法なんて当然ながら使えなくて、勉学もそんなにできるわけじゃなくて・・・何故自分が魔王などと呼ばれるのか全く分からない。
「あ、あの・・・魔王って悪事を行うモノなんですよね?」
「えぇ、そうですよ」
「で、でも悪い事はいけない事だと・・・それに僕、捕まったりしたら会社、首になったり・・・」
ゲームの中の魔王のように、装飾だらけの動きにくいローブを着せられて、大きな気持の悪い装飾のされた玉座に座らされて思う。
「大丈夫ですよ、あなたは魔王なんですから。ほら、ドンとかまえてください」
「うぅ・・・」
笑顔の男性達に身を縮めることしかできない。
毎年、毎年。魔王と勇者の戦いはテレビアニメとして放送されている。
子供が好きでよく見ているので、内容は知っていた。
だからこそ、自分にそんな事ができるのかと不安なうえに、恐怖しか抱かなかった。
現実に魔王が出て討伐されるのは数日だが、アニメの放送は丸1年だ。
何でも、テレビ局がある人物に交渉して当時の戦いをアニメ化しているらしい。
今の所、そのアニメが途切れる事はない。人気があるのも、その一因だろう。
勇者が誰なのかは誰も知らない。いや、警察と一部の人間は知っているらしいけど。
でも、そんなのはどうでもよかった。
ただ、ここに魔王として僕が座っていて、やってくる勇者を倒せばいいらしい。
「それでは・・・そろそろ勇者たち一行がやってきます」
「あ・・・は、はい・・・」
「油断なさいませんよう・・・そうそう。ここまでたどり着いた相手は・・・」
ふっと、暗く彼女が笑う。
「全員、殺してくださいね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
その笑顔に戦慄して、がくがくと頷く。
満足気に彼女が笑って姿を消す。
部下だという男達も、配置についたらしい。
「あ・・・ああああぁぁぁ・・・・・・」
頭を抱えて、膝に頭を埋める。
どうしよう。どうしたらいいんだろう?
震える膝に、さっきの笑顔を思い出してさらに震えが走った。
口だけの、絶対零度の微笑みとはああいうものを言うんだろう。
カムイと名乗った彼女の方が、自分なんかよりもよっぽど魔王らしかった。
頑張れ魔王様。