あ・・・き、来たのかな・・・
扉の向こう側が騒がしい。きっと、勇者たちが来たんだろう。
どんな人間なんだろう?自分と同じ年だろうか?
恐怖と、少しだけ期待を持っている自分に気付いて驚いた。
恐いのは恐いけれど、やっぱり本物の勇者が見てみたい。
わくわくとした感情が抑えられずに、じっとドアの方を見ていた。
『退け、クソガキども!!』
「・・・え?」
聞こえた声は、とても勇者が放つような言葉とは思えなくてぽかんとする。
『オレの前に立ち塞がるモノは全て敵だ!!ぶっ飛ばされたくなければ退きやがれ!!』
『ちょ、サダオカさん!!相手はまだ子供・・・』
『悪い子はいねーがー』
『悪い子は尻叩き100回だぞー』
『どこぞの伝統行事みたいに蓑を着て、鬼の面をつけるな!!てーか、どっから出したそれ!!』
『あ、それ私たちの合体魔法です』
『仮面をヒガさんが、服装を僕が担当してみました』
『何でこう、皆して無駄に技術と魔力使うかなぁ・・・あーもう!!気絶している子供を蹴るんじゃない!!』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
聞こえてくる声に戸惑う。
今、自分が待っているのは、本当に勇者なんだろうか?
ピシ・・・と、正面の大きな扉に亀裂が入った。
数秒遅れて、扉が粉々に吹っ飛ぶ。
あぁ、あのドア・・・結構良い値段するのに・・・
思わずそんなことを考えてしまう。
もうもうと、崩れた壁によって白煙を上げて立ち込めた。
「到着」
「いやー・・・結構柔らかい扉だったな」
「正面のオリハルコンで、税力切れでしょう」
「二重にしていたみたいだからな」
「良かった・・・オレのエクスカリバーが6代目になる所だった・・・」
「まだ、予備あるんだ」
「商売道具だからな」
「それをココに持ち出すか」
「手に馴染むんでな」
「オーダーメイドだし」
現れたオヤジ達に、さらに目が点になった。
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「・・・えーっと」
正面の玉座に座って、呆然とする青年に頬を掻く。
「魔王?」
「あ、は、はい!!」
立ち上がって、あまつさえ「気をつけ」の姿勢を取る男性に視線を彷徨わせる。
しばしの沈黙。
完全に頭を抱えて崩れ落ちる勇者一行から離れて、彼の傍へと向かう。
「えーっと・・・雇われ?」
「あ、はい。日給1万で・・・」
「やっす!!」
去年は5万だってのに・・・ケチったな、神のやろう
「そ、そうなんですか・・・?あの、あなたが勇者・・・?」
「いやいや、オレ勇者じゃないって。しかも、パーティでもないから」
「はぁ・・・」
パチパチと彼が瞬きをして小首を傾げる。
「そうなんですか?」
「そうそう。オレ魔王だし」
「・・・魔王?」
「そう、魔王」
「・・・えぇ!?」
ぎょっとなって、あたふたと彼が視線をあっちこっちへ向ける。
「あ、あの魔王は悪い事をするのが仕事だって・・・」
「あー・・・まぁ、ゲームとかの魔王はそうだな」
「ち、違うのですか?テレビの魔王みたいに、人を攫ったりとか・・・」
「いやいや、それ誘拐罪だから」
「い、家を壊したりとか・・・」
「それは器物損害罪」
「ちなみに、オレらがケガしたら、お前傷害罪なー」
「ひぃ!?」
半泣きの男性に脅し過ぎたと思って、その肩を叩いてやる。
「大丈夫、大丈夫。まだ何にもしてないだろ?」
「あ、はい・・・まぁ・・・」
頷く彼に、うんうんと後ろで隣人たちが頷いた。
「別にオレらに向かって来たのは別件の奴らだし・・・」
「この城建てたのも、企業の奴らだし」
「トラップも発案者は違うっぽいし?」
「お前、雇われたんだろ?」
「あ、はい」
「じゃあ、やっぱお前も被害者か・・・」
「・・・ひがいしゃ?」
「神様のゲームに付き合わされてる被害者だよ・・・」
溜息を吐いて、簡単な説明を行う。
それに驚いたように目を見開いて、蒼褪めて、最後には泣き出しそうな顔になってしまった。
「ぼ、僕は・・・どうしたら・・・」
「あー気にしないでいいから。あんた名前は?あ、オレはシノノメな」
「あ、僕はスオウといいます」
「じゃあスオウ。とりあえず、ここを出るぞ・・・まぁ、ちょっと話聞くだけだから」
「え、あ、はぁ・・・」
「はい、撤収―」
「「「「おー」」」」
普通の服にスオウが着替えにいくのを見送りながら、携帯電話を取り出す。
「あー・・・もしもし?シノノメです。えぇ、そう。討伐完了したんで、伸びてる連中検挙しちゃってください。ん?罪状?」
「銃刀法違反と公務執行妨害だろ」
「そうそう」
「あーそういや、そうだな」
忘れがちだが、サダオカは警察官だ。なので、それが適応される。
「そういや、お前犯罪って何した?」
「えぇ!?し、してないですよ!!」
戻って来たスオウに、携帯を切って問いかける。
勢いよく首を横に振った彼が、あっと何か思い出したように動きを止めた。
「ど、どうしよう・・・あの人に頼まれたのに、結局戦ってすらいない・・・」
「頼まれる?」
「その・・・あなた達を倒せって・・・」
「へぇ・・・誰?ロマージュ?」
歴代の参謀の名前を言ってみるが、首を横に振られた。
「いえ・・・カムイって女の人です」
「何!?」
告げられた言葉にサダオカが動きを止める。
「あの・・・?」
「どうした、サダオカ」
「うっ・・・いや、その…」
だらだらと、冷や汗を流す彼に眉を寄せる。
と、不意に殺気を感じて視線を上げた。
「うお!?」
バリバリと、周囲にプラズマが弾ける。
咄嗟にヤマダが張った結界が被害をなくしてくれたらしい。
「お、お前は!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
蒼褪めるサダオカと、彼を睨み降ろす女性。
彼女の顔に見覚えがあって、ぽんと手を叩いた。
「あぁ、サダオカの彼女」
「「「「えぇ!?」」」」
ギョッとする面々を尻目に、サダオカが焦ったように声を上げる。
「カムイ!!お、お前なんで・・・」
「何で?自分の胸に訊いてみなさい、この浮気者!!」
「ま、待て、誤解だ!!」
「お黙り!!」
痴話喧嘩を繰り広げる2人に、どうしようかと視線を彷徨わせる。
「彼女!?あの人彼女いたんですか!?」
「あぁ、一昨年な・・・何でも、よく行くコンビニの店長なんだと」
「出会いがないとか言っていたくせに・・・」
「めっちゃ美人だけど・・・はぁー・・・彼女、なぁ・・・」
「確かまだ20代だったはず。うーん・・・なんかもう、神がなりふり構ってないなぁ」
「何をいまさら」
「そうそう」
「いまさら、いまさら」
「・・・だよな」
「あ、あのう・・・」
「うん?」
頷きあう俺達に、恐る恐るスオウが俺の服を引っ張る。
「・・・止めなくて、いいんですか?」
視線の先では、炎が踊り、雷が床に穴を穿ち、風が壁を切り裂き、床が隆起して地割れを起こし、水流が鋭利な刃となって、柱を切り裂いていた。
「あぁ、うん。正直面倒くさくって」
「「近接職だし」」
「防御に徹しているし」
「荒事はちょっと・・・」
「俺は記録と傍観予定だからさ」
だから放置で、と笑顔で返せばスオウがおろおろと、こっちとあっちの間で視線を行き来させる。
「そ、それでいいんですか?」
「「「「「いい」」」」」
頷いたと同時に、ひときわ大きな爆発音と野太い悲鳴が聞こえた。
魔王らしい女性は彼女でした。