隣人と今年の魔王は呆然とそれを見ている事しかできないようだ。
あ、今さらだが相手がサダオカの彼女だと分かった時点で防御結界からサダオカは蹴りだしている。手前の尻拭いは手前でさせねば。
「えーっと・・・」
魔法の応戦をしている二人を眺めて、事態を整理する。
つまりだ、カムイさんがサダオカと喧嘩して、今回の魔王のイベントに参加して報復しようってことか・・・
ようやく理解した。理解して脱力する。
「ちょ、おいシノノメ!!説得手伝えよ!!」
「えー・・・」
「えーじゃねぇ!!ダチだろお前!!」
ギャーギャーと叫んでいるサダオカに溜息を吐く。
隣人たちへ視線を向ければ、生温かい笑みが返って来た。
スオウは・・・いまだにおろおろとしている。
「しょうがねぇなぁ・・・」
一歩、結界から外に出た。
途端に背筋に刃を突きつけられたような気配を感じて身構えた。
「シッ!!」
「おぉっと・・・うん?」
「おぉ、まさに暗殺者!というヤツだな」
「今の、本気でタマ取りにいってましたね」
「ここにきて本気かー」
「遅くね?」
「し、シノノメさん!?」
つ・・・と、頬を流れた血に軽く目を見張る。
いやはや、包丁で手を切った時以外で怪我をするなんて何年ぶりだろうか。
ザ、アサシン。というルックスで、相手が足を止めている。
「フム・・・なるほど。サダオカを彼女につきっきりにして、それを囮に本職が一番目障りなオレを殺しに来たわけか、なるほど、なるほど。神の崇拝者はそこまで堕ちたか」
「黙れ!神に従わぬ愚か者めが!!」
両袖に仕込んでいたらしいのナイフが飛んでくる。
刃渡り15センチのナイフをを指で挟んでしげしげと眺めた。
「うーん・・・なるほど。皮膚から吸収するタイプの神経毒か・・・かすってもアウトなモノだな。えげつねぇなあ、おい」
姿を現した時点で三流かと思ったが、相手は優秀なようだ。
こうやって相対しているだけで、余裕ぶっているが、喉がからからに渇いてくる。
こんなに危険な敵と一対一で向かい合うのは、これが生まれて初めてかもしれない。
「シィ!!」
「おっと」
新しいナイフの切っ先で喉を狙ってきたため、回避するために円を描くように足を運ぶ。予想より速い。それを、奪った右手のナイフで弾く。
火花が散って、右腕が少し痺れる。攻撃が外見に反して、斧でも叩きつけられたかのように重い。どうやら魔力で強化しているようだ。抜け目がない。やはりプロか?
ぐっと歯を食いしばって反撃を始める。
左手のナイフで太腿を切り裂こうとすが、素早いバックステップでナイフは空を切った。
「ウィンド・ランス」
「おぉっと・・・強化だけじゃなくて、風の魔法も使えるのか」
相手からいくつもの風の槍が飛んでくる。
普通の風の魔法よりも、風の回転が上がっており壁に螺旋状の傷跡を付けて貫通していった。どうやら術士としてもかなりの腕のようだ。
それに感心している暇もなく、飛んでくる電光石火の連続攻撃を、二本のナイフを駆使して防ぐ。逆手は、どちらかといえば防御を重視した構えだ。
刃同士がぶつかるたび、凄まじい勢いで、火花が散る。
「あ、やべ・・・」
自分がとんでもないミスをしている事に気づいた。
自分の馬鹿さ加減にびっくりしてしまう。
このまま、ナイフで戦いを続けるのは危険だと判断して、相手の意表をつくために、いきなり右の上段蹴りを打った。
「!?」
ナイフに気を取られていた相手は、足先をこめかみのあたりに食らう。
鈍い打撃音が響いた。
普通ならこれで終わっている所だが、相手はタフだった。
よろめきながらも、素早くナイフで反撃してきたのだ。今度はこちらが意表をつかれる格好となった。相手の攻撃が、自分の右腕を浅く薙ぐ。
服に切れ目が走って、鮮血が飛ぶ。
「くっ・・・」
それほど深い傷ではないが、神経毒が塗ってあるため思わず舌打ちする。
距離をとる間もなく、ナイフが水平に払われる。
その刃が、咄嗟に屈んだ自分の頭上を通過。髪の毛が数ミリ分切り取られて宙を舞う。うめきつつ、後退した。間合いを取り直し、左手のナイフをアンダースロー。
それを余裕の笑みを浮かべ、相手がナイフを叩き落す。
「シノノメさん!」
「やー・・・久々に動いたわ。心配するな、もう終わる」
ごきり、と首を鳴らして、ちらちらと、こちらを心配そうに伺うサダオカに大丈夫だと片手を上げ、援護しようとしていた他の連中にそう返す。
「強がりを・・・」
「いや、事実。運動不足だったから運動でも、と思ったけど・・・やっぱ疲れたわ。しかも、トレーニング用に重りつけっぱなしとか、オレ馬鹿だわー」
「え・・・」
「まさかの重り付!?」
「ってわけで、これで終わりだ」
パチリ、と指を鳴らせば相手の周囲が歪んだ。
「な!?」
「縫い止めろ、シャドウ・ニードル」
歪んだ空間から大小さまざまな黒い針が、相手に降り注ぐ。
動揺の所為か、相手の動きが乱れる。その隙を見逃さず、肉迫した。
「ッ!?」
右肘を狙って、左の中断回し蹴りを放つ。
それが直撃し、一時的に相手の握力が麻痺して、ナイフが地面に落ちた。
すかさず、回転しながら後ろ回し蹴りを放った。
長い足が、急激に円の軌道を描き、相手の側頭部に叩き込む。
「へぇ・・・」
当たる寸前、微かに急所からはずらしたようで、吹き飛ばされながらも着地し、こちらを睨んできた。
「うん、でもお前詰みな?」
「へぶ!?」
「うわぁ・・・」
「・・・ここまで格好良く戦っておいてコレはないわー」
「鬼畜。シノノメさん鬼畜」
「やかましい」
外野が口々に非難する。いいだろう?オレの勝手なんだから。
「ほら、追加」
ぴよ、ぴよぴよぴよぴよ・・・
「ぴ・・・ピコピコハンマー・・・」
巨大な金タライで頭部を強打され、よろめいた隙に影で拘束され、大量の、可愛らしいひよこの装飾がついたピコピコハンマーが相手の頭上から降り注いだ。
広い部屋の中央に、円形に張られた結界の中。ピコピコハンマーに埋め尽くされた哀れな敵はそのまま生きてるロープ(犯罪者捕縛用)によって縛られて転がされる。
「・・・ここは相手の心を折るために、普通じゃない縛り方がいいか?
「いやいや、この辺でいいでしょう」
「激戦していたはずなのに、最後に金タライとピコハンはないわー・・・」
相手に同情している外野は放置して、
「・・・カムイさーん」
あまりの事に、あちらも戦闘が止んでいたらしい。
こっちを見て、何とも言えない顔の二人に声をかける。
「な、何かしら?」
「明後日の誕生日に届くように、サダオカがダイヤの指輪、注文してましたよ?」
沈黙。
戦闘は止めていたものの、彼女の周囲で弾けていたプラズマが、その一言で消える。
ちなみに、自分はまがりなりにも魔王なので魔法は一切効かない。
ただし、強化された武器での攻撃は除く。
「・・・ほんとう?」
「えぇ」
笑顔で答えておく。嘘も方便だ。
「・・・ほんとう?」
「お、おう!!」
「お休み、とれないって言っていたのに・・・」
「そ、それは・・・」
「実はサプライズで驚かそうと思っていたそうですよ。なぁ?」
「あ、あぁ・・・」
しどろもどろに、ところどころ焦げたサダオカが答える。
「・・・そう」
ふっと、彼女から放たれていた魔力と殺気が消えた。
「・・・ふぅ」
「・・・終わりですかね?」
「おー・・・よし、てっしゅー」
念のために色々とフォローを入れながら、車で隣人たちは下山。
自分は転移の魔法でカムイを家へ飛ばし、サダオカを知り合いの宝石店へ手紙を持たせて飛ばしておく。まぁ、代金は貸しておいてやろう。
ただし、プロポーズの言葉は自分で考えろ。
スオウは隣人たちと一緒に帰したので、残るは自分だけ。
「あ、ごくろうさまです」
「お疲れさまでーす」
警察の方々が後始末にやってきた。腕には「特別魔王対策部」の文字。
色々ツッコミ所満載だがまぁいい。
後始末を任せて、ロープウェイのケーブルを直しに向かった。
こういう時魔法は便利だ。
「いやあ、助かりましたよシノノメさん。わしらは修復系はどうも苦手で・・・」
「壊すのは得意なんですがねー・・・」
ハッハッハ、と笑うロープウェイの管理人であるオーガ夫妻に別れを告げて、途中で道に不備がないかチェックしつつ家へと戻る。
気がつけば、もう夕陽が地平線の向こうに沈んでいた。
隣人たちはすでに戻っているらしく、窓から明かりが見える。
「ただいまー・・・」
「お、お帰り」
どうだった?と、土産話を期待する両親に、今年の魔王について話す。
と、話しながら母親が自分の頭上を見て首を傾げた。
「ねぇ」
「ん?」
「それ・・・なぁに?」
「・・・あ」
やっべー完全に忘れてた。
頭上でカウントをし続けるデジタルカウンターが、残り3時間を示していた。
直後、泡を食ってやってきた隣人達と共に神殿まで転移で向かい、呪いを解除。
去り際の、儲け損ねたという神殿の最高権力者の言葉は聞かなかった事にした。
一応、ここでストック切れ。
修正終わったら、他のも随時上げようと思います。