綾小路 清隆は敗北した。   作:修羅シュラ

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そして、これからのこと

 

「かんぱーーい!!」

 

ホテルの地下にある高級レストラン。

その空間で大きな声が反響する。

 

私は手に赤ワインを持ち、みんなと同じようにグラスを上に掲げていた。

私は青いドレスに身を包み、他のみんなもドレスコードとして、スーツやドレスに身を包んでいて、一種の舞踏会と思わせるほどの景観だった。

 

高級レストランを貸切にし、総勢100名程度がこの空間に集まっていた。

会場はビュッフェ形式になっており、各々好きなものを取っていく、そんな感じになっている。

ローストビーフ、寿司などは、勿論高級レストランということもあり、職人さんが目の前に立ち、パフォーマンスとまではいかないが、目の前で調理してくれる。

 

「鈴音ちゃん、なーに一人で黄昏ちゃってるのー?」

 

恵さんが私の肩を叩いて、近づいた。

片手に白ワインを持ちながら。

 

「別に一人で黄昏てるわけじゃないわなんか懐かしい気分に浸っていたのよ」

「それを黄昏てるって言うんでしょ?」

「そうかもしれないわね」

 

私たちは顔を見合わせ「ふふっ」と笑い合った。

恵さんは現在、高度育成高等学校を卒業しファッションデザイナーとして活躍している。

恵さんのブランドは現在若者から大人気を誇っており、誰もが知るブランドとまではいかないがゆくゆくはそうなってもおかしくないと思うわ。

 

「鈴音!!久しぶりだな!」

「須藤くん」

 

食事盛っている皿を両手に持ちながら、近寄ってくる。

ステーキやローストビーフ、寿司など、食事バランスを一切考えてない。

 

「須藤くん、アスリートなら食事バランスに気を使いなさい」

「うぐっ、わかっけどよ。今日くらいは良いじゃねえか…これでも最近まで食事に気を使ってきたんだぜ?」

「……まあ今日くらいはね」

 

須藤くんは高校時代よりも体つきは良くなっており、スーツの上からもわかる。

 

須藤くんは念願叶って、プロのバスケットプレイヤーとなっていた。

私もあまりバスケットボールに関しては、知識はなかったけれど、須藤くんから「日本代表になったぜ!」と連絡が来てから、少しだけ勉強をしている。

 

「そうだよ、あんまり堅苦しいことは無しにしよう。念願、叶っての同窓会なんだしね」

 

平田くんも片手にお酒を持ちながら、笑顔で私達のもとにやってくる。

平田くんは銀行に勤めるエリート社員。

 

いつも多忙にしている平田くんは普段連絡なんてしてこないが、「この日だけは開けるから必ず呼んで欲しい」とそんな連絡が私に届くくらい楽しみにしていたわね。

 

私たちは顔合わせを終えて、六人掛けテーブルに座った。

そこには高度育成高等学校を卒業した生徒達が楽しそうに笑い合うそんな姿がそこにはあった。

私はそんな姿を見て、少し頬を緩める。

 

「正直またこうやって集まれて僕は嬉しいよ」

「ええ、そうね。正直数年前なら考えられなかったことだもの」

「ほんとにねー、鈴音ちゃんあの時過労死して死ぬんじゃないかってくらい働いてたしね〜」

「本当だぜ、困った時は手を貸すぜって言ったけど頼ったのあの一回きりだしよ」

「……ご、ごめんなさい…」

 

平田くん、恵さん、須藤くんが口々に私に向けていた。

流石に申し訳なくなり、軽く顔を伏せ謝罪をした。

 

私達が高度育成高等学校を卒業したあと、私は多忙だった。

拠点を移しながら、私は戦い抜いた。

大学なんて行く暇あるわけもなく、受験すらしなかった。大前提、大学に行くという選択肢はなかったと言うのもあるけれど。

正直、休まる日はなかったと言っても良い、パソコン、テレビ、スマホなど情報から目を離す暇は一切なかったので、少し目が悪くなったわ。

 

そして、決着がつき数年経った今。

私が主催した同窓会をこうして開いている。

私達だけのクラスだけではなく、私達の学年全員。正直お世話になったのは、私たちAクラスだけじゃない、クラスの垣根を超えて助けてくれた人たちが沢山いる。

だから学年のみんな、そして卒業できなかった人たちも勿論誘っている。

 

「で?鈴音ちゃん、アイツはまだ来てないの?」

「まだ連絡はないわね、どこかでまた散歩でもしているんじゃないかしら?」

 

 

「これでも一直線に向かっていたぞ」

 

 

声がかかった方に、私たちは顔を向ける。

そこにはスーツに身を包んだ綾小路くんの姿と赤いドレスに身を包んだ櫛田さんが後ろに控えていた。

そして、綾小路くんの腕の中には元気に笑っている小さい女の子がいた。

 

「綾小路くん!本当に久しぶりだね!」

「あぁ、久しぶりだな、平田」

「綾小路っ!!元気にしてたか!?」

「あぁ、調子はいいな」

「本当久しぶりだね、綾小路くん!」

「あぁ、軽井沢の元気な姿が見れてよかった」

 

綾小路くんは微笑みながら、そう告げた。

まだ綾小路くんは無表情の方が多いが、こうして微笑むことなど、表情の変化がごく自然にできるようになっていた。

 

「相変わらずのうるさい人達ね、ねぇ?桂花〜」

「ねぇ〜?」

 

櫛田さんは桂花に顔を合わせていて、首を傾げながらそう告げると、桂花も真似して、首を傾げた。

 

「櫛田さん、桂花の教育に悪いからそう言うこと言うのやめてくれるかしら」

「桂花もそういうことを教わって良い時期だと思うけどなぁ、今年から小学生なんだし、相変わらず堀北は固いわね」

「もう堀北じゃないわ、綾小路よ」

「ウッザ、惚気かよ」

 

清隆は私の隣に、その隣に櫛田さんが座る。

座る瞬間に、桂花に私が抱っこの仕草をすると「ママ〜」と近寄ってきた。

別に勝負をしてるわけじゃないが、何故か勝ったような気分になり、「よしよし、櫛田さん怖かったわよね」と勝者の特権として、娘を撫でる。

櫛田さんが立ち上がり何かしようとしてたが、平田くんが静止して櫛田さんはまた着席する。

 

七年前に私は清隆と結婚した。

結婚二年目に、私達のもとに元気な女の子『桂花』が産まれた。

そして時は経つのが早いもので、今年から桂花は小学生になる。

正直私達の娘が可愛すぎて、騒ぎにならないか心配ね…。

 

清隆は七年前に起業した会社が大成し、大事業家になってしまった。

事業内容は教育関連。

【白光舎】と名前を付け、塾や予備校などを運営し、未来の子供達を教育する機関を作り上げた。

 

現在では全国に100以上の教育機関がある。

━━━今話題の塾は?と聞かれれば

100人中90人が【白光舎】と答えるとのこと。

 

正直清隆のことだし、なんでもこなしてしまうとは思ってはいたが、七年目でこんなにも大成するとは思ってもいなかった。

 

でも、こんなに早く有名になったのは、清隆一人の力ではない。

 

「桂花〜おいで〜」

「ママ!きょーちゃんのところ行ってくるね!」

「ええ、走ってはダメよ」

 

桂花は私の膝から降り、ギリギリ歩いているという速度で、櫛田さんの元へ向かった。

櫛田さんは桂花を抱えて、自分の膝の上へと乗せた。

 

正直櫛田さんの助力がとても大きい。

もちろん私も手伝ってはいたけど、桂花が生まれてからは育児に手一杯だったため、助力という助力はしていないといえるわね、悔しいけれど…

 

「桂花はママときょーちゃんどっちが好き〜?」

「んーと、んーと」

「きょーちゃんって言ってくれたら、好きなオモチャ一個買ってあげる」

「わぁ!きょーちゃんが好きっ!!」

「ちょっと櫛田さん!それはズルいんじゃないかしら!?」

 

私は大きな声を出して立ち上がると、恵さんと須藤くんは、私のほうをニヤニヤ見つめていたので恥ずかしくなり、スッと席に座った。

そのまま櫛田さんのほうを睨むと、「ざまぁ」という幻聴がする顔をして桂花を撫でていた。

私主催の同窓会だし、追い出そうかしら...

 

櫛田さんは人脈作り、大きなイベントの司会など、清隆にできないコミュニケーションに関する部分を櫛田さんが積極的に行なっていた。

秘書という言い方が一番わかりやすいと思う。

 

白光舎がここまで急成長できたのは、清隆の先見性や判断力だけではない。

表に立ち、人を惹きつけ、縁を繋ぎ、時には相手の懐にまで入り込んで信頼を勝ち取る。

そういう役割を担える人間は、そう多くない。

そして櫛田さんは、その点において間違いなく一流だった。

 

「相変わらずだな、お前ら」

「相変わらず、堀北...いや綾小路のことは嫌いよ」

「オレも綾小路だが?」

「どっちも嫌い」

「きょーちゃん、パパとママきらい?」

 

桂花が悲しい顔でそう櫛田さんに尋ねた。

桂花の顔を見て、「うっ...」っと罪悪感に苛まれる顔になると私と清隆は思わず口角をあげた。

 

「きょーちゃん...?」

「...そんなわけないじゃない、桂花のパパとママどっちも...大好き...よ」

「パパとママときょーちゃん仲良しで嬉しい!!」

「「...ぷっ」」

「...は?アンタ達笑った?」

「落ち着け、きょーちゃん」

「そうよ、落ち着くのよ、きょーちゃん」

「アンタ達いつか絶対殺す...」

 

私と清隆は我慢できなくなり吹きだして、櫛田さんを怒らせてしまった。

嬉しくなった桂花はわけもわからず、櫛田さんの上で軽く飛び跳ねていた。

 

「でも、本当にすごいよね。白光舎。今じゃ知らない人のほうが少ないんじゃない?」

 

恵さんが感心したように言うと、須藤くんも大きく頷いた。

 

「俺の甥っ子も通ってるぜ。なんか、今まで勉強嫌いだったのに、急に将来は海外でスポーツ科学を学びたいとか言い出してよ。家族みんなでびっくりしたわ」

「それは本人が頑張った結果だろう」

「そういうところだぞ、綾小路。普通はもうちょい自分の手柄っぽく言うもんだろ」

「事実を言っただけだ」

 

 清隆はそう言って、運ばれてきた日本酒を一口飲む。

 

昔から変わらない。

どれだけ大きな結果を出しても、それを誇示することはない。

けれど、だからこそ周囲は自然と彼を信頼し、気づけばその背中を追っている。

 

私はそんな横顔を見つめながら、ふと胸の奥が温かくなるのを感じていた。

 

「鈴音ちゃん、顔が柔らかい」

「え?」

「今、すっごく幸せそうな顔してる」

「……そうかしら」

「そうだぜ。高校の頃の鈴音からは考えられねえくらいな」

「須藤くん、それはどういう意味かしら」

「い、いや悪い意味じゃねえって!」

 

慌てる須藤くんに、みんなが笑う。

 

その笑い声が、広い会場のあちこちから聞こえる談笑と混ざり合って、心地よく耳に届いた。

 

視線を巡らせれば、そこには懐かしい顔がいくつもある。

卒業してから一度も会っていなかった人。

仕事の都合で少しだけ顔を出した人。

当時はほとんど話したこともなかったのに、今では自然に笑い合える人。

 

時間は確かに流れていて、私たちはそれぞれ別の道を歩いてきた。

それでも、こうして同じ場所に集まれば、あの三年間が確かに私たちを繋いでいたのだと実感できる。

 

「……不思議ね」

「何がだ?」

 

清隆は私のことを見ずに、私と同じくこの景色、この景観を納めようと眺めているのがわかった。

 

「昔は、卒業したらみんなバラバラになって、それで終わりだと思っていたのよ」

「まあ、普通はそう考えるかもねー」

 

恵さんが頷く。

 

「でも、終わりじゃなかった。むしろ卒業してからのほうが、ようやく本当の意味で繋がれた気がするの」

「綾小路さんが言いたいこと、なんとなくわかるよ」

 

平田くんも同意して頷いた。

 

「ええ。あの学校にいた頃は、誰もが何かを抱えていたわ。競争もあったし、駆け引きもあった。素直に誰かを信じるなんて、簡単なことじゃなかった」

「……そうだな」

 

須藤くんも珍しく真面目な顔になる。

 

「でも今は違う。肩書きも、クラスも、勝ち負けも関係ない。ただ“あの頃を知っている仲間”として、こうして笑い合えている。それが……少し、嬉しいのよ」

 

言い終えた瞬間、少しだけ気恥ずかしさが込み上げる。

こんなふうに素直な気持ちを口にするのは、未だに慣れない。

 

けれど。

 

「鈴音がそう言うなら、今日この会を開いた意味は十分にあったな」

 

清隆が穏やかに言った。

 

その一言だけで、胸の奥にあった小さな緊張がほどけていく。

私は小さく息を吐き、そっと微笑んだ。

 

するとその時、会場の入口付近が少しだけざわついた。

 

「ん?誰か来たのか?」

 

須藤くんがそちらを見る。

 

私たちもつられて視線を向ける。

そこには、会場スタッフに案内されながらゆっくりと中へ入ってくる一人の男性の姿があった。

 

黒のスーツをきっちりと着こなし、無駄のない足取りでこちらへ向かってくる。

年齢を重ねてもなお鋭さを失わない眼差し。

 

「兄さん?」

 

思わず口から零れた声に、周囲の空気が少しだけ変わる。

 

兄さんは、会場全体を一瞥したあと、まっすぐこちらへ歩いてきた。

その姿は昔と変わらず、いや、昔以上に隙がない。

けれど同時に、どこか柔らかさのようなものも感じられた。

 

「鈴音」

「来てくれたのね、兄さん」

「招待状をもらったからな。少し遅れたが、顔は出しておこうと思った」

 

兄さんはそう言って、私たちのテーブルへ視線を移す。

兄さんの視線が、櫛田さんの膝の上にいる桂花へと止まる。

桂花はきょとんとした顔で兄さんを見上げていた。

 

「その子は?」

 

「私たちの娘よ」

 

私が答えると、兄さんはわずかに目を見開いた。

兄さんは海外で商社マンとして働いている、基本は海外に在中してるため、日本にはたまにしか帰ってこない。

でも兄さんも結婚をするそうで、拠点を海外から日本になるとのこと。

ちなみに結婚相手は橘 茜さんとのことよ。

 

ホワイトルーム解体に助力してくれて、とても助かったが、私達が結婚した後は海外にずっといたため、結婚したことと子どもが産まれたことは報告はしたと清隆が言っていた。

 

私が報告したいと清隆に言ったんだけど、「いや、学にはオレからさせてくれ」という清隆が珍しくお願いしたため譲ることにした。

 

今考えれば、清隆がまともに報告できるわけもないというのもわかっていたのに放置してしまったのは私の落ち度ね…。

 

「……そうか。もう、そんな歳になるんだな」

 

「今年から小学生です!」

なぜか櫛田さんが誇らしげに答える。

ちょっと、兄さんと久しぶりに喋るのに、櫛田さんが喋らないでくれるかしら。

 

兄さんは桂花の前で膝を折り、目線を合わせる。

 

「名前は?」

「けいか!」

「そうか。いい名前だ」

「おじさん、だれ?」

 

兄さんの表情が一瞬だけ固まる。

 

数秒の沈黙。

そして次の瞬間、恵さんが吹き出し、須藤くんが堪えきれずに笑い出した。

おじさんという単語という単語と、誰というパワーワード。

桂花、我が娘ながら恐ろしい子…。

 

「ぶはっ、そりゃそうだろ!」

「そうだよね、生徒会長…おじさんだもんね……!」

「…兄さん、気を落とさないで。間違っていないわ」

「それは慰めになっているのか?」

 

清隆の冷静な発言に私は軽く脇腹を肘でついた。

そして、兄さんは小さく咳払いをして立ち上がった。

 

「……学おじさんとそう呼んでくれ」

「まなぶ?」

「ああ」

「まなぶおじさん!」

「……ああ、これからよろしくな」

 

櫛田さんの上から降りて、桂花は兄さんにダイブした。

それを兄さんは受け止め、頬擦りしてくる桂花に愛おしいさを感じたのか、目元は細められ口角は上がっていた。

 

私はその光景を見つめながら、胸の奥で静かに思う。

 

本当に、変わったのだ。

私も。

兄さんも。

そして、ここにいるみんなも。

 

失ったものがなかったわけじゃない。

遠回りをしなかったわけでもない。

傷つかなかったわけでも、迷わなかったわけでもない。

それでも私たちは、それぞれの場所で歩き続けてきた。

 

だからこそ、今この瞬間がこんなにも愛おしい。

 

「鈴音」

 

不意に清隆が私を呼ぶ。

 

「何かしら」

「そろそろ主催者として、一言くらい全体に話したほうがいいんじゃないか?」

 

言われて気づく。

確かに、乾杯のあと各々自由に過ごしてもらっていたけれど、主催者として改めて挨拶をしていなかった。

 

「今さらじゃないかしら?」

「鈴音ちゃんの話、聞きたい人多いと思うよ」

 

軽井沢さんが笑いながら、私の背中を押してくれる。

 

「頑張ってね、綾小路さん」

「行ってこい鈴音!」

「ママ、がんばれー!」

 

「……ええ」

 

私はゆっくりと立ち上がる。

会場の前方には簡易的なマイクスタンドが用意されていた。

それに向かって歩き出すと、自然と周囲の視線が集まってくるのがわかった。

 

見渡せば、そこにいるのは敵ではない。

共に同じ時代を生き抜いた、かけがえのない人たちだ。

 

マイクの前に立ち、私は一度だけ深く息を吸った。

 

「本日は、忙しい中集まってくれて本当にありがとうございます」

 

会場が静まり返る。

その静寂の中で、私は自分でも驚くほど穏やかな声で言葉を紡いでいった。

 

「卒業してから今日まで、きっと全員がそれぞれの場所で、それぞれの戦いをしてきたのだと思います。順風満帆だった人ばかりではないでしょうし、ここに来ることを少し迷った人もいたかもしれません」

 

みんなが静かにこちらを見つめている。

私はその視線を受け止めながら続けた。

 

「あの学校で過ごした時間は、決して楽しいことばかりではありませんでした。けれど、あの三年間があったからこそ、今の私たちがある。それだけは、きっと誰にも否定できないはずです」

 

言葉を区切る。

胸の奥に、熱いものが込み上げてくる。

 

「クラスの違いも、立場の違いも、もう今は関係ありません。今日だけはただ、同じ時代を生きた仲間として、懐かしい話をして、笑って、少しだけ過去を振り返ってもらえたらと思います」

 

そして私は、会場全体を見渡して、最後に微笑んだ。

 

「━━改めて、ようこそ、私たちの同窓会へ」

 

次の瞬間、会場いっぱいに拍手が広がった。

 

大きく、温かく、どこまでも優しい拍手。

その音に包まれながら、私はほんの少しだけ目を細める。

 

ああ、本当に。

ここまで来たのだと、そう思えた。

 

 

拍手が落ち着き、会場は再び賑わいを取り戻していく。

マイクを置いて席へ戻ると、みんながそれぞれ柔らかな表情で私を迎えた。

兄さんは多忙を極めるため、もう姿を消していた。

ちなみに帰った理由は、結婚式の打ち合わせとのこと。

 

桂花は疲れて眠ってしまったそうで、清隆の腕の中で寝息をたてて眠っていた。

 

「おつかれ、鈴音」

 

清隆は桂花を腕に抱きながら、私のために取っておいてくれたグラスを差し出す。

 

「ありがとう」

 

それを受け取り、一口だけ喉を潤す。

緊張していないつもりだったけれど、思っていた以上に喉が渇いていたらしい。

 

「しゃちょー、こんなところで話すのはあんまりかなーって思ってたけど一応最終確認だけしていい?」

「ああ、構わない」

 

櫛田さんは気怠げに、清隆の方を向き仕事の話を始める予定だった。

聞いておきたいところではあるけれど、長年離れていたブランクは大きい。

私は戦力外と感じ、恵さんと須藤くん、平田くんで料理を取りに行こうと誘い私たちは席を立った。

 

 

「地域の成功事例を軸にして、最後に卒業生の声を置く。会社理念を前に出しすぎると、かえって作為的に見える可能性がある」

「うん、私もそこは思ってた」

 

「なら、付近の地域で学力向上の差だったり、地域の密着具合など、そこら辺を踏まえて具体的な数字を使って話すのがいいだろう」

「数字って、進学率とか継続率とか?」

 

「それもあるが一番大事なことは、子ども達の満足度だ。以前取っていたアンケートがあったはずだ」

「あー、あれね。あるある。自己肯定感とか学習習慣の定着率とか、そのへんも拾える」

 

二人の会話は淀みなく続いていく。

私達が料理を持って、帰ってきても話は続いていた。

桂花は幸せそうに寝ていたわ。

 

悔しいけれど、見事だった。

 

「……本当に息が合ってるわね」

 

思わず漏れた私の言葉に、恵さんがにやにやしながら顔を寄せてくる。

 

「お、鈴音ちゃん、やいてる?」

「違うわ。ただ、感心しているだけよ」

「でも実際、櫛田さんってすごいよ」

 

平田くんが素直にそう言った。

「綾小路くんが考えた中身を、櫛田さんが上手い言語化で外部に伝える、いいコンビだと思う」

 

「そうだな」

 

清隆があっさり認める。

それに対して私は少しイラッとしたけど…。

そんなあっさり言わなくてもいいじゃない…。

 

「俺一人では、ここまで早く広げられなかった」

 

その言葉に、櫛田さんが一瞬だけ目を丸くした。

 

「……へえ。今の、録音しとけばよかったかも」

「必要ならもう一度言うが」

「いや、二回言われると逆に価値下がるからいいや」

 

櫛田さんは笑いながらグラスを持ち上げる。

けれど、その目の奥にはほんの少しだけ照れの色が見えた。

 

高校時代の櫛田さんなら、こういう感情を見せることはなかったかもしれない。

見せたとしても、それは計算されたものだっただろう。

 

でも今は違う。

少なくとも今この場にいる彼女は、昔よりずっと自然体だった。

 

 

「はぁ、食ったし飲んだなぁ〜!」

「須藤くんは飲み過ぎよ、アスリートでしょ?」

「うぐっ…それ言われると痛いんだよなぁ」

「綾小路さんは二次会は……やめといた方がいいね」

「ええ、私たちはここでお暇させてもらうわ」

 

私は清隆の腕の中で眠る、桂花を見つめた後平田くん達に笑顔でそう伝えた。

 

「また、会えるよね?」

「ええ、もちろん、絶対に会えるわ」

 

恵さんは私に抱きついて、そんなありえないことを伝えてきた。

 

「綾小路くんもね、また絶対に会おうね。桂花ちゃんにもまた会いたいしね」

「ああ、また会おう」

 

清隆は桂花を右手で抱きながら平田くんと須藤くんと握手を交わしていく。

 

「清隆くーん?私このまま二次会行くから、明日休みにしといてね〜」

「お前は二次会行くとか言いながら途中で帰るだろ、オレから休みを取るために」

「まっさかーそんなことしないよ〜」

「……明日はリモートでいいから、午後から参加しろ、それが譲歩だ」

「おっけー、ありがとね〜」

 

櫛田さんは手を振りながら、私達の元から離れていく。

多分、休みは取れないとわかっていても、こうやって言えば午前休くらいはしてくれると踏んでこの提案だったのでしょうね…しかもリモートもついてくるとなったのなら、儲けとも思っているでしょうね…。

 

櫛田さんの思考が読めてるのが少し億劫にはなったが、櫛田さんは急に立ち止まって振り返った。

 

「またね、アンタ達……あと、鈴音も、ね」

 

「ええ、またね。きょーちゃん」

 

「その名前で呼んでいいのは、桂花だけだ!次その名前で呼んだら殺す!」

「ええ、わかってるわよ。…桔梗」

「ふんっ」

 

須藤くん、平田くん、恵さんも街の繁華街へと姿を消していった。

そして残ったのは私と清隆。そして、今も眠っている桂花の三人だけになった。

 

「それじゃ、オレらは帰るか」

「ええ、そうね」

 

清隆が右手に抱いた桂花を大事そうに抱え、左手で私の手を握ってくれた。

 

「…珍しい。貴方から握ってくれるなんて」

「たまには握りたくなる時もある。同窓会の後だしな」

 

私は少し赤くなった顔を隠すように、短くなった髪を左手で触った。

私たちは年齢は30歳近くになっているというのに、二人で愛し合ってると思うだけでこんなにも心地よいことなんだと改めて実感する。

 

清隆の提案で自宅まで余韻に浸るために、歩いて帰ることになった。

桂花も寝ているし、ゆっくり歩いても問題ないと判断した。

 

「それで清隆、あの同窓会は何?」

「何ってお前が主催なんだから、オレではないだろ」

「貴方が私主催にしろって言ったんでしょ?…そういうことを言いたいのではなくて、同窓会の費用よ」

「オレのポケットマネーだ、別に問題はないだろ?」

「問題あるに決まってるでしょ…」

 

正直費用が馬鹿げている。

あの高級ホテルを貸切、しかも100人規模。

みんなからある程度の金銭を回収するとかなら、問題はなかったけれど全て清隆持ち。

ありえないと言える、正直二次会まで行ってたら、ボコボコにしていたわ。

 

「オレ同窓会知らないから、あれくらいやるのかと…」

「そんなわけないでしょ!……はぁ、清隆になんでも一人でやらせるのはもう今後なしね」

「……否定できない」

「否定してたら、刺してたわ」

 

常識知らずの清隆に呆れて、少し怒ったけれど、私の右手はもっと近くに感じたいと矛盾を孕んでおり、握る力は一層強まっていた。

 

「パパ、ママ?喧嘩してるの?」

「桂花、起きたのね…ママとパパは喧嘩なんかしてないわ、ぜーんぶパパが悪いんだからね〜」

「パパが悪い!パパが悪い!」

「……桂花、ひどいぞ」

 

いっぱい寝て元気になったのか、桂花は清隆から降り、元気いっぱいに飛び跳ねた。

 

「あ!でもママとパパ仲良し!」

「…どうしてそう思うの?」

「だって、手繋いでる!!」

 

私は娘の指摘にカッと頬が熱くなり、手を離そうとしたが、清隆が繋いだ左手を、グッと私を引き寄せて、そのまま左手を私の腰に回した。

 

「ああ、オレは鈴音のことを愛しているからな」

「っ……!?」

「あー!鈴音顔真っ赤!」

「……ママのことを鈴音って呼ぶのはやめなさい」

 

清隆はお酒を飲んで酔っ払ってるのかもしれない。

まあ清隆が酔っ払ってるところを見たことはないのだけれど、きっとそうに違いない。

 

私もお酒を飲んで酔っ払っているし、いつもは恥ずかしくて言えないことを言ってもいいわよね?

 

私は清隆の頬に私の唇を当てる。

 

「私も清隆を愛しているわ」

「……」

 

清隆が若干顔が赤くなった気がしたけど、お酒なのか、私なのか。

わかるのは、清隆と私だけ。

 

「桂花は!?桂花のことも愛してる!?」

 

「ええ、もちろん愛してるわ」

「ああ、もちろん愛している」

 

私と清隆は同じことを思ったのか、私たちは屈んで、桂花の頬に同時にキスをした。

桂花は太陽のように笑い喜んでくれた。

 

私は、夫と娘、二人がいれば他に何もいらない。

私と清隆は顔を見合わせ、微笑んだ。

 

「ママ!お家まで競争しよ!」

「ええ、いいわよ。私これでも高校生の時は速かった方なんだか…」

「よーい!ドン!!」

「ちょっと桂花!ママが喋ってる時にずるいわよ!全く誰に似たんだか…」

 

私は先に走り出した桂花を追うために、荷物を清隆に預けて、走り出した。

ここ数年平和だったこともあり、体力が落ちてるのはわかるが、娘にまだ勝利は譲ることはできない。

だって私が負けたら実質、清隆にも勝つということになってしまうから。

 

私はこの幸せが、まだこの先も続くことを考えた。

桂花はこれからまだまだ大きくなっていく。

それを私と清隆、二人で見守っていくことを誓いながら、桂花に追いついて抱きしめた。

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