護廷十三隊 緊急報告書
件名:現世駐在死神・朽木ルキア捕縛及び能力譲渡対象者に関する報告
報告概要
現世へ派遣中であった十三番隊所属・朽木ルキアは、六番隊隊長・朽木白哉並びに六番隊副隊長・阿散井恋次の両名により現世にて発見・捕縛された。
現地調査の結果、朽木ルキアが死神の力を譲渡した対象者は、現世在住の人間・黒崎一護であることを確定。
併せて、黒崎一護の戦闘能力及び譲渡された死神の力について実地確認を実施し及び"制圧"を行った。
戦闘評価
対象者・黒崎一護は、死神としての基礎知識及び戦闘技術に著しい未熟さが認められる。
斬魄刀は未だ始解に至っておらず、霊力制御・剣術・歩法のいずれも体系的な修練を受けた形跡は確認できない。
現時点においては、その戦闘技術をもって護廷十三隊の脅威となる可能性は極めて低く、特筆すべき危険性は認められなかった。
一方で、現世という霊力が著しく制限される環境下において、能力を大幅に制限された阿散井副隊長と互角に渡り合う戦闘能力を示したことは看過できない。
戦闘技術は未熟であるものの、その瞬発力・霊圧量・戦闘勘・潜在能力はいずれも極めて高く、短期間での著しい成長が見込まれる。
総合的に判断し、現時点での脅威度は低いものの、将来的な危険性を秘めた要監視対象として継続的な経過観察が必要であると判断する。
所見
朽木ルキアによる死神能力譲渡は護廷十三隊規律に著しく抵触する重大案件である。
能力譲渡の経緯及び現世における一連の事象については、引き続き詳細な調査を実施するとともに、対象者・黒崎一護の動向を継続監視することを具申する。
一番隊舎隊長室の椅子に座り乱菊から手渡された資料を拝見する。やはり朽木ルキアは現世にて自ら死神の能力を人間へと譲渡したようだな。あの娘の人柄や性格は何度か耳にした事はあるし義兄である白哉からも軽く聞いていた。
「しかし流石に不味いよなぁ」
「何が?」
「いや。此度の件に関しては厳罰は免れない…。何よりどのような事情があろうとも規則は規則だ。罰を与える事に関しては俺も賛成だ」
「あら以外。てっきりまた四十六室を相手に乗り込むくらいするのかと思ってたわ」
コチラを見ながら笑う乱菊は苦笑する。いくら俺でも流石にそのような事はしない。何より今回の件に関してはルキアに非がある。
「恐らく重罪…かなり重い刑を言い渡されるだろうな」
「…かもね」
「四十六室どうこうの前にあの総隊長が規律や違反をしたものに晩酌の余地を与えるとは思えない。」
「私あの人苦手だわ。廊下ですれ違っただけで声があがっちゃったもの」
「厳罰を無くす事は不可能だしそれは俺も望んでいない。」
「と言いうと?」
「あまりに行き過ぎた重い刑罰なら、減刑の余地が無いかを探る」
「結局助けるのね」
「勿論さ。何より彼女みたいな強く聡い仲間をこのまま見捨てるほど俺は鬼になったつもりはないよ」
「ふ〜ん」
乱菊は意味ありげに相槌を打つ。
「なに?」
真叶が首を傾げると、乱菊は湯呑みを口元へ運びながら視線だけを逸らした。
「別にぃ。」
「……その”別に”は別にじゃないだろ。」
「そう?」
唇を尖らせたまま、乱菊は小さく頬を膨らませる。
「随分と心配してるのね、朽木さんのこと。」
「隊士を心配するのは隊長として当然の事さ。」
「へぇ~。」
返事は素っ気ない。
それどころか乱菊は縁側からぷいっと顔を背けてしまう。
「“強くて聡い仲間”……ねぇ。」
その言い方がどこか引っ掛かった。
真叶は苦笑する。
「……嫉妬してるのか?」
「してません。」
即答だった。あまりにも早い返答に、真叶は思わず笑ってしまう。
「笑わないで。」
乱菊はぷくっと頬を膨らませたまま睨みつける。
「女の子はね。」
指先で湯呑みの縁をなぞりながら、小さく呟いた。
「好きな人が他の女の人のこと褒めてたら……ちょっとくらい面白くないものなの。」
その声は、いつもの余裕たっぷりの松本乱菊とは思えないほど小さかった。
真叶は一瞬目を丸くする。そして優しく笑う。
「なるほど。」
「なによ。」
「可愛いなと思って。」
「っ……!」
乱菊の耳まで赤く染まる。
「なっ!」
照れ隠しに真叶の肩をぽかりと叩く。
「そういうことサラッと言うからずるいのよ。」
「本当のことだからな。」
「もう!」
もう一度肩を叩こうと手を伸ばす。だが、その手首を真叶はそっと掴み自分へと引き寄せる。
「安心して」
真叶は抱き寄せ胸元に抱く乱菊の瞳を真っ直ぐ見つめる。
「俺が愛しているのは乱菊だけだよ。」
「…もう」
「君の為なら世界を敵に回したって構わない。相手が誰であろうとも…例え護廷十三隊の皆んなが相手でも俺は君を護り抜くよ」
そうして真叶は乱菊の頬へそっと手を添える。月明かりに照らされた瞳が静かに重なった。真叶の意図を理解した乱菊は恥ずかしそうに微笑み、小さく瞼を閉じる。その想いに応えるように、真叶はゆっくりと顔を寄せ、優しく唇を重ね合った2人。
さっきまで拗ねていた表情はどこへやら。頬は林檎のように赤く染まり、その瞳は恥ずかしそうに揺れている。
それでも真叶の腕から逃げようとはしなかった。むしろ終わってからも照れ隠しのように額を胸へ押し当て、小さくため息を漏らす。真叶は優しく彼女の金色の髪を撫でる。指先を梳くたび、乱菊は心地よさそうに目を細めた。
隊長室には穏やかな静寂が流れ、窓から吹き込む風が二人の髪を優しく揺らしていた。
後日俺はとある人物と会う為に自分の隊舎とは異なる場所へと足を運んでいた。
其処は双殛の丘の頂にそびえる白き高塔――懺罪宮。
そこは護廷十三隊の通常の牢獄とは異なり、死刑囚を収監するための特別監獄。双殛の丘に建てられた、白亜の高塔。その最上部にある独房へ、死刑執行までの間、囚人が収監されるのだ。
塔へ続く道は限られ、外部から侵入することは極めて困難。さらに周囲には護衛が配置され、厳重な警備体制が敷かれているのが分かる。
牢内は必要最低限の造りで、石造りの壁と床以外にはほとんど何もない。小さな格子窓から外の空が見える程度で、昼夜を問わず静寂に包まれているようだった。
その最上階の独房で、此度の被告…"朽木ルキア"は静かに処罰の日を待っていた。
「お疲れ様です雀部一番隊長!!」「お疲れ様です!」
「うんお疲れ。"例の犯人"はこの中にいる?」
看守達からの要らぬ勘繰りを避ける為、俺は敢えてルキアを侮蔑するような言い回しを使用する。
看守達に案内されるがまま、俺はとある独房の一室で足を止める。
「もう良いよ。ありがとうね」
「はっ!失礼します!」
そう言い元気に離れていく看守。その様子を見送った俺はゆっくりと中に収監されているであろう少女を見つめる
「君が…朽木ルキアさんかな?」
「…貴方は!雀部一番隊隊長!!」
俺の声に反応し顔を上げたルキアは俺の顔を見て驚いたように声を上げる
「ど、どうしてここに!」
「少し君に話したいことがあってね」
真叶は鉄格子の前まで歩み寄る。
ルキアも姿勢を正し、その場に跪いた。重い沈黙が流れる。やがて真叶が静かに口を開いた。
「まず確認しよう。」
その声は穏やかながら護廷十三隊の一番隊隊長としての威厳が言葉の端々に滲んでいる。
「君は現世にて、自らの意思で人間へ死神の力を譲渡した。この報告に相違はあるかな。」
ルキアは僅かに目を伏せた。否定すれば逃げ道はある。
だが、それは死神としての誇りを捨てることと同義だった。
「……ありません。」
ルキアは短く、はっきりと答える。
「全て、事実です。」
真叶はゆっくりと頷く。
「…分かった。なら次だね」
彼は鉄格子越しに真っ直ぐルキアを見据えた。
「君は、その行為がどれほど重大な規律違反か理解しているかな」
「……はい。」
「言葉にしてみなさい。」
ルキアは拳を握り締める。
「死神の力は尸魂界の力そのもの……。それを人間へ譲渡することは、護廷十三隊の規律を破る重罪です。場合によっては尸魂界全体へ影響を及ぼしかねない禁忌となり得る。故に……私は裁かれて当然です。」
真叶は一切表情を変えない。
「その通りだ。」
真叶は肯定の言葉を口にするもののそこには怒りも侮蔑もない。
「君が優秀な死神であることも十三番隊の仲間から信頼されていることも朽木家の人間であることもその罪とは何一つ関係ない。規律は全ての死神に等しく適用され例外は存在しない。」
その一言一言が、ルキアの胸へ静かに落ちていく。
「だから俺は」
真叶は僅かに目を細めた。
「君を庇うつもりはない。」
その言葉にルキアはゆっくりと頷いた。
「……はい。私は罪を犯しました。どのような処罰も受け入れる覚悟です。」
その返答を聞いた真叶は、小さく息を吐く。
「よろしい。」
そして初めて、その表情から僅かに厳しさが和らいだ。
「ならば最後に、一つだけ聞かせてほしい。」
真叶は静かに問い掛ける。
「君は規律を理解していた。死神の力を人間へ譲渡すれば、自らがどう裁かれるかも十分に理解していた。それでもなお。」
一歩だけ鉄格子へ近付く。
「なぜ、その選択をした。何が君に、禁忌を犯す覚悟をさせた。」
ルキアは唇を噛む。脳裏に浮かぶのは、あの日の夜、虚に襲われながらも、自分を庇って立ち上がった、一人の人間の姿だった。
「………。」
「おーけー分かった。」
俯き何を言わないルキアに対して俺は次の言葉を口にする
「"黒崎一護"」
「っ!?なぜその名を!?」
「やはり彼が関係しているんだね」
その瞳には隠しきれない動揺が浮かんでいた。
真叶はその様子を見て、静かに目を細める。
「……やはり。」
穏やかな声だった。
「彼が、この事件の中心にいるんだね。」
ルキアはしまったというように唇を噛む。真叶は報告書を一枚取り出し、視線を落とした。
「六番隊隊長・朽木白哉及び副隊長・阿散井恋次からの報告は受けている。君が死神の力を譲渡した相手は、人間――黒崎一護。そして現世において、能力を制限された阿散井副隊長と互角の戦闘を演じた、とね。」
再びルキアを見る。
「だが、私が聞きたいのは彼の強さじゃない。」
真叶の声が僅かに柔らかくなる。
「君ほど規律を理解している死神が、その罪を承知で人間に力を託した理由だ。黒崎一護とは、一体どんな人間なんだい」
ルキアは目を閉じた。脳裏に浮かぶのは、虚を前にしてなお一歩も退かなかった橙色の髪の少年。自分ではなく、家族を守るために剣を取った人間。
そして――。
「……あいつは。」
ルキアはゆっくりと口を開く。
「誰かを守るためなら、自分の命すら惜しまない……馬鹿な人間です。」
ルキアは1人の人間について語り出す。本当は何も語る気など無かった。アイツを守る為に何も話さず知らさず。…しかし目の前の人物…雀部真叶隊長には話しても良いような気がして来たのだ。なぜならこの人は私や一護の事を決して侮ったりしなかった。
曰く、自分の命よりも見ず知らずの他者の命を優先しそのためなら命すら惜しまないような男である。性格も明るく、しかし負けず嫌いで自分の決めた事をやり通す。たとえ相手が誰であろうと自分の道を歩み通す…そんな人間であると
「しかし、それと君が死神の力を彼へ譲渡したこととは、どう結び付くんだ?君は規律を熟知している死神だ。力を人間へ与えることが、どれほどの重罪かも理解していた筈だ。それでもなお、その選択をした。私が知りたいのはそこだ。なぜ君は、黒崎一護に死神の力を託した?」
これを受けてルキアは
「……ありませんでした。あの時、私は虚との戦いで深手を負い、まともに戦える状態ではありませんでした。それでも虚は止まらない。放っておけば黒崎一護も、その家族も皆殺されていたでしょう。私が戦えぬ以上、あの場で虚を止められる者は彼しかいなかったのです。だから私は、自らの罪を承知で力を託しました。……もう一度同じ状況になったとしても、私は同じ選択をします。」
ルキアの言葉を聞き終えた真叶は、しばらく何も言わなかった。静かな独房に、風が格子を鳴らす音だけが響く。やがて真叶は、小さく息を吐いた。
「……そうか。そうなんだね。ルールは大切だ。例えどのような理由があったとしても決められた法を破った君は犯罪者とされる」
「っ!?」
真叶の言葉にルキアは目尻に涙を溜める
「目の前で命が失われようとしていた。自分は深手を負い戦えない。力を託せるだけの資質を持つ人間が目の前にいた。君は死神としてではなく、一人の命を救う者として選択した。」
真叶はルキアを真っ直ぐ見つめる。
「……それ自体を、決して私は愚かだとは思わない。寧ろ護廷十三隊の隊長としてではなく1人の死神として君には敬意を表すよ。胸を張れ。君は勇気ある立派な死神だ。」
「っ!?」
「他の誰がなんと言おうと君が護廷十三隊である事を俺は誇りに思う。…よく1人で頑張ったな」
俺は鉄格子から腕を通しルキアの頭を優しく撫でる。
その温もりに触れた瞬間だった。
張り詰めていた糸が、ぷつりと切れた。
「……ぁ……。」
喉が震え息が詰まる。涙が、一粒、また一粒と頬を伝い、止めどなく零れ落ちていく。
「わ、私は……"白哉兄様にも迷惑を"…」
目の前の少女はこのような状況に置かれてなお兄に対する謝罪を口にする。
言葉にならない。
確かに罪を犯した。誇りある護廷十三隊を裏切った。そう思い続け、自分は裁かれて当然だと何度も言い聞かせてきた。だから誰かに責められる覚悟はできていた。罵倒されても、蔑まれても、それが当然だと思っていた。
なのに――。
「よく、一人で頑張った。」
その一言だけが誰よりも深く、胸に突き刺さった。
「っ……う……。」
堪えようとしていた涙が決壊する。
「うっ……あ……っ。」
ルキアは顔を覆い、その場に崩れ落ちた。
肩を震わせ、嗚咽を漏らす。
「ご……ごめ……なさ……っ。」
謝罪とも、懺悔ともつかない言葉が零れる。
「私は……私は……っ。」
守りたかった。ただ、それだけだった。その想いを、初めて理解してくれた人がいた。真叶は何も言わずただ鉄格子越しに、幼子をあやすように優しくその頭を撫で続ける。
その温もりに包まれながら、ルキアは声を押し殺すこともできず、ただひたすら泣き続けた。
それは罪を悔いる涙ではない。誰にも理解されないと思っていた自分の覚悟が、ようやく一人に届いた――救われた涙だった。
◆
しばらくルキアが落ち着くまで待機し、落ち着いてきた頃あいを見て俺は牢獄を後にする。来た頃と比べ少しだけルキアの表情から憑き物が取れたような顔へと変わっていた。
独房へと続く通路を抜けた、その先、白い壁にもたれ掛かるように、一人の男が静かに立っていた。
「……白哉。」
白哉は視線だけを向ける。
「なぜ兄がここにいる」
真叶は苦笑する。
「少し本人と話がしたくてね。」
沈黙が二人の間を流れる。
やがて白哉は静かに口を開いた。
「だが、話す価値などない。」
「……。」
「規律を理解しながら禁忌を犯した。重罪…否、死刑判決であったとしても当然だ。」
「……。」
その声に感情はない。まるで判決文を読み上げるようだった。
「寧ろ五大貴族である朽木家から養子と言えどそのような犯罪者を輩出してしまった事… "朽木家の当主として、これ以上の恥はない"」
「…白哉は何故ルキアがここまでの事に至ったのか知っているのか?」
「…知らぬ。だが知ったところで何も変わらない。罪人であり"朽木の名を汚した愚か者"である事実は変わらない。」
「仮にも妹だぞ」
「最早"あれ'を朽木家の者だとは思わない」
――その瞬間真叶の表情から笑みが消えた。
「……もう一度言ってみろ。」
白哉は僅かに視線を向ける。
「聞こえなかったか。"あれ'は――」
最後まで言わせなかった。轟音と共に白哉の身体が壁へ叩き付けられる。
胸倉を掴み上げた真叶の腕には、青筋が浮かんでいた。
近くの看守たちが一斉に振り返る。
「た、隊長!?」
信じられない光景だった。
護廷十三隊筆頭にして一番隊隊長の雀部隊長が、六番隊隊長の胸倉を掴み上げている。真叶の瞳には、今まで見せたことのない怒りが宿っていた。
「"あれ"だと…」
真叶の脳裏にルキアが泣き叫び、絶望の淵に立たされてなお敬愛する兄に対して謝罪の言葉を口にしていたことが蘇る
「規律を語るのは構わない。」
低く、押し殺した真叶の声
「罰を与える事も構わないさ」
さらに胸倉を掴む手に力が入る。
「だがなーー命を懸けて誰かを守ろうとした妹に対して"あれ”などと呼ぶんじゃねぇ!!」
真叶は白哉を真正面から睨み据えた。
「あの子は皆に蔑まれ罵倒されようとも、お前を兄として敬い続けていた。裁きを受ける覚悟を決めながら、それでも朽木家の名を汚したことだけは申し訳ないと、涙を流していたんだ。そんな妹を、お前は罪人としてしか見られないのか。」
「…罪人であることと家族である事は関係ない」
「…あの子は今なお、お前を敬い、お前に認められたいと願っているんだぞ…それを知りながら、その言葉が吐けるというのなら……
ーー朽木白哉…俺はお前を許さない」
通路の空気が張り詰める。白哉は抵抗することもなく、ただ静かに真叶を見返していた。
「…俺が言いたいのはそんだけだ」
そう言い手を話し白哉から背を向ける真叶
「…」
「よく考えろ白哉。…でなければ取り返しのつかない事になるぞ」
真叶が最後に言い放ったその言葉白哉の胸に深く突き刺さったような気がした。
実は乱菊さんよりも束縛気質はオリ主君の方が強いんです!
この先の展開!!
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原作まで飛ばす!
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