瀞霊廷の中央――護廷十三隊総本部。
幾百年もの時を刻んできた白壁と黒瓦の壮大な建造物。その最奥に位置する大広間は、天井を支える幾本もの太い檜柱が等間隔に並び、磨き上げられた床板は窓から差し込む陽光を鏡のように映している。
広間の中央には、漆塗りの長机が並べられており
その両脇には護廷十三隊を率いる十三人の隊長たちが、それぞれ隊長羽織を纏い着座していた。
肩に羽織られた純白の羽織は、一人ひとりの威厳を際立たせる。
長年幾多の戦場を潜り抜けてきた者だけが纏える、圧倒的な風格。
彼らが放つ霊圧だけで、並の死神なら息をすることすら許されない。
その上座。
そこに座るは誰よりも高い位置に腰を下ろす、一人の老人。
白く長い髭を胸元まで垂らし、杖を傍らへ置いたその男こそ――
"護廷十三隊総隊長 山本元柳斎重國"その人である。
老人は静かに瞼を開くと、一枚の書類へ視線を落とした。そこには、今年度卒業生の成績一覧が記されている。
「では始める。」
低く響く一言だけで、大広間の空気がさらに張り詰めた。各隊長の前へ、卒業生名簿が配られていく。成績優秀者から順に各隊へ配属する。
それが毎年行われる慣例だった。
「今年も優秀な者は多いようじゃの。」
二番隊隊長が書類へ目を通しながら呟く。
「ふむ……。」
三番隊隊長も静かに頷く。
しかし。一人の隊長が、ある名前を見つけて眉を上げた。
「……これは。」
その声に全員の視線が集まる。
「どうした。」
総隊長が問う。
「この二名です。」
書類が机の中央へ滑らされた。
そこに記されている名は
"雀部真叶・市丸ギン"
二つの名が並んでいた。
「真央霊術院在籍期間……1年?」
「通常六年課程を、僅か1年で卒業か。」
「しかも全教科において極めて優秀な成績を残している」
「剣術、白打、瞬歩、鬼道……全項目で歴代上位の記録を更新しております。」
ざわり、と隊長たちの空気が揺れる。護廷十三隊の歴史でも異例だった。これほど短期間で卒業した者は数えるほどしかいない。
「特に雀部真叶。」
書類をめくる音が響く。
「鬼道適性は歴代最高評価であり白打・瞬歩ともに隊士どころか席官級とも噂されている。」
「実戦評価や霊圧も極めて高い。」
別の隊長が苦笑する。
「学生とは思えんな。既に十席程度なら相手にならんという報告もある。」
さらに別の資料が机へ置かれる。
「こちらは市丸ギン。斬術・瞬歩に特化。実戦判断能力は同年代随一。」
「雀部真叶との模擬戦では唯一白星を上げた戦績を残しております。」
部屋が静まり返る。やがて、一人の隊長が笑みを浮かべた。
「この二人……同じ隊へ入れたら面白そうだ。」
「いや。」
別の隊長が首を横に振る。
「だからこそ別々に置くべきだ。」
「二人揃えば、それだけで上位席官に匹敵する戦力となる。」
静かな議論が始まる。
「雀部の名を継ぐ以上、真叶は一番隊が預かるべきでは。」
「いや、鬼道の才能を見るなら五番隊も捨て難い。」
「三番隊なら市丸を――」
各隊長の思惑が交錯する。
しかし上座に座る老人だけは、一言も発しない。山本元柳斎は書類を閉じると、ゆっくり目を閉じた。
「……雀部真叶。」
低い声が広間へ響く。
「雀部の孫であるという肩書きを除いたとしても。」
一拍置く。
「間違いなく稀に見る一人の逸材じゃ。」
誰も異論を唱えない。
「そして市丸ギン。」
老人の眼光が鋭くなる。
「あの男は磨けば鋭利な刃となろうてじゃが。」
その一言で空気が変わる。
「刃は使い方を誤れば、己が主すら斬る。」
隊長たちは黙って総隊長の言葉を聞いていた。
「故に。」
山本はゆっくりと立ち上がる。ただ立ち上がっただけ。それだけで広間全体が震えるような錯覚を覚える。
「この二人は儂自ら配属を決める。」
その宣言に、誰一人として異を唱える者はいなかった。
◆
「お、俺は10番隊か。あそこは"志波の分家"の人が隊長の座についてたな確か。」
「俺は3番隊や。俺んとこはなんや特徴のないおっさんやったな」
死神を…護廷十三隊を志す者たちが必ず通る学びの場、真央霊術院を通常6年通う所を僅か1年で卒業。それも首席と次席を独占しての卒業は異例の事態であった。しかし当の本人たちはそのような事で心が躍るはずも無くただただ己が配属された部署に目を通していた。
「ちょっと私の前でその話しないでくれる?」
そんな2人と違ってやけに機嫌の悪い金髪の美少女。雀部家からの援助もあり真叶達に助けられた頃とは見違えるほど成長した乱菊である。何がとは言わないが"それ"が明らかに年相応以上である事に真叶は気づき目を逸らす。
「なんや乱菊。自分だけ置いてかれて怒ってはるん?そら自業自得ちゃうの」
「アンタはもっとオブラートに包む事が出来ないわけ!」
「あ、こらこら乱菊も落ち着いて。ギンも煽るんじゃない」
ギンの言葉に腹を立てた乱菊を羽交い締めにして止める真叶。乱菊が怒るには理由がある。それは同じ年に真央霊術院に入学した3人であるがうち2人は飛び級で卒業。それに比べて乱菊は通常通り進級し春から2回生となった。2人の神童が別格な事は理解していても幼馴染として…負けられない存在と認識している乱菊は到底納得できなかったのである。
「五月蝿い!ギンもそうだけど真叶もそうよ!2人とも直ぐに"斬魄刀と会合"したくせに!」
「ちょお待ちぃや。流石にこのど天然と一緒にされたら僕が可哀想やん。なんねやねん"雷霆系最強の斬魄刀"て。顔良し性格良しのコレは自分属性盛りすぎやで?」
「それに関しては爺ちゃんも同じ属性に入るからなぁ。遺伝じゃね?」
「あぁもう!五月蝿い五月蝿い!!」
「ほな、僕はこの辺で、後は頼むで真叶くん」
「あ、ちょ!」
真叶の言葉も虚しく瞬歩で瞬く間に消えたギン。…こう言う時に限って逃げ足早いんだよなぁ。アイツ。爺ちゃんに怒られる時とか隠密機動の隊長より早いんじゃない?
乱菊が頬を膨らませたまま、真叶の腕の中でもがく。
「離してよ!」
「離したら絶対ギン追いかけるだろ。」
「追いかけるわよ! 一発くらい殴らせなさい!」
「それ絶対一発じゃ済まないやつ。」
真叶が苦笑すると、乱菊は「うぅ……」と唸りながらも抵抗を弱めた。
逃げたギンの姿はもう見えない。
「……なんで私だけ」
乱菊は悔しそうに呟く。
「いつもそう。昔から私だけ置いていく。」
その声は先程までの怒鳴り声とは違い、どこか寂しさが滲んでいた。
真叶は少し目を丸くする。
「二人とも勝手に強くなって、勝手に卒業して……気付いたら護廷十三隊なんて、遠いところに行っちゃう。」
その言葉に、真叶は乱菊を抱えていた腕をそっと緩めた。
乱菊は俯いたまま、制服の裾をぎゅっと握る。
「私だって……頑張ってるのに。」
「……知ってるよ。」
真叶は静かに答えた。
「毎日誰より早く起きて鍛錬してるのも、鬼道で何度失敗しても諦めないのも。」
乱菊は驚いたように顔を上げる。
「見てたの?」
「"友達"だからな。」
真叶は柔らかく笑った。
(私の好きな顔だ。…でも"今の言葉"は嫌いだなぁ)
「俺とギンが一年で卒業できたのは才能もあった。でも、乱菊が積み重ねてる努力は才能じゃ真似できない。」
「そんな慰め……」
「慰めじゃない。」
真叶は真っ直ぐ乱菊の瞳を見る。
「乱菊は俺たちと違う道を歩いてるだけだ。」
「……。」
「俺たちは先に行く。でも、それは置いていくって意味じゃない。」
優しく乱菊の頭へ手を置く。「ちゃんと待ってる。」
その一言に、乱菊の肩が小さく震えた。
「……ズルい。」
「何が?」
「そういう事を真顔で言うところよ。」
耳まで赤く染めた乱菊は視線を逸らす。
「昔からそうよね……。」
「?」
「アンタ、自覚ないんだから。」
真叶は首を傾げるばかりだった。そんな様子を見て、乱菊は思わず吹き出す。
「ふふっ……ほんっと鈍感。」
乱菊は少しだけ背伸びをして、真叶の死覇装の肩口を指で軽くつつく。
「先に死神になったからって、偉そうにしないでよ?」
「するわけないでしょ」
「約束?」
「ああ、約束だ。」
小指を差し出す真叶に、乱菊は呆れたように笑う。
「子供じゃないんだから。」
そう言いながらも、自分の小指をそっと絡めた。
「……すぐ追いつくから。」
その金色の瞳には、先ほどまでの悔しさだけではなく、強い決意が宿っていた。
「その時は、ちゃんと隣に立つわ。」
真叶は穏やかに頷く。
「ああ。待ってる。」
春風が二人の間を吹き抜ける。遠くで桜の花びらが舞い、瀞霊廷の空へ溶けていく。その光景を見つめながら乱菊は、小さく、本当に小さく微笑んだ。
(……だから、もう少しだけ待っててね。)
その想いはまだ誰にも届かない。
ただ一人、彼女の胸の中だけで、出会ったあの日から抱き続けた淡い恋心として、静かに咲き続けていた。
◆
早くも俺たちが護廷十三隊に入隊する日がやってきた。初めは入隊する隊員達全員が講堂へと集められ、其々の隊の隊長達のお言葉をいただく。
どいつもコイツも化け物みたいな霊圧してやがる。
その中でも1番隊であり護廷十三隊の創始者である山本元柳斎重國は別格だ。他にも8番隊の京楽春水、十三番隊の浮竹十四郎、十二番隊の曳舟桐生なんかも頭抜けた実力を有しているだろう。俺が所属する十番隊である志波一心も先ほど名を上げた実力者達と並ぶだろう。
と言うか爺ちゃんクラスの奴がこんないんのかよ。…いや逆か。"副隊長"のくせになんで並の隊長達より霊圧高くて強いんだよ。めちゃくちゃだあの人。
当の本人はその実力を認められ何度も隊長へと推薦されているものの山本元柳斎重國の下で力を払う事を誓ったことを真叶は知らない。
「お、お前が"雀部さんのとこの孫"が!」
入隊式が終わり、其々が各隊舎へと戻る最中、我が隊の隊長である志波一心から声をかけられる。
「祖父がお世話になってます。雀部真叶です。祖父もいるので真叶でお願いします」
「かっかっかっ!硬い硬い!もっとおおらかに生きてこうぜ真叶!」
そう言って大声で笑いながら真叶の背を叩く一心。
「貴殿が雀部副隊長の嫡孫ですかな?」
背後から声をかけられる。振り向くとそこにいたのは2人の死神。1人は白髪の髪をオールバックにした壮年の男性と、それに連れそう隊服を着用した黒髪の長めの髪を持つ青年。
「ありゃ朽木隊長に"白哉坊"じゃねぇの」
「志波隊長…白哉坊は辞めてください」
現れたのは六番隊、隊長の朽木銀嶺とその孫にあり五大貴族である次期朽木家当主と名高い男、朽木白哉であった。
「「…」」
白哉が真叶の前へと足を運び2人は目を合わす。互いが互いの力量を把握する。
(強いな。…流石に伊達に副隊長の座を担ってる訳じゃないってことか)
(その若さでこの霊圧…流石は雀部家が生んだ"麒麟児"と言うわけか)
互いに名家に生まれ、若くしてその才能を認められた俊英達。言葉に出さずとも認め合うような視線を交差させ白哉の方から離れる。
「なんじゃもう良いのか?」
「…はい。奴の力量は把握したので」
「なんだやんねぇのか?」
「向こうも喧嘩を売りにきたわけじゃないですよ」
大人達は部下同士がやり合う事を期待しているが当の本人達は満足げな表情で帰ってくる。6番隊の面々と離れた後は誰とも会う事はなく俺たちは10番隊の隊舎へと戻ってきた。
「知ってると思うが、今日から新しい仲間がうちの十番隊に加わる!」
隊士たちを見渡し、一心はいつもの豪快な笑みを浮かべた。
「まだ分かんねぇことも多いだろうし、不安な奴もいるだろう。そういう時は遠慮なく先輩を頼れ。十番隊ってのは一人で強くなる場所じゃねぇ。みんなで強くなる隊だ。」
隊士たちの表情が少し和らぐ。
「それとな、俺から一つだけ覚えとけ。」
一心は腕を組み、ニッと歯を見せて笑った。
「あまり大声では言えねぇが…」
そう言いながらも大きく息を吐き続ける一心
「命令にゃあ叛いてもいい。ーーだが、仲間は命懸けで守れ。この二つさえ忘れなきゃ、お前らは立派な十番隊の隊士だ。」
静まり返る隊舎。その空気を一心はすぐにぶち壊すように笑う。
「ま、難しい話はこれくらいだ!腹減った奴は飯食え!疲れた奴は寝ろ!死神ってのは元気が一番だからな!」
どっと笑いが起こり、張り詰めていた空気が一気に和らいだ。
「それから──」
一心は真叶の方へ視線を向ける。
「雀部真叶。」
「はい。」
「お前が優秀なのは嫌ってほど聞いてる。だが、この十番隊じゃ家柄も成績も関係ねぇ。」
一心は真っ直ぐ真叶を見据え、力強く笑った。
「ここじゃ、お前も今日から一人の十番隊隊士だ。肩書きじゃなく、自分の背中で、実力で仲間を引っ張れる男になれ。期待してるぜ、真叶。」
その言葉に真叶は静かに頭を下げる。
「──はい。」
一心は満足そうに頷くと、手をパンと叩いた。
「よし!歓迎会やるぞ!酒は……お前ら未成年だからまだ駄目だな!飯だ飯!」
その一言で隊舎は笑いに包まれ、新たな仲間を迎えた十番隊の一日が始まった。
真叶達が護廷十三隊に入隊してからしばらく経った日のこと、その日10番隊の面々の姿は10番隊舎になく近隣にある専用の剣術道場にあった。
「…おいおいコレで何人抜きだよ」
「席官も入れて5席より上官を除いたほとんどがのされちまったのかよ…」
「"噂"は本当だったってわけか。」
「噂?」
「あぁ。すでに"斬魄刀を手懐け始解を収めている"って話だ」
この剣術訓練が始まって真叶はすでに100名近くの隊士達をその木刀一振りで倒していった。その中には20から始まる席官クラスもいた筈であるが誰も彼も真叶の相手を出来るものはおらずここまで上がってきてしまったのだった。
「情けねぇなお前ら。」
「あ、隊長!」「そりゃないっすよ隊長!」
「新人相手に古参がこの有様じゃあ可哀想じゃねぇか」
「「「ぐっ…」」」
一心の言葉に悔しさを表す隊士達。そんな隊士達を目撃した一心は少し微笑むと同時に木刀を真叶へと向ける
「どおれここはこの隊長様が新人君を軽く揉んでやるか」
「…へぇ…部下の前で恥を掻いても知らないですよ?」
「かっかっか!心配すんな
ーーんなこたぁ天地がひっくり返っても有り得ねえからよ」
その言葉を聞いた瞬間、一心の目の前から真叶の姿が消える。真叶は一瞬で一心の懐へ踏み込み、木刀を袈裟へ振り抜く。
しかし──
「見えてんぜ」
乾いた音が道場中へ響く。一心は視線すら動かさず、片手で木刀を受け止めていた。
そのまま木刀を弾き返す。真叶は宙で身体を捻り、その勢いを利用して後方へ着地。そして着地と同時に再び消えた。
「左右!」
「いや後ろ!」
「違う上だ!」
並の隊士達の視線が追い付かない。それ程洗礼された瞬歩… 三方向から同時に斬り込んでいるような錯覚。
残像だけが道場へ幾重にも残る。
「おもしれぇ。」
一心の口角が上がる。そして次の瞬間
一心が床を踏み抜いた。その衝撃だけで空気が震え、真叶の残像が掻き消える。
「そこだ。」
振り向きざまの横薙ぎ。真叶は木刀で受けるが、受け止めたまま十数メートル吹き飛ばされ、床を滑る。
「……っ。」
真叶は自らの腕を見つめる。その腕が痺れているのがわかる
(重い……。)
力任せではない。体重移動や霊圧、それに剣圧。すべてが一撃へ乗っている。
「なんだもう終わりか?」
「まだまだ!」
真叶は再び踏み込む。今度は剣だけではない。足払いに肘、肩と白打を織り交ぜた連撃。
しかしその全てを一心は笑いながら受け流していく。
「剣だけじゃねぇか!」
「ッ!」
「白打も瞬歩も鬼道も全部一流!だがよォ!」
一心は笑った。
「俺にゃあまだ勝てねぇぜ?」
瞬間。木刀が蛇のように軌道を変える。それを見た真叶は木刀を盾にし防いだ。
……はずだった。
「え?」
次の瞬間には木刀の腹が真叶の脇腹へ突き刺さる。
「かはっ!?」
息が詰まり身体が浮いた。そしてそのまま空中へ跳ね上がる。
「終わりだ。」
一心は跳躍し上空で木刀を両手に構え、
「おらァッ!!」
叩き落とした。真叶は受け身を取る暇もなく道場中央へ叩き付けられる。
「ちょ!隊長やり過ぎなんじゃあ!?」「雀部が死んじゃいますよぉ!」「本当にこの人加減知らないんだから!」
しかし当の本人はーー
「何言ってやがる。この程度でくたばる玉じゃないぜアイツは?」
(現に真叶は最後の一太刀に対し急所をずらしダメージを軽減しやがった)
その言葉通り真叶は膝をつきながら木刀を支えに立ち上がろうとしていた。
「まだやるかい?」
そう言う一心に対し真叶は
「……参りました。」
その一言に、一心は満足そうに笑う。
「よし。」
木刀を肩へ担ぐ。
「いいセンスしてるぜお前。伊達に天才だか神童だか持て囃されてる訳じゃねぇな。俺なんかより数段センスあるぜ」
真叶を見る目が変わっていた。先ほどまでの”新人”を見る目ではない。
「だがな。」
一心は真叶の前まで歩み寄る。
「お前には決定的に足りねぇもんがある。」
「……何でしょう。」
「経験だ。」
一心は木刀を真叶の肩へ軽く乗せる。
「俺たちは何百年も命のやり取りをしてきた。勝つ剣だけじゃ生き残れねぇ事もある。色んな剣の在り方を覚えていけよ真叶」
真叶はその言葉を静かに胸へ刻む。
「はい。」
一心は再び豪快に笑った。
「それと──」
隊士達へ振り返る。
「新人一人に百人掛かりで返り討ちにされてんじゃねぇぞ!」
「「「うぐっ……!」」」
道場に笑いが起こる。一心はその笑い声を聞きながら、ちらりと真叶へ視線を送った。
(……こいつぁ間違いねぇ。あと数年もすりゃ、間違いなく隊長になれる器だ。)
その胸中の言葉だけは、まだ誰にも明かされることはなかった。