真叶が護廷十三隊に入隊してから早くも数年の月日が流れた。この数年で変化した事は数多く存在する。
そしてそれは真叶自身も例外ではなく、先ずは端的に体が成長した。年月を通した中で体が成体へと成長し以前とは見違えるほど身長が伸びた。それこそ今では隊長の一心と比べても遜色ないほどである。白髪に、蒼色の美しい瞳に真央霊術院時代から傾国を落とすとまで呼ばれた美貌を持つ真叶はそれはもうモテた。
まぁ本人はそのような事情にに微塵も興味はないし、更に言えば"彼の隣に立つ女性"がそれを認める訳もない。
変わったのは容姿だけでない。実力もそうであり毎日のように祖父や隊長である一心、親友のギン。更には護廷十三隊の総隊長・山本元柳斎重國からも指導を受けた真叶の実力は更に飛躍した。
その結果ーー
「真叶"副隊長"!!コチラの書類なんですがーー」
真叶は入隊後僅か数年で10番隊の副隊長へと上り詰めていた。それもそのはずクリアした任務回数は数知れず、実力も隊の中でも一心を除き既存のメンバーでは歯が立たず、尚且つ"新たな鬼道の開発"と言ったありとあらゆる実績を引っ提げてきたこの男に対し上層部は早急に昇進を早めるように促したのであった。
当の本人はろくに内勤をしない隊長の尻拭いをさせられているとしか思っていないのだが
「失礼しまーす。」
軽快な声と共に、副隊長執務室の襖が開く。
「真叶。今日の任務報告書持ってきたわよ。」
入ってきたのは"死覇装を着用した"乱菊である。陽光を溶かしたような艶やかな金色の長髪は腰元近くまで流れ、歩くたびに柔らかく揺れ、白い肌は透き通るようにきめ細かく、その整った目鼻立ちは「傾国」と称される真叶に並んでもなお見劣りしない美しさを放っていた。
そして何より目を引くのは、その年齢とは思えぬほど豊満な肢体である。
死覇装の上からでも隠しきれない豊かな胸元と女性らしい曲線は、歩くだけで隊士たちの視線を集めるほど。
しかし、本人はそんな有象無象の視線など気にも留めず、ただ"愛する人"への興味しか関心は無いのだが。
「乱菊か。悪いな。そこ置いといてくれ。」
机に向かったまま筆を走らせる真叶は、顔も上げずに答える。乱菊はそんな姿を見て、小さく頬を膨らませた。
「……ねぇ。」
「ん?」
「今、私のこと見てないでしょ。」
「仕事中だからな。」
「ふーん。」
真叶からの返事は素っ気ない。しかし乱菊は気にした様子もなく机へ近づくと、真叶の正面へ回り込み、そのまま机に肘をついた。
「……。」
ようやく真叶が顔を上げる。
「何だ?」
「やっと見た。」
満足そうに笑う乱菊。
数年前までなら、こんなことをすれば「ただの"友達"のスキンシップ」と頭を軽く小突かれて終わりだった。
"だが今は違う"。真叶は小さく息をつくと、筆を置いた。
「ふふ。」
笑い声が部屋へ響く。真叶は再び書類へ手を伸ばそうとする。
その瞬間、いつのまにか隣まで来ていた乱菊がそっと真叶の膝の上へと座りその手を握った。
「今日は。」
「ん?」
「もう少しだけ、仕事休憩しましょ?」
「まだ終わってないんだけど。」
「あらウチの隊長は昼寝してるわよ。」
「……あのサボり魔め」
思わず苦笑が漏れる。その表情を見て、乱菊は嬉しそうに目を細めた。真叶は少し照れくさそうに視線を逸らす。
窓から春風が吹き込み、二人の髪を優しく揺らす。
二人の間に流れる静かな時間。
副隊長執務室には、紙をめくる音さえ止み、窓から吹き込む春風だけが暖かな空気を運んでくる。
乱菊は真叶の肩へそっと頬を預け、小さく息をついた。
「……こうしてると落ち着く。」
「そうか?」
「そうよ。」
真叶は苦笑しながらも、膝の上から降ろそうとはしない。
それだけで乱菊の表情は嬉しそうに綻んだ。
「昔はこんなことしたら、『危ないから降りろ』って言ってたのに。」
「昔と今じゃ違うだろ。」
「……そうね。」
乱菊は嬉しそうに微笑む。そこにはもう昔みたいに腹を空かせた少女はいない。
「私たちも、変わったもの。」
真央霊術院では互いに競い合い、護廷十三隊へ入ってからは、それぞれの立場で支え合ってきた。
気づけば、その距離は「幼馴染」という言葉では言い表せないほど近くなっていた。
乱菊は真叶の手を両手で包み込む。
「ねぇ、真叶。」
「ん?」
「副隊長になってから、前より忙しくなったわね。」
「隊長が働かないからな。」
「ふふっ、それは否定できないわ。」
思わず二人で笑い合う。その笑い声が途切れると、乱菊は少しだけ真剣な眼差しで真叶を見つめた。
「でも……。」
「?」
「無理だけはしないで。」
その一言には、"恋人"としての想いが滲んでいた。
真叶は少し驚いたように目を瞬かせる。
「心配しすぎだって」
「心配くらいさせて。」
乱菊は照れ隠しに笑う。
「恋人なんだから。」
その言葉に、真叶は少しだけ頬を緩める。
乱菊はくすくすと笑うと、真叶の額へ自分の額をそっと寄せた。
互いの距離はもうほとんどない。
しばらく見つめ合ったあと、真叶は乱菊の髪を優しく撫でる。
「任務から帰ってきたら、こうして元気な顔を見せてくれるだけで十分だ。」
乱菊はその言葉に目を細め、小さく頷いた。
「約束する。」
「俺も約束する。」
「必ず帰ってくる。」
静かな約束を交わした二人は、自然と笑みを浮かべた。
その穏やかな空気を破るように――
勢いよく襖が開く。
「おーい真叶! 書類終わっ……」
入ってきた一心が、目の前の光景で固まる。
真叶の膝の上に座る乱菊。
慌てる様子もなく振り返る二人。
数秒の沈黙の後――
「……お前ら、隊舎で何やってんだ。」
「隊長が昼寝してるから休憩です。」
真叶が真顔で答える。
「俺のせいにすんな!!」
一心の豪快なツッコミが隊舎中に響き渡り、乱菊は堪えきれず笑い声を上げた。
変わったのは俺らの関係だけじゃ無い。護廷十三隊としても変化が起きた。先ずは12番隊の曳舟桐生が"王属特務・零番隊"へ昇格。
護廷十三隊。
尸魂界に存在する十三の戦闘部隊であり、現世や尸魂界の秩序を守る死神たちの中枢組織。その頂点には総隊長・山本元柳斎重國が君臨し、十三人の隊長たちがそれぞれの隊を率いている。
しかし――。その護廷十三隊をもってしても、決して届かぬ場所がある。
それが、王属特務。通称、"零番隊"
霊王の住まう霊王宮を守護するためだけに存在する、護廷十三隊とは完全に独立した特務部隊である。隊士の数は、わずか五人と少ないながら、されど、その五人は一人ひとりが尸魂界の歴史そのものを変えた英雄たちだった。
斬魄刀を生み出した者。新たな魂魄技術を創造した者。
死神の歴史に決して消えることのない功績を刻み、その偉業を認められた者だけが、護廷十三隊を離れ、王属特務へと迎えられる。
故に零番隊はこう称される。総力は護廷十三隊全軍をも上回ると…
とまぁ上からの引き抜きもあり、12番隊には新たに"浦原喜助"が十二番隊隊長に就任した。コレには副隊長である猿柿ひよ里は猛反発し当時は色々と揉めていたそうなのだが時間が経つにつれ落ち着いていった。その浦原隊長が技術開発局(技術開発局)を設立した事も話題になった。あ、そう言えば浦原隊長が 蛆虫の巣から"やけに危ない奴"を引き抜いたって問題にもなってたな。
うちも大所帯になってきたしそろそろ変革の時期かもな。
とある日の夜。誰もいない五番隊隊舎にて副隊長室の灯だけが静かに揺れていた。
書棚には鬼道論、魂魄論、霊子構造論――。積み上げられた文献の数は、常人なら一生を費やしても読み切れないほど。
その中央で、一人の男が筆を走らせていた。
男は五番隊副隊長――名は藍染惣右介。
「……。」
紙へ並ぶ数式。魂魄・虚・死神。それら全てを一本の線で繋ぐように、藍染は淡々と理論を書き記していく。
やがて筆を止める。愛染の顔に静かな笑みが浮かんだ。
「やはり、そうか。」
誰へ語るでもない独り言。
「死神と虚。その本質は酷く似ている。」
机の上へ置かれた試験管。その中では、淡い蒼色の霊子が静かに揺れていた。
「両者を隔てているものは、ただ境界が存在するという思い込み。ならば」
藍染は試験管を光へ透かす。
「境界そのものを壊してしまえばいい。」
彼の瞳には迷いも躊躇もない。
「霊王。」
その名を口にした瞬間。藍染の目から笑みが消えた。
「世界を創った神。……否。世界に縛られた王。」
誰も聞いていない。聞く者もいない。だからこそ、その本音は静かに漏れる。
「神とは。誰より高みに立つ者のことを言う。玉座へ座り続けるだけの存在を、私は神とは認めない。」
藍染は立ち上がる。窓の外には瀞霊廷の夜景。十三の隊舎。その中心に聳える一番隊。
「山本元柳斎。浦原喜助。…そして雀部真叶。」
一人ずつ名を呟く。
「確かに君達は優秀だ。だが。所詮は、この世界という檻の中でしか強くなれない。」
藍染は眼鏡を指で押し上げる。
「私は違う。」
机の引き出しから、一冊の黒い記録帳を取り出した。そこには既に幾つもの実験記録が綴られている。
――魂魄融合実験。
――虚因子適合率。
――崩玉理論・第一段階。
ページをめくる。最後の頁、そこにはまだ何も書かれていない。藍染は静かに筆を取った。
『第一実験。対象……流魂街高霊圧保有者。第二段階へ移行する。』
筆が止まる。窓の外では稲妻が夜空を裂いた。藍染はその光景を眺めながら、小さく笑う。
「世界を変えるには。まず、世界の理を壊さなければならない。」
その夜、誰にも知られることなく。後に尸魂界を揺るがすことになる大事件の狼煙は、静かに幕を開けた。
◆
ここは10番隊が管轄する剣術道場の内部、今そこに2人の人間がいた。2人を特徴付けるのはその髪色。2人ともが白を主軸とした銀に近い髪質を有している。1人は細身に見えるが一般隊士よりも上背は高く、もう1人はまだ少年と言って良いほどに幼く2人が並べば歳の離れた兄弟にしか見えないだろう。
「ほら"シロ"」
真叶は木刀を肩へ担いだまま、指先でくいっと手招きする。
「いつでも来い。」
「……その呼び方はやめてくれ」
眉をひそめる冬獅郎。…少年の名は日番谷冬獅郎と言い、真央霊術院をギンや真叶以来となる飛び級で卒業した天才である。
真叶が肩を竦める。その気の抜けた態度が、冬獅郎には妙に癪に障った。
「……後悔すんなよ。」
その瞬間だった。床板を蹴り抜く轟音が響き小柄な身体からは想像もつかない爆発的な踏み込みを見せる。瞬く間に間合いを詰めた冬獅郎は、迷いなく木刀を振り下ろした。
一直線な無駄のない剣筋は新人とは思えぬ鋭さだった。
ーーしかし
「甘いな」
「……っ!?」
真叶は木刀を僅かに傾けただけ。たったそれだけで冬獅郎の一撃は外へ流され、体勢が大きく崩れる。
「足に力が入り過ぎだ。」
そう言いながら木刀の腹で肩を軽く叩く。真叶としては軽く。本当に軽く。それだけの一撃だったにもかかわらず、冬獅郎の身体は数歩後方まで押し戻された。
「くっ……!」
すぐに踏み込み直す。袈裟に逆袈裟、横薙ぎ。突きと休むことなく四連撃を繰り出す冬獅郎。
乾いた音だけが道場へ響く。真叶は一歩も動いていない。最小限の動きだけで、全ての斬撃を受け流していた。
「剣を見るな。」
「相手の動き見ろ。」
「足音を消せ。」
「呼吸を読まれるな。」
教えながら、受け切る。その余裕が、さらに冬獅郎の闘志へ火をつけた。
「まだぁっ!!」
霊圧が膨れ上がる。踏み込みは先程より速い。木刀は風を裂き、真叶の喉元を狙う。
(当たる!!)
その瞬間。真叶の姿が消えた。
「……え。」
見失った。そう理解した時にはもう遅い。
「終わりだな」
背後から聞こえる穏やかな声。同時に木刀の切っ先が首筋へ添えられる。冬獅郎はゆっくりと振り返る。
(いつ、どうやって。何一つ見えなかった。)
冬獅郎は悔しそうに木刀を握り締める。
「……俺じゃ、まだ届かねぇか。」
真叶は木刀を肩へ担ぎ直すと、小さく笑った。
「いや。お前は強いよ。それこそ同じ時期に入隊した新人相手なら、お前が負ける姿は想像できない。だが──」
真叶の蒼い瞳が真っ直ぐ冬獅郎を見据える。
「相手が悪かったな。今の俺は十番隊副隊長だ。そう簡単に負けてやるわけにはいかないんだよ。」
真叶が口にした通り実際に冬獅郎は強い。それこそ入隊した当初の自分と遜色ない程に。しかし、今回は相手が悪かった…悪すぎたのだ。なんせ、今の真叶の実力は隊長クラスとなんら遜色の無いレベルまで来ていた。最近では一心相手にも剣術でも勝ち越す程である。
「まぁ気楽にやんなよシロ。お前なら10年もすれば副隊長クラスにはなれんじゃない?」
「…アンタに言われても嫌味にしか聞こえないっつうの」
「良い加減師匠って呼んでくれよシロ」
「アンタも隊長のことを師匠って呼んで無いだろうが!」
と言うのもこの少年、日番谷冬獅郎に関してはこの狂犬のように上官相手でも噛み付く性格となまじ席官クラスの実力があるせいで初めはどこの隊に入れるのか右往左往したものであるが、そこに目をつけたのが真叶であった。
真叶が冬獅郎に目をつけた理由はいくつかある。勿論、若くしてその才能を開花させ真央霊術院を突破したことも高く評価している。その容姿から実力まで真央霊術院では雀部の弟かと疑われた程である。
しかし何よりこの少年に興味を抱いたのはその"斬魄刀"…名を"氷輪丸"
氷雪系最強との呼び声高い斬魄刀である。氷輪丸は真叶の斬魄刀と同じ天空をも操る属性型の斬魄刀である。更に言えば冬獅郎は既に始解をも手中に収めていると聞いた。
だからこそ、見てみたかった。
その力がどれほどのものなのか。
そして何より、その力を振るう少年が、どんな未来を歩むのかを。
真叶は冬獅郎へ視線を向ける。力を誇示したがる者ほど、早く散る。冬獅郎にはその危うさがない。
「なぁ…アンタの斬魄刀ってーー」
「おっといくらシロでもそう簡単に俺の斬魄刀を教えるわけにはいかないな」
「っ…」
人のことは色々聞いといて自分のことは話したがらない副隊長に対して眉間に皺を避けるほど苛立つ冬獅郎。
「だから今じゃない。」
そう言って歩き出す。
「お前がもっと強くなって。席官になって。俺と肩を並べるくらい強くなったら、その時やろう。」
道場の出口で立ち止まり、振り返る。
「楽しみにしてる。」
その笑みは挑発ではなく、本心だった。冬獅郎はしばらく黙ったまま、その背中を見送る。やがて小さく息を吐く。
「……勝手な奴だ。」
だが、不思議と悪い気はしなかった。むしろ胸の奥で、静かに火が灯る。
(追いついてやる。副隊長なんかじゃ終わらねぇ。アンタを超えてーーいつか隊長になってやる)
その決意を知る者は、この場には誰もいなかった。
この時代なら、真叶は十番隊副隊長として活躍しており、藍染はまだ「温厚で人格者の五番隊副隊長」を演じています。そのため、真叶視点では藍染は「尊敬できる副隊長の一人」にしか見えていません!