双白の花   作:心ここにあらず

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 卍解――『残火の太刀』。

 

 その言葉が響いた瞬間、瞬く間に世界が変わった。先程までの荒々しい炎は見えない。それなのに、演武場を満たしていた空気から、音もなく水分が奪われていく。

地面に残っていた僅かな血溜まりは一瞬で干上がり、石畳の隙間に生えていた草木は色を失って灰となる。

 

 真叶は無意識に息を呑んだ。

 

「……っ!」

 

 喉が焼けるように痛い…呼吸をするたび肺へ灼熱の空気が流れ込み、まるで内側から炙られているような激痛が走る。

 

 唇はひび割れ、肌からは瞬く間に水分が失われていく。額を伝っていた汗は流れ落ちることすら許されず、その場で蒸発した。

 

 辺りを見渡せば、隊長たちも同様だった。誰もが口を閉ざし、乾き切った喉を押さえながら、目の前の老人を見つめることしかできない。

 

 呼吸一つするだけで命を削られる。それほどまでに、この空間は”熱”に支配されていた。

 

 流刃若火から炎は立ち昇っていない。

それでも、その刀身に凝縮された熱量だけで、天地は干上がり、霊子すら悲鳴を上げていた。

 

 これが――千年最強の斬魄刀

 

 

 

「あまり長い事此奴を顕現させておく事は叶わんからのぉ…」

 

「…なに…を」

 

 

 山本は静かに流刃若火を持ち上げると、刃を己の眼前へ水平に掲げた。

右腕を折り畳むように柄を握り、焼け爛れた刀身を口元の高さまで持ち上げる。その切っ先は真叶へ真っ直ぐと向けられ、僅かに伏せられた双眸だけが鋭く相手を射抜いていた。黒く焼けた刀身から立ち昇る陽炎だけが、周囲の景色をゆらりと歪ませる。

 

山本は静かに口を開いた。

 

 

刹那――

 

 

 

【東『旭日刃(きょくじつじん)】

 

 

 刀身へ収束していた熱量が、その一振りにのみ宿る。

 

 それは流刃若火が持つ炎、そのすべてを刃先の一筋へ極限まで圧縮した姿。刀身は黒く焼け、刃先だけが太陽の核を思わせる赫色を帯びている。

 

 

 山本はその一振りを掲げコチラを見下ろす

 

 

「忠告じゃ…」

 

「なにを…」

 

「防御しようなどと思わん事じゃ…さもなくば

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー死ぬぞい?」

 

 

「っ!?」

 

 

 "それ"が振り下ろされた瞬間、真叶が立つ方向含め広大な範囲の地が"爆ぜた"

 

 

「ほっほっほ…流石じゃのぉ…今のを交わすか」

 

 そういう山本の視線の先…遥か上空へと飛び立った真叶の姿…しかしそれはさきほのまでとは大きく異なっているのが分かる。

 

 なにせ、真叶の左腕の肘から先が消失している。そして本人も大きく息を吐き荒々しい呼吸を奏でている。

 

 

「…化け物め」

 

 

 そう言いながら真叶は先ほどまで自分が立っていたであろう箇所を見下ろした。そこには地面はなく先が見えないほどの巨大な渓谷が出来上がっており、奥深くからは火山が噴き出しているのが分かる。

 

一度刃が触れれば、斬られたという現象すら残らない。

 

 触れた対象は爆ぜることも、燃え上がることもなく、その存在を構成する霊子ごと瞬時に焼失し、灰すら遺さず消滅する。

 

 それは炎で焼くのではない。太陽そのものを刃へ封じ込めた、究極の熱量による”消滅”。

 

 その一太刀は、山を断ち、大地を裂き、空間さえ焦がす。

 

 故にその名は──旭日刃。

 

 流刃若火の炎が持つ熱の全てを、刃先の一筋だけに極限まで集約した状態であり刀身の炎が消えているのはこのためである。燃え上がることも爆炎を吐くこともせず、刃先に触れたものを跡形もなく消し飛ばす文字通り旭日の如き熱を収束させた刃は万物の生息を許さない

 

 昇る旭日の如き熱を、一筋の刃へ収束させた、流刃若火最初の権能である。

 

 

 

 真叶は残された右手で九天霄輪を握り直す。左腕を失った激痛など、今はどうでもいい。目の前の老人は、たった一太刀で地形そのものを書き換えた。

 

 それはもはや剣術ではない。自然災害ですら、生温い。山本は真叶を見据えたまま、小さく息を吐く。

 

「まだ終わらんぞ」

 

 そう呟くと、黒く焼けた刀身をゆっくりと下ろした。

 

 次の瞬間――

 

 

 

 

【西『残日獄衣(ざんじつごくい)』】

 

 

刹那、山本の全身から陽炎が揺らめいた。それは流刃若火の持つ熱、そのすべてを己の肉体へ封じ込めた姿。総隊長の身体そのものが、太陽の核にも等しい超高熱へと変貌していた。

 

 近付くことさえ許されないその姿に真叶は神速で踏み込もうとした。

 

 しかし、その足が止まる。 本能が叫んでいたのだ

 

 「近付けば死ぬ。」…と。それは恐怖ではない。生物として当然の危機察知だった。

 

 

 

「破道の三十三 蒼火墜(そうかつい)」

 

 

 真叶が詠唱した次の瞬間、掌から蒼き火球が放たれた。火球は一直線に空間を駆け、着弾と同時に蒼白い爆炎へと変貌する

 

 

 しかし、鬼道は山本へ届くことなく、その手前数尺で音もなく消え失せた。山本は一歩、前へ出る。

 

 ただ、それだけ。たった一歩踏み出しただけで、周囲の大地は赤熱し、石畳は液体のように溶け始める。遠く離れて観戦している隊長たちですら、顔へ熱風が叩きつけられ、思わず腕で視界を庇った。

 

 

"残日獄衣"…それは元柳斎自身から噴き出す超高密度の霊圧が一千五百万度の炎のような熱の鎧となり、触れるもの、近付くもの全てを消滅させる。意識的に見せなければその威容を現すことはなく、解放すると同時に破壊的な影響が発生する。

 

 

 

「太陽は全てを飲み込む…卍解した儂は太陽そのものじゃと思え」

 

 

 

 

山本はゆっくりと歩き出す。

 

 たった一歩、それだけで、大地が赤く灼け、石畳は飴細工のように溶け落ちていく。

 

 真叶は神速を発動した。雷光が弾け、一瞬で山本の背後へ回り込む。そして残された右腕だけで九天霄輪を振り抜く。

 

 しかし――。

 

 刃が届かないのだ。山本まであと数寸の所、その距離へ踏み込んだ瞬間、九天霄輪の刀身が赤熱した。

 

「なっ……!」

 

 刀を握る右手へ激痛が走る。刀身を伝って熱が腕へ流れ込み、皮膚が焼け、肉が炭化していく。

 

 真叶は咄嗟に身を引いた。あと一歩遅れていれば、腕ごと消滅していた。

 

「近付くことすら許されないか……。」

 

 真叶は歯を食いしばる。轟音の中心を歩く老人の歩みは、一歩たりとも止まらなかった。何度攻撃を繰り返しても雷そのものが熱へ呑まれ、霊子へ還る。炎は残日獄衣へ触れるより早く揺らぎ、その形を失って霧散する。

 

 

 山本は歩みを止めない。その姿は、まさに歩く災厄ようだ。それでも尚真叶は雷を纏い、幾度となく神速で死角を取る。

 

 だが、攻撃するたびに九天霄輪は赤く焼け、右腕の皮膚は裂け、焼け爛れていく。

 

「くっ……!」

 

それでも届かない。距離を詰めれば焼かれ離れれば何も届かない。"今"の九天霄輪では、この老人に勝つ術が一つも存在しない。

 

 すでに右腕は焼け爛れ、左腕は既に失われている。霊圧も急速に失われ、視界が滲む。

 

 膝が震え立っていることさえ辛い満身創痍の状態…

 

 それでも…このような状況下で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー真叶は笑った。

 

 

 

 

 

 

「……はは…参ったな。」

 

 血を吐きながら、ゆっくりと九天霄輪を構え直す。

 

 

 その様子を山本は黙って見据える。その視線は、「まだあるのだろう」と問いかけているようだった。

 

 真叶は静かに目を閉じる。九天霄輪が小さく震え、刀身から青白い霊子が溢れ始める。真叶は深く息を吸う。すると演武場を吹き抜けていた熱風が、不意に止む。

 

 空が軋むみ遥か上空を覆っていた雲が、何かへ引き寄せられるように渦を巻き始める。風が逆巻き大気が震える。

 

 霊子という霊子が暴れ狂い、天地の均衡が音を立てて崩れ始めた。

 

 乾き切っていた演武場へ、青白い火花が無数に走る。空気中に存在する霊子が互いを弾き合い、雷鳴にも似た破裂音を響かせていた。

 

 真叶の足元から九つの光輪が浮かび上がった。

 

一つ。二つ。三つ。次々と現れた光輪は、ゆっくりと真叶の背後へ並び、円環を描くように回転を始める。回るたびに霊子が弾け、蒼白い粒子が夜空へ舞い上がっていく。

 

 そして九つの輪が重なった瞬間。世界中の雷鳴が、その一点へ収束した

 

 

 焼け付く肺など意に介さず。折れた身体など顧みず。 

 

 真叶は静かに刀を掲げた。

 

 ただ一人、目の前に立つ千年最強の死神だけを見据えて。

 

 静かに、その解号を紡ぎ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      【卍解『九天霄輪・天照九曜』】

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間、天から蒼白く巨大な雷光が真叶の全身を包み込む

 

 九天霄輪が光へ溶けていく。刀身は粒子となり、柄から刃先まで砕け散る。

 

 その霊子は真叶の身体へ吸い込まれるように流れ込み、肉体そのものと融合を始めた。

 

 蒼白い稲光が全身を駆け巡る。焼け焦げた死覇装は霊子へ還り、代わりに蒼銀色の霊装がその身を包む。

 

 胸元から肩にかけては白銀の装甲が幾重にも重なり、龍鱗を思わせる紋様が淡く輝く。

 

 失われていた左腕は、無数の雷光が絡み合いながら新たな腕を形成する。純粋な霊子と雷霆だけで構築された神の腕。

 

 その腕を伝うように、青白い雷紋が首筋から頬、額へと刻まれていく。

 

 髪は重力を失ったように逆立ち、銀白色から蒼白く輝く白銀へと変わる。瞳も蒼色から澄み渡る蒼天のような蒼銀へ。

 

 背後の九つの光輪はさらに巨大化し、神々しい法輪となってゆっくりと公転を始める。一つ回転するたび、天空には巨大な雷柱が立ち昇る

 

 

 霊圧はもはや”放つ”という次元を超えていた。存在するだけで天地が震え、霊子は跪き、空はその意志に従って形を変えていく。

 

 真叶はゆっくりと目を開く。

 

 

 

「"神纏"…天衣無縫とは正にこの事だな」

 

「…なんの話じゃ」

 

「いや済まない。コチラの話だ」

 

 

 

 山本は違和感を覚える。先程までとは明らかに違う風貌…いやそれだけにとどまらず言葉遣い、佇まい、雰囲気…何を取っても最早別人と言った方がいいレベルであろう。

 

 

「…外装だけでない事を願うかのぅ」

 

 

 

 山本のそのセリフを聞いた真叶の口角が上がる

 

 

「安心しな…アンタのその願いは今から叶う」

 

 

 真叶は静かに右手を掲げ口を開く

 

 

【"天之御業"】

 

 

刹那――九天を巡っていた雷が、一点へと吸い寄せられ始めた。

 

 天を裂いていた紫電が、地を奔っていた雷光が、大気に満ちていた霊子までもが渦を巻き、まるで天地そのものが一振りの武器を鍛え上げるかのように収束していく。

 

 あまりにも莫大な霊圧が凝縮された結果、雷鳴すら飲み込まれていた。その中心で、一条の蒼白い光だけが脈動する。

 

 

"雷光はやがて一槍の武器となり顕現した"

 

 

 

「…なんじゃそれは」

 

 

 全長は三メートルを優に超え、柄には龍が天へ昇るような紋様が幾重にも刻まれている。その紋様は彫られたものではない。霊雷そのものが神代文字を描き、絶え間なく流動しているのだ。空間そのものが穂先を避けるように歪み、切っ先が向けられただけで虚空へ一本の亀裂が走る。

 

 

その霊圧はあまりにも濃密で、槍の周囲では霊子が耐えきれず結晶化しては砕け散り、無数の蒼い光片となって宙を舞う。

 

 握るだけで天地が軋み存在するだけで空が裂ける。

 

 まるで尸魂界そのものが、この神槍の顕現を拒絶しているかのようだった。

 

 隊長たちは息を呑む。

 

「……なんだい、あれは。」

 

 京楽が思わず呟く。

 

 

 その言葉に答えることなく真叶はゆっくりと神槍を握り締める。

 

 握った瞬間、柄に刻まれていた神代文字が眩く輝き始める。蒼雷が螺旋を描いて槍身へ絡み付き、その穂先には一点へ極限まで圧縮された雷光が宿る。

 

 

 真叶は穂先を静かに山本へ向ける。空間が震え、世界の理が僅かに軋んだ。

 

 そして真叶は、静かにその名を告げる。

 

 

 

 【第一曜――穿天神槍『天逆鉾』】

 

 

 

 

真叶は神槍を静かに構えた。

 

 右腕を僅かに引き、穂先を山本へ向ける。その動作はあまりにも自然で、力みなど微塵も感じられない。まるで既に勝敗は決しており、あとは結果をなぞるだけだと言わんばかりだった。

 

「逃げられるとは思わないことだ」

 

 静かな声音で真叶は言い放つ。しかし、その一言が放たれた瞬間、山本の本能が警鐘を鳴らす。

 

(……この槍。)

 

 違う。明らかに従来の斬魄刀の形状とは似ても似つかない形状である。

 

 そしてその圧倒的な霊圧…空間が軋み歪む程とは恐れ入る。

 

 山本は流刃若火を構え直した。

 

 

「ほう……楽しみじゃわい」

 

 その双眸が初めて細められる。真叶は槍を握る力を僅かに強める。その瞬間だった。神槍に刻まれた神代文字が一斉に輝きを増し、世界そのものが軋む。霊子が震え、空が悲鳴を上げ、大地が鳴動する。

 

 そして──

 

 真叶は躊躇なく天逆鉾を放った。

 

 

 

 蒼白い神槍の軌跡を追える者は誰一人として存在しない。ただ槍が通過した後の世界だけが、一直線に裂け、虚空が悲鳴を上げるように黒い亀裂を残していた。

 

隊長格ですら、その姿を視認することは叶わない。

 

ただ、本能だけが叫んでいた。

 

──当たれば"死ぬ"と。

 

 

「避けろ山じぃ!!」「元柳斎先生!!」「殺すつもりか真叶!?」

 

 

「…………ッ!!」

 

 

 

山本の瞳が見開かれる。

 

長き生涯、幾千幾万の死線を潜り抜けてきた本能が、この一撃だけは受けてはならぬと全身へ命じていた。

 

 

 

「……ならば。」

 

 

 

その老将は微動だにしない。

 

静かに流刃若火を握り直す。

 

 

 

「焼き尽くせ。」

 

 

 

刹那、流刃若火から解き放たれた超高温の炎が、津波のように噴き上がった。

 

演武場を覆うほどの火焔が幾重にも重なり、一瞬にして周囲の水分という水分を蒸発させる。大地は溶解し、空気そのものが燃え上がり、周囲数百里に満ちる霊子が灼熱によって赤く染まる。

 

それは山本元柳斎重國が誇る、尸魂界最強の炎。ただ触れるだけで万物を灰燼へ帰す、絶対なる灼熱。

 

 

灼熱の奔流が真正面から神雷を纏う天逆鉾へ激突した。

 

 

蒼雷と紅蓮。雷霆と劫火。神威と炎帝。

 

二つの絶対が衝突した瞬間、世界そのものが耐えきれず悲鳴を上げる。衝突点では空間が完全に崩壊し、黒い裂け目が蜘蛛の巣のように四方八方へ広がっていく。

 

凄まじい衝撃波が演武場を飲み込み、観戦していた隊長たちは思わず腕で顔を庇った。

 

 

 

 

 

「……ぬぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

 

 

 山本が咆哮する。流刃若火の炎はさらに膨れ上がり、その熱量は限界を超えてなお増し続ける。炎が、槍を包み込み焼き溶かそうとする。その一点だけを目的として、尸魂界最強の炎が全力で牙を剥く。

 

 

 

 

だが──

 

 

 

 

 

 

「……馬鹿な。」

 

 

 

京楽の口から思わず声が漏れる。

 

 なぜなら蒼白い槍は灼熱の海を突き破り、炎そのものを押し返していた。

穂先を覆う極限まで圧縮された雷霆が、超高温の炎を真正面から切り裂いていく。

 

 

「"あの"流刃若火が……押されているのですか……?」

 

 

 

流刃若火と山本元柳斎重國の強さを知っている卯ノ花が静かに息を呑む。

 

 

炎の壁が、一枚。また一枚と突破される。そのたび山本は霊圧を注ぎ込み、さらに炎を重ねる。

 

しかし止まらない。

 

止められない。

 

 

 

「ぬぅぅぅぅぅぅッ!!」

 

 

 

山本は歯を食いしばる。

 

 

「山じい!!踏ん張れ!」「元柳斎先生逃げてもいい!」

 

 

教え子達の声を聞いた山本の口角が静かに上がる

 

 

「…小童どもが…あまり儂を…舐めるなよ!!」

 

 

山本は両腕に力を込め、流刃若火を真正面へ振り下ろした。

巨大な炎の斬撃が天逆鉾へ叩き付けられる。

 

 

互いの斬魄刀が激突し世界が白く染まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてーー炎が、砕け散った。

 

 

 

「……ッ!!」

 

 

 

ついに天逆鉾が流刃若火の炎を完全に突破する。

 

だが、その瞬間山本はほんの僅かに身体を捻っていた。千年を戦い抜いた経験だけが成せる、紙一重の見切り。

 

穂先は心臓を逸れ、その軌道をわずかに変える。

 

 

 

「…よもやここまでとはのぉ。小童が中々やりおるわい」

 

 

そう話す山本の肩には蒼白い神槍が突き刺さっている

 

 

「試験はどうする?」

 

 

 山本の前へとゆっくりと降りてきた真叶が口にする。

 

 

「勝負はーー」

 

 

「――それまでです。」

 

 

 山本が口を開きかけた時、第三者の声が児玉する。凛とした、それでいて決して逆らうことを許さぬ声が演武場全体へ響き渡る。

 

その声と同時に、幾つもの霊圧が爆発的に動いた。

真叶の視界から一瞬で人影が消える。

 

 

 

次の瞬間

 

 

 

「……なんの真似だ?」

 

 

 

真叶の首筋には、いつの間にか一振りの刀が添えられていた。

 

 

 

 

「そこまでにしときな、雀部"元"副隊長」

 

 

 

飄々とした笑みを浮かべながらも、その眼だけは一切笑っていない男…八番隊隊長京楽春水。

己が斬魄刀、花天狂骨の刃先が、あと僅かでも真叶が動けば首を落とせる距離に置かれていた。

 

それとほぼ同時。

 

 

 

「悪いな。多勢に無勢やけどお前強すぎんねん」

 

 

 

真叶の左腕を掴んだのは五番隊隊長の平子真子。逃がさぬと言わんばかりに霊圧を込め、その腕を封じる。

 

反対側では。

 

 

「もう勝負は着いている。これ以上は駄目だ。」

 

 

 

十三番隊隊長・浮竹十四郎が静かに右腕を押さえ込み、双魚理を構えながら真叶の動きを制限する。

 

 

「ったく……無茶苦茶しなさる」

 

 

 

京楽が苦笑する。

 

 

 

「山じいを殺されちゃ、洒落にならないんでねぇ。」

 

 

 

演武場には、他にも護廷十三隊の隊長たちが円陣を描くように真叶を取り囲んでいた。誰一人として油断はない。

 

なにせ相対しているのは、あの山本元柳斎重國を追い詰めた男。

ほんの僅かな隙が命取りになることを、この場にいる全員が理解していた。

 

そして、その静寂を破るように一人の女性がゆっくりと前へ歩み出る。

 

 

 

四番隊隊長・卯ノ花烈。慈愛を湛えた微笑みを浮かべながらも、その瞳には隊長最古参としての厳かな威厳が宿っていた。

 

 

「これ以上は試験の域を逸脱しております。」

 

しかし、その一言だけで場の空気が静まり返る。

 

 

 

「双方とも、これ以上の戦闘は護廷十三隊だけでなく、瀞霊廷そのものへ甚大な被害を及ぼしかねません。」

 

 

 

 卯ノ花は静かに山本へ視線を向ける。

 

 

「総隊長。試験の結果をお伝えください」

 

 

 その言葉に山本は小さく頷く。

 

 

山本は肩を深く貫く天逆鉾へ静かに視線を落とした。

 

蒼白い雷光はなおも傷口から迸り、流刃若火の灼熱をもってしても完全には打ち消せずにいる。肩から伝う鮮血が地へ滴り落ちるたび、白煙が立ち昇った。

 

しばしの沈黙が訪れその場にいる誰もが、固唾を呑んで山本の言葉を待っていた。

 

やがて――。

 

「……ふん。」

 

山本は小さく鼻を鳴らす。そして、刺さったままの神槍を左手で無造作に掴むと、バキバキと雷霆が暴れ狂うにも構わず、一息に引き抜いた。

 

痛々しい鮮血が噴き上がるものの、山本は眉一つ動かさない。

 

引き抜かれた天逆鉾は霊子へと還り、蒼白い粒子となって風の中へ溶けていった。

 

「……見事じゃ。」

 

その声には、これまで真叶へ向けていた試す者の響きはなく、一人の戦士へ贈る純粋な賛辞だけがあった。

 

「儂が試験官である以上、勝敗を曖昧にはせん。」

 

その言葉に隊長たちの表情が僅かに引き締まる。

 

「雀部真叶。」

 

山本は真っ直ぐ真叶を見据えた。

 

「貴様はこの試験において、儂へ己が力を十二分に示した。」

 

演武場へ響く重々しい声。

 

「卍解の完成度、霊圧、技量、判断力、そして死神としての覚悟。」

 

一拍置いた後…

 

「いずれも隊長として不足なし。」

 

その瞬間、周囲の隊長たちの間に笑みが走る。この結果を置いて認めない者などいないだろう。

 

 

「よって――」

 

山本は流刃若火を地へ突き立てる。轟、と炎が静かに揺らめいた。

 

「本日付をもって雀部真叶を護廷十三隊一番隊隊長として認める。」

 

その宣言は、演武場全体へ力強く響き渡った。

 

「異論のある者は前へ出よ。」

 

誰一人として動かない中、京楽は肩を竦めながら笑みを浮かべる。

 

「いやぁ……山じい相手にあそこまでやって異論なんか言える奴、いないでしょう。」

 

浮竹も穏やかに頷く。

 

「私も異存ありません。」

 

山本はゆっくりと真叶へ歩み寄る。

互いの距離が一歩となったところで足を止めると、その厳しい眼差しのまま口を開いた。

 

「じゃが、一つだけ覚えておけ。」

 

「……。」

 

「貴様の力は、もはや一人の死神が振るうには過ぎた力じゃ。」

 

真叶は黙って山本を見つめ返す。

 

「その力は護るために振るえ。」

 

「……。」

 

山本の声は静かだった。真叶の脳裏には1人の愛する女性が浮かぶ。

 

「決して己の驕りのために振るうな。」

 

その言葉に、真叶は一瞬だけ目を伏せる。

そして小さく笑みを浮かべると、山本へ深く一礼した。

 

「……心得ました」

 

その短い返答に、山本は満足げに頷いた。

 

「うむ。」

 

そう言って踵を返した山本の背中を見送りながら、演武場に集った隊長たちは皆、胸中で同じことを思っていた。

 

――今日この日、尸魂界に。

 

護廷十三隊の歴史を塗り替える新たな死神が誕生したのだとーー





追記ですけど山じいもまだ本気じゃないです!8割くらいですかね〜。最後の方は本気でしたけど!




*【卍解『九天霄輪・天照九曜』】(あまてらすくよう)

卍解後のイメージはマギに出てくる魔装です!

【"天之御業"】

・卍解『九天霄輪・天照九曜』に宿る九つの神権。
九曜それぞれが雷で造形された異なる神器へと姿を変え、因果・空・存在・反射・封印・支配・速度・終焉・天という九つの天理を司る。

その一つひとつが単独で卍解級を凌駕する権能を持ち、天を巡る九曜は、それぞれが一柱の神器であり、一つの天理である。

槍は因果を穿ち、弓は天穹を射抜き、剣は万象を断ち、鏡は神意を映し、柱は天地を縛り、法輪は世界を支配し、双刃は神速を刻み、神鐘は終焉を告げ、王冠はすべてを統べる。


【第一曜――穿天神槍『天逆鉾』】

・イメージはFateの刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)です

この先の展開!!

  • 原作まで飛ばす!
  • オリジナルストーリーで!
  • 完全お任せで!
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