恋崎くんと夏色マジック   作:扇メトン

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4話 誰にだって、夢があるわけではないのです。

「なぁ恋崎」

 

「恋崎さんだ。訂正しろ」

 

「お前は恋する制服を見たか?」

 

 恋する制服、これは大学生の主人公とヒロインが、高校時代体験できなかった『お互いの理想の制服デート』を交互にこなして行き、どちらの方が良かったか、勝負をしていくという、いいからお前ら結婚しろよ案件を永遠と続けていく人気シリーズだ。

 

「どうした藪から棒に」

 

「あれを見て俺は、放課後デートにおけるイベントを全て理解している」

 

「なるほど」

 

「これはなんか、違くないか?」

 

「お前が全てを理解できていなかっただけで、大体こんなものなんじゃないかな」

 

「そんなもんか」

 

「そんなもんだ」

 

 僕と池田は帰宅部の活動体験をしているわけだが、今日の寄り道先は、駅から少し離れた複合商業施設。寄り道と言いつつ、池袋まで電車で移動しているのだが、それはもはや寄り道と言えるのだろうか?

 更に活動体験と言いつつ、やっていることは、店の外からギャル3人のウィンドウショッピングを眺めているだけだった。キャピキャピした雰囲気の店内と、女子率100%の店内に入る勇気も無く、店外待機となった訳だ。

 とてもじゃないが、これを男子1人で経験するのは無理だ。

 

「ごめんごめん。待たせちゃったねぇ」

 

「もー2人とも一緒に店回ればよかったのに!」

 

 外で待つ僕たちに気を遣ってか、ウィンドウショッピングは10分ほどで終わった。或いは気を遣ってたのは僕たちに対してじゃなかったのかもしれない。

 共感性の高いギャルであろう白石姉妹は、月宮さんの気持ちを感じ取っていてもおかしくない。少なくても月宮さんは白石姉妹の異変を感じ取ったのだ。その逆も容易に想像できる。

 

「ほら、店内も広いわけではないですから」

 

 大人の返しをする華麗な僕。店内を観察していて、3人は仲良さそうに見えるが、どこかぎこちなくも見えた。まぁ昨日の今日で3人の何を知っている訳ではないのだけれど。

 

「そしたらさ!次ロールアイス食べに行こうよ!あれまぢ映えっから!」

 

「あのアイス、好き。恋崎くんも池田くんも、1回食べてみるといい」

 

「あれねぇ、作るとこも面白いし。今度は暇しなっしょ〜」

 

 ロールアイス。ロール、アイス、巻いてるの?何を?アイス?

 

「あぁアレですか。俺イヌスタで見て、一度食べてみたいと思ってたんですよね」

 

「え、池田知ってるの?と言うかイヌスタやってんの?」

 

 イヌスタ、犬のアイコンが目印の写真にコメントをつけたり何たりして投稿する、リア充御用達アプリだ。そう、リア充御用達。

 

「なんだ恋崎、お前まだそのレベルなのか?今や声優もイヌスタライブをしたり、写真投稿をしているんだぞ。オタクにとって必須と言ってもいいツールなんだが、そんな事も知らなかったとはなぁ!」

 

 うっわすごいムカつく。イヌスタでマウント取られた。後でこっそりインストールしておこう。

 

「そのロールアイスって、そんなに良いものなんですか?」

 

「まぢ爆上げだから!いこいこ!」

 

 何が爆上がるのかわからないが、こう言う時は合わせたほうがいいのだろう。にしてもロールか。桜餅みたいな感じなのだろうか?それとも海苔巻き見たいな?うん、ちょっと楽しみになってきた。

 

 

@

 

 

 少し歪なギャル3人と異質なオタク2人。奇妙な5人組は、池袋と呼べるエリアの端まで来ていた。そう、ロールアイスを求めて。

 

「なんか映えるアイスの割には、結構人少ないんですね」

 

「いつもは並ぶくらいいるんだけどね〜。まぁ日頃の行い的な?」

 

 でも、いつもは混んでるんですよね。

 その言葉は飲み込み、ギャルの刹那的な生き方に合わせてみることにした。きっと普段の帰宅部なら、そんな刹那的な楽しみを謳歌しているのだろう。

 

「恋崎くん、どれにする?」

 

 写真を見てようやく理解したが、ロールアイスとはロール状にしたアイスをブーケのように盛り付けているようだ。ロールアイス、想定の5倍そのまんまだった。

 そしてメニュー名も名前を聞いただけでは、どんな味なのかいまいちわからない。これはオシャレ路線の弊害ではないだろうか。

 だってバナナスプリットって、バナナ以外に情報が無いじゃん。チョコバナナ味を見習って欲しい。え、まってストロベリースターダストってなに?かっこかわいい・・・。でもなんか口にするのも恥ずかしい。

 そんな心境の僕を他所に、各々が注文を終え僕の番が回ってくる。気になるけど恥ずかしい。そんな僕はメニューを指差し、これ、と短く告げた。

 

「はい!ストロベリースターダストですね!」

 

 ちょっと声に出すのやめてもらえませんかね?誰かに噂されちゃうって、マジで。

 などと言う僕の心配は杞憂で、みんなカウンターの作業工程に夢中だった。

 冷えた鉄板に液状のアイスを流して伸ばす。するとあっという間に板状のアイスになり、ヘラでロールを作る。なるほど、こうやってカップに収めてブーケ状にするのか。

 ふと横を見るとみんなが動画を撮っていた。どうしてそれを早く言ってくれないのだ。僕も撮りたかった。

 

「恋崎くん、後で送ってあげる、ね」

 

 そんな僕の心中を察した月宮さんが、僕に向かってスマホを振る。何だか照れ臭いからやめて欲しい。

 ありがとう。とそっけなく答えながらも、どうやって連絡先を交換したものか、と僕は頭を悩ませる。だっていきなり聞きづらいし、と言うかこの一年で、連絡先も交換せずに僕は何をしていたんだ。

 

「お、ヨシリン、ストロベリースターダストじゃん!」

 

「おぉ〜初見なのにやるねぇ〜」

 

「どうやら俺はお前のことを侮っていたようだな・・・」

 

 僕のアイスを見て三々五々の反応を・・・。いや、これ一つの反応だな。ストロベリースターダスト、こいつに一体何があるって言うんだ!?もしかしてチャレンジャーメニューだったのか?

 一抹の不安を抱えながら、ストロベリースターダストを受け取る。調理台の対面に立ち食いそばのようなカウンターが設置され、帰宅部の面々が並ぶ。

 

「恋崎くん、おいし?」

 

「まだ食べてないし・・・」

 

 照れ隠しで口に運んだアイスは、イチゴの甘さと酸味が口の中を満たした。美味しいけど、なんだか少し酸っぱすぎる気もする。

 そんな僕の横で月宮さんは、このアイスがお気に入りなのだと言いながら、一口アイスを口に運んだ。

 美味しい。そう告げる彼女の顔には、明らかに喜びの色が浮かんでいる。みんなには、そう例えば若山さんには、彼女の感情は伝わっているのだろうか。

 ・・・次来た時はレインボーマジック、食べてみるか。

 

 その後店内が混んできたこともあり、帰宅部+オマケの5人は、アイスをかき込み店外へ出る。ギャル3人の空気感をそのままに、帰路へ着こうとしていると、まるでこのまま逃げることは許さないと言わんばかりに、雨が降り始めた。

 

「まぢ!?雨降るなんて言ってた!?」

 

 ちゃんと朝の天気予報で言ってた。

 

「ウチ傘なんて持ってないんだけどぉ」

 

 ちゃんと僕も家に傘を忘れた。

 

「雨、浴びすぎるの、肌に悪い」

 

 ちゃんと僕の頭皮にも悪い。

 

「すぐそこのビルで雨宿りできるんで、俺に着いてきてください」

 

 ちゃんと僕も知ってた。いやホントだよ?うん知ってる知ってる、あそこね。

 

 そうして池田の後を追うこと30秒足らず、目的地に辿り着いた。ガラス張りのビルの一階は大きな階段が並んでいるのだが、中心の一角は柵で覆われ、ベンチ代わりに休憩するスペースとなっているようだ。

 事前に予報があったからか、他に雨宿りしている人はおらず、外には傘をさして歩く人々が溢れていた。それを眺めるように、ガラスに隔てられた僕達は、まるで世界から隔離されているようだった。

 

「それでそれで、イケっち。今日どうだったよ?」

 

「今日って言っても、前半置いてきぼりだったけどねぇ〜」

 

「どうと言われても・・・アイスが美味しかった?」

 

 正直すぎる反応だ。そして至極真っ当な反応。

 

「正直すぎるってぇ」

 

「まぢウケるよね!それで、ヨシリンはどう?」

 

 これが今日、3人に感じたぎこちなさの正体なのだ。そして恐らく──────。

 

「先輩達は、何でそんなに焦ってるんですか?」

 

 ──────月宮さんの感じていた、2人が隠していること。そこに繋がっているのではないだろうか。

 

「そりゃ焦るって。ゆーてイケっちだけだったら、ウチら卒業した後、2人になっちゃうじゃん!」

 

「そぉそぉ、打てる手は早めに、みたいな?」

 

 月宮さんが不安そうな眼差しを僕に向ける。そこに踏み込んでしまったら、取り返しがつかなくなる。そう感じているのだろう。

 

「でも、卒業までまだ時間はあります。その後だって新入生が入ってきますよね?」

 

 確かにそのいつかは必ず訪れる。問題はそのいつかを迎えた時、月宮さんが、残された人達に覚悟があるのかだ。

 

「第一、昨日までは部員を増やすことより、2人は池田への心配を優先してましたよね」

 

 バツの悪そうな顔の先輩達を責め立てるように、僕は言葉を並べる。先輩達には善意しかないことがわかっている。それでも、とてつもない罪悪感を感じながらも、僕は言葉を続ける。

 きっとまた、嫌われてしまうんだろうな。そう思いながら。

 

「2人は──────」

 

「2人は、何を隠してる、の?」

 

 しかし、僕の言葉に遮るように、月宮麗華は言葉を被せた。

 指先が白くなるまで彼女の握りしめられた手と、俯いた眼差しが、まるでその言葉から逃げてはいけないと、彼女自身を鼓舞しているようだった。

 こういう時に、僕は無力だ。責めて取り返しのつかなくなった言い訳をできるようにと、全て僕のせいにして、僕にぶつけて、前を向けるようにと。そう思っていたのに。

 

「やっぱり、わかっちゃうんだ」

 

「ウチら、嘘下手だしねぇ」

 

 いずれ訪れるいつか。だが得てして、そのいつかは不意をつくように、唐突に訪れる。いやそうじゃない。それまでの予兆はいくつもあり、冷静に繋ぎ合わせれば、ある程度はわかるはずなのだ。ただいつも僕達の覚悟が足りないだけ。不意をつかれている、なんて言うのは錯覚だ。

 元より、いつだってそれは、覚悟なんてさせてくれないんだ。

 

「そうだね。ちゃんと話すよ」

 

 葵先輩は意を決したように、階段に腰掛ける。それに倣うように、紬先輩、月宮さん、僕、池田と横並びに座る。ちなみに池田は終始何のこっちゃ顔で、隙を見つけて逃げようとしていた。だが、逃げなかった。

 奴は奴なりに、帰宅部のことを、ギクシャクした口下手なギャル達を心配していたのだろう。

 

「ウチの親、まぢなとこは厳しいって話、したよね」

 

「ウチらもさぁ。麗ちゃんとヨシリン見てたら、なんだかこのままじゃいけないかなぁって・・・」

 

 このままじゃいけない。その声音は優しく、まるで僕達が先輩達を焚き付けたような、そんなニュアンスを含んでいた。

 

「それで昨日、ウチの親にも相談したんよぉ。ウチらの夢と、これからについて」

 

 夢とこれから。そんなこと、僕はろくに考えたこともない。ただ漠然と、普通に生き、普通にサラリーマンになり、普通に愚痴を言って、いつかはいい人と出会って結婚して・・・。

 そうやって僕は生きていくのだろうと、精々がこんなところだ。

 

 そんな僕の顔を見て、葵先輩はクスリと笑う。

 

「ヨシリン。今さ、なんで自分なんかを見てって、そう思ったっしょ?」

 

 その問いに僕は黙って首を縦に振る。

 

「ヨシリン、自分のことになると、何も見えなくなるタイプなんだね」

 

「それってどう言う意味ですか?」

 

 自分のことはわかっているつもりだ。なにせ誰よりも長く、僕は僕を見てきた。少なくても会って2日目の先輩よりは、自分のことをわかっている。

 

「ヨシリンはさぁ、人の為なら迷わず自分を傷つけるタイプでしょ?なのに自分の為に人が傷つく事を許さないって感じ」

 

 紬先輩の言葉に、思考が止まる。

 そんな訳がない。僕は責任を逃れるためならなんだってするような人間だ。

 

「話の要領が見えません。僕は全然他責思考ですよ」

 

 僕は中学の頃、世界に対して反抗心を持っていたくらいだ。スケールのでかい反抗期。全てを世界の、その他のせいにして逃げるような。僕はそんな卑怯者だ。

 

「それならさぁ、もし仮にイケっちが退部しちゃったら、ヨシリンどうしてた?」

 

「代わりの誰かを探してましたよ」

 

「その代わりってぇ、自分のことじゃない?」

 

 紬先輩のまっすぐな目、それを受けて僕は言葉を返せなかった。

 否定しろよ。僕は絶対に入らないって。どうしてそれが言えない。

 

「もうヨシリンの中にはさぁ、答え出てるっしょ?」

 

「そうだとして、それがどうして先輩達の夢に繋がるんですか」

 

 負け惜しみの様な、まるで敗北宣言の様な、そんな捨て台詞を吐き捨てる。

 

「ウチらには夢があるんだぁ」

 

「そっ、大事な夢」

 

 人に優しくなりたい。白石姉妹は何の合図も無く、声を揃えて静かに告げた。

 

「だからウチはファッションデザイナーを目指してるんだぁ。ウチの考えた服で、誰かの大切な時間を応援したい」

 

「ウチはねっ、ギャルの料理研究家!家族のためにご飯を作るお母さんや、初めて一人暮らしで心細いとかそんな人達を、ウチの考えた最強のレシピで笑顔にしてあげたいんだ」

 

 大事な、とても大事な宝物の話をする様に、白石姉妹は自分の夢を語る。その横顔は、優しさに満ちた夢は、あまりにも眩しくって、あまりにも美しくて。僕なんかが聞いてしまって良かったのか、そんな居心地の悪さだけが残る。

 

「それで、紬先輩も、葵先輩も、帰宅部、やめちゃう、の?」

 

 俯いたままの、僅かに震える声で、月宮さんは問いかける。きっとこれが2人の隠していたことなんだ。月宮さんは理由は分からずとも、今までの積み重ねで、普通よりも少し早く、今日が来ることを、何と無く察していたのだろう。

 

「専門学校に行く条件って事でさ、遊んでないで勉強に集中しろーって言われちゃってさ」

 

「多分、ウチらの夢が叶わなかった時に、他の道が残る様にって、そうゆー事なんだろうけどさぁ」

 

「お父さん口下手だからね。素直に言ってくれればいーんだけどね」

 

 自分たちの子供を心配するなんて、親なら当然のことなんだろう。だけど、ちょっぴり照れ臭くなって、硬い言い方をして・・・。

 だけど思春期の僕達は、それを頭で理解できても心が認めてくれなくて・・・。

 そんな反発を繰り返して、きっといつの日か、大人になるのだろう。

 

 なのに白石姉妹は、ギャルっと日常を楽しむ、僕達よりちょっぴり大人で先輩の2人は、自分達の心を押し留めて、前へ進む事を決めたんだ。

 

「自分勝手なのはわかるけど、麗ちゃんとヨシリンの2人なら、ウチらの大事にしてたものを、残してくれるって、そう思えるんだ」

 

「3人っ、でずぅっ・・・」

 

 横を見ると池田が泣いていた。申し訳ないけど、ちょっと引くくらい泣いていた。

 

「俺、頼りないかもっ・・・だけどっ!先輩達のっ、想いはっ・・・!」

 

 今日分かった。池田秀治はオタクだ。顔が良くて声も良くて、だけど声豚でどうしようもないほどにバカだ。

 それでも、ちゃんと誰かに寄り添って、心の底から思いやることのできる、底抜けにいい奴なんだ。

 

「そっか、3人ならもっと安心だね」

 

 葵先輩は優しく微笑んだ。

 

「ウチら、最後まで一緒にいれなくてごめんね」

 

 紬先輩は月宮さんを抱き寄せる。

 

 きっと2人は、覚悟ができていたんだ。いつかくる今日を、ずっと前から。それでも、きっと不安なんだ。これから歩き出す先に、そして残される僕達のことが。

 

「あと1人、私達がなんとか、する。だから、安心して欲しい」

 

 気丈に応える月宮さんは、紬先輩の腕の中で何を思っているのだろうか。

 僕の角度からは、彼女の顔は見えなかった。

 

「まぁ、きっと何とかなりますよ」

 

 部員のことは、きっとなんとかなる。最悪高岡先生に土下座して部を存続させればいい。

 でもなんだろう。やっぱりそれだけじゃダメな気もしている。

 

 今日の予報では、夜からは雨が止むはずだった。確かに雨足は弱まってきた。

 だけどまだ、窓の外の雨は止まない。

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