恋崎くんと夏色マジック   作:扇メトン

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8話 この店には、ワクワクと、ちょっぴりドキッとする刺激があるんです。

 週が開けた月曜日。僕は今日も少し早く学校に来ていた。金曜日とは真逆の理由だ。もしも月宮さんの問題が解決していないとしたら、そんな状況の教室に月宮さんを一人にしたくはなかったのだ。

 鏡の中に映った、もう1人の月宮さん。その問題への対処法など、都合良く思い浮かぶ訳がなく、結局は事態を見守ることしかできない。

 

 きっと大丈夫。もう何度目になるだろうか、僕は自分へ言い聞かせる。

 

「おはよう恋崎くん」

 

 顔を上げれば、若山さんが立っていた。

 金曜日、若山さんも聞きたいことはあったのだろうが、早退する月宮さんにも普段通り接してくれていたし、僕に対しても気を遣ってか、そっとしておいてくれていた。

 そんな彼女の顔は曇っていた。

 

「おはよう若山さん」

 

 若山さんは入口が見える場所へ位置取ると、周りには聞こえないよう、声を抑えて話しかけてきた。

 

「金曜日もね、放課後に見かけたよ」

 

 何を、なんてことは言われなくてもわかる。もう1人の、笑顔を浮かべる月宮さんだ。

 

「そっか・・・。そのことだけど」

 

「今は、言わなくても大丈夫だよ。色々分かったら、相談できるようになったら、教えてよ」

 

「ごめん、ありがとう」

 

 若山さんだって、月宮さんのことを心配しているはずなのに。それでも、僕もいっぱいいっぱいになっていることを、察してくれたのだろう。 

 

「・・・ほら!暗いムードはもう終わり!いつも通りにしていよう。きっとそれが麗華ちゃんにとっても1番良いはずだよ」

 

「そうだね。本当に助かるよ」

 

 金曜日に月宮さんへ話した仮定通りなら、彼女への心理的な負担は極力少ない方がいい。

 

「それじゃお助け料として、ダッツ1つで手を打とう」

 

 1億万円じゃなくてよかった。半裸のブタだったら間違いなく、こう言うことは役に立たないし。

 

「それならストロベリー固定になるけど、良いかな?」

 

「いいけど、なんで味固定?」

 

「1番美味しいからね。それとイチゴが実はバラ科なんだって、豆知識をひけらかすためだよ」

 

「バラ科なんだ?」

 

「そう、意外でしょ」

 

 まぁ僕が調べた訳じゃないけど。それにこのやり取りは、もっとトゲのある美人と言うか、そんな感じの人とやり取りするものだ。

 

「2人とも、おはよう。イチゴの話?」

 

「おはよう、月宮さん。ダッツは何味が好きかって話だよ」

 

「聞いてよ麗華ちゃん!恋崎くんイチゴ派なんだって。ダッツは抹茶一択なのに」

 

「ダッツ、は、バニラが、至高」

 

「麗華ちゃんもわかってないなぁ。抹茶の香りとほろ苦さがデザートに最適なんじゃない」

 

「若山さんこそ、わかってないんじゃないかな。ダッツならではのあのイチゴの果肉感。ストロベリーアイス界の王者だよあれは」

 

「抹茶や、イチゴは、アイスの逃げ。誤魔化しの効かない、バニラこそ、アイスの良さ、わかる」

 

 平行線を辿る議論に終着点はなく、誰もが自分の信じた味が1番だと譲らない。そんな他愛のない会話を続ける僕達は、いつも通りにできているはずだ。

 月宮さんも、いつもに比べれば、元気がなさそうではあったが、金曜日に中庭で見たような、憔悴しきった雰囲気は無い。

 これならきっと、大丈夫。そう願いながら、僕は"いつも通り"の日常に飲まれていった。

 

 

@

 

 

 金曜日は月宮さんのこともあり、僕は部活に行かなかった。理由を聞かれてもなんとなくとしか言えない。もしかすると月宮さんのいない、そんな帰宅部を見たくなかったのかもしれない。

 その光景を見てしまうと、まるで彼女の居場所が無くなったのだと、突きつけられているような気がして、どうしても気が向かなかった、とか?

 

 いや、まさかね。

 

 十中八九考えすぎだし、現実的に考えて1回休んだだけで、居場所が無くなるはずもない。そう、僕が考えすぎただけ。

 だから、今日月宮さんと一緒に帰宅部に向かったのも、深い意味なんてない。たまたまタイミングが被っただけなんだ。・・・我ながら何に対する言い訳なのか、全く分からない。

 心の中でそんな弁明をしている内に仮部室へ辿り着く。

 

 扉を開ければ、今日も今日とても白石姉妹がいる。勉強はしているようだが、捗るのだろうか。

 月宮さんは言った。『心配なのは、きっと、私』。その言葉を振り払うように、僕は部室の定位置と化しつつある奥の席に着く。

 

「2人とも、まだいたんですね。暇なんですか?」

 

「ヨシリンひどっ!」

 

 顔を上げ食い気味に声を上げる葵先輩は、どこか手を休める口実を探していたかのようだった。

 

「こんなに必死に勉強してるのに、わからないかなぁ」

 

 対して、紬先輩はノートのメモをまとめながらの緩い返し。自分で決めた区切りまでは、絶対に手を止めない。そんな意志を感じる。

 

 当然のことだけど、双子と言っても性格や反応の仕方、日常の仕草も、全然違う。

 絶対調子に乗るから死んでも言わないが、2人とも美人さんなのだ。メイクや髪型は異なる方向性でありながらも、目元とか口元や声色など、要所要所はやはり似ている。

 普段の緩い空気に忘れそうになるが、彼女達はスクールカーストの上位に位置する存在。帰宅部に入らなければ、もとい月宮さんと言う共通の友人がいなければ、僕は関わることもなかったであろう人種だ。

 

「恋崎くん、そう言うところ、あるから」

 

 月宮さんが呆れ気味に言う『そう言うところ』が、どう言うところを指しているのか、分からないが、なんだか不服だ。

 あくまでもこれは月宮さんを元気付けるため、いつも通りを装っているだけで・・・。あれ、いつも通りなら、やはりその評価は正当なものなのでは?

 

「ちわーって、おー恋崎達も来ていたのか」

 

 席に着くと同時に、池田が入室してくる。

 

「お前廊下の先で僕達が来るまで、様子を伺ってただろ」

 

「なぜ、それをっ・・・!」

 

 カマをかけただけだけど、やっぱりそうか。確かに先輩2人の中に、1人で過ごすのはしんどいのだろう。

 だがな、池田。そう言う小細工をするなら、もう少し時間を置かないと。すぐ入ってきた割には、僕達が歩いてた時、後ろに誰もいなかったし。

 

「2人ともすっかり仲良しじゃ〜ん」

 

「待ってください紬先輩。僕と池田は相対的なお友達であって」

 

「相対的なお友達ってなにそれ、ウケるんですけど!」

 

「絶妙に意味わかんないのにぃ、ちゃんと意味伝わるあたり、ヨシリンも大概だよねぇ」

 

「恋崎くん、そう言うところ、あるから」

 

 だからそれ、どう言うところなの?僕頑張って治すから、教えて欲しい。なんかわかられてる感が気恥ずかしい。

 

「こんにちはー・・・」

 

「あっ桜ちゃん!おつおつ!」

 

「桜ちゃんおつぅ〜」

 

「紬先輩に葵先輩、おつです」

 

 小桜美乃、桜でヨシノでソメイヨシノっぽいよね、との理由で桜ちゃん。一周回ってそのままじゃないか、なんて言うのは無粋な話。

 僕達の初めての後輩で、最後の帰宅部部員。少し照れたように、白石姉妹へ返事をする彼女は、恐らく昨日も帰宅部に来ていて、2人と更に打ち解けていたのだろう。

 そうか、池田はそんな中に1人でいたのか。そうかそうか。さぞ気まずかったろうな。面白いものを見逃した気がしてきた。

 

「美乃ちゃん、今日も、こじんまり、かわいい」

 

 そして初めての後輩を大層可愛がる月宮さん。優しく抱き寄せ頭を撫でる様は、何というか、こう、ほら、ね?

 2人の邪魔にならないように、影を薄くする僕は、同じく言葉を発さない池田と目が合った。

 池田のこう言うところは、本当に信頼できる。そう、百合の間に男が挟まることは許されない。

 僕達は静かに微笑みを交わすと、手持ち無沙汰で気まずいので、コーヒーの準備を始めた。

 

「おい、恋崎。これ」

 

 池田はいつもの棚から、インスタントコーヒーの袋を探し出すと、そのまま僕へ差し出してくる。そこには付箋が貼ってあった。

 

『自分達の分は自分たちで買え』

 

「これは、高岡先生か」

 

「あぁ、高岡先生だな」

 

 僕はそっと付箋を剥がして、袋を開けた。そう、たまたま付箋が剥がれていて、僕達は気づかなかったのだ。仕方ないね。

 

「なぁ池田・・・」

 

「お前から話しかけてくるなんて、珍しいな」

 

「ステキロボ虎次郎は見たことあるか?」

 

 ステキロボ虎次郎とは、放映開始から50周年を迎えた国民的アニメだ。胸についたポケットが異次元と繋がっており、そこから取り出したステキアイテムで、冴えない主人公の男の子と友情を育む、ハートフルSFコメディである。

 

「どうした藪から棒に」

 

「あの話の中に、何かに取り付けてダイヤルを回すと、過去や未来の状態にする、みたいなアイテムがあったろ?」

 

「タイムダイヤルだな。・・・おい、もしかしてその袋」

 

「あぁ、もうほとんど入ってない」

 

 『自分達の分は自分たちで買え』とは、つまりそう言うことだったのだろう。

 

「話は聞かせてもらったよヨシリンにイケッチ!」

 

 葵先輩は、今生えてきた?と錯覚させるほどの身のこなしで、僕達の間にぬるりと割って入る。

 

「いいじゃんいいじゃん!新帰宅部初の自主的な帰り道提案!」

 

「お、なになにぃ〜?2人は行きたいとこでもあんのぉ?」

 

「いや、行きたいところというか。コーヒー買わなくちゃって」

 

「そーそーそれ!だから今日の部活はコーヒーを買いに行くこと!」

 

 葵先輩、流石にそれは刹那的すぎないだろうか?あまりにも目的がしょうもない気もする。

 

「え、そんなことでいいんですか?帰り道って」

 

「まぁ大体いつもこんな感じ。今日はあれした〜いって感じのこと、やってるだけだしねぇ」

 

「そそっ!難しく考えすぎるのは、君の悪い癖だよヨシソンくん!」

 

 誰だよヨシソンくん。大体ワトソンって元軍医で優秀な男なんだぞ。そんな頭だってキレるスーパー助手と、1男子高校生を一緒にしないでいただきたい。

 それと、ヨシソン、語呂悪くね?

 

「でもコーヒーを買うと言ってもインスタントですよね?スーパーとかそういうところで済んじゃいませんか?」

 

 小桜さんの尤もすぎる質問に、わかってないな。と言わんばかりに葵先輩は指を振る。

 

「ちっちっちっ。行くのはただのスーパーじゃないよ」

 

「帰宅部、御用達、激安の、殿堂」

 

「なんでも揃う楽しいお店、だねぇ」

 

 どこかから、あの曲が聞こえてくるのは気のせいか?そうだよ。気のせいだよ。ドンドンドン、ドーンキ。

 

「ドンキっすね」

 

 池田は悟っていた。まぁ激安の殿堂なんて肩書き、そうはあるまい。あとギャルが好きそうだし(偏見)。

 

「ドンキですか?」

 

 小桜ちゃんは若干戸惑っていた。

 きっとドンキへ行くことと、スーパーへ行くことの違いがわかっていないのだろう。安心して欲しい、僕もだ。

 

「と言うわけで、池袋に向けしゅっぱぁーつっ!」

 

 元気の良すぎる葵先輩は、いつの間にか荷物をまとめ、小桜さんの背を押すように歩き出す。

 ・・・と言うか。

 

「先輩達、勉強しなくていいんですか?」

 

 この発言で、みんなに若干引かれた事はあえて語る必要もあるまい。

 

 そんな日常の陰で僕は内心ホッとしていた。ほら、やっぱり大丈夫だったじゃないか、と。

 金曜に言った通り、あれは一時的なものだったんだ。きっと時間が解決してくれた。そうに違いない。

 

 だから、きっと大丈夫。僕はまた、そう言い聞かせた。

 

 

@

 

 

 池袋にはドンキがある。東口と西口、いずれも駅近なのだが、僕たちは1番駅から遠い北池袋店まで足を伸ばしていた。

 なんでそんな遠くへ?と聞けば、都内で1番大きいらしいから!と返ってきた。葵先輩はどうしても行ってみたかったらしい。仮部室でのテンションにも納得だ。

 

「どんふくろう・・・」

 

「なんか絶妙に可愛く無いですね」

 

 例のマスコットのペンギンと、いけふくろうが合体した石像。お互いにいいところを打ち消し合った、その彫像に僕と小桜さんは若干引いていた。

 ギャル3人はノリノリで写真を撮っているが、このどんふくろうとやらは可愛い、なのだろうか?

 

「お前達は知らないのか?どんふくろうはキモいけどカワイイ、所謂キモカワ的なポジションでイヌスタでも人気のスポットだぞ。・・・俺もイヌスタ用の写真撮ってくる」

 

 意外とサブカルに詳しく、いつも通りにミーハーな池田。だけどそうなると、イマドキJKの小桜さんが知らないことがむしろ不思議と言うか、同じキモカワ的な方向にならないことが少し意外だった。

 

「小桜さんって、あんまりSNSとかやらないの?」

 

「んー答えてもいいんですけど・・・。やっぱり恋崎先輩とは、まだ親密度が足りないと思うんですよ」

 

 顎に人差し指を当てる仕草。そしてその小悪魔的な笑顔。板についているようで、どこかわざとらしさが抜けない。

 裏がある、とまでは言わないが、彼女が話していない。クラスに馴染めていない理由。恐らくそれが関係しているのでは無いだろうか。

 

「親密度って言っても、文化部系の先輩後輩って別にこんな感じじゃ無い?」

 

 知らんけど。

 

「そうかもですけど。ほら、小桜さんって呼び方、なんか距離感じちゃうじゃ無いですか?」

 

「小桜後輩」

 

「却下です」

 

 考慮すらされなかった。なんか文豪感あっていいと思うんだけど。ダメかぁー。

 

「小桜・・・ちゃん?」

 

「んーまぁ今はそれでいいってことにしてあげます」

 

 許された。だけど僕の弱小メンタルでは、これが限界だ。

 

「それで、さっきのことだけど」

 

「あれ、私教えてあげるなんて、言いましたっけ?」

 

 小桜さんはわざとらしく首を傾げる。それなら、さっきのあれは何の意味があったんだ。

 僕が抗議の眼差しを向けていると、堪えきれなくなった様に小さく笑う。

 

「冗談ですよ先輩。でもその話はまた今度にしましょう」

 

 そう言い残すと、小桜さんはどんふくろうの前で写真を撮りまくる3人のギャルへ歩み寄る。

 どうやら親密度はまだ足りない様だ。

 

 

 階段を下り食品関係扱う地下フロアへ。階段をおりてすぐキッチン用品売り場が広がる。

 流石は都内最大規模と言われるだけある。意外と店内を見ているだけでも楽しい。

 

「あれ、つむちゃん!見てこれ!もうここ都内最大じゃないっぽい!」

 

「お〜まぢじゃんウケるんですけどぉ」

 

 マジか。僕の感動を返して欲しい。

 

「と言うか、そしたら僕達はなんでこんな遠くまで来たんですか」

 

「ヨシリンは本当に無粋だなぁ〜」

 

「ねっ!ヨシリンまぢウケる!」

 

「だって、ここが都内最大級の広さだから来たいって、葵先輩が」

 

「恋崎くん、もう、諦めよう」

 

「そうですよ先輩。理屈じゃないんですよ」

 

「恋崎、俺でも流石に触れるべきではないってわかるぞ」

 

 待って欲しい。なんで僕が空気の読めない、ワガママボーイみたいになってるのさ。どちらかと言えば、葵先輩がワガママガールなはずだ。

 

「そんなことより、コーヒー、どれにするの?」

 

 月宮さんの指さす先はインスタントコーヒーの陳列棚。目を引く「ド」の文字が印刷されているコーヒーはオリジナルブランドのようだ。

 

「僕的には、せっかくならオリジナルブランドがいいですね」

 

 割と歩いたし、せめて思い出が欲しいよね。

 

「アーミーレッドとアーミーグリーン、何が違うんだろうなぁ〜」

 

「緑の方が酸味とコクがいい感じなんだってさ!それで赤はコクマイでミルクに合うんだって!」

 

 コクマイ、五穀米の親戚か何かだろうか。

 

「コクがあって、マイルド、略してコクマイ。恋崎くん、また変なこと考えてた、でしょ?」

 

「なんでわかるのさ・・・」

 

「さぁ?」

 

 月宮さんは、首をコテンと倒しながら惚ける。・・・僕の思考回路をトレースするのはやめて欲しい。なんかむず痒い。

 僕が月宮さんの感情を読み取れるように、彼女にも僕の思考はある程度筒抜けなのだ。そう、深淵を覗く時、深淵もまた、ってやつだ。伊達に一年の付き合いがあるわけではない。

 

「ミルクに合う、ということはマックスコーヒーにより近づくということ。俺は断然アーミーレッド推しだ」

 

 池田は、いつの間にか手にしていたカゴと、いつの間にかその中に大量に投入されていた、ミルクポーションとスティックシュガーを掲げる。

 こいつ、抜け目のないやつだ。

 

「池田先輩、高岡先生から預かってるお金は千円だけです。足が出た分はご自分で出してくださいね」

 

「え、小桜ちゃん、いつの間にそんなお金もらってたの?」

 

「今日仮部室に向かっている時に、高岡先生とすれ違ったんですけど、どうせこの後に使うだろうからって」

 

「おぉ〜たかりん、気遣いの達人だねぇ〜」

 

「ってゆーより、お人好しの苦労人!みたいな?」

 

 大人の余裕、カッコいい。そう思っていたが、そうか言い換えれば、ただのお人好しが。苦労は間違いなくしているのだろう。かく言う僕らも、その苦労の一端を担っていることは間違いない。

 そして池田は自腹発言を受け、黙々と陳列棚へ返却を始める。一袋ずつあれば、普通はしばらく持つし、カゴから溢れんばかりに買おうとすることが間違っているのだ。

 

「紬先輩も、葵先輩も、そのお菓子、自腹」

 

「やだなぁ〜わかってるって麗ちゃん」

 

「うんうん!ちゃんと自分達で出すって!」

 

 そう言いながらも、カゴいっぱいに詰め込まれたお菓子を黙々と棚に戻してく2人。ブルータス、お前もか。

 

「恋崎くん、他人事みたいな顔、してるけど、さっきチョコ、入れようとしてた」

 

「やだなぁ月宮さん。ちゃんと自分で買うつもりだったんだって」

 

「恋崎先輩もですか・・・。私と月宮先輩がしっかりしないと、高岡先生が破産しちゃいますね」

 

 いや、ホントだよ?うん。マジホント。棚に戻してるのは、たけのこの気分じゃなくなっただけだから。

 結局ミルクポーションとスティックシュガーは全員使うだろうとのことで、部員で割り勘をすることになり、その他のお菓子たちは無事に棚に戻された。

 

「それでは私はお会計してきますので、お金は後でレシート見ながら精算しましょう」

 

「桜ちゃんしっかり者だ!」

 

「帰宅部の会計係だねぇ〜」

 

「みなさんが、だらし無いから仕方なくです」

 

「小桜ちゃん、真面目そうだから会計係、結構合ってそうだけどなー」

 

「恋崎先輩のそれは、自分がやりたくないからってだけですよね?」

 

 どうしてバレた。

 

「どうでもいいが、俺はいつまでカゴを持ってればいいんだ?」

 

「池田先輩は荷物持ちです。明日ちゃんと部室に持ってきてください」

 

「そこまで俺がするのか!?」

 

「イケッチ男子なんだから!ほら頑張って!」

 

「そ〜そ〜。かよわい先輩に持たせるなよぉ〜」

 

 先導する小桜ちゃんに続いて、抗議する池田、そしてその背を推す白石姉妹と店内を進んでいく。

 月宮さんと僕は、そこから少し遅れて後に続く。あれから笑顔の月宮さんは出たのか。今日一日、聞きたかったけれど聞けなかった問い。

 聞いてしまうと、この日常が終わってしまうような、そんな予感がして。

 

「恋崎くん、態度に出る、から、わかりやすい」

 

「そんなにたけのこのチョコ買いたいって、態度に出てたかな?」

 

「そうじゃなくて。今日、ずっと心配、してくれてた」

 

「・・・態度に出ないようにって、気をつけてたんだけど。バレちゃうもんなんだ」

 

「恋崎くん、隠すの、上手。だから、逆にわかりやすい」

 

「それって上手なの?」

 

「隠したいことだけ、上手に隠す。だから、そこだけ、不自然に、抜け落ちる。だから、逆に目立つ」

 

「そっか。月宮さんには、隠し事はできないな」

 

 そうだね。と楽しげに返す月宮さんが、足を止める。振り向く僕を見つめる視線は、一転して真面目な雰囲気を帯びていた。

 前を行く4人が、少し先の棚を曲がったことを確認してから、月宮さんは口を開く。

 

「心配性な、恋崎くんに、教えてあげる。この土日は、何もなかったよ」

 

「そっか。それなら、よかった」

 

 夏の魔法とやらは、どうやら何事もなく終わったらしい。そりゃそうだ。シンデレラだって0時までとか言う、理不尽なほど短い魔法だったんだ。人を苦しませる魔法だけが長続きするなんて、そんなこと認めてやれるわけがない。

 短い言葉のやり取りを終え、4人を追いかけ棚の角を曲がろうとする僕達を、女生徒の声が呼び止める。

 

「あれ、月宮さん?」

 

 彼女の名前は確か・・・うん、やっぱり山田さん(仮)でいこう。

 まさか駅からこんなに離れたドンキに来る物好きが僕達以外にいるとは。山田さん(仮)も都内最大級の売り文句に釣られたクチだろうか。みんな意外とミーハーなところがある。

 

「さっき昇降口で私達と話してたよね?私真っ直ぐここまで来たのに、先にいるのすごいね。と言うかこんな遠くの店舗で会うなんて、2人も物好きだね」

 

 そう言って彼女は、いつものようにケタケタと笑う。相変わらずよく笑う人だ。・・・いつもそうだったっけ?

 

「僕たちが来たのは帰宅部の先輩が、ここを都内最大級の店舗だって勘違いしててさ。本当はここまで来る必要なかったんだけどね」

 

 そうだ、ここって都内最大級の店舗ではない。それなら山田さん(仮)どうしてここに?

 いや待て。そもそも月宮さんは、僕達と一緒にここまで来たんだ。それなら彼女が話したと言う月宮さんは・・・。

 

「そうなんだ。そう言えば──────」

 

 嫌な予感、なんて物じゃなかった。その後の言葉は分からないけれど、その意味は確信できた。

 

「ちょっと待っ・・・!」

 

「──────さっき珍しく笑ってたね」

 

 間に合わなかった。いや、例えその言葉を遮ったところで、意味はなかったのだろう。昇降口で話していた、その言葉だけで十分すぎるほどだ。

 月宮さんの顔を伺うと、唇は固く引き結ばれていた。そしていつかのように、白い肌の指先が真っ白になるほど強く、手を握りしめていた。

 

「あれ、どうかした?」

 

 彼女は何も悪くない。悪気がない分、よりストレートに現実が突きつけられる。月宮さんの抱える問題は、何も解決なんてしていなかった。

 

「ごめん、なんでも、ない、から・・・」

 

 月宮さんは大きく息を吸うと、いつものような平然を装い、心配そうな彼女を安心させるように告げる。

 

「そっか・・・それじゃまた明日」

 

 そう言い残し山田さん(仮)はその場を後にした。

 月宮さんは、再び深呼吸をするも、吐き出す息は大きく震えていた。

 

「やっぱり、私、は・・・」

 

 彼女の震える手を、僕はできるだけ優しく握った。やましい気持ちなんて無く、トキメキなんて起きるはずも無い。ただ、どうしてもこうせずにはいられなかった。

 

「ありがとう・・・」

 

 握り返す月宮さんの手は、震えが止まることはなかった。それでも彼女の言葉を聞いて、少しでも気分がマシになって欲しいと、そう願いながら、ほんの少しだけ、僕は手の力を強めた。

 

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