熱々轟家   作:インターセプト

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第0話:冷徹な家系図に咲いた、最初で最後の誤算

轟家にとって「個性婚」とは、冷徹な契約であり、最強の英雄を育てるための冷たい儀式のはずだった。

世間がそう信じ、本人たちも最初はそう思っていた。

 

お見合いの席。

轟炎司は、自身の荒ぶる炎を制御し、かつ「超える」力を得るために、氷の因子を持つ氷叢冷を求めた。氷叢冷は名家としての責務を背負い、静かに座っていた。

 

「……トップヒーロー様の伴侶としましては、……十分に釣り合いがとれるものと……」

 

氷叢母の静かな声が、張り詰めた空気に落ちる。

炎司は、氷叢冷の透き通るような銀髪と、氷のように静かな瞳を見つめながら、自身の内に渦巻く熱量のせいで、喉の奥が乾くのを感じていた。

(美しい……いかん! いかん! 現を抜かしてはいかん!)

 

「俺は、お前を愛そうとは思っていない。最強のヒーローを育てるための……ただの協力関係だ」

 

炎司が自身の冷酷さを強調するように言い放ったとき、冷はふと顔を上げた。

彼女の視線が、炎司の燃え盛る眼光とぶつかる。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて崩れた。

 

冷の瞳が、驚きでわずかに見開かれる。

目の前の男は、英雄としての傲慢さを纏ってはいるが、その奥底にあるのは、炎という個性によって誰にも理解されず、孤独に焼き尽くされようとしている一人の男の姿だった。

 

冷は、無意識のうちに、そっと手元にあったお茶を置いた。

それは、静寂を切り裂く、運命の始まりを告げる一言だった。

 

「……炎司さん、その……もし、よろしければ……」

冷は伏せていた視線をわずかに上げ、震える声で続ける。

「……私の氷で、あなたのその……熱すぎる炎を、少しだけ……鎮めさせていただいても、よろしいでしょうか……?」

 

冷自身、自分でも何を言っているのか理解できていなかったかもしれない。ただ、炎司の真っ直ぐな、熱すぎるほど純粋な瞳と目が合った瞬間、彼女の氷の心に熱い火種が落ち、そのまま口をついて出た言葉だった。

 

直後、冷は自分が何を言ってしまったのかに気づき、耳の先まで真っ赤に染めて両手で顔を覆った。

 

「……っ」

 

指の隙間から不安そうに炎司の様子を窺う冷。その姿を直視した瞬間、轟炎司という男の脳内回路がショートした。

 

(――かわいいいいいいいい!!!)

 

普段はヴィランの殺気にも動じない最強の男が、目の前の女性がふと見せた、可憐で、無防備で、これ以上ないほど「かわいい」表情に、完全に撃ち抜かれてしまったのだ。

 

(……くっ、なんてことだ。この女……無自覚に俺の理性を焼き払いにきているのか……!)

 

炎司は必死に顔をしかめ、威厳を保とうと拳を握りしめるが、その握りしめた拳からは、制御しきれない熱がメラメラと立ち昇っている。目の前で俯く冷のうなじの白さと、その肌を染める赤みのコントラストに、炎司の視線は釘付けだった。

 

沈黙に耐えかねた冷が、恐る恐る口を開く。

「……あ、あの……ご不快に……なさいましたか……?」

 

その瞬間、炎司は勢いよく立ち上がった。あまりの勢いに、料亭の座卓がガタりと音を立てる。

 

「……不快だと? ……いや、違う!」

 

炎司は、自分の声が情けなく上ずっているのを自覚しながらも、冷の目の前に歩み寄った。彼は不器用極まりない手つきで、冷の肩にそっと手を置こうとして、火傷をさせまいとすぐに引っ込めるという一連の動作を繰り返す。

 

「冷……お前のその氷……。俺のこのどうしようもない熱を、本当に、鎮めてくれるのか……?」

「……はい。……私に、その……お役目を、いただければ……」

 

その瞬間、炎司は、生涯かけてこの女性を「焼き尽くす」ほど愛し、そしてこの女性に「冷やされる」ことでしか自分は存在できないのだと、雷に打たれたような衝撃と共に悟った。

 

「……ああ。お前となら、俺は……最強を超えられる気がする」

炎司は、もはや傲慢な英雄ではなく、情熱を隠しきれずに顔を真っ赤にした不器用な一人の男として、彼女に告げた。

「……約束する。……俺の全てを、お前の氷に捧げよう」

 

それは、ヒーローの誓いなどよりも遥かに重く、かつ不器用で、熱すぎる宣言だった。

 

冷は、炎司の言葉を聞いて、小さく花が綻ぶように微笑んだ。その微笑みの破壊力たるや、エンデヴァーの「プロミネンスバーン」の比ではない。

 

二人の間にある「契約」の壁は霧散した。

冷の凍てつく心は炎司の熱で溶かされ、炎司の荒ぶる炎は冷の静寂で満たされる。

それが、地獄のようにラブラブで、かつ物理法則を歪めるほどに激しい、轟家の始まりの夜だった。

 

轟家の「地獄のラブラブ歴史」は、この瞬間、この畳の上から幕を開けたのだ。物理法則を無視した熱と氷の融合。これから何人もの子どもが生まれ、そのたびに轟邸が湿度と情熱で満たされることになる未来など、二人は知る由もない。ただ、この冷徹なはずの契約の席で、二人は確かに「運命」という名の業火に焼かれていたのだった。

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