雄英高校の男子寮、その庭で洗濯物を干していた爆豪勝己は、ふと視界に入った轟焦凍の私物に猛烈な違和感を覚えた。いや、轟の私物ではない。轟が実家から持ってきた、あまりに「家庭的」すぎる品々だ。
「おい、半分野郎。……なんだこれ」
爆豪が指差したのは、物干し竿の端で日光を浴びて神々しく輝く枕カバーだった。そこには情熱的な刺繍がある。
『両面イエス(拒否権なし)』。
轟は少し気まずそうに、しかし極めて真顔で答えた。
「ああ、それか。……実家の荷物に紛れ込んでいたんだ。母さんに連絡したら、『情熱が冷めているから、一度洗って太陽の光を当てて、熱を蘇らせてから実家に送り直しなさい』と厳命されていてな。寮の庭で干すのが一番効率がいいと判断したんだ」
爆豪の頭の中で、爆音と共に何かが弾けた。
「……返せって言ってんのに、なんで干してんだよ!! 戻す手間が増えるだろが!! それに、その『情熱』とかいう元凶を寮の庭で再放送すんじゃねぇ!!」
「実家では、枕カバーの刺繍がどちらにあるかで主導権を示していたからな。親父は外では傲岸不遜なトップヒーローだが、本命童貞だから母さんの押しには滅法弱い。『ふしだらな母と笑なさい……❤』と言われると、親父は『冷ぃぃぃぃっ!!!』と叫んでなすがままになる。母さんのあの、氷の個性を纏った静かな情熱の前に、炎の個性を持つ親父はいつも焼き尽くされる側だ」
「うるせぇ! もういい!!」
爆豪はもはや呆れを通り越し、失笑を禁じ得なかった。
「あのエンデヴァーが、毎晩イエスを強要されながら、朝には『冷ぃぃぃぃっ!!』って叫んで出勤してんのか。トップヒーローの夜の姿は、ヒーロー(HERO)じゃなくて、もっと生々しい『H(エロ)ERO』だったってわけだ」
「爆豪、言葉が下品だぞ」
「うるせぇ!! どっちもどっちだわ!!」
その日、爆豪の放った小爆発によって、伝説の枕カバーは寮の庭の隅で無残に煤だらけとなった。
爆豪が鼻で笑って背を向けようとしたその時、轟は灰に塗れた布を丁寧に回収しながら、真剣な眼差しで爆豪に話しかけた。
「……なぁ爆豪。お前に一つ相談がある」
「あ? なんだよ」
「今回の爆発で生地の耐久限界を超えたようだ。実家の母に送り返すには適さないな。……そこでだ、お前は爆発のスペシャリストだ。この程度の高熱と衝撃に耐えうる『防水・防炎加工』を請け負ってくれる、腕のいい業者を知らないか? 母に紹介したいんだ」
爆豪は数秒の沈黙ののち、血管を浮き上がらせて叫んだ。
「……はぁ!? てめぇ、俺の爆破を『業者選定のテスト』に使ってんじゃねぇ!! 誰がてめぇの親父の敗北の証を、完璧な状態で実家に送り届ける手伝いをしなきゃならねぇんだよ!!」
「そうか? お前が煤だらけにした責任として、せめて推奨業者のリストくらいは――」
「責任なんてねぇよ!! さっさと失せろ、このエロ半分野郎!!」