断崖のアルタン・ハーン 〜12歳の歴史オタ、前世の知識と近代兵器で女系ゲリラ部隊を率いて大帝国を押し返す〜 作:つる植物
どうも皆様、TS転生したアルタン12歳です。
今日も今日とて母の刺繍ノルマをぶっちして、私はエペルと共に山にいます。
エペルに跨りながらため息をつく。
「これが現実逃避だってわかってんだけどなぁ……」
部族《ウルス》では14歳で成人とみなされる。
基本的にそれまでには男女ともに結婚する人間が決まっていてお互いが成人になったら結婚するのが普通なのだ。
姉は既に10歳の時に婚約者が決まっていて14歳になると同時に結婚して家を出て行った。
それに比べて俺は12歳、あと数ヶ月で13歳になろうというのに婚約者はおろかお見合いさえ決まらない状態だ。
母曰く、相手に断られる以前に世間様に出せないとのこと。
「正論すぎて何も言えんわ……」
自嘲気味に笑う、まぁ、笑っている場合じゃないんだけど。
男は18歳までに、女は16歳までに大体結婚をする。
それをすぎると途端に結婚は難しくなる。
最悪50歳すぎのほかの部族の長の側室、もしくは愛妾になる可能性すらある。
俺は部族長の次女なので本来は引く手数多……と言うより政略結婚の駒としてはかなり優秀なのだ。
その俺がお見合いすら組めない、俺の女としてのやばさが皆様にもご理解頂けただろう。
「エペル、俺が部族長になる方法なんかない?」
ありもしない方法を人語を理解出来ないエペルに尋ねても答えてくれるわけもない。
「鳴き声さえ上げてくれない……」
エペルすらスルーされた。
マジで泣きたくなってきた。
まぁ、泣きたいのは俺の両親だろうけど……。
「しかし今日は何も見つからないなぁ、高いところから見下ろすかぁ」
エペルの腹を軽く蹴ると我が意を得たりと言わんばかりに崖に出て駆け上る。
「今日の獲物は何処かなぁ」
崖の上に上がり辺りを見渡す。
「……ん?」
遥か下の茂みの中を歩く怪しい人影を見つけてしまった。
人間というものは上方への警戒はし辛いので俺に気付いている様子はない。
「……どう見ても軍服だよなぁ」
やたらと良い目が同族でない事を確認した。
選択肢は2つ、1つ目は当然今すぐ帰って父に報告すること。
1人、ましてや今の自分は女でしかも12歳。
100人に聞けば全員が逃げろと言うだろう。
一番堅実でお勧めな選択肢だ。
「でも言葉だけで信じてくれるかなぁ、狼少年扱いされかねんしなぁ」
つらつらとそれらしい言い訳を出す。
「強行偵察されるかもだしなぁ」
見たところ大き目の武器はない。
まぁ流石にピストルくらいは持っているだろう。
強行偵察などありえないことは分かっているが億に1つあるかもしれない。
「うーん、やっぱ殺すしかないよなぁ」
2つ目の選択肢は皆殺し。
はっきりいって非推奨だが……一番気持ちが良い選択肢だ。
奴らの言葉なんて話せないし生かしたところでウルスに連れて行く手段もない。
8歳の時にウルスに来た小規模の野盗を皆殺して以来久しぶりの獲物だ。
父曰く、脳漿をぶち撒けている野盗を前にして俺は笑っていたらしい。
それ以来、代替行為の狩りで慰撫していたが……。
「ふひひ、しょうがないよね♡」
構えると勘が当たるかどうか教えてくれる。
鹿相手では数瞬掛かる照準が今日ばかりは一瞬だ。
ノータイムで引き金を引くと大きな発砲音と共に一番豪華な帽子を被っていた1人目が地面に倒れた。
次弾を装填するが残りの2人はまだ状況把握出来ていないらしくパニックになり右往左往しているだけだった。
「素人かよ」
ダンッ!
もう2人目が地に伏す。
全身が弛緩した様な倒れ方だった。
最後の弾丸を装填している間に3人目は半狂乱になりながら逃げ出した。
「しかしジグザグに逃げろって習わなかったのかねぇ」
等速運動など止まっている的と変わりない。
3人目が少し離れたところで脳漿をぶち撒けた。
腹を蹴るとひょいひょいと崖を下りて3人の元へ行ってくれた。
周りを警戒していたが他の仲間はいないらしい。
地面に咲く3つの淫らな脳漿の花にちょっとドキドキした。
咽るほど濃い人の血と脳漿の匂いにクラクラしてきた。
「……一応確認しないとな」
濃紺の軍服を着た死体を順に漁っていく。
思った通りけん銃があったので弾丸ごと回収する。
メモや軍用コンパスが出てくる。
メモを開くと文字は解読できないがここら一帯の手書き地図があった。
「思った通りどっかの軍の斥候だな……かなりまずくないか、これ?」
少なくとも俺がここでどうこうするべき問題じゃないのは確かだ。
「親父に見せるしかないな」
俺は拾えるものをまとめてエペルに括りつける。
エペルに飛び乗るとウルスに急いで戻ることにした。
いつもよりかなり早い時間にウルスに戻った。
母さんが仁王立ちしていないゲルの入口を見るのは新鮮に感じてしまった。
ゲルに入ると母と次男の嫁さんが台所で料理しているところだった。
「母さん大変だ!」
俺の声でビクンとなった母が俺の方に向く。
いつもなら怒るところだが何か察してくれたらしい。
「アルタン、どうしたんだい?」
母に斥候から奪った物を見せながら一部始終を説明した。
男衆は全員出払っているので長老に繋いでくれた。
俺は長老にも斥候から奪った物を見せながら最初から説明したのだった。
夕方、男衆がチラホラ帰ってくる。
普通ならばそのままそれぞれのゲルに帰るのだがものものしい雰囲気になっている。
親父や次男も長老のゲルに行き、各家から夕食を持ち寄り男衆たちで食べながら話し合うらしい。
12歳で女の俺が呼ばれるはずもなく、自宅であるゲルで4人でひっそり夕食を食べる。
女は3人よれば姦しいと言うが誰も不安から口を開かない。
ひっそりとした嵐の前の様な静けさがゲル中を支配したのだった。
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