断崖のアルタン・ハーン 〜12歳の歴史オタ、前世の知識と近代兵器で女系ゲリラ部隊を率いて大帝国を押し返す〜   作:つる植物

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3 懸念だらけの出陣

 今の俺達の状況を説明する必要がある。

 俺達はハラ・タスという部族であり、俺が自己紹介する時は「ハラ・タスのアルタン」となる。

 必要があれば更に親父の名前を入れる感じだ。

 完全な遊牧民ではなく町を拠点としており、活動地域は山岳が7割、平原が3割だ。

 まぁ、山岳より平原の方が稼げるので皆は平原を主な仕事場にしている。

 昔から平原を主とする部族は馬だが、ハラ・タスは山岳を祖としているので皆大角羊(アイビック)に乗っている。

 速度では馬に劣るが平原では大きな角があるので突撃出来るというメリットはある。

 

 俺の報告を起点として族長である親父が各地の平原や山岳に斥候を出した。

 部外者は平原に拠点を作っていることが判明した。

 他の幾つかの部族と同盟を組んで平地で押し返す算段らしい。

 

 前世の記憶を持つ俺としては嫌な予感しかしない決定だった。

 はっきりいって他の部族が攻めて来た場合はそれで良いと思う。

 問題は敵が恐らく『軍隊』であるということだ。

 銃と砲、これによって騎馬戦術は事実上の終焉を迎えている。

 

 勿論奇襲であるならば話は別だが平原での激突。

 統制射撃に突っ込むのはただの自殺行為だ。

 そして最悪なことに俺が住むエリアのどの部族も軍との戦闘経験がないということだ。

 男衆は誰も銃と砲の恐怖を知らないのである。

 大角羊(アイビック)の突撃でどうにかなるとは思えない。

 

 かと言って俺がその危険性を進言出来るかというとそれは無理だ。

 12歳の女、発言権はおろか人権がそもそもない。

 草原や山岳で生きる……男という生き物は古今東西、臆病者と言われるのを死ぬほど嫌う。

 山岳に籠もってのゲリラ戦が正解だと分かっていても選べないだろう。

 というか大事な決断を相談して決める、これはえてして碌な結末にならないことを歴史が証明している。

 恐らく指揮系統すらバラバラ、同盟である以上最高責任者もいないだろう。

 負ける要素だけが積み上がって行き、暗澹たる気分になった。

 軍という暴力装置に蹂躙される未来しか予見出来なかった。

 

 しばらく家に帰ってきていない男衆達は集まって食事して酒を飲んでいた。

 既に家を出た長男を始め、懐かしい顔もかなりある。

 それらの家族を含めてハラ・タスのウルスはかなりの大所帯となった。

 女衆も懐かしさからかおしゃべりに花を咲かせていた。

 

 ちなみに俺は不安から逃げる様にエペルに跨ると連日山岳に入ってはパトロールを兼ねて鹿を狩っていく。

 いつもなら美味しく頂く内臓も食う気にはならなかった。

 

 「全てを捨てて逃げれたら楽なんだろうけどなぁ」

 

 まぁ、女1人で逃げたところで運が良くて奴隷だろう。

 弾丸が尽きれば詰む。

 俺が俺として生きれるのはハラ・タスのウルス以外にありえないのだ。

 

 途中何度かだけ斥候らしき奴らを発見した。

 サクッと皆殺しにするとけん銃などの装備を剥ぎ取ると分かりづらいところに隠す。

 殺したと報告したところで全部持っていかれるのは目に見えている。

 俺は発見した事だけを報告し、男衆はそれ以上の追求はなかった。

 

 決起集会にも似た大規模な宴が開催される。

 明日の出陣に向けて豪華な料理が振る舞われる。

 貴重な羊を数匹潰していることから力の入れようが分かるだろう。

 皆ハラ・タス含めた部族同盟の勝利を信じて疑っていない……俺を除いて。

 まぁ、ここ最近では一番規模が大きい同盟だ。

 相手からしたらただ数が多いだけの徒党、ないしは暴徒といったところだろう。

 

 「我らが祖たる山々と偉大なる祖先に誓って明日は負けるわけにはいかない!!」

 

 部族長である親父が酒を片手に張り切っていた。

 久しぶりに会った長男もかなり張り切っていた。

 

 「何人戻ってくるやら……」

 

 塩ミルクティーをちびちびと飲みながら宴会を遠目に見ていた。

 せめて親父、長男、次男の内1人でも指揮が取れる状態で戻って来てくれれば良いんだがなぁとぼんやり思っていた。

 

 流石に一度ボコられたら直ぐに撤退して欲しいものだ。

 全員が死ぬまで突っ込むとか流石にありえないよな……ありえないよね?

 簡単にその姿が想像出来てしまった。

 

 ハラ・タスだけでも1000騎くらいのアイビック騎兵、ほかの部族も加わって3000を超える騎兵部隊になるらしい。

 敵の数はおよそ1000、数字の上では圧勝している。

 この時代の常識では戦争は数で決まるはずなのだ。

 

 もっとも補給の概念もない、多少の戦術の心得はあっても戦略的な動きなど望めるはずもない。

 果たして威勢の良いことを言っている男衆の内どれくらい戻って来るやら……。

 現実の世界では3割が死傷したら全滅って言われるくらいだけど、文字通りの全滅にならんことを祈るばかりだ。

 

 

 開けて翌朝、女衆などが見守るなか1000騎のアイベック騎兵が出陣していった。

 まさしく威風堂々という言葉が似合う様だった。

 

 「頼むから半分は帰って来てくれよ……」

 

 半分、それすら過ぎた望みであるとはこの時の俺が知る由もなかった。

 




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