断崖のアルタン・ハーン 〜12歳の歴史オタ、前世の知識と近代兵器で女系ゲリラ部隊を率いて大帝国を押し返す〜 作:つる植物
ルース帝国コズロフ大隊はコズロフ中佐を筆頭とする1000人からなる複合部隊である。
歩兵800、砲兵80、騎兵50、司令部及び後方支援部隊が70という標準的な部隊だ。
ただし歩兵は全て近代的なボルトアクションのライフルを装備、大砲は6門である。
コズロフ中佐は金髪緑眼の伊達男である。
ルース帝国の軍服には数々の勲章が付いており、きらびやかな装飾がついている。
ケピ帽の真ん中にある装飾は金色に輝いていた。
ルース帝国という大国において若くして近代戦を熟知し30後半で中佐の位置まで上り詰めた傑物であった。
ハラ・タスのウルスが命運を賭けた戦いであったのに対して、コズロフ中佐も帝国から1つの司令を受け取っていた。
近代兵器とドクトリンでいかに騎馬民族を効率的に処理出来るか、その実証実験をせよとの命令であった。
ルース帝国側はもはや戦争ではなくただの実弾演習の様相を呈していた。
実際コズロフ中佐は自身の勝利を疑っておらず、いかにこちらの犠牲を出さずに効率良く勝つか、その一点しか司令部は興味を持っていなかった。
唯一の懸念点は山岳部に出した斥候の幾つかが未帰還である事くらいだった。
コズロフ中佐には嫌な予感がした。
しかしその予感を言語化できないので作戦を中止する理由にもならない。
山の麓に布陣したコズロフ大隊は予定通り作戦を実施することになった。
斥候からの報告によれば敵の数はおよそ3000の騎兵、想定していたより多少多いが誤差の範囲だ。
呑気に平原の小高い丘に並んでいるらしい。
「中佐殿、奴らは大砲をすらないのですかね?」
「存在は知っているがその脅威は知らんのだろう、俺だったら一目散に逃げるがね」
「歩兵、騎兵、砲兵共に準備が完了したと事です」
「よろしい、それでが作戦開始」
大砲から砲弾が発射されると最初は勿論外す。
敵はそれを見て呑気に笑っているらしい。
観測手からの合図により砲台の角度が修正された。
2発目の砲弾が発射されると見事敵の真ん中に着弾、人と馬がゴミの様に吹き飛んだ。
コズロフ中佐以下司令部の人間は望遠鏡を使いその様子を観察していた。
「中佐殿、2発目で見事命中とは砲兵隊はかなり優秀ですな」
「そうだな、日頃の訓練の賜物だ」
既に敵はパニック状態に陥っており組織的な行動が取れていないようだった。
「中佐殿、これ以上は砲弾の無駄遣いでは?砲弾もタダではないのですぞ」
「いや、規定の弾数までは必要経費だ。生きた的を狙える機会などそうそうない、良い実弾演習だ」
「確かに、西側もきな臭いですからねぇ」
お茶が入ったと言われたので双眼鏡下ろしてテーブルに着いた。
カップの紅茶を飲むとダージリンの香りが口鼻一杯に広がった。
「アルビオンの連中はいけ好かないが紅茶だけは本当に美味いな」
「奴らは舌が何枚もありますからね、それを満足させる為に紅茶だけは進化したのでは?」
「違いない、胃袋は1つしかないから料理は不味いままなのだろう」
テーブルに着いた将校たちがドッと笑った。
コズロフ中佐はアルビオン帝国の料理は食べた事はないが不味い事は有名な話だ。
一応一番身分の低い将校が望遠鏡を覗いてはいるがあくびをしていた。
もっとも誰も咎めはしない。
「お、中佐殿。
山岳部にいる部族は馬ではなく
「なるほど、何体こっちに抜けてくるか賭けてみるかい?」
将校達は苦笑いする。
「ここにいる全員『0』に賭けますよ、中佐殿。賭けが成立しません」
「それもそうだな」
わざわざ司令部だと分るように大きな旗を立てている。
「あぁあぁあぁ、可哀想に……」
統制射撃により蜂の巣にされてしまった。
「うわぁ、原型留めてないですよ、あれ」
望遠鏡で覗いている将校が実況してくれている。
「10発装填出来て歩兵1人辺りに100発支給されている。そこに突っ込むとは……」
その後も散発的な突撃があったが全て歩兵の弾幕に阻まれていた。
「これ、騎兵からクレームが来ますよ。獲物を寄越せって」
「ふむ、では適当に逃げた部隊を追撃させろ」
「そ、それが……全部隊が散発的に突っ込んで来ているんですよ」
「……なんだって?」
コズロフ中佐が立ち上がり望遠鏡を通して戦場を確認した。
「……彼らは馬鹿なのかね?」
コズロフ中佐は困惑した。
「なぜ逃げない?すでに敗北は決定的だろうに」
「……さぁ?」
近代戦術に慣れ親しんだコズロフ中佐には全く理解出来ない動きだった。
そう言っている間も馬鹿の一つ覚えみたいに突撃する部隊が絶えない。
「まぁ、よっぽど族滅したいらしい」
双眼鏡を降ろして戦場に背を向ける。
テーブルに着こうとしたそのとき、コズロフ中佐は何かに見られているような感じがした。
「……なんだ?」
ふと山を双眼鏡で見る。
なんとなくだった。
気付いたのは本当に偶然だった。
双眼鏡越しに
銃口が光った瞬間、自分の額にものすごい衝撃が襲う。
遅れて銃の音がかすかに聞こえた。
ただ地面に脳漿をブチ巻いて倒れたのであった。
しかしコズロフ中佐は死ぬその瞬間まで自分に何が起きたか理解できなかった。
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