断崖のアルタン・ハーン 〜12歳の歴史オタ、前世の知識と近代兵器で女系ゲリラ部隊を率いて大帝国を押し返す〜   作:つる植物

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6 地獄の釜

 「うわ、本当に来たねぇ」

 

 テムレンは大角羊(アイベック)に跨り、アルタンから渡された双眼鏡を使って山からウルスを見下ろしていた。

 大同盟敗戦から1週間、アルタンが言ったとおり青い服を着た連中がゾロゾロとやって来るのが見えた。

 

 50騎の女性兵を従えて山中で構えていた。

 銃が10丁、残りは短弓だ。

 

 「アルタン、まだか……」

 

 テムレンを始め女性兵のほぼ全員が今回の戦いで未亡人となってしまった。

 中には成人した子供も死んでしまった人もいる。

 夫を殺した連中がせっかく来てくれたのだ、持てなさねば。

 

 もぬけの殻のウルスを三々五々散って索敵し始めた。

 恐らく一番偉いであろうケピ帽と豪華な軍服を着て馬に乗っているやつが大声で何やら指示を出している。

 瞬間、銃声がするとケピ帽を被っていたやつが崩れる様に馬から落ちた。

 

 「脳天を一撃かい……」

 

 この山の何処かにいるアルタンの狙撃、相変わらず化物じみている。

 平時では全く価値のない子ではあるが今はただただ頼もしい。

 アルタンがいなければ悲観する者、勝手に復に走るものなど収集が付かずルース帝国軍に蹂躙されていただろう。

 その場の勢いでアルタンの言うことを聞く空気が出来たのだ。

 

 続けて銃撃の音がすると別の場所にいた馬に乗った兵士が崩れ落ちた。

 歩兵達は皆、こちらの予定通りゲルの中に入り込んだ。

 全てアルタンの読み通りだ。

 

 「弓兵、火矢を準備!」

 

 もはや声を殺す意味はない、大声を張り上げた。

 全員が火矢の準備を終えた。

 

 「てぇ!」

 

 火矢が一斉に下方のウルスに向かって放たれた。

 ゲルの天幕には油がたっぷりだ。

 

 火矢がゲルに刺さった瞬間、面白い様に燃え上がる。

 ルース帝国軍がいた場所がまたたく間に炎に包まれた。

 

 堪らずゲルから出て来た奴はアルタンの狙撃の餌食となる。

 ウルスにはところどころ簡単で小さな穴が

無数に掘ってある。

 パニックになった兵達は隠してすらいない穴に面白い様に引っかかっている。

 

 「あんなの意味ないと思ったんだけどねぇ」 

 

 油を染み込ませたのは平原側のゲル、必然的に山岳側に火の手がない。

 しかし銃撃音がなる度に人が死んでいく。

 

 「しっかしアルタンのやつ、一発も外してないんじゃないの?」

 

 かなりの数の兵が半狂乱になりながら山の方へ走っていった。

 素人目でも統制が取れている様には見えない。

 

 「さぁ、皆、狩りの時間だよ!最初の打ち合わせ通り2人一組で動くんだよ!」

 

 

◇◇◇

 

 山の方からは銃声と悲鳴が木霊している。

 

 「取り敢えずあっちの方はテムレンに任せとけば大丈夫だな」

 

 俺はウルスの外にいた騎馬隊の一番豪華なケピ帽を被っていたやつを射程ギリギリで撃ち殺したあと、わざと姿を見せてこちらを追わせた。

 逃げる方向は勿論山の中。

 

 トップを失った騎馬隊はこちらを追いかけて来た。

 山に入ると俺はとっとと崖を登る。

 騎馬隊は先行歩兵の随伴なしに森を馬で駆ける。

 

 「アホだろ、あいつら……」

 

 恐らく大同盟の皆を自殺志願者とでも笑っていただろう。

 森の中を歩兵のクリアリングなしに駆けるのは自殺行為でしかない。

 因果応報だ。

 通り道にロープを貼ると先行の数頭が落馬して騎馬隊が止まる。

 俺が適当に銃撃すると木の上から弓矢が雨の様に降り注ぐ。

 

 「出来れば馬は生け捕りにしたかったんだがなぁ……」

 

 まぁ、人馬共々皆殺しである。

 大角羊(アイベック)に乗りこなせる女性は貴重だが木の上から矢を射るだけなら出来る人は結構いた。

 

 「まぁ、こっちはライフルと弾薬が無傷で手に入るから良しとするか」

 

 戦場に向けて銃を構えるが人に当たるときの勘が働かない。

 つまりあそこにあるのは全て死体である。

 笛を吹くと矢の雨は止んだ。

 

 打ち合わせ通りに木から降りた皆が装備の回収を行う。

 

 「こっちの方は大丈夫そうだな」

 

 俺も山で行われているマンハントに参加する事にした。

 

 

 事前にルース帝国軍の拠点は調べてある。

 というかあいつら隠すつもりが無く普通に旗が風に揺られていた。

 夜明け前、俺達は拠点を払暁奇襲を敢行した。

 

 数人くらいは命からがら逃げてるだろうし見張りくらいは立てているだろう。

 しかしこの時間に起きている奴はそうはいない。

 そして明るいので同士討ちの心配はない。

 

 俺が見張りを騎乗しながら射殺する。

 ゾロゾロとテントから出てくる間抜けを皆で袋叩きにする。

 1時間もしない内に制圧は完了した。

 

 

 この時代、当然の様に奴隷(ポゴル)はいる。

 ルース軍の拠点にもかなりの数の奴隷(ポゴル)がいる。

 ほとんどが俺達と同じ顔立ちをしている。

 現地調達された同胞達だ。

 恐らくは道中族滅させられたのだろう。

 

 奴隷(ポゴル)を1箇所に集める。

 1人だけ活かしておいた金髪を奴隷(ポゴル)の前で射殺した。

 ここが現代日本だったら解放していただろう。

 しかし解放したところで野垂れ死ぬか盗賊になるのが関の山だ。

 悲しいかな奴隷(ポゴル)達は主人が変わるだけなのだ。

 

 俺は奴隷(ポゴル)たちを見渡して宣言する。

 

 「奴隷(ポゴル)諸君、見た通りルース帝国軍は滅び、君たちの主人は私達となる」

 

 奴隷(ポゴル)達は俺の話を聞いてくしてくれる。

 騒ぐ様なら1人くらいは見せしめにするつもりではあった。

 

 「ルース帝国軍よりはマシな扱いを保証しよう。具体的には温かい飯、天幕の隅で寝る事を許そう」

 奴隷(ポゴル)達から歓声が上がる。

 こき使われる事には変わりないがルース帝国軍に使い潰されるよりはマシだろう。

 同胞であれば奴隷(ポゴル)から出世する事は十分にありえる。

 

 テムレンが俺に話し掛けて来た。

 

 「アルタン、取り敢えず男の労働力はなんとかなりそうね」

 「そうだな、ウルスに持って帰る労働力に困らなくて良かった」

 

 俺は奴隷(ポゴル)に聞こえる様に手を数回叩く。

 

 「それじゃあ物資の選別からだ!働かないものには当然飯は出さんぞ!」

 

 奴隷(ポゴル)達は俺達の指揮の元せっせと働き出したのだった。

 

 




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