男女比崩壊社会で黒髪ツンツンお嬢様のペットになった俺、激烈に甘やかされる。   作:二見猟太郎

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012 ご主人様と部活動

 放課後になった。

 手早く荷物をまとめたご主人様にリードを引かれて教室を出る。靴箱へ向かわずに渡り廊下を通って別棟へ入った。

 

「部活ですか?」

 

「ええ、文芸部よ。ポチを学校に連れてくる条件として梁瀬(やなせ)先生に入部をお願いされたの」

 

「梁瀬先生?」

 

「クラスの担任よ。今朝わたしたちを紹介してくれた人。文芸部の顧問をしているみたいなのだけど、部員数が少なくて困っているらしいわ」

 

「へー、少ないって何人なんですか?」

 

「部長しかいないみたいよ。早いところあと三人見つけないと廃部になるらしいわ」

 

「部長ひとりしかいないのによく存続できてましたね」

 

「実績があるみたいよ。今まではそれを盾にどうにかしていたみたいだけど、部室が勿体ないからって目をつけられたようね」

 

 文芸部にたどり着く。

 扉を開けると、左手に大きな本棚が壁付けしてある8畳ほどの部屋が現れた。真ん中には長机。奥に窓があり、窓に沿って4人がけのソファが置かれている。余った右の空間にはホワイトボードとロッカーが設置されていた。

 

 片目が隠れた黒髪の少女がちらりとこちらを見る。長机のなかほどに座って文庫本を開いていた。俺を認めると、覇気のなかった目にすこしだけ力が宿った。

 

桧森(ひもり)部長、こんにちは」

 

「うん、こんにちは」

 

「今日からお世話になるわ」

 

「うん、助かる。部員、5人集めたいから。この棚の本は貸し出し自由だから好きに読んで」

 

「ええ、ありがとう。ほら、ポチも挨拶しなさい」

 

 リードを引かれご主人様のとなりに並ぶ。

 

「ポチっす。紗和さまの雄犬ペットやらせてもらってます。よろしくお願いします」

 

 鳶色(とびいろ)の瞳がじっと俺を観察する。

 

「……落ち着いた雰囲気でかわいいね。エリックみたいなのを想像していたからちょっと嫌だったけど、この子ならいいかも。白宮さんはセンスがいいね」

 

「桧森部長こそポチの魅力を一瞬で見抜くなんて見る目があるわ。本の取材で雄犬ペットが必要ならポチに協力させるから声をかけてちょうだい」

 

「うん、ありがとう。いずれ取材させてもらうよ」

 

 それきり二人は黙り込んで各々が好きな風に過ごしはじめた。適当な本を一冊見繕うと、ご主人様は窓際のソファを占領して、俺にもたれかかりながら小説を読んだ。

 

 穏やかな時間が流れる。

 ほどよい硬さのソファとご主人様の柔らかな体に挟まれていると何だか眠たくなってくる。彼女の頭に鼻をもぐりこませて甘えると「こら、今読んでるんだから」とほっぺを抓まれた。

 

「ポチも何か読んでみる?」

 

 気まぐれな問いかけに首を振る。

 

「俺、文字読むと眠くなるんですよ」

 

「ふふ、おこちゃまね」

 

 くすくすと紗和が笑う。

 白い紙に文字が羅列しているのを見ていると、慣れ親しんだ言語であるはずなのに異世界の言葉を目にしているような感覚になって意識が遠のくのだ。本が読める人はすごいと思う。

 

 桧森部長は時おり手元のノートに何かをメモしながら小説を読んでいた。ご主人様に一声かけてソファから離れ、部長の近くに寄る。小説の一節を抜き出しているみたいだ。

 

「何してるんですか?」

 

「気に入った文章をこうしてメモしておくの」

 

「なんでそんなことするんですか?」

 

「自分が好きになった一節を集めると、自分がどういうことに感動するのか、どんな文章に心惹かれるかが分かるから。目標にしたい文体も見えてくるし、作家志望ならやって損はないよ」

 

「桧森部長は作家志望なんですか?」

 

「うん。小説家になりたい」

 

「桧森部長が書いたやつとかあるんですか?」

 

「あるよ。ショートストーリーセレクション、通称SSSって言うんだけど、それで優秀賞をもらったやつが本棚に刷って置いてある。見る?」

 

「わん」

 

「それって返事? 雄犬ペットってほんとに犬みたいだね」

 

 部長が本棚から手作り文集のようなものを引っ張り出す。ご主人様も興味を惹かれたのか近くに寄ってきた。表紙には『三島高校SSS第120回大会編纂(へんさん)』とある。紙を()って『春の部 (ネン)』と項目が打たれたページを開く。

 

(ネン)?」

 

「SSSには5種目あるの。私が書いたのは『練』で、これは練って書くっていう意味。一ヶ月前にテーマが発表されるから、そのテーマに沿って大会までに短編をひとつ書き上げる。10点満点で採点されて、ほかの4項目との合計得点で優勝校が決まるんだ。先輩たちが卒業したから、部員があと三人集まらないと大会には出られないんだよ。といっても、それは白宮さんがSSSに出てくれることが前提の話だけどね」

 

 桧森部長がご主人様の様子を伺う。

 紗和はゆるやかに首をふった。

 

「わたしは籍を置くことしか考えてないわ」

 

 桧森は残念そうに眉尻を下げた。

 

「できれば興味を持ってもらえたら嬉しかったんだけど。とはいえ、5人集まるかすら怪しいし、文芸部の存続自体危ぶまれてるから気の早い話だけどね」

 

 俺は尋ねる。

 

「桧森部長の友達とか誘わないんですか?」

 

「私、友達いないから。白宮さんは友達を誘えたりしない?」

 

「わたしも友達なんていないわ」

 

 しばらく沈黙が落ちる。

 俺は窓の外を眺めた。




明日も更新するよ!

神様転生タグをつけ忘れてたみたいです。ごめんね!
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