男女比崩壊社会で黒髪ツンツンお嬢様のペットになった俺、激烈に甘やかされる。 作:二見猟太郎
昼休み。
「ねぇ紗和〜、一緒にお昼食べてあげてもいいけど〜?」
「ひとりで食べるから消えなさい」
「〜〜っ! ふんっ! ふんふんっ! 紗和のばか!」
地団駄と共にメロンおぱぱいが揺れる。
ご主人様に撃退されギャルの群れに戻る
すらりとした手足、凛とした長身でスタイル抜群だ。
赤いジャージ姿なのを残念に思う。
チャイナとか着てほしい。
前髪をかき上げながらニヒルに笑う。
「白宮、部活動のことで話がある。弁当をもって部室に来てくれないか? 食べながら話そう」
コンビニ袋をこちらに
先導して歩く教師に紗和が尋ねる。
「教室じゃだめだったんですか?」
「ああ、桧森にも話したいことだからな」
部室の扉を開けると、長机には、すでに桧森部長が座っていた。もそもそとお弁当を食べている。小さなお口がリスみたいでかわいい。猫背で片目が隠れているせいか、どんよりとして見えた。小さく会釈する彼女に、紗和はあごを引いて答える。
「先生がソファー使っちゃお〜!」
アラサーが駆け足で窓際のソファーを占領した。
ご主人様は落ち着いた足取りで桧森部長の対面に座る。となりの椅子を引いてくれたので腰を下ろす。お弁当を広げて昼メシを食べた。サンドイッチを食いながら梁瀬先生が言う。
「じつはな、今日中に部員5人集めないと廃部らしい」
桧森部長の手から箸が長机に落ちた。
からころと空しい音が響く。
震える声で彼女は言う。
「なぜもっと早く教えてくれなかったんですか?」
「いや〜、なんか悪いニュースって言いづらいだろ? 先生そういうの苦手で秘密にしちゃう性分なんだよな。ごめんな。けど、今日の放課後までに部員5人集めれば廃部回避できるから頑張って集めよう!」
「……そう簡単に集まらないから困っているんですけど」
「まあまあ、そう言うな。新1年が入学してからだいたい一ヶ月と少し経ったくらいだろ? 部活に入りそびれてブラブラしてる奴とかいるだろ。先生がそういう半端なヤカラをひとり捕まえてくるから任せなさい」
桧森部長が落とした箸を拾う。梁瀬先生がコンビニ袋から新品のお手拭きを投げて渡した。箸の先端を拭いてからミートボールをつまんで食べる。桧森部長がため息をつく。家計簿をつける安月給旦那の主婦みたいに気だるげである。
ご主人様は我関せずだ。
俺の頬を意味もなく指でついたりして遊んでいる。
桧森がぽつりと不満げに呟く。
「ひとりじゃ足りないですよ。五人まであと三人なんですから」
梁瀬先生がコーヒーを飲みながら言う。
「あとふたりはお前らが何とかしてこい。桧森がひとり、白宮がひとりだ。先生と合わせて三人になるだろ?」
「……」
生徒たちは下を向く。
ふたりともすごく嫌そうな顔だった。原生林に済むアマゾネスに昆虫食を勧められたみたいな顔である。
ご主人様がつんとした表情で先生を見据え言い放つ。
「勧誘なんてしたくありません。そもそも、わたしは文芸部に入部さえすればポチを学校へ連れてきてよいと梁瀬先生に説明されて、そういう約束で部員になりました。それ以上のことを求められても困ります」
桧森部長が言葉の尾を追う。
忌々しげにほうれん草のお浸しを睨みつけている。
「そもそもこんな土壇場になるまで説明責任を果たさなかった梁瀬先生に問題があると思います。もっと早く教えてもらえれば貼り紙や校内放送での呼びかけ、人を集めるやり方は色々とあったはずです。なぜその尻ぬぐいを私たちがしないといけないんですか」
ふたりから拒絶された女教師がむくりとソファーから立ち上がる。黒髪ロングが白い顔を隠した。幽鬼のようにふらふらとした足取りで長机に近づいてくると、両手を天板に叩きつける。
への字に曲がった口から情けない言葉を吐いた。
「しょんな怒らないでよ〜っ!」
うぇーんと子供みたいに泣きながら彼女はテーブルに顔を伏せる。腕のなかに潜り込んでわんわんと声を上げて泣く。涙が虹みたいに弧を描いて宙を舞っていた。
「だってだって、何とかなるかなって思ったんだもん! 先生運とか良いほうだから! ギリギリまで待ったら何もしなくても上手くいく人生だったから! だから今回も大丈夫だって思ったんだもん! 怒らないでよ〜!」
ご主人様が身を引いた。
俺の手を握っている。
こわいよな、おれもこわいもん。
桧森部長は犬の糞を見るみたいな目を梁瀬へ向けた。
アラサー女のマジ泣き、しかも教師と生徒という立場、ふたりに与えるインパクトは測り知れるものじゃない。しかも梁瀬の泣声は静まっていくどころか、どんどんと勢いを増してくる。
眉をひそめて耳をふさいだご主人様が、とうとう耐えきれなくなって、優しい言葉をかけた。
「分かりました、心当たりがあるから声をかけてきます。だからもう泣かないでください」
梁瀬がぴたりと泣き止む。
腕のなかにうずめた顔を少しだけ動かし、ちらりと紗和をうかがった。
「ほんと?」
「はい、約束します」
桧森部長へ目を向ける。
彼女は厳しい顔をした。
藍色の猫目がどんどんと潤んでいく。
またあの耳障りな高音を聞かなくてはならないのか。
俺は身を固くする。
「……桧森部長」
ご主人様が桧森に声をかけ首を振ってみせる。
ため息をついた彼女は、背もたれに体重を預けて項垂れた。
「分かりました。私も声をかけてみます」
梁瀬が顔を上げる。
ニコニコ笑顔である。
絵本の太陽みたいな笑顔だ。
こんな大人にはなりたくないな。
さきほどまでの蛮行をすっきり忘れたかのように清々しい声色で
「おう! そうか! すまんな、ふたりとも! じゃあさっそく先生は目星をつけてたやつに声かけてくるから、ふたりもこの昼休みをうまく活用して部員集めに勤しむように!」
コンビニ袋をご機嫌に振り回しながらアラサー女が部室を去る。残された部員たちは沈鬱な表情でため息をついた。
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やる気が、、、でます!