男女比崩壊社会で黒髪クールお嬢様に飼われることになった俺は今日もたくさん甘やかされる。   作:二見猟太郎

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018 ご主人様と愉快な新入部員たち

 部室の扉を開くと、桧森(ひもり)部長がいつもの場所に座って本を読んでいた。その影に隠れるように、ボブカットの少女がつまらなそうに文庫本を開いている。顔をこちらに向けようともしない部長は視線を本に固定したまま俺たちを迎えた。

 

「勧誘はうまくいった?」

 

「ええ。ひとり確保したわ」

 

「私も図書室で暇そうにしている人がいたから声をかけたんだ。入部してくれるって。白宮さんとおなじクラスみたい」

 

「あら、そうなの?」

 

 桧森の影からひょっこり顔を出した少女は、となりの席の小谷内だった。ご主人様を見て目を緩めたかと思ったら、後ろに控える陽毬を見て頬を硬直させた。ゆっくりと部長の影に入っていく。文庫本で顔を隠して存在感を消してしまった。

 

「大人しい人みたい。騒がしい人は苦手だから、私としては助かる。……白宮さんが誘った人ってその人?」

 

 ようやく本から目を離した桧森部長がギャルを認める。陽毬はピースサインを目元に当て「よろ〜!」と挨拶した。不愉快そうに眉をしかめて部長は深くため息をつく。

 

「……白宮さん、本気なの?」

 

 ご主人様が気まずそうに目を伏せた。

 

「ごめんなさい。候補がいなくて。廃部になるよりはマシでしょう?」

 

 しばらくの沈黙があった。

 

「……まあ、そうだね。うん。廃部は避けたいから、うん」

 

 いちおう納得はしてもらえたようで、暗澹(あんたん)たる面持(おもも)ちではあるものの、陽毬は文芸部に受け入れられた。

 先手を打つように部長がギャルに話しかける。

 

「私は桧森と言います。文芸部の部長で、2年です。えーと、お名前は?」

 

「あたしは瀬名陽毬! 紗和に頼まれてにゅーぶすることになったけど、入るからにはちゃんと活動するよ! まかせて!」

 

 元気な声に眉をひかめながら部長は言う。

 

「この部室では40デシベルを超える騒音を立てると退学処分になる退学ポイントというものがたまる仕組みになってるの。だから静かにしてね。部員が退学になるところなんて見たくないから」

 

「え〜!? まじ!? やばやばじゃんっ! ちなみに紗和とヒモリンはいま何ポイント?」

 

 躊躇(ちゅうちょ)なきヒモリン呼びに頬がピクリと痙攣する。

 

「ゼロだよ。ちなみに瀬名さんは今の声がすごくうるさかったからごめんなさいだけど3ポイント貯まった。10ポイントで退学だから、もう話さないほうがいいと思う」

 

 水色のネイルチップに飾られた指で口元をおさて、戦慄する陽毬は声をひそめてつぶやいた。

 

「……やばやばじゃん」

 

 抜き足差し足忍び足、音を立てないように動く彼女を見てご主人様は可哀想なものを見る目をした。

 俺はむしろ愛おしくなったよ。

 素直でいい子じゃないか。

 

 ご主人様にリードを引かれてソファーに座る。

 ご主人様、俺、陽毬の順に並んだ。

 かばんから文庫本を取り出して読み始めたご紗和が俺にもたれかかってくる。彼女の肩に腕を回し、髪の毛を手ぐしで()きながら俺は部室内にいるはずの小谷内を探した。存在感がまるでない。やつはどこへ消えたというのだ。

 

 膝をつんつんと爪で突かれる。

 陽毬が身を寄せて耳打ちをした。

 柑橘系の爽やかな匂いがふわりと香る。

 

「ね、ポチ。あたし何すればいいのかな?」

 

「さあ?」

 

「本読んだことないから選び方もわからないんだけど」

 

「あの棚から適当に一冊とってきたら良いんじゃないですか?」

 

 人差し指をつんつんしながら陽毬は不安げに言う。

 

「……紗和に手伝ってって言ったら怒られると思う?」

 

「大丈夫でしょ。ご主人様優しいですよ」

 

「ポチには優しいけどあたしには優しくないもん。ポチから頼んでみてよ。陽毬ちゃんの本選び手伝ってあげてくださいって」

 

「えー、だるいっす」

 

 陽毬のほっぺがぷくりと膨らんだ。

 

「がちお願いっ、アメあげるよ?」

 

 ブレザーのポケットからザラメのまぶされたカラフルな飴玉がぽろぽろと出てくる。

 

「どれがいい? これはメロンで〜、これはいちご、これはソーダで〜。ちなむと、あたしの好きな味はメロン!」

 

 にししと白い歯を見せる陽毬。

 何も答えてないのに俺の手にメロンを握らせてきた。フルーティーな賄賂である。そもそも、ご主人様は近くにいるんだから、これまでの会話は丸聞こえだし、途中から声がでかくなってたから桧森部長は苛ついている。これ以上自由にさせると波風が立ちそうなので、俺は陽毬の言いなりになることにした。

 

「ご主人様」

 

「はあ、聞こえてたわ。……わたしが陽毬を文芸部に連れてきたんだもの、最低限の世話はするわ。ほら、陽毬、選びに行くわよ」

 

「え、いいの? やった! あたしに合いそうなの選んで〜」

 

 甘えるような声でご主人様の周りをうろちょろするギャル。

 紗和は本棚の下の端にあった小説を選んだ。

 なんか可愛い表紙である。

 

「どうぞ」

 

「どんな話?」

 

「やんちゃな女の子と真面目な女の子が恋するラブコメよ」

 

「おー、それならあたしでも読めそう!」

 

 ソファーへ戻る。

 ご主人様が再び俺にしなだれかかる。陽毬の相手をして疲れたのか、甘えるように頭を擦り付けてきた。ほっぺたを指で撫でると、彼女はふんと鼻を鳴らして機嫌を持ち直した。

 ふいに、こてりと陽毬が倒れこんでくる。

 口を半開きにしてスピスピと寝息を立てる彼女は、わずか数行目を通すなり眠りこけたらしい。

 

「ご主人様」

 

「言わないで、見えてるから。もう諦めましょう」

 

 子猫の鼻笛のようなかわいい寝息が部室に響く。

 小谷内が存在感を取り戻した。




ちょっと体調崩したから更新頻度落ちるかも!
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