男女比崩壊社会で黒髪ツンツンお嬢様のペットになった俺、激烈に甘やかされる。 作:二見猟太郎
「陽毬、起きなさい」
「ん〜」
がきんちょみたいにイヤイヤと身をよじり起きることを拒むギャルが俺にしがみつく。おっぱいバズーカ、着弾しました! ちゅどーんっ! ハニーブロンドの前髪からのぞく丸っこいオデコにご主人様が平手打ちをくわえる。ぺちこんと小気味のよい音が響き、陽毬が跳ね起きた。
「え!? なに!? 撃たれた!?」
そんなわけないだろ。
紗和が目の前で入部届をひらひらさせる。
「寝てないでこれに名前を書きなさい。あなた以外はすでに記入済みよ」
「あー、ごめん、寝ちゃってた?」
夢見心地な目つきのまま、ふわふわとした動きで入部届に署名する。ムダに丸っこい字体で瀬名陽毬の文芸部入りが決定した。
「よし、これで五人そろったな! 廃部せずに済むぞ!」
腰に手を当てて梁瀬がハハハと高笑いした。
寄せ集めのメンバーに思うところがあるようだけれど、桧森部長は不満を飲み下すように目を伏せて、ひとまずの安息に肩の力を抜いた。すでにあらゆることから興味をなくしたご主人様は文庫本を扇のように開いて顔を隠してしまう。ギャルと後輩ちゃんはわけも分からず、めでたそうな雰囲気に拍手していた。
小谷内の霊圧が消えた……!?
「それじゃあ、ついでにSSSの参加申請もしとくぞ〜」
何でもないことのように梁瀬が口走る。部室のロッカーからノーパソを取り出し、なにやらカタカタとやりはじめた。
ご主人様が静かに抗議する。
「わたしはSSSに参加するつもりはありません」
ギャルと後輩ちゃんが声を上げる。
「SSSってなに?」
「えすえすえす?」
桧森部長が答えた。
「ショートストーリーセレクションのことだよ。全国の文芸部に出場資格があるの。5種目あるから人数が五人いないと参加できないんだけど、みんなが出てくれるなら応募できるね」
どことなく声色が明るいのは、きっとSSSに参加したいという思いがあるからだろう。みんなの反応をうかがう桧森からセレクションにかける熱意を感じた。
ご主人様が念入りに言葉を重ねる。
それは淡い期待を断ち切る厳しい優しさだった。
「桧森部長、以前にも話したけれど、わたしは出ないわよ。もし参加したいならもう一人部員を見つけて応募してちょうだい」
残念そうに眉尻を下げて桧森は小さく頷いた。
「うん、わかってる。無理強いするつもりはないから安心して。やりたくもないのに参加してもセレクションでいい結果は出ないだろうし。頑張ってもう一人、部員を探すよ」
一仕事終えたおっさんみたいな声を出して梁瀬が伸びをする。
「うーし、参加応募しておいたぞ〜。おまえら頑張れよ〜」
ご主人様が信じられないものを見る目で梁瀬を見つめた。
「先生、わたしは出ないと言いましたよ」
「そう硬いこと言うな、白宮。やってみると楽しいぞ。何事も経験だと思ってここはひとつトライしてみろ」
「嫌です。ネットから応募したんですよね? サイトを教えてください。自分で辞退の手続きをしますので」
「まあまあ、そう言わずに。ほら桧森も嬉しそうだぞ!」
矢面に立たされた部長は何とも言えない曖昧な表情でほほえんだ。申し訳なさ半分、嬉しさ半分といった感じだ。
紫紺の瞳が剣呑な光をともす。
制御しきれない怒りがご主人様の声を震わせた。
「梁瀬先生、いいかげんにしてください。生徒の意見を聞かずにこんなことをして許されると思っているんですか? 第三者機関に訴え出てもいいんですよ」
「ぐぬぬ」
「ご理解していただけたのなら、わたしの参加を取り消してください。もともと文芸部に籍を置けばよいという約束だったはずです」
「…………。──うぁぁぁぁんっ!」
とつぜん梁瀬が床に寝転んだ。手足をばたばたと振り乱し、金切り声で駄々をこねる。ショッピングモールの玩具菓子コーナーでたまに見る光景だった。成人女性バージョンは初めて見る。なんという迫力だろうか。この人に羞恥心はないのだろうか。プライドはないのだろうか。俺たちは一歩後ずさった。
梁瀬が叫ぶ。
「いいじゃんいいじゃん! そんなケチくさいこと言うなよ! 先生、みんながSSS出てるとこ見たい! 今年の決勝大会は北海道なんだぞ! 先生海の幸食べたい! おいしいお酒飲みたい! うわーん! やだやだ、出てくれないとやだやだーっ!」
「梁瀬先生──」
「──うわぁぁぁっ!」
「せんせ──」
「──ぁぁぁぁっ!」
怯えた陽毬と
桧森部長が気の毒そうに紗和を見つめた。
小谷内がそっと部室から逃げ出す。
手の打ちようがない現状にご主人様がため息をついた。
とても、とても嫌そうな顔をして、苦汁をのむ。
「分かりました。SSSに出ます。だからその見苦しくて聞くに堪えないかんしゃくを納めてください」
「よっしゃぁっ、ありがとう!」
けろりと立ち直った梁瀬が服についた汚れをはたき落としながら立ち上がる。さきほどまでの錯乱状態がまるで幻であったかのように、彼女は気取った顔をして髪の毛をかきあげた。
「今日は部員も揃ったし、SSSの参加も決定したし、文芸部にとって良いことずくめの日だな! ようし、先生奮発してお前らに焼肉奢っちゃうぞ!」
震えていたギャルと後輩が焼肉という言葉に喜びの声を上げる。餌につられて巣穴から飛び出すウサギのように彼女たちは狂気のアラサー女に群がった。
「やったー、焼肉だいすき!」
「いいんすか、梁瀬ちゃん! うぉぉ、いっぱい食うっす!」
「ハハハ、親御さんに連絡しておくんだぞ〜」
ワチャワチャする三人の脇を抜けて桧森部長がこちらへやって来る。疲れ切った顔をしてソファーに座り込んだご主人様へ申し訳なさそうに声をかけた。
「ごめんね、白宮さん。負担になるようだったら頑張って部員見つけるから、暫定的に参加メンバーとして名前を残しておいてくれない?」
「もういいわよ。また先生にあんな状態になられちゃたまったものじゃないもの。作文をすればいいんでしょう?」
「まあ、種目によるけど、わたしが参加する『
「……そう。ならいいわ。梁瀬先生の相手をするほうがSSSに出るよりよほど大変そうだもの。諦めるわよ」
桧森部長が嬉しそうにはにかんだ。
「ごめんね、ありがとう。できるだけサポートするから」
「ふん」
リードを引かれてご主人様のもとへ引き寄せられる。溜まったストレスを吐き出すように、紗和は俺を抱きしめた。
祝20話!
「おめでとう」
「おめでとう」
「めでたいなぁ」
「おめでとさん」
「グワッグワッ」
「おめでとう」
「ありがとう」
父に、ありがとう
母に、さようなら
そして、全ての読者達(チルドレン)に──
おめでとう