男女比崩壊社会で黒髪ツンツンお嬢様のペットになった俺、激烈に甘やかされる。 作:二見猟太郎
文芸部員を乗せた梁瀬の車が夜に消える。
赤いテールランプの光が暗闇に尾を引いた。
「ばいばーいっ!」
元気いっぱい両手を振る陽毬がお見送りする。
ほほほ、でかい乳が揺れとるぞい。
焼き肉屋の駐車場で瀬名さんの到着を待つご主人様は、そんな彼女を遠目から見守った。ギャルが振り向き、こちらへやってくる。畳んだブレザーを脇に抱え、すこし膨らんだおなかを見せつけるように撫でながら楽しげに笑った。
「めちゃくちゃ食べちゃった! 太っちゃうかも!」
「……どうして陽毬も残っているの?」
「え? 紗和の車に乗せてもらおうと思ってたんだけど。運転手ママでしょ? どうせマンションも同じだしいいじゃん」
「……はぁ、そんなことだろうと思ってたわ。今日だけよ」
「うん! わかってる!」
にこにこと笑う陽毬がご主人様のとなりに並ぶ。スマホを取り出し何やらしている隙に、リードを引かれた俺はふたりの間に導かれた。人壁である。ギャルがスマホから顔を上げる。
「うわっ、いつの間にかポチになってるし! びっくりした」
「ども」
「そーいえばポチもたくさん食べてたね。雄犬ペットってあんなにモリモリ食べるんだ。食費大変そう」
水色のネイルチップが俺の腹をつつつとなぞる。
たしかにそういうこと考えたことなかったな。
遠慮したほうがいいのだろうか。
そんな憂慮を読み取ったのか、ご主人様がこともなげに言う。
「心配しなくてもポチの食費くらい大したことないわよ。ただでさえ貯金に回せるくらい仕送りがあるんだから」
「さすが白宮化粧品の社長令嬢だね。うらやまし〜!」
「ふん。働ける年になったらぜんぶ返すわ」
「え〜、なんで? 親なんだから甘えればいいのに」
「陽毬はそうすればいいわよ。わたしは嫌なの」
「ふーん、よくわかんないや」
スマホを内カメラにして三人並ぶ写真をパシャパシャ撮りはじめる陽毬。ご主人様は俺の体を盾にして顔が写り込まないように
した。ギャルが文句をいう。
「紗和隠れないでよ」
「いやよ。あなたすぐにSNSに写真あげるじゃない。不特定多数に自分の姿を公開するなんて正気の沙汰じゃないわ」
「えー! そうかなぁ? いいねされると嬉しいのに」
ほらこれ最高記録と、2000いいねの写真を見せる陽毬。
ギャル仲間とアイスクリームを食べる何気ない一枚だった。
紗和はしかめっ面をしてその写真を見つめた。
吐き捨てるように注意する。
「わたしの写真をアップしたら訴えるから」
陽毬は唇を尖らせる。
「もう、分かったって。そんなにカリカリしないでよね〜。堅揚げポテトじゃあるまいし」
ハハハ、笑える。
「じゃあポチとだけツーショット撮ってあげちゃお。ポチならいいでしょ?」
ご主人様が腕を組んで考え込む。
ここが攻め時とばかりに陽毬は畳み掛けた。
「雄犬ペットのSNSアカウントとかあるじゃん。紗和もああいうのはよく見てるでしょ? かわいいポチをみんなに見てもらいたいと思わない? 紗和のポチがみんなから可愛いねって褒められちゃうんだよ?」
ご主人様の指先がピクリと動く。
「……ポチが嫌がらないならいいわ」
勝利を確信した陽毬がにんまり笑った。
「ポチは嫌じゃないよね〜!」
腕に抱きつきスマホのカメラを構えながら尋ねてくる。ふにゅりと沈みこむおぱぱいの感触が半身を魅了した。なんとしなやかな弾力と柔らかさだろう。柑橘の匂いがふわりと香る。
あやうくペースに乗せられかけたが、俺はきちんと断った。
「嫌ですね」
「えー!? なんで!?」
「俺はご主人様の雄犬ペットですから。陽毬のSNSに写真が出るのは変じゃないですか。アップされるとしたら、ご主人様とのツーショットがいいです」
翡翠の瞳をぱくちりさせてギャルは言う。
「ふーん。なんかポチってあれだね、紗和のこと大好きなんだね。雄犬ペットってそんなこと言ったりするんだっけ? なんかあれみたい、ハチ公? だっけ? あれは犬だけど。チュウセイシン高い感じが似てる」
ぐっとリードを引かれて身体がかしぐ。
いてて、いきなりなんだ?
「少しトイレ。瀬名さんが来たら待っていてもらって」
「はーい」
すまし顔のご主人様に連れられて焼き肉屋の個室トイレに連れ込まれる。扉を閉め切り二人きりになるやいなや、彼女は俺にぎゅっと抱きつき、愛おしげに瞳を細めた。
「ポチ、キスして」
つま先を伸ばし背伸びして、うーと唇をすぼめる紗和。
その目は俺の口元を見つめており、目尻がとろんと落ちている。要望通りに顔を近づけると、紫紺の瞳が穏やかに閉じて、まぶたがその時を待ち望むかのように微細に震えた。
唇が重なる。
バードキスだけで離れようとしたところ、紗和に後頭部を抱き寄せられて唇をあむあむと食べられていまう。上唇と下唇で俺の口を挟み込むように夢中でキスをして、しばらくすると次はポチの番よ、と言わんばかりの怪しい目を向けてくる。望むところなので俺も紗和の可愛いリップをあむあむした。ぷるりとして柔らかなご主人様の唇が俺の唇と擦れるたびに甘い痺れが全身を巡る。息苦しくなるまで続けて距離をとる。
荒く息をして呼吸を整えるご主人様がまた俺に抱きついた。
額を鎖骨にぐりぐりと押しつけて切なげな声を出す。
「今日はたくさん嫌なことがあったけど、ポチがいたから頑張れたわ。ほんとはおうちに着くまで我慢しようとしていたのだけど、あんな可愛いことポチが言うんだもの。我慢できなくなっちゃった」
俺なんか言ったっけ?
まあいいや。
ご主人様が可愛いし。
俺も彼女の体をぎゅっと抱きしめる。
その締め付けに紗和は甘い吐息を漏らした。
「もっと強くぎゅってして。わたし、ポチに苦しくされるのクセになってしまったかも。ねぇ、まだ歯型残ってる?」
鼻で彼女の髪をかけ分け白い首筋を見る。
粗野な歯型が、いまだその痕跡を克明に残していた。
心臓が高鳴る。
「まだあります」
「ふふ、ポチにマーキングされたみたい。わたしがご主人様なのに、ポチのものみたいに印をつけられてしまったわ」
艶やかな言葉に脳が揺れる。
俺は知らず知らずのうちに、また彼女の傷跡に舌を這わせていた。白く傷一つない肌を取り戻そうと、熱心に歯型をねぶり罪の証を消そうとする。ご主人様が首をそらして天井を見上げた。
「んんっ……」
気持ちよさそうな声をあげながら俺の頭を優しく撫でる。
しばらしくて、ご主人様がストップをかけた。
「ポチ、続きはおうちでしましょう。瀬名さんを待たせちゃ申し訳ないから。たくさんスキンシップしましょうね」
「わん」
首元から顔を上げる。
キスをしてから距離をとる。
乱れた髪や服を互いに整えあった。
駐車場へ戻ると、すでに高級車が止まっていた。
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