男女比崩壊社会で黒髪ツンツンお嬢様のペットになった俺、激烈に甘やかされる。 作:二見猟太郎
瀬名家の間取りはご主人様のマンションと同じだった。そりゃそうか。となりの部屋だしな。ギャルがスリッパサンダルを脱ぎ捨てる。並べておいた。陽毬が翡翠の瞳をぱちくりさせる。
「え!? ポチそんな細かいこと気遣えるの!?」
俺なんかやっちゃいました?
「まあ、気になったんで。ぜんぶ細かく見てるわけじゃないですよ。わりとずぼらな方だと思います」
「へ〜! けどすごいね。雄犬ペットってただ飼い主にくっついてるだけで自分から何かしたりしないと思ってた!」
「そうなんすね。エリックとかもそんな感じなんですか?」
「んー、しらない! しょーじき興味ないし」
「じゃあなんで俺を借りたんですか? 雄犬ペットのお世話をしてみたいとか言ってませんでしたっけ?」
「ふふふ、まあその話は中でしようよ。立ち話もなんでしょ」
ギャルの部屋に連れ込まれる。
紗和の部屋は木目調の家具が多く落ち着いていたが、この部屋はメイク道具が並ぶ棚やら、キャラもののクッションやら、原色の雑貨がその存在をやかましく主張し、とくにヒョウ柄のソファーカバーが目を引いた。こんなもんギャルしか買わないだろうな。それか関西のおばちゃん。座らされる。
「なんか飲み物もってくるね。ポチ、待てだよ!」
「わん」
「んー、リードこの辺に結んどけばいっか!」
ローテーブルにリードを結びつけて部屋を出ていく。タイトなジーンズに包まれたむちっとしたケツがふりふり揺れるのを眺めた。逃げようと思えばめちゃくちゃ逃げれるんだけど、そんなつもりは微塵もないのでじっとする。甘い柑橘の匂いがした。
「おまたせ〜。見てみて、瓶のコーラ。
熱盛が出てしまいました。
栓抜きに苦戦しているようなので俺が代わりに空けた。小さな空砲と共に煙があがる。スパイシーな甘い香りが広がった。
「おー、うまいね、ポチ。やるじゃん。もういっこも開けて」
「わん」
瓶を持ちあって乾杯する。
音頭は陽毬がとった。
「これから仲良くやりましょう! かんぱい!」
「かんぱい」
ガラス瓶が触れ合い、涼やかな衝突音が鳴る。
ラッパ飲みをする。
喉に引っかかる甘みを炭酸の爽やかな清涼感が洗い流す。飲み下すたび心地よいヒリつきが喉を焼いた。陽毬が気持ちよさそうなため息を漏らす。
「かぁー! うまし! 炭酸抜けてないから目にしみるね」
ローテーブルに瓶を置き「あ、忘れてた」とか言いながらリードをほどいて手に握った。俺はコーラ瓶をちびちびやりつつ背もたれに体を預ける。にわかに陽毬がモジモジしはじめた。
「あのさ、ポチ、……紗和からポチを借りたのには、ちょっとふたりで話したいことがあったからで。それがじつは、こ、恋に関することでして……てへへ」
水色のネイルチップで頬をかく。
恋の相談か。
なんとなく話を察した。
「それってご主人様とのことですか?」
「えー!? な、なんであたしが紗和のこと好きだって分かったの!? 言ったことないよね!? ポチってエスパー!?」
「ご主人様から聞きました」
「あ〜、なる! 紗和から聞いたんだ。って、紗和にバレてんの!? うぇぇっ!? はず! はずはず!」
手近にあったクッションで体をぼこぼこに叩かれる。コーラこぼれそうだからやめてほしい。なんとかギャルの攻撃に耐えた。
心臓をおさえ、呼吸を整えながら、陽毬は尋ねてくる。
「……さ、紗和、あたしに脈ありそうだった? 好きバレしてるってことは、そういうこと、考えるはずだもんね」
ご主人様の交友関係を考えると、誰よりも親しいのは陽毬だろう。というか、陽毬以外の誰かとの関わりが薄すぎる。かろうじて文芸部メンバーは会話するほうだけど、彼女は限りなくぼっちだった。そして、肝心の陽毬も、相対的に見て関わりが深いだけで、一般的に見てしまえば距離があると言わざるを得ない。
脈は、ないことはないんだろうけど……って感じだ。
期待に潤む翡翠の瞳がこちらを見つめる。
つけまつげに縁取られたイタズラっぽい目を見据えた。
俺は言う。
「なくはない」
「なくはない……」
「あるともいえる」
「……あるともいえる」
「……ないかもしれない」
「……それはムリ。ゲボ吐く」
「ちょっとはある」
「……うーん」
ギャルがコーラを飲む。
考え込んでいるからか、口元が締まっておらず少しこぼれた。
黒のオフショルブラウスにコーラが垂れる。わずかな雫をパンパンと手でたたき落とした。でけぇ乳がたゆたゆと揺れる。
「まあ、可能性はあるって感じなんだよね!」
「あんまり適当なことは言いたくないですけど、ご主人様が誰かと付き合うなら、可能性が一番高いのは陽毬だと思いますよ。ほかの交友関係が壊滅的なだけですけど」
「あぁ、そういう感じね。まあ、けど、うーん、……なるほど。ぜんぜん新たなる恋の刺客にまくられる可能性あるね」
「現状だと余裕でありえますね」
「はぁ、やっぱり幼馴染っていうアドバンテージしかない感じかぁ。あたしが古い付き合いじゃなかったら、きっと見向きもされてなかったんだろうな〜」
ギャルが膝を抱えて丸くなる。
前後に揺れながら言葉を継いだ。
「あたしと紗和って小学校からの付き合いなんだ。昔はあんな冷たい感じじゃなくて、クラスの人気者だったんだよ。よく笑う子で、元気で活発で、あたしは紗和の背中をずっと追いかけてたんだ」
「なんだかイメージできないですね」
「今の紗和はクールだもんね! そんな紗和も可愛いんだけど、けどやっぱり、たまに寂しそうに見えることがあるから、前みたいに心を開いてほしいなぁーと思ったりする感じなんだよね」
「なんでご主人様は突然クールになったんですか?」
陽毬の前後運動が止まる。わずかに目を伏せて言葉をつまらせると、困ったように作り笑いを見せた。無理に明るく振る舞うような、調子はずれの声だった。
「たぶんあたしのせい。自意識過剰じゃないなら、だけど」
コーラ瓶についた水滴をネイルチップがなで落とす。