男女比崩壊社会で黒髪ツンツンお嬢様のペットになった俺、激烈に甘やかされる。 作:二見猟太郎
パーティ開けのポテチと新しく冷蔵庫からとってきた瓶コーラがローテーブルに並ぶ。陽毬は、恋路の参考になるアニメがある、とネトフリで鑑賞会をはじめた。
それはいわゆるオタクに優しいギャルものアニメで、おそらく彼女は、オタクにご主人様を投影し、ギャルに自分を重ねているんだろうけど、紗和をオタクとするには無理があり、どちらかといえば小谷内のほうがその人物像に近い気がした。
「どう? これに
「毎日ご主人様のとこに絡みに来てるのってこのギャルを参考にしてるからなんですか?」
「せいかい!
「ご主人様はオタク女子じゃないですよ?」
「……けど可愛いギャルがこうして積極的に接してくれるの嬉しいでしょ! ほら、
テレビ画面では、冴えないそばかす女子が赤らんでいる。
「根矢ちゃんは女子耐性が低いから押されるとやられちゃうんでしょうね。けどご主人様は鬱陶しがるだけじゃないですか?」
陽毬の頬がフグのように膨れる。
「じゃあどうすればいいの!」
肩をてちてち叩かれる。
地味に痛い攻撃をいなしながら答えた。
「ご主人様の気持ちになって寄り添いましょう」
「紗和の気持ちに寄り添ったら放っておくことになっちゃうじゃん。そしたらずっと進展しないよっ」
「陽毬は押しが強いんですよ。だから鬱陶しがられるんです。もっとさりげなく、がつがつ行かずに、それとなく近づいたりできませんか?」
「できない。奈良谷アンズちゃんはそんなことしない」
「一度奈良谷アンズちゃんを捨ててください」
「奈良谷アンズちゃんを捨てる!? ポチヤバいこと言ってるよ! こんな可愛い女の子、誰しも好きになるでしょ!」
画面を見る。
奈良谷アンズちゃんはどことなく陽毬に似ている。巨乳だし。制服のだらしない着こなしも、スカートの短さも瓜二つだ。ピンク色のシュシュが手首についているのとかも同じである。もしかするとかなり前からリスペクトしているのかもしれない。
「じゃあ今度試しにフラットな感じでご飯に誘ってみてください。どちらかといえば事務的な感じで。そうだ、瀬名さんのことで相談があるとかそういう切り口どうですか? 俺がご主人様の様子をみておきますから、いつもの奈良谷アンズリスペクトと比べてみましょう」
「……むむ、あたしはいつも通りがいいと思うけどなっ」
「まあまあ、ものは試しですよ。いつもお世話になってる瀬名さんにサプライズプレゼントを考えてて、関わりがあるご主人様にも考えてほしい、とかどうです?」
「そこまで言うならやってみる」
「上手く行けばプレゼントをふたりで買いに行く流れになる可能性もありますよ」
色めく陽毬が身を寄せてくる。
翡翠の瞳が輝いた。
「え、熱盛じゃん」
熱盛が出てしまいました。
俺の手を取りぶんぶんと振る。
「ポチ、さいこうっ。相談してよかった、ありがとう。アンズちゃんに未練はあるけど、効果がないことを続けてもあんまりだもんね! ものは試しだよね!」
「そうですよ。どんどんトライしていきましょう」
上機嫌になった陽毬はニコニコ笑顔でポテチをつまむ。手に油がつくのが嫌なのか、箸でつまんで食べていた。眺めていると「あーん」と俺に差し出してくれる。うすしお味だった。
「そーいえばさ、ポチとポテチって一文字違いだね」
ケタケタとギャルが笑った。
そんなに面白いことですか?
俺にポテチを食べさせることにハマったのか、自分が1枚食べるたびに俺に1枚食べさせるようになった。ヒョウ柄ソファーにふたり並んで、アニメを見ながらポテチを食い、コーラを飲む。ふと陽毬が寄りかかってきた。やわらかい。
「ポチの体ってかたいね。堅揚げポテトみたい」
カリカリすぎだろ。
「男は女の子よりも筋肉質ですからね」
「ふーん。おっぱいもないもんね。そーいえば、あれついてるの? なんだっけ、あの保健の授業で習ったやつ、あー、チンタマだっけ?」
混ざってるぞ。
まあいいか。
「ついてますよ。みます?」
「えー、べつにいいや。紗和のおっぱいなら見たいけどね」
げへへとおっさんみたいに陽毬は笑った。
すけべだなこいつ。
「あ、ポテチ、ちょっと黙って。ここ好きなシーン」
奈良谷アンズと根矢のキスシーンが流れる。
いまこいつ、俺のことポテチって呼ばなかったか?
ギャルが足をパタパタさせて身悶える。
「あーっ、いいなぁいいなぁ、チューってどんな感じなんだろ。紗和としてみたいなー」
「気持ちいいですよ」
バッと陽毬が身を起こす。
翡翠の瞳がぎらついていた。
「ポチって紗和とキスしてるんだよね?」
「まあ」
「何回くらいした?」
「さぁ? 数えてないですから」
陽毬が愕然とする。
「か、数え切れないくらいしてるの!?」
「そうですね」
黙り込み、目を伏せ、一点を見つめ、聞こえるギリギリくらいの音量で陽毬はぶつくさと唱える。
「……ポチとキスすれば紗和と間接キスってことだよね?」
にじりよるギャル。
ソファーに座る俺の膝にまたがり、背もたれに手をかけて、俺の体を完全に囲い込んだ彼女は、ごくりと唾を飲みながら言う。
「ポチ、あたしとチューして! 命令だから!」
それきり、ぎゅっとキツく目を閉じて、タコさんみたいに唇を突き出す陽毬。ふとももに乗る肉々しい尻、目と鼻の先にある豊かなおっぱい、ふわりと香る柑橘の甘い匂い。そのまま自分からキスしてしまえばいいのに、大胆な体勢をとりながらも彼女は俺からのチューを待った。
ハニーブロンドの髪を耳にかける。
触れられたことに驚いたのかぴくんと肩が跳ねた。
首をもたげてキスをする。
力がこもっているけど柔らかい。
数秒してから唇を離す。
「……やばぁ」
膝の上の陽毬が脱力してしなだれかかってくる。ご主人様よりも大きな胸が押しつけられてくにゅりと潰れた。鎖骨におでこを預けうなだれるギャルが緩慢と顔を上げる。とろんと落ちたまぶた。熱を帯びた瞳はきらきらと潤んでいた。
「もういっかいしていい?」
「いいですよ」
うーと口をすぼめる陽毬とキスをする。緊張が少しずつほぐれていき、その唇は口づけをかわすたびに柔くとろけた。連続で三度、触れるだけのキスを繰り返しす。
「うう〜、やばいかも、はまりそ〜」
ギャルは俺の手を恋人繋ぎをして持ち上げると、それを体の支えにしながら何度もキスをせがんだ。キスをするたびに息を止めるものだから、彼女の呼吸はどんどん乱れていく。
誰にも見られていないアニメが次話へ切り替わる。
「陽毬からしてみます?」
「……もうちょっとポチからして。勉強中だから」
触れるだけのキスを続ける。
陽毬はずっと受け身だった。