男女比崩壊社会で黒髪お嬢様のペットになった俺、激烈に甘やかされる。 作:二見猟太郎
湯けむり漂う浴室に入る。
むっとした空気が肌にまとわりついた。
いいマンション住んでるなぁ、ご主人様。
3点ユニットバスのワンルームに住んでいた俺とは大違いだ。広々として、湯船も足を伸ばせるくらい大きい。
家賃すげぇ高そう。
「雄犬は生活能力があると本で読んだけど、ひとりでお風呂に入れるのかしら?」
シャワーから出る水を手のひらに当てて尋ねてくる。今世の記憶ないから分からないなぁ。返事に困っていると、握りこぶしを胸に添えたご主人様は切なそうに眉を下げた。
「できるかどうか不安なの?」
紫紺の瞳が触れ動く。
期待に満ちた表情に俺は彼女の思いを見た。
俺はわざとらしくも不安げな声を出す。
「……自信ありません」
ご主人様の唇の端がひくひくと動く。
シャワーヘッドを湯船に放り込んだ彼女は、感極まったとばかりに俺を抱きしめた。吸いつくようなすべすべお肌が、ぴとりと俺の体にふれる。つんとした上向きのおっぱいがふにゅりと潰れた。ご主人様の体は柔らかくて、抱きしめられるとすごく心地よかった。
耳元に唇を寄せてご主人様が言う。
かすれた小声が鼓膜を揺らした。
「ひとりでお風呂も入れないのね。けど大丈夫。ポチのお世話はわたしが何でもしてあげるわ。だってご主人様ですもの。あなたは大人しく、わたしに世話を焼かれていればいいのよ」
「わん」
ちゅっとキスを落としてご主人様が離れていく。
名残惜しいかぎりだ。
ぜひとも一生世話してくれよな!
風呂椅子をとんとんと叩きながら彼女が俺を呼ぶ。
「おいで、洗ってあげるわ」
それから、ご主人様は、頭と体を丁寧に洗い流してくれた。
ほっそりと繊細な指が俺の全身を這うように撫でて泡まみれにしていく。胸のぽっちをかりかりと指先でもてあそんだり、女の子にはついていないまたぐらの干しブドウを不思議そうにふにふにしたりした。
いずれも性感を高めるような行為だったけど、やはり俺の思考は冷静かつクレバーで、肉体的快楽も薄く、情念に体を突き動かされるようなことにはならなかった。
仕上げにシャワーをかけられて洗体がおわる。
「ポチは湯船に入って待ってなさい」
「俺がご主人様の体を洗いましょうか?」
ご主人様はくすくすとおかしそうに笑った。
「自分のことも満足にできないのに生意気なこと言わないの。もう少し見て勉強してから挑戦しなさい。ほら、お湯につかって」
「わん」
浴槽のふちに置いた腕にあごを乗せて体を洗う少女を眺める。長い黒髪は水にぬれるとカラスの羽根のように煌めいて見えた。艶があり、癖のない髪が、しみひとつない柔肌に落ちている。
洗い終えた髪をくるりとまとめて櫛で留める。湯船に浸けないためだろう。白いうなじがおしげもなく晒された。髪を上げると、すらりと長い首がよく目立つ。
泡立てたポンポンみたいなスポンジでご主人様は自分の体を洗った。大きな胸をスポンジが通ると、ぷるりとやわ肉がポヨヨン体操を行った。むちっとしてぷりっとしてるけつを通るも、再度ポヨヨン体操は開催される。
ここはポヨヨン体操会場なのかもしれない。
ふと、気づく。
しみひとつない白い肌。
すべすべで、透明感があって、真珠のように輝く肌。
玉疵ひとつないと思われたご主人様の体に、痛々しくも生々しい一本の縫合痕を見つけた。それは胸の中心部を走っていた。
ご主人様が紫紺の目をこちらへ向ける。
「これが気になるの?」
そう言っておっぱいを持ち上げる。
あら〜、えちちすぎます〜。
俺は首を振る。
「その傷を見てました」
「……醜いでしょ?」
どうだろうか。
欠けた部分があるからこそ、ご主人様の体はより魅力的に見えるんじゃないだろうか。片目に傷が入ってる隻眼のアニメキャラとか俺好きだし。ご主人様はアニメキャラじゃないけれど、理屈は同じように思えた。
「かっこいいですよ。歴戦の猛者って感じで」
キョトンとした表情を浮かべ、それから彼女は目を細めた。
「ふふ、わたし誰とも戦ったことなんてないわよ」
ご主人様が泡を流して浴槽に入ると、水位が上がってお湯がこぼれた。排水口がこぽこぽと音を立てる。俺を背もたれにするみたいにもたれかかってくるご主人様が、首を後ろに倒し、俺の首筋に頭を擦りつけた。甘えてくる猫みたいでかわいい。
「ねぇ、ポチ」
「はい?」
「元いた場所に帰りたい?」
俺ってどこにいたんだろ?
この世界で覚醒してまだ一時間も経ってないが、ご主人様から離れるという選択肢が思い浮かばなかった。社畜の心に染み渡る美少女のペットという立場。嫌がるやつのほうが少ないだろう。元の世界への未練も、魂漂泊とやらで失ってしまっているわけだし、俺の寄る辺はすでに彼女しか存在しない。
「俺はずっとご主人様といっしょにいたいですよ」
湯に温まり赤くなった頬をふにゃりと緩め、体を反転させた彼女は裸のまま俺に抱きついてくる。よしよしと頭を撫でながらご主人様は呟いた。
「ポチは優しい雄犬ペットなのね。そんなこと思ってもないくせに」
その声の奥にひんやりとした何かを感じた気がした。