男女比崩壊社会で黒髪ツンツンお嬢様のペットになった俺、激烈に甘やかされる。 作:二見猟太郎
「うーん、あたしは飾にしよっかな〜」
文芸部の部室にて、長机に広げられたSSSの冊子を覗き込みながら陽毬がうなる。
おのおのが好き勝手に本を読んでだらけてばかりいる文芸部が、焼き肉屋以来SSSを気にかけたのは、
「瀬名さんは文章を書いたことあるの?」
「ノートとるときに書くじゃん!」
桧森がため息をつく。
「そういうの以外でだよ。たとえば簡単な詩を書いたりとか」
「え〜、ないかな〜。そーいうのよくわかんないし」
後輩ちゃんがかばんから赤いハードカバーのノートをとりだす。自慢げに掲げて彼女は謳った。
「うちは日記書いてるっすよ!」
部長が関心を示す。
黒髪を耳にかけながら尋ねる。
「へぇ、猿渡さん、えらいね。どんなことを書いてるの?」
平たい胸を張り後輩ちゃんは答えた。
「文芸部に入部してから書きはじめたっす! ポチを可愛がった感想をメモしてるんすよ〜。あとはポチとしたいこととか〜、もし自分が雄犬ペットを飼うならつける名前の候補とか〜、そういう楽しいことをたくさん書いてるっす! 名付けて雄犬ペット夢日記っす!」
「え〜、そんなの書いてるうちに入らないでしょ」
桧森部長はゆるやかに首をふる。
優しく諭すように語った。
「文章を書くことって、よし書くぞって肩ひじを張ってしまいがちだけど、ほんとは気構える必要なんてひとつもないんだよ。猿渡さんの夢日記みたいに自分が書きたいものをひたすら連ねていくこともすごく素敵な文芸活動なんだから。瀬名さんも、小谷内さんも、白宮さんも、簡単でいいから毎日一文でも書くことを習慣にしてみて。自分が思うことを形に残すのって、じつはすごく簡単なのに、みんな意外としていないことだから。楽しいよ。忘れたころに自分が書いた一文を振り返ると、そのときの思いがぶわっと蘇ったりするんだから。ただ、字を、読んでるだけでね」
読むことも、書くことも、桧森はすごく好きなんだろうな。珍しく微笑んでみせる彼女を見てそう思った。感じるものがあったのか、陽毬はさっそくノートを開いて何やら書き出す。ご主人様はあくびをした。俺の肩に寄りかかってくる。頭を撫でるとにこりと笑う。かわいい。彼女の頬にキスをした。
「こら、人前ではしたないでしょ」
「わん」
あごをくすぐられながら注意される。
「できた! みてみてヒモリン、どう?」
陽毬がなにやら書いたみたいだ。
気になるがソファーからじゃ見えない。
部長がノートをのぞき込み苦笑した。
「瀬名さんはかわいい文章を書くんだね」
「え〜、そうかな〜、えへへ〜」
かわいいと言われたことが嬉しいのか、ギャルは鼻の下を伸ばして頭をかいた。見てみたいな。けどご主人様がもたれてるしな。どいてもらってまで見たいかと言うと、ご主人様とくっついていた方が幸福指数が高い気がするな。俺は諦めた。
「みてみて紗和〜、ヒモリンに褒められたよ〜」
なんて思っていると、陽毬のほうからノートを持ってこちらに来てくれた。俺のとなりに飛び込むような勢いで座り、ご主人様に向かってノートを開く。紫紺の瞳がちらりと一文を追った。
ギャルが尋ねる。
「どう!? かわいい!?」
「ええ、いいわね」
めんどくさそうに紗和は答えた。
上機嫌になった陽毬が俺にも自身の作品を見せてくる。
「ポチも見て!」
ギャルの丸文字でこうあった。
──どーなっつ、ななつ、どーなっちゃうの?
「どう?」
「可愛いですね」
「えへへ、まじぃ? みんなちょ〜褒めてくれるじゃん。文章書くのっておもしろいかも! 文学少女としてカクセイしちゃった可能性がある。めざせ、千利休!」
それお茶の人だろ。
陽毬はうむうむ言いながらさらに文章を書き連ねはじめた。
桧森部長が言う。
「じゃあ瀬名さんは好きな文章を書ける『
猿渡後輩が立ち上がる。
ぴょんぴょん跳ねながら主張した。
「うち節がいいっす! 雄犬ペット夢日記で鍛えた渾身の一文を披露したいっす! これとか自信あるっすよ。『ああ、喉をよしよしする指に気持ちよさそうに目を細めるポチたそ、わが腕のなかに抱いてチュッチュしてみたい春の日の午後』」
「雄犬ペットへの気持ちが伝わってきていい文章だと思う。やりたいなら節は猿渡さんにお願いしようかな」
「えへへ〜、そうっすよね〜! なかなかの一節ですよね〜!」
後輩ちゃんは八重歯をのぞかせてニコニコ笑う。
陽毬が言う。
「あたし、
分かりやすく調子に乗ってるな。
本読めないくせに。
「じゃあ瀬名さんは飾だね。小谷内さんは希望ないの?」
文庫本で顔を隠す小谷内がぼそぼそと答える。
「ボクは
「そうだったの? ありがとう、小谷内さん」
「せっかく桧森が文芸部に誘ってくれたんだし、役に立てるなら立ちたいと思って。あ、けど、そんなに期待するなよ。ぜんぜん自信ないから」
「前向きに取り組んでくれてるだけでうれしいよ。また今度書いたの読ませてね」
「う、うん」
ということで、無事に3種目が決まり、残ったのは
「白宮さん、書でもいい?」
何でもないことのように紗和は答える。
「ええ、構わないわ。適当に詩集でも読んで勉強しておくから安心して。足を引っ張るようなことはしないようにするわ」
「はじめから上手くする必要なんてないよ。SSSは春夏秋冬ごとに大会があるし、はじめての参加なんだから気軽に楽しんでもらえればいいからね」
心なしか浮足立って見える桧森は「梁瀬先生に伝えてくるね」と部室を去る。ご主人様が指を絡めてきたので答えていると、熱心に文章を考えていた、となりの陽毬が声をあげる。
「いいのできた!」
ギャルがまたノートを見せてくる。
──パプアニューギニアで、パプリカにぎゅにぎゅシニア。
どういうジャンルの文章なんだ、これ?
何らかの才能はたしかにありそうだった。
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