男女比崩壊社会で黒髪ツンツンお嬢様のペットになった俺、激烈に甘やかされる。 作:二見猟太郎
三島高校からショッピングモールまでは電車でいうと最寄りから三駅となりにある。なんでもあることで有名な森王駅にモリオーモールはあった。在来線や私鉄に地下鉄が集まる巨大ターミナルへ直結するだけあり、探し物があるならまずここへ来れば間違いがないらしい。道中、瀬名さんが教えてくれた。
なお、車移動はご主人様と俺のみである。
陽毬はごねたが置き去りにされた。
瀬名さんもこちらの味方なので乗り込めるわけもなく、ギャル含む文芸部員たちは歩いて三島駅へ向かうことになった。モリオーモールにて現地集合予定である。庶民は大変でげすな!
「ショッピングモールにはたくさん人がいるけれど、ポチは大丈夫かしら。怖くなったらわたしに抱きついていいからね。瀬名さんには駐車場で待っていてもらうからすぐに帰りましょう」
「大丈夫ですよ。人混みくらい平気です」
「なれない環境だから心配だわ。体調が悪くなったらすぐに言うのよ」
「わん」
俺の太ももをさわさわ撫でるご主人様が悩ましげに眉をひそめた。くすぐったくて笑っていると「笑いごとじゃないのよ」と唇をとがらせる。さすがに
「太ももがくすぐったくて」
紗和がハッとする。
「……わたしのせいだったのね。ごめんなさい。かわりに手を繋ぎましょうか」
たおやかな白い指が絡む。すべすべで小さくて可愛い手だ。ぎゅっと握りかえすとご主人様は幸せそうにはにかんだ。
瀬名さんの快適な運転でモリオーモールに着く。
「いってらっしゃいませ、紗和お嬢様」
「また帰りに連絡するわ。瀬名さんもモリオーモールを見て回ってかまわないわよ」
「はい、お気遣いありがとうございます」
俺たちは手を繋いだままモリオーモールを歩いた。スポーツ店や服屋さん、アクセサリーショップや雑貨屋、家具屋、さまざまな専門店が軒を連ねている。天井は呆れるほど高く、道幅もあり余るほど広い。平日なので人もそれほど多くなかった。
「こういう所は初めてなのにポチはずいぶん落ち着いているのね」
「ご主人様が一緒だからですよ」
「あら、そうなの? わたしがいれば宇宙でも平気なのかしら」
からかう瞳でいじわるに口の端をつり上げるご主人様。
「息ができれば大丈夫です」
「息ができても寒すぎて死ぬわよ」
なんかマジレスされたんだけど。
目を皿にしていると、冗談だったらしく、呆気にとられる俺を見てご主人様は楽しそうに笑った。かわいい。好きすぎる。人前だからキスできないけど、我慢できなくて繋いだ手を口元へ近づけ、手の甲へ唇を落とした。わざとらしくリップ音を鳴らす。
紗和が目を細める。
「わたしもポチとなら火山にだって飛び込めるわ」
「熱すぎて溶けますよ」
「あら、さっきの仕返し?」
身を寄せてくるご主人様とほとんど見流すだけのウィンドウショッピングを楽しむ。集合時間が近いからゆっくり見ている暇はない。どこを見ても男性向けの商品が売られておらず、代わりに雄犬ペット向けの専門店があり、そこにはリードや首輪、洋服などが揃えられていた。
「ずっと通販で済ませていたけれど、たまにはこういうところでポチのお洋服を仕立ててもいいかもね」
「ご主人様の服は見ないんですか?」
「あまり出かけないもの。服は部屋着だけで十分だわ。クローゼットにあるもので事足りるのだし」
「俺、ご主人様といっしょに、ご主人様が着るかわいい服選びたいです」
「ポチがわたしの服を選ぶの? ふふ、生意気ね。どこの飼い主が雄犬ペットに服を選ばせるのよ。……まあ、けど、ポチが着てほしいのなら、センスが悪くないかぎり、着てあげないことももないわよ」
鼻を指でつんとされる。
ほな、バニー着てもらいたいなぁ。
めくるめく思考。俺は紗和に何を着せるか妄想を膨らませた。なおセンスうんぬんは考慮しないものとする。チャイナとかもいいと思う。ミニスカポリスも古典的でよい。メイドさんとかもありだと思う。洋服というよりコスプレばかりが頭に浮かんだ。
「あっ、紗和〜! おーいっ!」
どこからともなく陽毬のでけぇ声が響く。
「ここっすよ〜っ! 白宮ぱいせ〜んっ!」
猿渡の幼い声が追従した。
ご主人様がため息をつく。
「あんな騒がしい人たちと買い物だなんてうんざりするわね。せめて桧森部長と小谷内さんの三人がよかったわ」
集合場所のスタバ前についた。
スターバッカスだってさ。
前世とほとんど名前が一緒だ。
「スタバ飲んでく? 新作のフラッペ出てるらしいよ!」
カウンターへ続く列の最後方に並びながらギャルは尋ねる。後輩ちゃんも「マンゴーバナナっすか〜、南国っすね〜」と後に続いた。ほとんどこちらに選択肢が与えられていない形だけの問いかけだった。デクノボウのように固まる小谷内のとなり、桧森部長が困ったように微笑んだ。
「まあ急ぐことでもないし、コーヒー飲んでいこっか。気分じゃないならお店見て時間潰してもらってていいよ。瀬名さんの連絡先知ってるんだよね? また連絡して」
「いえ、べつにかまわないわ。コーヒーは好きなの。ポチも飲む?」
「わん」
ギャルの後ろに並ぶ。
ご主人様も桧森部長も他のメニューには興味がないみたいでブラックコーヒーを頼むみたいだった。挙動不審な動きをしながら俺たちの背中に小谷内が続く。スマホを必死に操作して目を血走らせている。あまりに鬼気迫る様子なので声をかけた。
「大丈夫ですか?」
「……スタバ行ったことないから注文の仕方調べてる。ミスしたら後でバカにされるんだぞ。スタッフルームで笑い話のタネにされるんだ。……キャラメルフラッペください、トールサイズで。よし、よし、これでいけるよ。いけるよな。大丈夫だよな」
「心配ならカウンターのメニュー指さすだけでいいんじゃないですか? これのこのサイズで、とか」
「……ポチ、おまえ、天才か?」
これほど準備をしたのに、おしゃな空気に呼吸を乱した小谷内はカウンターでアッパレなテンパリを見せた。不必要なカスタマイズをてんこ盛りにしたグランデサイズのキャラメルフラッペを誕生させるに至る。誰が産めと頼んだ……。しょぼくれた彼女は「こんな冷たいのたくさん飲んだらおなか壊れちゃうよぅ」と弱音を吐いていた。見ていられなくて飲むのを手伝ったら涙目で抱きついてくる。
よしよし、君は頑張ったよ。
次はもっと落ち着いていこうね。