男女比崩壊社会で黒髪お嬢様のペットになった俺、激烈に甘やかされる。 作:二見猟太郎
しゅこしゅこと歯を磨くご主人様の背中に抱きつく。その首筋に顔を埋めると、くすぐったそうに身をよじった。
ご主人様が喜ぶので、俺は生活力すべてを失ったデクノボウを演じた。「仕方ないんだから」なんて小言をこぼしながら、風呂上がりの体をいそいそと拭いてくれたし、ドライヤーで髪を乾かしてくれたし、歯磨きだってしてくれた。
「自分でできるようにならなきゃだめよ?」
だめな子に注意するみたいに鼻の頭をちょんとしながら、困ったように目尻を下げたご主人様は、きっと依存されることに喜びを見いだしている。俺が甘えてみせると、きまって彼女は嬉しそうに微笑みを浮かべるのだった。
おそらくご彼女には自己否定的な考えがある。
そうじゃなきゃ「いっしょにいたい」という言葉にあんな寂しげな返事はしない。まるで自分の側にいることはくだらないことであるかのような態度に、俺は彼女を求めることで自信をつけさせてあげたいと思った。なんか可哀想だし。
ご主人様といっしょに鏡に映る自分を見る。
すごく平凡な男だ。
男という種類のスタンプがあればこんな見た目だろう。高校生くらいの年齢で、ご主人様とは同い年くらいに見えた。
ほっそりとした肩にあごを乗せて腹の前に手を回す。歯磨きをしながら、鏡越しにこちらを伺うご主人様は、俺の頭に頬を擦りつけて幸せそうに微笑んだ。
ぐちゅぐちゅぺーして歯ブラシをしまう。
「ベッドに行くわよ。学校だから早く寝ましょう」
「わん」
「学校にはポチも連れて行くからね。ちゃんと起きるのよ」
へー。
雄犬ペットって連れて行っていいんだ。
「わん」
自室へ帰るご主人様の歩みは遅い。
俺が抱きついたままだからだ。
歩きづらそうにする彼女はけして「離れて」とは言わず、時おり立ち止まり俺の頬をキュッとつまんで「あまえんぼね」なんて文句を言った。
途中で冷蔵庫により、水を一杯飲んだ。
白い喉がこくこくと
首筋に吸いつくと、彼女は俺にデコピンをした。
「後がついたら恥ずかしいでしょ」
ご主人様の部屋。
窓際に置かれたダブルベッドに横たわる。
寝転がるやいなや、ご主人様は俺の体をぎゅっと抱きしめて胸に顔を埋めた。腕を背に回してその華奢な体を抱きしめ返す。ごそごそとうごめいた彼女は、顔を上げて俺の目を見る。
「ハグするのって心地良いわね。……雄犬ペットは女性との接触が苦手って聞いてたけど、ポチはそんなことなさそうね」
「こうしてるの好きですよ」
「ふふ、そう。わたしも好きよ。あったかくて安心する」
体をひねり、ずり上がってきたご主人様と間近で顔を見合わせる。くっきりとした二重まぶたをぱちくりさせて、紫紺の瞳を優しく細めながら、彼女はちゅっとキスをした。
「うちに来たときは反抗的に見えたけど、キスをしてからポチは従順になったわね。どうしてなの?」
たぶんそのタイミングで記憶を取り戻したんだろうな。真実を告げても意味不明だろうから、俺は適当に理由を作った。
「その瞬間にご主人様に恋しちゃいました」
「そんなわけないじゃない。雄犬ペットに恋愛感情はないのよ。愛の根源となる性欲が欠けているんだから。あなたたちは無理やり精液を搾り取られて、役立たずになったらこうして女のおもちゃになるだけの哀れな生き物。人間の三代欲求のひとつを失った人間未満。口が上手いのは躾けされているからかしら」
ずいぶんとダークな発言である。
やっぱこの世界って男の人権ないんだなぁ。
というか、性欲が欠けてるのか。
薄くなってるとは思うけど、ないことないと思うんだよなぁ。
もう一人の僕はピクリともしないけど。
返す言葉が思いつかないので、とりあえずご主人様にキスをした。当然のように受け入れてくれる。触れるだけのキスばかりだったので、俺は彼女の下唇を唇で挟んで甘噛したり、少しだけ吸いついてわざとらしくリップ音を立てたりした。
繰り返しているうち、ご主人様の目がとろりと落ちる。
だらしなく開いた口に舌を滑り込ませる。
ご主人様の体がびくりと跳ねた。
ちろちろと軽く中で遊んでから舌を抜く。
ご主人様が言う。
「びっくりした。そんなえっちなキスどこで覚えたの?」
「だめでしたか?」
ふるふると彼女は首を振る。
「だめじゃないわ。嫌がると思ってやらなかっただけで、わたしもしようとしていたから。ポチは身体接触に忌避がないのね。ふつうの雄犬ペットにディープキスなんてしちゃったらストレスで泡吹いちゃうわよ」
この世界のオス弱すぎだろ。
その感覚まで引き継がなくてほんとによかったぜ。
「ねぇ、ポチ、もう一度えっちなチューしましょ?」
「わん」
ぷにぷにほっぺを親指で撫でながら返事をする。
すべすべで気持ちいい。
熱っぽい吐息を漏らす唇にキスをすると、ご主人様のべろが迎え入れるようにちろちろとうごめいて俺の舌と絡み合った。
ぜんぜん登校できなくて草
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