男女比崩壊社会で黒髪ツンツンお嬢様のペットになった俺、激烈に甘やかされる。 作:二見猟太郎
ご主人様はタワマンの15階に住んでいた。
エレベーターで階層を確認すると最上階は25階だった。
エントランスは緊張しちゃうくらい綺麗だ。
地下に共用のジムがあるらしく、スポブラにレギンスを着た女性が降りていった。何となく目で追ってるとリードを引かれる。
「ポチ、何を見てるの」
「いや、ジムがあるなんて凄いなぁと思いまして」
「ふん、女の人を見てたわけじゃないのね。ポチは雄犬ペットなのにえっちだから心配だわ。わたしがベタベタ引っ付いても嬉しそうにしているし。女の子が好きな特殊個体なんでしょ?」
「ちょっと目で追っちゃっただけで何とも思ってないですよ。まあ女の子は好きだと思いますけど」
「ほら、やっぱり。ほかの雄犬ペットとは違う注意が必要ね。ふらふら知らない人について行っちゃいそうで心配だわ」
「ご主人様のもとから離れることなんてありませんよ」
「……ほんとかしら」
ご主人様が腕を組みつんとした表情で鼻を鳴らす。
玄関を出るとロータリーがあって、黒塗りの高級車が扉を開けて待っていた。そばには瀬名さんが立っており、こちらに頭を下げている。俺たちは車に乗り込んだ。
「では、出発いたします。紗和お嬢様、こちら今日のお弁当になります」
「あら、ありがとう。それじゃ出してちょうだい」
水面をなめらかに滑るように車が発進する。流れるようなハンドル捌きとフットワーク。同乗者への配慮に満ちた瀬名さんの運転は柔らかで、静かだった。ストレスがまるでない。
ご主人様がこちらにもたれかかってくる。
白い指が俺の手をもてあそんだ。
「瀬名さん、この子がポチよ。昨日雄犬ペット屋さんが運んできてくれたの。かわいいでしょ」
ルームミラーにちらりと目をやって瀬名さんが俺を見る。
「ポチくんは素朴な顔立ちですね。家庭的というか庶民的というか。紗和お嬢様はもっと気高く鋭い顔立ちの雄犬ペットを選ぶと思っておりました」
「ふん、かっこいい子も他にたくさんいたけれど、なんだか疲れそうでやめちゃったわ。ポチの見た目って安心感があるでしょ? そういうところが気に入ったのよ」
「たしかに日常へ溶け込む力がすごく高いような気がします。今朝もポチくんが紗和お嬢様のお部屋にいたことに違和感一つ持ちませんでしたし。ふつうの雄犬ペットだとこうはいかないですよ」
「あら、それって言い換えれば地味ってことじゃない。瀬名さん、うちのかわいい子にえらく言ってくれるわね」
ご主人様が拗ねたように眉を寄せた。
瀬名さんが苦笑する。
「これは失礼いたしました」
「ふん、まあいいわ。ポチの魅力はわたしが分かっていればいいのだから。世間の感覚では派手な子が人気なのは分かっているけれど、わたしからすればあんなの品がないわよ。ね、ポチ」
「わん」
「ほら、おいで。可愛がってあげるわ」
腕を広げるご主人様に近寄る。リードをぐっと引かれて、俺は彼女の柔らかな胸に頭を預けた。そのままぎゅっと抱きしめられる。紗和は俺の髪にぐりぐりと鼻をすりつけて匂いを嗅いだ。
瀬名さんが静かに注意する。
「紗和お嬢様、急にそんなに可愛がると雄犬ペットがパニックを起こしますよ。女性との接触は苦手なんですから」
ご主人様は自慢げに答えた。
「ふふ、ふつうの雄犬ペットならそうでしょうね。けどポチは例外なのよ。この子はスキンシップが大好きなの。こうして触ってあげるとむしろ嬉しそうにするんだから。ね、ポチ」
「わん、嬉しいです」
「ほら、すごいでしょ? やっぱり派手なだけの雄犬ペットよりポチのほうが何倍もいいわ。あんなの見てくれだけじゃない」
紗和のほっそりとした指が俺の耳をくにくにといじくる。瀬名さんは好き放題される俺を見て、おっとりしたタレ目を驚きの色に染めていた。
「すごいですね。こんな子ははじめて見ました。スキンシップ用の雄犬ペットって生気のない顔をしてることが多いですけど、ポチくんは元気いっぱいですし……たしかに見慣れてきたら癖になる顔立ちかもしれません。可愛く見えてきました」
「そうでしょ? 瀬名さんは審美眼がないのよ。わたしは一目見てこの子が持つ魅力に気付いたんだから。キスだってまったく嫌がらないのよ」
「それは……すごいですね。よほど紗和お嬢様に懐いているんじゃないですか?」
「……懐きやすいのかしら? まだ飼って一日目よ? 知らない人にも尻尾振ってついていきそうで気が休まらないわ」
紫紺の瞳を厳しく細めてご主人様が俺を見る。
彼女の鼻頭に軽くキスをして俺は言った。
「俺はご主人様のものだから絶対に離れませんよ」
ほにゃりと目尻を落とした紗和が俺の頭を撫でる。
「ポチはほんとうに口が上手いわね」
ようやく学校へ行けました!
ずっとイチャイチャしてごべーん!
あしたも更新します!