「一目見た時から、あなたを想っていました。どうか私と、結婚してください!」
子爵令嬢ヘルミーナ、二十歳。社交界では三年間、壁際の常連である。
夜会の真ん中で、侯爵令息から芝居がかった求婚を受けた。
柱の陰の取り巻きが賭け金を数えているのは、とうに見えている。
泣いて逃げれば「賭けに嗤われた令嬢」の名だけが残る――ならば。
彼女は扇を閉じて、にっこり笑った。
「お受けいたしますわ」
この国で、満座の前の求婚と受諾は、家門と家門の婚約として貴族院に登記される。
個人の悪ふざけでは、もう済まない。
翌朝、青ざめた令息は領地へ雲隠れ。
代わりに現れたのは、侯爵家の当主にして令息の兄、アルブレヒトだった。
「道は三つ、破談として違約金、弟を連れ戻して履行、あるいは――花婿変更の条項により、当主たる私が履行に立つ。
申し上げておくと、私は満座であの受諾を見て、王都で一番聡明な方だと思いました」
違約金で逃げれば、それこそ連中の賭けの勝ち札。逃げた弟の履行など罰にもならない。
では、三つ目なら?
――嗤った連中は、これから侯爵家当主の婚約者となった女の前で、毎晩頭を下げることになる。
「三つ目を、お受けします。ただし条件がひとつ。私を、お飾りにしないこと」
かくして王都の社交界は大混乱。
公認帳場には「あの婚約はいつ壊れるか」の賭けが今夜も立ち――
そして毎回、二人の手で空振りに終わっていく。
観察眼の鋭い令嬢と、生真面目な侯爵家当主のタッグが王都中の賭け帳を潰していく、社交界攻防コメディです。
「兜草ですね。乾燥が甘い。……素人の仕事です」▼夜会で婚約者に毒を盛られた侯爵令嬢ヴィオラ(19)。▼平然と飲み干して鑑定までしたら、「気味が悪い」と婚約破棄された。▼生まれつき、毒が効かない。▼おまけにこの舌、毒の種類・量・産地・手口まで言い当てる"毒のソムリエ"。▼そこに現れた『王宮毒見役、大募集』の張り紙。まさに天職。▼雇い主は、度…
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