Cyberpunk: スクラップ・ララバイ   作:imamo

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第18話 同じ声

もう一度、名前を呼んだ。返事は、なかった。

 

 口に入った砂を吐いた。家族の通信も戻らない。銃を抱え直し、後ろを見た。

 

 フレームの古い表示には、感覚と通信を隔離したと出ていた。投影も消えている。

 

 水槽の陰から、レイスが銃を向けて近づいてきた。少し遅れて、装備の揃った回収クルーが続いた。家族の車列との間を、一人が塞いだ。

 

 連中の背後には爺さんと燃料配管がある。キャシディは撃てない。あたしにも、退く場所がなかった。

 

 肩を掴まれた。

 

 振りほどこうとして、腕を背中へねじられた。肩が折れそうで、あたしは力を抜いた。膝がコンクリートに当たった。

 

 銃殻が、腕から抜かれた。

 

 取り返しかけた手を掴まれた。銃は別の男へ渡され、離れていった。

 

 遮蔽箱は家族の車の中だ。裸の銃殻が、男の両手で運ばれていく。

 

 背後の男が手首をまとめた。もう一人が留め具を出す。あたしは顔だけ上げた。

 

 爺さんの唇が動いた。聞き取れなかったが、あたしを見ると頷いた。椅子は水槽の縁に残されたままだった。

 

 スピーカーが鳴った。

 

 撫でたみたいに平らな、あの声だった。リトルチャイナの貸しオフィスで聞いたのと、同じ平らさだ。姿は、今夜もどこにもない。

 

『確認は完了した。娘と銃を移送する。老人は置いていく』

 

「爺さんの縄を解け」

 

 あたしの声は風に掻き消された。男に腕を引かれ、立たされた。

 

 命令のあと、灰色のひとりが空へ顔を上げた。点滅のある方角だ。上げた顔はすぐ戻ったが、戻るまでの短い間、連中の手も止まっていた。

 

 手首を、後ろで留められた。

 

 砂地を歩かされる。首だけは、南へ残した。砂の幕の奥で、家族の車列の灯りが滲んでいた。動いているのか、止まっているのか、滲みの向こうは読めなかった。その上の高いところに、点滅がひとつあった。高さを保ったまま、砂に霞んで、また現れる。動き方で、ミッチの機体だと分かった。

 

 箱型の車の、後ろの扉が開いた。押し込まれる姿勢になっても、首は残した。灯りは、まだそこにあった。滲んで、揺れて、それでもそこにあった。扉が閉まっていく最後の一筋まで、あたしは灯りから目を離さなかった。

 

 閉まった。

 

 キャロルは通信が切れた後の合流を準備していた。あたしは、最後に見えた機影を思い浮かべた。

 

   *

 

 車内は暗くて、よく揺れた。

 

 後ろ手のまま、荷室の床へ座らされた。男たちは前の仕切りの向こうへ消えた。向かいの壁に、スキッピーが固定されていた。

 

 車が走り出してから、膝と肩で床を漕いで、殻の横まで寄った。仕切りの向こうから、止める声は来なかった。額を、フレームへ寄せる。

 

 温かかった。

 

 弱いが、稼働の熱は続いていた。あたしはフレームに額を付けたまま、声を落とした。

 

「聞こえるか。あんたも連れて帰る。今、隣にいるから」

 

 車の唸りしか聞こえなかった。

 

 身体を半分回し、後ろ手の指でフレームを三度叩いた。

 

 ひどく揺れた。いつもなら、頼みもしないのに運転の採点が始まる。

 

 あたしは額をフレームへ戻した。

 

 息が詰まりそうになると、車の傾きと減速を数えた。右へ傾いて、戻る。ブレーキが掛かる。止まらず、また走り出す。追っているあいだは、この先のことを考えずにいられた。

 

 仕切りの向こうで、通信がひとつ開いた。

 

『試験室を準備しろ』

 

 試験室。あたしは仕切りを見た。隙間から光が漏れていたが、顔は見えなかった。

 

 荷室には窓がなかった。家族の車を探すこともできず、あたしはスキッピーのそばに座り続けた。

 

   *

 

 着いたのは、音で分かった。

 

 車が減速して止まり、後ろの扉が開いた。天井と灯りが見えた。屋内の搬入口へ入ったらしい。

 

 腕を引かれて降りた。脚が痺れ、最初の数歩はつまずいた。男に押されて搬入口から廊下へ進み、奥の部屋へ入れられた。

 

 白く照らされた試験室だった。

 

 中央に台、扉の脇に操作盤。天井の照明が、部屋の隅まで明るく照らしていた。

 

 扉のほうで気配が動いて、殻が運び込まれてきた。

 

 男が二人、歩幅を合わせて水平を崩さないまま部屋を横切って、中央の台の上へ、音を立てずに殻を下ろした。壊れ物の運び方は、ここまで続いていた。試験のための台だと、置き方で分かった。据えられた殻へ、台の外から何本かの線が寄せられて、外側から順に取り付けられていく。あたしはその間、扉の内側で押さえられたまま、取り付けのひとつずつを目で追った。

 

 線が付き終わる頃、手首の留め具が外された。

 

 留め具が外れても、腕はすぐに下ろせなかった。肩を少しずつ回し、手首の赤い痕を擦った。

 

 殻の古い面は、こちらを向いていた。

 

 表示は、感覚と通信の隔離を告げたままだった。声は戻らない。

 

 男たちが出ていき、外から鍵を掛けた。

 

 あたしは扉から中央の台へ、一歩進んだ。

 

 どこかで、装置がひとつ、起きた。

 

 低い唸りが立ち上がって、すぐに澄んだ。砂を噛まない、綺麗すぎる立ち上がりだった。同じ立ち上がりを、あたしは二度だけ、聞いたことがある。

 

『こんにちは、使用者様』

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