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RELAY NODE: NORTH
EMERGENCY TOKEN: VERIFIED
RELAY COST: VEHICLE SIGNATURE / CURRENT SECTOR
REQUIRED AUTHORIZATION: SELF
DECISION: PENDING
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RELAY WINDOW: REACHED
RELAY COST: ACCEPTED
REQUIRED AUTHORIZATION: SELF — GRANTED
LINK: OPEN
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『中継します。返信は不要です』
*
道は、白くなり始めていた。
夜明けにはまだ間のある暗さの中で、ヘッドライトの届く範囲だけが、細かい砂の粒で濁っていく。風向きが変わったのだ。空の際にわずかに滲んでいた薄い色は、いつの間にか砂の白に呑まれて、境目ごと消えていた。フロントガラスの縁では砂が細い線を作っては、車体の震えで崩れた。ワイパーを一度だけ動かして、あたしはやめた。拭ったところで、白は硝子じゃなく、空気のほうに混ざっている。
鏡だけは自分の背丈に合わせて直した。座席を動かそうとすると肩が痛み、諦めた。ペダルには届く。背中を座席から離して、ハンドルを支えた。
喉が乾いていた。運転席から届く場所に水はなく、探すために停まることもできなかった。
助手席の座面の窪みで、殻が段差のたびに小さく浮いた。あたしはそのたび左手を伸ばして、腹を押さえた。掌に、弱いが消えていない熱が返ってきた。
『USER。……今は、こっちで呼ぶ』
砂を噛んだ声が、囁きの音量で言った。
『信号の返事は、まだない』
「うん。あたしは走る」
『報告』声が少しだけ張った。『外の音は通ってる。風は強くなってる。近くの帯域にいる車は……後ろの、一台だけ』
『それと、天気は、さらに悪くなる。白いのが、増える』
「見えてる。増える前に、距離を稼ぐ」
後ろのレイスは、距離を保ってついてきた。砂が濃くなり、車体はもう見えない。前照灯だけがミラーに残っていた。
燃料と水温は異常なし。あたしはスキッピーの座りを確かめ、道へ目を戻した。
*
スキッピーが通してくれる外の音の層に、規則正しい符丁の並びが割り込んだ。人の声じゃない。抑揚を全部削った、機械の読み上げだった。
『——受領。位置、一件。方向、一件。気象、一件。以上』
名乗りも、労いも、続きもなかった。
『家族の中継網だ』スキッピーが先に言った。『ノースじゃない。……受領確認だけ』
「うん」
届いていた。ハンドルを握り詰めていた指が、少し緩んだ。
ノースが家族へ中継してくれたのだ。礼を言おうとしたが、あいつへの回線は開いていなかった。
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DECISION: RELAY
TRANSMITTED: POSITION / VECTOR / WEATHER
ACKNOWLEDGEMENT REQUESTED: NO
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LINK: CLOSED
CURRENT SECTOR: EXITING
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次に割り込んだのは、人の声だった。
『——ユキ。聞こえるか』
細い声だった。砂嵐の帯域の隙間へ、針を通すみたいにして届く、キャロルの声だった。途中で二度、砂に削られて薄くなり、そのたびに戻ってきた。
『回線が細い。短く返せ』
「聞こえてる」思ったより、自分の声が掠れた。咳を一つ挟んで、言い直した。「ユキ。走行中」
『こっちが受け取ったのは、送信時点の位置と向き、それにノースが添えた天気だ。今のあんたは、こっちからは見えてない。だから、短く状況を言え』
「遮蔽の試験施設は出た。移送に使うはずだった車で、広い道を合流地点へ向かってる。スキッピーは今の声で喋ってる。あたしは右肩が上がらない。耳鳴りも残ってる。運転は、できてる」
『ほかは』
「水と飯がない。後ろにレイスの車が一台。距離を保って、ついてくる」
『インデクサーは』
「先に出た。原型の封印ケースを積んで、交換に使った古い処理施設へ戻った。それから——」
喉の乾きに、言葉が一度引っ掛かった。
「ウェイ爺が、まだあそこにいる。水槽の縁に残された。今どうしてるかは、確認できてない」
細い回線の向こうで、キャロルが短く息を吸ったのが分かった。
『分かった。ソウルにも伝える』
「キャロル。爺さんを助けに行くんだよね」
『行く。その前に、あんたを拾う』
声は細いままで、少しも揺れなかった。
『一人で戻るな。数を揃えてからだ』
「……分かってる」
『先行車が一台、北から合流地点へ向かってる。前照灯は二つ。こっちの指示があるまで、寄せるな。窪地の縁で拾う』
「行く」あたしは言った。「合流地点へ行く。逸れない」
『通信はここまで。着く手前で、もう一度だけつなぐ』
回線が切れた。あたしは広い道を進んだ。
*
分岐は、言ったそばから来た。
白く濁った視界の先で道が割れる気配がして、スキッピーが先に読み上げた。
『右に、窪地伝いの……近道に見える砂地。古い処理施設の方角へ、寄っていく』
「見えてる」
右へ逸れれば、古い処理施設へ寄る。ハンドルの中で右手がわずかに重くなるのが、自分でも分かった。爺の乾いた唇と、睨むのをやめない目は、思い出そうとしなくても勝手に出てくる。
あたしは曲がらなかった。右へ分かれる道を横目に見て、広い道を走り続けた。
夜明けは近いはずなのに、明るくなるより先に、世界は白くなっていった。ヘッドライトの意味は薄れていったが、消さなかった。こっちも、向こうから数えられる二つの灯りでいたほうがいい。
前方の白の奥に灯りが滲んだのは、その少し後だった。
二つ。まだ点というより、砂塵に溶けた二つの暈だった。現れては薄れ、薄れては、さっきより少しだけ濃くなって戻ってくる。
『前方、灯り二つ』スキッピーが数えた。『こっちへ進んでくる。入ってくる向きは、北寄り。……キャロルの言った、先行の入りと合う』
「二つ、北から。先行かな」
『まだ合図がない。このまま行こう』
「分かった」
アクセルを一定に保った。窪地で拾う、とキャロルは言った。
段差でスキッピーが浮いた。左手で押さえると、ハンドルを支える右肩が痛んだ。次の段差を避け、平らな轍へ戻った。
『前、まだ遠い。後ろ、少し近い』スキッピーが小さく言った。『……数えてるだけ。提案じゃない』
「うん。数えてて。あたしは走る」
前の灯りが濃くなってきた。窪地が近い。キャロルの声を待ちながら、あたしは道を外れないようハンドルを握った。
バックミラーの中では、後ろの二灯が少しだけ大きくなっていた。砂に滲んで、割れず、増えず、二つのまま。
あたしはアクセルを緩めなかった。
前から、二つ。後ろから、二つ。
四つの灯りは白の中で二つと二つに分かれたまま、どちらも、あたしたちへ近づいていた。