機動戦士Gundam GQuuuuuuX Meeeeeantimes 作:伴都さん
敵船の乗員に死者は無かった。
負傷者とウルトラ・ライト・キャノンとそのパイロットたちは、それからフィアースと警護ポッドとエグザベ君は、〈ソドン〉に引き取ってもらう。
独房(そういうものもあるのだ)脇の部屋を取調室として、まずは敵船長に来ていただいた。
この場には、他にデュークとあたしがいた。
デュークが尋問を始める。
「さて、あなたの氏名と所属は?」
「…………」
「所属は?」
「ジオンだ。それ以上は言えん」
面長で、ベアティガーマン中佐とは違うデザインの髭を蓄えた男は、それだけ言って黙った。
デュークは訊き方を変えた。
「おまえは何処の者だ? 何故弊社の邪魔をした? おまえらの意思か? でなければ何処の依頼だ?」
男は答えない。
「〈ソドン〉から臨検は入っているし、あちらに運んだ船員もいつまでも黙秘はできまい。諦めるんだな。……それとも」
デュークは男を睨める。
「おまえたちは、よっぽど口の固い組織だと言うのか?」
わずかに男が身体を震わせた気もするが、決定打ではない。
このままでは、やがてやって来る地球連邦のコーストガードか、〈ソドン〉に引き渡すのが関の山だ。
なにしろあたしたちは民間企業である。
今の状態は私的逮捕に過ぎない。
パッド端末を携えたコモリ少尉が入って来る。デュークの横に来て言った。
「船長、そろそろ時間が……」
〈ソドン〉にもあまり時間は無かった。
〈ガルマ・ザビ氏〉をサイド3に送り届けねばならないのだ。
中身がマチュだったのは、あたしらと対峙したMS組しか知らない。〈ソドン〉はここからサイド3までも、〈警戒〉せねばならないのだ。
「少尉、この者がジオンの者だと言うなら、そちらで引き取っていただけますか?」
デュークがコモリ少尉にそう求めた時、男がさっきより反応した。
「…………待った。ジオンと言っても、ジオン国民と言うわけではない」
「……ではなんだ?」
「…………」
こりゃ、突っ込めるかな?
「船長、バトンタッチ」
あたしが掲げた手に、デュークがタッチした。あたしはぐいっと男の方に向かう。
「警護ポッドにガルマさんがいたから、襲ってきたんだよね?」
「…………そうだ」
案外、簡単に認めた。
「もし、ガルマさんを確保できたら、どうする予定だったの?」
「……それは言えない」
「そうですか」
あたしは一息置いた。
「おかしいなぁ……、じゃあ何で、〈シービスケット〉を沈めようとしたの?」
男は一瞬、何を聞かれているか、わからない顔をした。
「この船に拘らずに、真っ直ぐ警護ポッドの方に向かえばよかったじゃない。……ね、何で?」
「…………」
「流石に時間がないですよ? ジェイクフォード船長」
少尉がそう口を挟むと、男は何かを見つけたような顔をした。
「…………おまえ、ジェイクフォードか? 貴族の、〈ペガサスJr.〉の」
「それが何か?」
「噂に聞く、スペースノイドに味方した地球の貴族のお坊ちゃんか、おまえが。これは傑作だ」
お、急に喋り出したな、コイツ。
「ノブリス・オブリージュだっけ? 温室育ちの貴族様らしい素晴らしい考えだ。尊敬に値するよ……」
コイツは自分もスペースノイドである事を忘れたのであろうか?
それともコレが時間稼ぎになると考えたのであろうか?
ああ、でもあたしだけは知っている。
コイツは今、虎の尾を踏み抜いた。
デュークの父母についてだが、父は母がデュークを身ごもった時点で、何らかの理由で亡くなっている。
あたしは詳しいところは聞いてない。
母とも物心付く前に引き剥がされている。
士官学校に入れられ、ある程度自由が利くようになったデュークは母を探す。
それは母恋しさというわけではなく、何故自分を手放したか知りたかっただけだそうだ。
別に金目当てでも構わないと考えていた。
だが結局、判明したのは『何不自由なく暮らせるようジェイクフォード家が援助する』といった約束が反古にされ、野垂れ死にに近い形で母は亡くなったということだけ。
母は中流の下の方の家柄で、素敵な御本家の御母様は、父はそういうところの女が好きだったのだと彼を詰っていたが、実際のところはわからず終いとなった。
今、この場でこのことを知っているのはあたしだけ。
デュークはあらかじめ用意していた蒸しタオルを手に取る。ああ、アレまだ熱いやつだ。
拡げたタオルを男の顔に押し付け、力一杯ソイツの顔を拭う。たち起こる湯気の中、くぐもった声が聞こえるような気もするが、無視する。
デュークは男の顎を掴み、その顔を完全に晒した。晒された顔を見て内心、あたしは驚いた。リュウがココにいなくて良かったと思った。
「その下手な変装が、バレてないと思っていたとは、流石はコネ入隊のお坊ちゃんだ。な、ジャマイカン・ダニンガン」
そうだ。何故気づかなかったのだろう。
コイツが捩じ込まれて来た、初代〈ペガサスJr.〉艦長だ。
「だ、誰だそれは?…………知らん! 私はジオンに雇われたんだ!!」
「……だ、そうですよ、中佐」
何処から出てきたのか? ベアティガーマン中佐が現れた。
口角が上がっている。あ、今度は明らかに不気味なやつだ。
「そうですか。それでは、こちらでじっくりと、御調べしないといけませんね」
目を見開いた男の顔を真っ心に捉え、中佐は言った。
「どうも、ジオン特務施設部隊のベアティガーマン中佐です。手荒な事は致しませんので、御安心ください。
なにしろ、私はあなたの事はよく存じておりますから」
息が止まる。てのはどういうものか、あたしは学んだ気がする。
こちらに収容していた敵船員たちの連行が終わり、コモリ少尉はあたしに手をヒラヒラさせて帰って行った。
顔は大変にこやかで、どうやら彼女にとってのピークを越えたみたい。
ナイスタイミングで口を挟んでくれたものだ。流石は中佐の部下。
「ねぇ、なんでわかったの?」
どうやらほぼ初めからヤツの正体に勘付いていたらしいデュークに訊いた。
「声だよ」
「……声?」
「言い回しやイントネーション、そうだな、吹き替えでムービーを見ると、役や声色が違っても同じ話者だと気付く特技があるらしい。それと同じだ」
「よくわかんないよ」
とりあえずは、後でリュウにヤツの末路を話さにゃならんと思った。
諸々な処理を終わらせ、あたしはリュウと食堂で飲んでいた。飲むのは回転重力区画に限る。
ツマミは鶏皮にぽんじりに、ネギまにタレ、冷凍パックで値は張ったが、あたしの前職場から取り寄せた。
平和はこういうのが届くからいいなあ。
あ、タムラさんはまだまだ忙しそうである。パックは少し残しておいた。
スタウスキやハチソンにも少し分けてやる。
「ああ……スレッガー・ロウ中尉、死んでほしくなかったなぁ」
いきなり何? リュウがそんな顔をする。
「あのキテレツな〈軽キャノン・アーマー〉なんて機体、いなしてたからさ、惜しかったなぁ」
「……そうだなぁ」
リュウがビールを一口飲む。
「あれで姫さん、中尉と一緒にドズルを倒したんだなぁ」
懐かしそうに、また一口飲んだ。
「あ、コレ美味いな。……何処のネギ?」
「ん〜と、シモネタ?……いや違うか」
その頃タムラさんは独房の近くにいた。
「……何故私はコチラにいるのです?」
仲間たちとともにジオンに引き渡されると思われたパトリック・イディアルがココにいる。
様子を見に来たタムラさんは答えた。
「さぁ……機会があれば船長に訊きなさい。温情だったら良いな」
さらに同じ頃、〈ソドン〉以下ベアティガーマン中佐率いるサイド3直行便艦隊でも、何がしかのアクシデントがあったらしい。
「……アレで終わりなら良かったですね(笑)」
「中佐ぁ……」
『エグザベ・オリベ、出ます!』
が、ソレは、別の話。
それからしばしの時間経過。
「シマ」
暫定母港のラ・ビアン・ローズに帰投中、自室でピートと戯れているあたしに、デュークが会いに来た。
「珍しいじゃない。目当てはピートか、まさかあたしじゃないだろうな?」
「おまえだって言ったらどうするんだ?」
しまった。
この手の返しは上手いんだった、この男。
あたしはさり気なく、そうさり気なく話題を変える。
「で、何の用?」
さっきの会話を意にも介さず、デュークは言った。
「今回のスポンサーが、おまえに会いたいそうだ。行ってこい」
「どこへ?」
デュークはあたしにデータカードを投げてきた。
「そこに書き込んである。一回読み出したら消えることになってるから、ちゃんと目を通してくれ」
「なんかややこしぃ」
デュークがブリッジに戻った後、あたしはそのカードを情報端末に挿して見た。
「うへえ」
何か想像ついてはいたものの、あたしは思わず声に出した。