機動戦士Gundam GQuuuuuuX Meeeeeantimes 作:伴都さん
1.
今日も物流倉庫の勤務が終わった。
あたし、シマ・ハチジョウは、セキュリティ・バッジをゲートに捧げ、建物を出た。
空調の効かない外は暑い。
あたしは思わず上を向いて、頭を揺らした。空気の流れで少しだけ涼しい。
見上げた先に、月が見える。
もう、5年にはなるのか、あたしたちはあの近くにいた。
地球連邦宇宙軍の乾坤一擲の最後の作戦。いわゆる〈ソロモン落とし〉。
だが失敗した。面白いくらいに。
かくして〈ソロモン落とし〉は、地球連邦宇宙軍の権威を失墜させただけに終わった。
グラナダの人々の嘲笑まで、おまけに付いて。
宇宙世紀0080年1月3日、全ての軌道拠点を失った地球連邦宇宙軍は、継戦能力の喪失により、ジオン公国と休戦せざるを得なくなった。
というか、宇宙軍としては存続するかも怪しい。
規模は縮小の一途を辿り、あたしたちも退役を余儀なくされた。
なお、いわゆる〈月へのソロモン落とし作戦〉の作戦立案者は、混乱の中うやむやになった。
ああ、あなたは今何処にいるのですか?
みつけたら、ブチのめしてやりたい。
地球の夏。
色々気候が変わったようだが、暑い地域は暑い。あたしの住んでるところも暑い。夏ってもまだ初夏のはずだがやっぱり暑い。
どのくらい暑いかといえば、夜勤から帰ってくると、うちの愛猫がヘタってたくらい。
ジオンが地球環境改善の名目で、軌道上に何やら建設中だ。
月の脇に見えるそれを眺めてみたこともあるけど、なんだろうね、ありゃ。
帰ってきたあたしの気配を感じた猫は、悲壮感たっぷりに啼き叫び始める。
慌ててクーラーをかけ、大好物のごはんを用意した。
出勤中もクーラー消せない日々が来ちまったぜ。
家の通信端末をチェックすると、色んな通知やらの中に珍しい着信履歴をみつけた。
容量の小さなメッセージが付いていた。
『姐さん、お久しぶり。気が向いたら連絡をください』
記録時間は帰宅ちょっと前。ならばと、そのまま返信することにした。
呼出音がループする前に相手は出た。
モニターに映る何年か経ったカイ・シデンは、なかなかいい男になっていた。
何年か前は少年と言っても差支えない歳だったからそれもそうか。
『お久しぶりです、シマさん。お元気そうで何よりです』
『おはよう、あんたもね』
『そのナンバーまだ使っててよかった。今時間大丈夫ですか?』
『ええ。夜勤帰りだけどまだ大丈夫』
『夜勤て、何してんですか?』
慣れてきたのか、ちょっとくだけてきた。
『通販業者の倉庫よ。
お客さんが注文した商品をコンベアのトレーに乗せてくとね、機械がお客さんの注文ごとに並べ直して梱包の方に送るの。
あたしは延々と乗せてく係』
あたしが予想外な職についてるのに少し驚いたようだ。
『あんた一応それなりの特技持ちでしょ?』
『その特技あんまり使いたくないんだよねぇ。
それに新商品とか流れてくると面白いんだよ。
ま、秒で流してくけど』
『あんたのそういうノリには時々ついていけん』
『単純作業も慣れればそれなりなのだよ。で、どうした?』
口調をただしてカイは言った。
『昔の仲間で、同窓会というか、集まらないかと話が出たんですよ』
『ほう』
『比較的動きが取れやすい私が連絡係になりまして』
『ほほう』
『話が煮詰まったら詳細を連絡しますから、体あけておいてください』
『おっけー』
『相変わらず軽いな、あんた』
口調が戻った。
『ん? ジャーナリストのインタビューなら落ちついてもいいよ』
カイは休戦直後真っ先に軍を辞めた。
部隊の他の連中は、カイのように自分から退役した者、時勢がどうとかで退役をお勧めされた者、あたしのように居残ろうとしてたら素行不良とやらで追い立てられた者、などなどで、結局ほぼ軍には残ってないらしい。
軍の未来のため、そいつ残した方がいいんじゃ? てな人材もいたはずなんだが。
でまあ、カイ自身は、どういう伝手かジャーナリストになっていたのを、あたしは知っていた。
『ちょっと前の記名記事読んだよ。面白かった』
『それはどうも、ありがとう、ございます』
わりとレアな表情を見た。
『どれくらい集まれるのか楽しみだねぇ。姫さんとか来るのかな?』
『え?』
『え? って?』
姫さんとは、その立ち振舞いからそうあだ名されたうちの部隊のエースで、カイとは今でいうMAVをよく組んでたMSパイロットだ。
彼女の話を振ったほんのわずかな時間、彼の表情が止まった。
まるで。
今は訊くな、と言いたげに見えた。
何事も無い様にカイは応えた。
『まだ連絡は取れていないんですよ。まあ、お楽しみにということですね』
『そっかー』
『それよりシマさん、シマ姐さん』
『はい』
『なんで艦長に連絡してないんですか?』
『え?』
今度はあたしの顔が固まった。
『泣いてましたよ、あの人』
『ウッソだ〜』
『まあ嘘泣きかもしれませんが』
うむ、この話はどう打ち切ろうか。と、思ってたら、カイの方から畳みかけてきた。
『ともかく連絡くらいしてあげてください。なるべく早く』
『あい』
『それから今の話もなるべく早く煮詰めますから待っていてください。いいですね』
『わかりました』
『ではまあ、連絡しなければいけない連中はまだまだいるんで、今回はこれで』
『うん、ありがとう』
カイのいい笑顔で締めて、通話が終わった。うん、いい男になったなあいつ。
それから幾日。
カイからの連絡を待ちつつ、連絡しろと言われた先はどうしようかと考えていたところ。
連絡する必要はなくなった。
向こうからやって来たからだ。
じかに。