機動戦士Gundam GQuuuuuuX Meeeeeantimes 作:伴都さん
「……なんでいる?」
数年振りに会う、あたしより頭一つ背の高い男に向けて、あたしは言った。
「カイに言われたからだ」
半ば呆れたような顔で、彼は応えた。
「見つけ次第確保しないと逃げられると」
「……あの野郎」
確かに家の近くに見慣れない車が停まっているのには気づいていた。
玄関に向かう際、ドアが開いて誰かの足音がするのにも気づいてはいた。
だが遠慮気味に声を掛けられるまで、彼がそこにいるのに気づきもしなかった。元軍人をも欺くなど、流石だ少佐。
いや元少佐か。
シン・ドレイク・レイ・ジェイクフォード元地球連邦宇宙軍少佐は、数年前と全く変わらない容貌で、あたしの前に立っていた。
あたし、八丈史麻は、なんつうか、昔この男と付き合っていた。
「……とりあえず、積もる話もなんなので、こちらへどうぞ」
外で突っ立ってるのもあれだ。
招き入れるしかないじゃないか。
しばしの間、どちらかといえば居心地の悪い空気に包まれ、あたしは口ごもっていた。
彼はあたしが口火を切るのを待っているようで、リビングのソファの向かいに自然体で座っている。
「……お元気そうね、デューク」
「ああ、君もな」
何故彼を〈デューク〉と呼ぶかというと、長い話になる。
思い切りかいつまむと、彼は大ブリテン島の北部に領地を受ける公爵家の筋の者だからだ。
但し、が付くのだが。
付き合っていたってんなら、普通ファーストネームで呼ぶだろう? それが憚れるのは、彼がお妾さんの子で、かつ当代唯一の男子だったからだ。
出生直後、生母から引き剥がされ本家で育てられたが、彼の言う〈素敵な御本家の御母様〉は、彼をSin〈原罪〉と名付けた。
後は推して知るべし。
できたら戦死でも事故死でもしてくれればいいのにとばかり、士官学校に入れられた後、彼は開き直ったように自分を〈デューク〉と呼ぶように、友人たちに言った。
「わざわざ顔を見せに来るなんて、どういう風の吹き回し?」
「それなんだか、事業を始めることにした」
「は?」
「率直に言って、人手が欲しい」
「それを元カノに言うのか?」
「いがみ合って別れたわけじゃないだろう」
「だって、あんたと一緒にいたら特殊なドサ回りをしていくことになりそうで」
「よくわかったな。その通りだ。だから俺も無理に追いかけないでいた」
こういうことを淡々と話す。この男は。
「人手って?」
「パイロットだ。MS込み」
「あたしじゃなくてもよくない? 腕なら例えばシイコとかさ」
「スガイなら、死んだ」
「はあ!?」
嘘、魔女なんて呼ばれる手練れだぞあいつ。
「クランバトルという……」
「サイド6の賭けバトルか」
噂なら色々聞いてる。
「そう、MSの頭を取れば勝ちルールに拘らず、執拗に相手の命を取りに行って返り討ちだそうだ。らしくない。動画見るか?」
「今はいい。んでもあいつが……って、まさか相手って〈ガンダム〉か!?」
「〈赤いガンダム〉だ」
「シャア・アズナブル? 今まで何処にいたの?」
「赤い彗星ではないらしい」
「……何それ」
マジか。いやちょっと待て、シイコ子どもいたろ?
……なんだよもう、マジか。
頭を冷やそう,作り置きの水出しコーヒーをグラスに二杯、アイスはたっぷり。ストロー刺してデュークの前にも置く。
「お、ありがとう」
あたしの分は半分一気飲みして一休み。もう一呼吸置いて話を続ける。
「なんか、みょ~ぅな事が起きそうなんだな?」
彼は頷く。
「あんたの奉仕精神が疼いたんだな、あのときみたいに」
あのとき。デュークが〈ペガサスJr.〉の艦長になる経緯だ。
地球連邦宇宙軍のMS開発運用計画は、運用艦ごと、後期試作型MS〈ガンダム〉が鹵獲されたため、変更を余儀なくされた。
連邦軍本部ジャブローはペガサス級強襲揚陸艦2番艦の竣工を前倒しして、当初の艦名を改め、〈ペガサスJr.〉とした。
乗組員は1番艦〈ペガサス〉に合流予定だった慣熟訓練部隊を含め再編成し配属されたが、問題は指揮系統にあった。
パオロ・カシアス中佐に続く〈ペガサス〉級艦長は、ルナツーのリード中佐に内定していたが、彼はガンダム奪還作戦に失敗し席が空いた。
そこに急遽お出しされたのが、ジオンのみならずスペースノイドへの敵愾心半端ない派閥のヤツだった。
名前は忘れたが、威勢はピカイチなのは覚えている。
ソイツは初っ端からやらかした。
戦闘時発着艦訓練で、MSと戦闘機の塩梅がわからず損害を出したのだ。
事故後の混乱を収められず、パニックに陥り自己保身に走ったこの艦長と幕僚を、サボタージュの疑いを掛け拘束し、その場を立て直したのがデュークことジェイクフォード少佐だ。
後でわかった事だが、ソイツはこれ以前に、ジオン反攻に用いられるはずだった大型レールガン施設を下手な指揮で潰した前科があったらしい。
デュークはそれも知っていたのだとか。
ジェイクフォード少佐は暫定的な艦長のはずだったが、なし崩しに新たな部隊名が与えられ、各地で慣熟訓練のノウハウをバラ撒きながらドサ回りすることとなった。
第13独立戦隊の誕生である。
休戦までの何ヶ月か、それはそれは、それはそれは素敵な世界一周旅行をしたと思う。
しかも奇跡的に、あのソロモン落としのときを除き、部隊損耗はほぼなかった。
前に職場に、戦史系の学者で副業に来てるのがいたから、このくだりをうまいこと機密条項を省いて話したら、一言言われた。
『……〈ユキカゼ〉かよ』
『何それ?』
そういう意味では、あたしたちは運が良かったと言える。
だがお分かりだろう、デュークは、この男は、巻き込まれ体質ではなく、巻き込まれに行く体質なのだ。
おそらく、幼少期のあれやこれやが、彼になんと言ったか貴族の奉仕精神を、明後日の方向で根付かせたのだ。
「だからか? だから自分を理解しついて行ける人材が要るんだな? ……あ、カイが言ってた同窓会もそれが目的かっ」
「察しが良くて何よりだ」
「イヤだよ、猫いるし」
「ピート」
デュークが唐突に猫を呼ぶ。
さっきまで食後のまどろみの中にいたはずの猫のピートは、そそくさと彼の傍にやって来て、きちんとお座りした。
えっと、こいつ猫だよな?
「元々宇宙育ちだ。船に連れてきていい」
ピートはソロモンの居住区画の奥の方、偉そうな方が住んでたっぽい所に置き去りにされていたのを拾ったのだ。
飼い主に大事にされてたのが判るくらいだったが、連れて行き損なったのだろう。無重量にも慣れてた。
「事業資金は? いくら実家が太いからって、船やらMSやらまでは」
「……実家か、君には言ってなかったが」
「何?」
「休戦後調べてみたら、一族郎等全滅していた」
「えぇ……」
こういうことも、淡々と話す。
「あ、あの素敵な御母様も?」
「素敵な御母様は真っ先にだったそうだ」
「左様でございますか」
「相続した遺産は、処分できるものは現金化して、投資に回した。残りは信頼できる筋に任せた。というわけで、当面問題ない」
残ったコーヒーも飲み干したあたし。
「それで、どうするつもりよ?」
「伝えられた情報によれば、宇宙で何かしら起こるようだが」
「ようだが?」
「それには俺たちは間に合わない」
「間に合わないのかよ」
「その後の状況に対し、動いて欲しいと要望されている」
「何処から?」
「まだ秘密だ。だがまあ、一応信用できる相手だな」
内心では、あたしは頭抱えてる。
「保留させて。よく考えたい」
「構わないよ」
あたしは逃げないと考えたのか、デュークは自分と何人かの近況報告をして、名残り惜しそうでもなく、とりあえず帰って行った。
あたしは、まあとりあえず、状況を伺うとした。
そしたらまあ、サイド6でデカい〈ガンダム〉が暴れて灰色の幽霊に処された。
そして昨夜、月の脇に見えるアレで、デカい事件が起きた。
「しょうがないなぁ」
と、あたしは思った。