最初に何話かワッと上げますが、その後は不定期予定です。
ふ、と意識が覚醒して、周囲の状況を把握する。
俺はスーツに身を包んで、パイプ椅子に座っている。よく見ると、周囲にも同じような人間が何人かいた。これは……どこかの会社の入社式か何かだろうか。
と、いつの間にか正面の方、壇上に立っていた人物が口を開いた。
「――それでは、改めて。弊社、Lobotomy Corpolationへの入社、おめでとうございます!」
うん。
「目覚めた直後に詰んでる……」
両手で顔を覆って天井を見上げてしまった。
周囲からの視線が刺さるが、そんなの知らん。この詰んでる状況にとっては誤差でしかない。
なんだって、不可避でLobotomy入社させられるんだ、俺は……。
***
あれよあれよという間に入社式を終えて、スーツと警棒が支給された。途中であった仕事の説明的にも、どうやら
で、業務開始までしばらく待機命令があった。ようやく落ち着ける。
「……ふぅ。人心地ついたところで、色々確認しとかないとなぁ」
まず、俺は転生者だ。これは間違いない。
この会社。都市という世界における大企業である翼の一角を担うLobotomy Corpolation。ここが、不死身の化け物であるアブノーマリティ、または幻想体からエネルギーを抽出している場所。そしてその目的も、規模も、どんな幻想体が存在しているかも、知っている。
俺が認識している「前世」で散々遊んだからなぁ。
ゲームとして遊ぶ分には楽しい世界だった。恐ろしい怪物たち、次々と吹き飛んで行く職員の命。会社の中で紡がれるストーリーに、頭がおかしくなるかと思うようなマルチタスクを要求してくる管理業務。
害悪にぶち当たった時のイラつきや、強敵相手に繰り返した死に戻り……そして地獄の49日目……。
あえて言おう。死んでも転生したくなかった。
あくまでゲームの中で、かつ管理人としてモニター越しに関わるから楽しめるのであって。不死身の怪物とじかに対面して、いつ死ぬか分かったもんじゃない業務を続けるとか、正気の沙汰ではない。誰が好き好んでこんな世界に転生したがるんだ。
「ふうう……とはいえまだ希望はある……ある筈だ……」
しかし、そう。こんなクソみたいな会社に、半強制的に入社させられてしまったが、希望はある。
まずは一つ、前世の知識だ。
俺は前世で、このゲームをかなりやり込んでいた。やり込まなければロクにクリア出来ない難易度だったのもあるが……どんなアブノーマリティが存在するか、どんな能力でどんな見た目か。そういったデータの類は、ほぼ全部頭に入っている。
この知識があれば、よっぽど運が悪くない限り生き残れる目はある筈だ。アブノーマリティで死亡する原因の半分は、情報が無い故の初見殺しなのだから。ちなみに残り半分はうっかりミス。
次に二つ。どうやら俺が「初期職員」らしいこと。
「現状、他のエージェントの同僚らしき姿は無し。装備もスーツと警棒だけ……既にアブノーマリティが居る気配は無い」
さしものLobotomy Corpolationと言えど、初日から全力で殺しにかかってくるようなことはない。最初の数日は準備期間というか、かなり優しいアブノーマリティが多いのだ。
その上で俺は初期職員……一日目から在籍することになる職員。その分多くのアブノーマリティと関わり、ステータスが強化される。その分強力な装備を回してもらいやすい、かもしれない。
「ま、そこは死亡率とのトレードオフでもあるんだが。ファーストペンギン的な」
まぁ、後から適当に雇用される補充要員より、管理人からの待遇は良くなるだろうポジションだ。
原作知識に、初期職員という立場。この2つがあれば、このL社でも生き残れる……そう思うしかない。
《職員 エイン 業務を開始してください》
「っと、時間か」
機械放送に呼ばれて立ち上がる。エインは俺の名前だ。
……一応、前世だけでない「この世界」での記憶もこの身体にはあるが……L社に採用される人間の過去なんて、まぁ、ロクな物ではない。
俺は俺だ。気にすることもない。
「さ、記念すべき“一日目”を始めようか」
***
『おはようございます!今日から頑張ってくださいね!』
「あー、はい。よろしくお願いします、うす」
……気合を入れて業務を始めようとしたところ、金属製の箱に呼び止められた。
今の俺が所属する「コントロールチーム」のセフィラ……管理統括AIのマルクトだ。立場的には様付けで呼んだ方が良い相手でもある。
ゲームだと「認知フィルター」という物の効果で、この鉄の箱も女性の姿に見えていたんだが。なるほど、職員の立場だと普通にこうやって見えるんだなぁ。
ともあれ、話も終わったみたいので管理業務に移ろう。
「よし、と……ついに来たな」
俺の目の前には、廊下の中に設置された隔離扉。この先にアブノーマリティが収容されており、ここに入ってエネルギーを生産する。
その実態は、不死身の化け物であるアブノーマリティと接触し、奴らの感情から生み出される「エンケファリン」を回収し、精製するワケだが。
初日に収容されているのは「たった一つの罪と何百もの善」というアブノーマリティ。これは初日の固定枠であり、大層な名前と巨大なガイコツという見た目とは裏腹に、基本死亡のリスクは0の超安全なアブノーマリティだ。
そんなチュートリアルキャラ、人類の味方、皆大好き罪善さんが相手なら、落ち着いて会話しているだけで問題はない。そう思うと、初日だと言うのに随分心は気楽である。
けれどまぁ腐ってもアブノーマリティ。初日なのだし油断はせず、しっかりと業務をしよう。そう思って、扉を開いた。
扉を開いた先に佇んでいたのは、十字架に埋め込まれた光を放つ巨大なガイコツ――などではなく。
「――!」
こちらを認識し、顔を上げたのは。
シロツメクサのような小さな花畑の中央に鎮座する、全身が植物の蔓と白い花で作られた、とめどなく涙を流し続ける上半身だけの少女だった。
「……誰ぇ????」
*1日目収容アブノーマリティ
*『O-01-311n』
*情報 …… 不明
【彼らを守るため、永遠にここに居続けることを選びました】