「ったくさぁ、声のかけ方ってもんがさぁ」
「んふふ。はいはい、悪かったですから、準備しないとダメですよ? エインせんぱーい」
「おっまえ、どの口で……!!」
一夜明け、朝食を摂りつつ二日目の業務準備を始める。と同時に、昨晩のことで金髪性悪女……ノルンと舌戦を繰り広げていた。
二日目から雇用された職員として寮に来たところ、俺を見かけたのでこれ幸いと脅かしてきたのだ。
いや本当に、一人だと思っていた意識の隙間へ差し込むように声を掛けて来た辺り、本当にノルンは性格が悪い。俺は予想外ってのが苦手なのだ。本当に苦手なのだ。『花守り』相手にビビってたくらいには。
「ま、まぁまぁ。お二人ともその辺で……業務の準備もしないと……」
そうしていた所、緑髪の頼りなさげな男……コートニーだったか。もう一人の新しい同僚が宥めにきた。
が、そんなものでは収まるはずもなく。
「いぃーや、コートニー。お前はコイツのことを知らないからそんな気楽なことが言えるんだぞ」
「えぇー?そんなに私のこと知ってくれてるんですか?」
「あぁ、よく知ってるぜ。お前の性格の悪さをよぉ!」
アイアンクローをかけるべく掴みかかるものの、ひらりと躱されてしまう。
「避けんな!!」
「きゃー♪」
「あぅあぅ……え、エインさん、ノルンさん……」
その後、マルクトがやって来て怒られるまで騒ぎ続けてたのだった。
***
「はぁ……ま、こっからは業務だ。やることも多いし真面目に行くぞ」
結局ノルンに灸を据えてやることは出来ないまま時間が来てしまった。それでもまぁ、いざ業務となれば真面目に話を聞き始めたのでよしとする。
「現状収容されているのはO-01-311n『花守り』。昨日の記録や管理情報はこっちにまとめてあるから確認しとくように。業務時は放送やインカムから……」
「はいはーい。質問いーい?」
と、説明を進めていたところノルンが手を挙げる。
「なんだよ、まだ説明の途中だぞ……まぁ、言ってみろ」
「ありがと。えーと、昨日収容された子については分かってるみたいだけど……今日新しく来たのって、情報ないの?」
「あ、そこは僕も気になっていました。その、せめて外見や簡単な性質くらいは……」
ふむ。どうもこいつらは、新しいアブノーマリティの情報が無いことを不思議がっているようだ。
「残念な話だが、一切ない。分かってるのは分類番号だけだな」
「えぇー。そんなのアリ?」
ふるふると首を振ってやる。ノルンもコートニーもがっくりと肩を落とした。
「アリなんだよ、残念ながら。ついでに言うと、たとえ相手が危険な能力を持っていようと、それを事前に知る手段は無い。俺らが自分の身体で調べるしかないってこったな」
「……思ってたより酷い仕事なんじゃ、これ……」
「辛かったら教育部門、ホドのカウンセリングでも受けると良い。悪化したって知らんがな」
「あっはっは。ちょっと後悔してきたかも」
二人揃って遠い目をし始めた。が、泣き言なんて言ってられないのが
「ま、お前らはまず『花守り』の担当だから安心しとけ。ファーストペンギンはしばらく俺の仕事だろうな……」
「し、死なないでくださいね、エインさん」
「死ぬ気はねぇよ。……さて、そんじゃ」
《業務開始時刻です 職員たちは作業を開始してください》
無機質なアナウンスが流れる。仕事の時間だ。
「今日からよろしく、
***
「ここが新規の収容室だな」
昨日とは違う収容室の前へと立つ。書かれている分類番号は「O-05-323n」だった。
「区分が
うだうだと悩んでいても仕方がない。意を決して、隔離扉を開いて中へ入った。
収容室の中に居た……いや「在った」のは、無機質な金属で作られた収容房と不釣り合いな、古い木製の看板だった。
経年劣化による変色か、元からそういう色だったのか。黒色の木材で組まれた頑丈そうな看板であり、何かの道案内用かのように見える。
しかし、その表面には僅かに白いペンキの痕跡が残っているだけで、何が書かれていたのかは全く読み取れない。
「なん……なんだこれ。どう作業すりゃ良いんだ」
困った。困ったので、手元にある持ち込んだ資料に目を落とした。
と、その時。視界の端で看板に変化があったように見えた。
「ん……?」
思わず顔を上げて、看板の方を確認する。
そこには――さっきまで確実になかった筈の白いペンキで、文字が書かれていた。
『Repair』と、そう命じるように書かれた文字を前に。
俺の足と身体は、吸い込まれるように、看板へと近付いていった。
*二日目収容アブノーマリティ
*『O-05-323n』
*情報 …… 未詳
【ふと考えが浮かんだ。この文字を書き換えたら、奴らはどうしてしまうのだろう】