マキマVS藍染惣右介VS羂索 作:夢女
俺は、この世界に転生した時点で理解していた。今回の人生も、きっと平穏では終わらない。
「……悪魔だけじゃなくて、虚までいるのかよ」
この世界は、いつだって理不尽だった。
人間の恐怖から生まれる悪魔。
人の負の感情から生まれる怪物。
歴史の裏側で蠢く組織。そして、本来なら存在しないはずの異物。
世界というものは、完成された箱庭ではない。誰かが作った法則の上に成り立っているように見えて、実際には無数の矛盾を抱えながら、それでも壊れないように均衡を保っているだけだ。
俺は一人、帰路についていた。
依頼帰りだった。個人契約のデビルハンター。公安には所属していない。組織の命令ではなく、自分自身の判断で動く。
それが今の俺の立場だ。理由は単純。俺は誰かの駒になるために、この人生を選んだわけではない。
第一の人生:現実世界で生きた記憶。
第二の人生:PSYREN世界で、多くの犠牲と未来を見た経験。
第三の人生:今生きているチェンソーマン世界。
二度目の人生で得たものは、力だけじゃない。経験だった。失敗だった。後悔だった。もう一度選び直すための意思だった。
だから俺は知っている。力を持った人間は、必ず選択を迫られる。守るのか、利用するのか、見捨てるのか、世界を救うと言いながら、目の前の一人を切り捨てるのか。
英雄とは万能の存在ではない。全てを救える神ではない。だからこそ、人間なのだ。限界を理解した上で、それでも手を伸ばす。その行為こそが、人間性なのだと思う。
――だから。
俺は、その音を聞いた瞬間、足を止めた。
爆発音。
夜の静寂を切り裂く、異常な轟音。普通なら悪魔同士の戦闘だと思う。この世界では珍しくない、けれど。
「……違う」
感じる気配が違った。悪魔ではない。呪霊とも違う。鬼でもない。もっと異質。魂そのものへ干渉するような、不気味な存在感。
俺は屋根の上へ跳ぶ。そして見た。
少女がいた。白い肌。紫かがった黒い髪。傷だらけの身体。その少女を追い詰める存在。
巨大な身体。
白い仮面。
胸元に空いた穴。人間の形をしているのに、人間とは決定的に違う。
虚だ。死した魂が変質した怪物。この世界に流入した異世界の存在。
少女は爆発を起こしていた。
炎と衝撃。それによってもたらされる破壊。普通の人間なら一撃で消し飛ぶ威力だが、しかし。
「効いてない……?」
虚は止まらない。爆炎を浴びながら、ただ歩いてくる。少女の攻撃は強力だった。けれど、相手が悪かった。爆発は肉体を破壊する。だが虚は魂に干渉する存在なので、物理的な破壊だけでは届かない。
魂を知覚して、触れる霊力がないければ無意味に終わる。
「……なるほど」
俺は理解する。
彼女は強い。
間違いなく強者側だ。でも、相性という壁には勝てない。どれだけ鋭い刃でも、切れないものは存在する。
力とは万能ではない。それを理解している人間ほど、強さの本質へ近づく。少女は必死だった。逃げながら、戦いながら、生きようとしていた。
その姿を見て、俺は一つの事実を想う。
彼女は殺しに来ているんじゃなく、生き残ろうとしているだけだ。
「……」
一瞬だけ迷った。
この世界には危険な存在が多い。関われば面倒になる。相手の正体も分からない。でも、そんな理由で見捨てるなら、俺がこの力を持っている意味は何だ?
力は責任ではない。
力は選択肢だ。そして選択した後に責任が生じる。断じて逆ではない。その選択肢を持っている人間が、目の前で助けられる命を見捨てる。
それは俺自身が許せなかった。
「悪いけど」
俺は屋根から飛び降りる。
「そこまでだ」
少女と虚の間へ着地すると、驚いた顔をする。
「……誰?」
その問いには答えない。
視線は目の前の怪物へ向ける。敵意。殺意。魂を喰らおうとする異質な存在。ならば、やることは決まっている。
「ライズ」
身体能力を強化する。
世界の情報が鮮明になる。音。速度。筋肉の動き。全てが理解できる。これは第二の人生で手に入れた力であり、俺が積み重ねてきた経験の証明だ。
虚が腕を振るう。巨大な一撃。普通なら避けるだけで精一杯。でも俺は知っている。強敵と戦う時、一番重要なのは力の差ではない。
相手を理解することだ。
拳を握る。
狙うのは仮面。
未知の存在だろうと必ず核がある。
完全な怪物など存在しない。
どんな存在にも弱点がある。
「――砕けろ」
拳を放つ。
黒い衝撃が走る。次の瞬間、虚の仮面が砕けた。巨大な身体が崩れ、霧のように消えていく。
静寂。残ったのは、倒れた少女と俺だけだった。
「……助かった……?」
少女が呟く。
俺は彼女を見る。
傷だらけ。疲労。警戒。そして隠された孤独。人間は時々、仮面を被る。強がり。笑顔。嘘。でも、どれだけ完璧な仮面でも、その奥にある感情まで消すことはできない。
俺は手を差し出す。
「立てるか?」
少女は俺の手を見る。
警戒している。当然だ。この世界では、善意ですら疑わなければ生きられない。
それでも、俺は手を引かなかった。
「……名前は?」
少女が俺に聞く。
「夜科アゲハ」
「夜科……アゲハ」
彼女は小さく繰り返す。
その瞬間だった。
「いやぁ……面白いものを見せてもらった」
背後から声が響いた。
振り返る。
五条袈裟。頭部に走る縫い目。笑みを浮かべる男。
その姿を見た瞬間、こいつはただ者じゃないと思った。そして同時に、俺の知識が、一つの名前を引き出した。
「……羂索」
男は笑う。
「やはり知っているか」
互いの視線が交差する。そして、俺たちは同時に口を開いた。
「お前は」
「君は」
「「憑依転生者」」