前回、前々回に比べると少し短めです。
咲夜さんに関する話は次は、その次で終わる予定。
あくまで予定。
外側に比べて小屋の中は綺麗だった。
床には絨毯が敷かれているが、壁にはカーテンしかない。
おそらく外の世界にいた頃の物だろう。
「はい、麦茶」
「ありがとうございます」
ガラスのコップが2つテーブルに置かれた。
どこにでも売っている様な普通にコップだ。
紅魔館と比べると随分と質素な部屋だった。
「レミリア嬢ちゃんの屋敷と比べると随分貧乏でしょ?
私って吸血鬼の中でも『変わり者』なんだってさ。
吸血鬼自体が悪魔の中でもかなり上位の存在だからね、プライド高くていい恰好したいのが
多いんだよ、だからお高い家や、家具を欲しがる。
家なんてそこそこ快適に住めれば十分だろうにね、金持ちの考えることは分からないね?」
麦茶を飲みながら、シェルリオは笑っていた。
「話が脱線してしまったね、聞きたいのは咲夜ちゃんのことだったね、
こうなったら仕方がない。隠すようなことでもないし、話してあげよう」
・・・・・・・・・
シェルリオは語る。
「私がレミリア嬢ちゃんに招待されたのは今から大体3週間程前のことだったかな?
咲夜ちゃんと会ったのもその時だね、仕事を完璧にこなしていたよ。
完璧に仕事をこなして、こなし続けて、肉体と精神が疲弊していた。
どれだけ彼女が有能で完璧だとしても、彼女は人間だ。
人間1人にできることには限りがある、咲夜ちゃんにあの仕事量は正直酷だよ。
それを彼女は時間を操る能力を使って人間以上のことを完璧にこなし続けている。
だから肉体にも精神にも相当な負担がかかる。
負担のかかった身体をそのままにしておくからストレスがたまる。
その溜まったストレスを発散させるために咲夜ちゃんの中には破壊衝動が生まれてしまった。
君が聞きたかったのは咲夜ちゃんのことじゃなくて咲夜ちゃんの破壊衝動についてだしょう?
なんで分かるかって?
そりゃあ、咲夜ちゃんに破壊衝動が生まれた原因はある意味私みたいなものだからねえ。
私が持っている能力、幻想郷風に言うなら『数を操る程度の能力』っていうのかな?
私はこの世に存在する『数』に干渉することが出来る。
年齢、身長、体重、物の個数から人の数まで、『数』で表せるものなら
私の能力でその数字を変動させることが出来る。
まあ、私自身が未熟だから言うほど大それたことは本当は出来ないんだけどね。
私はストレスを溜め続けながらも真面目で完璧であり続ける咲夜ちゃんのために、
ストレス発散用の人格をこっそりプレゼントしてあげたんだ。
私の能力で咲夜ちゃんの人格を増やし、咲夜ちゃんを二重人格にしたのさ。
咲夜ちゃん本来の人格がストレスを溜め続けるなら、
別の人格がそのストレスを発散してやればいいって考えた。
私が勝手にやったただの親切のつもりだったんだけど、
世の中はそう上手くいかないものだね。
次にレミリア嬢ちゃんに屋敷呼ばれた時、今から1週間位前かな?
私が紅魔館で見たものは何も変わらない、初めて会った日と同じ咲夜ちゃんの姿だった。
変わらず真面目で、変わらず完璧で、変わらずストレスを溜め続ける。
ストレスの発散なんて全然しない、それどころか私の増やした人格は全く機能していなかった。
彼女の人格は増えた瞬間から1回も交代していない。
自身が多重人格者であることを知らない人間はいるけれども、
人格の変わらない多重人格者なんて初めて見たよ。
だけど、原因は分かった。
彼女の完璧であり続けようとする意志が人格の交代を許さなかったんだ。
彼女は自身のもう1つの人格には気付いていなかったけど、無意識の内に
もう1つの人格を抑え込んでしまったのだろうね。
そうなってしまっては私に出来ることなんてなかった。
彼女の意思を超える人格は作れない。
私に出来るのは人格の数を増やすことだけ。彼女の意思の強弱は操れない。
思いの強さは数字じゃ表せないからね。
まあ、でも、破壊衝動が本来の人格に生まれ始めたってことは、
私が増やした人格のストレス発散しようとする思いが少なからず影響を与えたのかな?
そうだとすれば、少しはあの人格も役に立ったと思ってもいいのかな?
実際の所は分からないけどね、交代しないともう1つの人格の性格も分からないし。
だけど、思うだけなら自由だよね?」
・・・・・・・・・
「あ、お帰りなさい。シェルリオさんには会えました?」
「ええ、なんとか」
想夢がシェルリオの小屋から紅魔館に帰って来るころには夕方になっていた。
門の所で美鈴に声をかけられた。
「変わった雰囲気の方だったでしょう?お嬢様やフラン様とはまた違った感じの
吸血鬼ですよね?」
「ええ、ですがレミリアさんもシェルリオさんもどちらも友好的でよかったです」
「フフ、お嬢様、昔はそうでもなかったんですよ?」
「そうなんですか?」
「ええ、人間は脆弱だって見下してましたね。認めていたのは咲夜さんだけでしたね。
幻想郷に来て異変を起こして異変解決に来た霊夢さんとの勝負に負けて、
それから人間もなかなかどうしてやるもんだと、認識を改めたってカンジですね」
「へえ・・・あ、そうだ美鈴さん、咲夜さんって今どこにいるかわかりますか?」
「咲夜さんですか?今の時間なら・・・」
「お呼びでしょうか?」
気が付いたら目の前に咲夜がいた。
「あ、咲夜さん」
「あ!咲夜さん!」
想夢は2度目ということもあり、なんとか対応できた。
美鈴は口ぶりからして慣れているのだろう。
「夕食がもうすぐできますので食堂にお集まりください。ほら、美鈴も」
3人で食堂に向かう途中、想夢は咲夜の隣で美鈴には聞こえないように、
「夕食の後に昨日の返事をします」と囁いた。
「分かりました。それでは、昨日と同じ部屋でお待ちしております」
夕食は特に問題なく済んだ。
それぞれがそれぞれの場所へ戻る。
想夢も咲夜の待つ部屋に行こうとしたが、
「想夢」
レミリアに呼び止められた。
「シェルリオには会えたようだけど、咲夜について何か分かった?」
「ええ、情報は手に入れました。それについて、レミリアさんにお願いがあります」
「何かしら?言ってみなさい?」
一呼吸置いて想夢は告げる。
「理由を聞かずに、咲夜さんに関しては僕1人に任せてもらえませんか?」
「いいわよ」
「・・・随分あっさり承諾しますね」
「正直に言って、貴方を信じろって言われたらそれはちょっと無理ね。
まだ会って数日しか経ってないし、貴方の内側は何も分からないままだもの。
貴方個人を信じることはできないわ」
想夢としても予想はしていた。
レミリアに頼まれて始めたことだが、それはレミリアが予想外の一手を欲したからだ。
決して想夢を信用しているわけでも信頼しているわけでもない。
しかし、そう言う割にはレミリアの表情は優しい。
「だけど、博麗の巫女としての貴方なら信用できる。
霊夢との勝負に負けてから人間にも骨のあるヤツはいるって分かったからね、
霊夢と同じ博麗の巫女である貴方なら任せても大丈夫だと思ってる。
だから、思いっきりやってきなさい」
レミリアは笑っていた。
霊夢と博麗の巫女という肩書きに助けられた感じだ。
それだけ、霊夢が博麗の巫女としてやってきたことは大きいのだろう。
「ありがとうございます。それでは」
想夢が食堂から出て行った後、レミリアは1人ぽつんと食堂の椅子に座り続けていた。
「それに、咲夜もなんだか話したくなさそうだったしね・・・
あの子が想夢に頼んだのなら私が手を出すわけにはいかないわ。
想夢、失敗したら・・・分かってるわよね?」
・・・・・・・・・
地下の一室。
そこには想夢と咲夜しかいない。
「それでは、早速ですがお返事をお聞かせください」
「ええ、やらせていただきます」
「そうですか、よかった・・・」
想夢の言葉を聞いて咲夜はホッとしたようだった。
「ですが、僕のやり方でやらせてもらいます。
とりあえず、動き回れるような広い場所はありませんか?」
「それでしたら屋上に向かいましょう」
紅魔館屋上。
夜になり、辺りは暗くなっているが、紅魔館の赤色と月の光で周りがよく見える。
咲夜に自分の破壊衝動を殺してほしいと言われた時、想夢はあまり乗り気ではなかった。
それでもとりあえず原因だけでも調べておこうとした。
そしてシェルリオという吸血鬼に辿り着いた。
シェルリオの小屋から帰る時、彼女は想夢に言った。
「相手にしなきゃいけないのは咲夜ちゃんの破壊衝動だけど、本当に取り除かなきゃなのは
咲夜ちゃんのストレスだ。
雰囲気に流されないで、やり方はいくらでもあるさ。
君がやりたいようにやってみればいいよ」
だから想夢は決めた。
自分にもできそうだと思う方法をとることにした。
そもそも想夢が乗り気でなかったのは、たとえ心と言われても「殺す」など
とても自分には出来るわけがないと思っていたからだ。
「咲夜さん、
最初に言っておきますが、今からやる方法に『肯定』以外の返事はいりません」
「・・・」
咲夜は答えない。
「今から僕と戦ってもらいます。
咲夜さんは破壊衝動のままに、自由に、好きなように暴れて下さい」
「!・・・」
咲夜は一瞬驚いたようだが、やはり何も答えない。
代わりにナイフを構える。
どうやら肯定してくれたようだ。
「まあ、一応博麗の巫女なんだし、異変解決は仕事としてやらなくちゃかな・・・?」
誰にも聞こえない小声で、想夢は呟いた。
次回はバトルシーンっがあります。
正直、自身がない・・・
不安でいっぱいです。
私の努力は報われるのか?