肩の力を抜いてゆるーくお読みください。
15・日常と心情
「神や妖怪は人間とは違い存在が肉体よりも精神に依存している。
だけど、人間も案外精神に依存しているものだとは思わないかしら?」
夢を見ていた。
神社の石の床の上に立って、想夢は目の前の女性の話を聞いていた。
「よくアニメとかで『お前に俺の何が分かる!?』とか『知った風な口をきくな!』ってセリフ、
聞いたことがない?
私はね、こう思うの。自分のことを1番知っているのは自分ではなくその周りにいる人だって。
『知った風な口を聞くな』って言ってるキャラクターも大抵は主人公やその仲間の
よく分からない根性論みたいなセリフで絆されちゃうしね。
人の言葉で自己なんてモノはあっさり変化してしまう。
そこは、人間も妖怪も一緒だと思わない?
神や妖怪は、自身の存在を信じてくれる人がいないと存在を保てない。
人間も、自分を理解してくれる人がいないと本当の意味で自分を保つことはできない。
相手に『自分』というものを理解させることで初めて、自分という存在は生まれるの。
誰にも理解されないのは存在していないのと一緒よ。
寂しい話だけどね」
女性は笑っていた。笑いながら、言った。
「だから、貴方だけは覚えていてね?私も、貴方のことは絶対に忘れないから。
たとえ、いつか会えなくなったとしても」
・・・・・・・・・
想夢が紅魔館から帰って来てから2日経った。
「・・・きろー・・・ろーって!」
声が聞こえる。
想夢が目を覚ますと視界に金髪の少女の顔が映った。
「お、やっと起きたか」
少女はニカッと笑った。たしか、初めて幻想郷に来た日に会っているハズだ。
名前は確か・・・
「・・・魔法少女まどか☆マリサ?」
「やめろ!なんだかよく分からんがすごくパチモン臭い響きがする!
霧雨魔理沙だ霧雨魔理沙!リピートアフターミー!?」
「落ち着け、アホみたいな面が台無しだ」
「誰がアホみたいな面だ!?そこはお世辞でもいいから可愛いって言えよ!」
魔理沙は想夢の胸倉を掴んでガクガク揺らしてくる。
彼女はツッコミキャラなんだろうか?慣れてると言わんばかりにツッコミを入れてくる。
そもそも自分はこんなボケをするキャラだっただろうか?
あれ?自分って何だっけ?うーむ・・・哲学。
まあいい、とにかく話を元に戻そう。
「それで、魔理沙だっけ?何の用だ?」
「うぉ、いきなり素に戻るな・・・
んじゃあ要件を話させてもらうけど、今夜この博麗神社で『闇鍋』を行う」
「闇鍋?」
「おう、幻想入りした外来人が良い奴だって分かったら私は闇鍋を開くことにしていてな。
まあ、想夢の場合外来人ではない気もするが別にいいだろう。
各々が闇鍋に使う具を1種類ずつ持ってくるルールになっているからな、
想夢も何でもいいから材料を用意してくれ。
無理にネタに走る必要はないからなー、変なモン入れた方が闇鍋としては
面白くなりそうだけどな。
そんじゃ、伝えたぜー!」
そう言うと、魔理沙は部屋から出て行った。
「あら魔理沙、もう行くの?」
「おう霊夢、闇鍋のメンバーを集めないといけないからな!」
「そう、頑張ってきなさい・・・魔法少女まどか☆マリサ・・・プックク・・・」
「お前もかよ!?さっき魔理沙って普通に言ったじゃん!?
っつーか聞いてたのかさっきの会話!?」
という声が外から聞こえてきたが気にしないでおくことにした。
・・・・・・・・・
「闇鍋、闇鍋・・・さてどうしようか?」
想夢は闇鍋の材料を探しに人里に来ていた。
気分としては、忘年会の1発芸の内容を考えるアレに近い。
幻想郷に来てまだそれほど時間が経っているわけでもないので、幻想郷特有の珍味などを
探すなんてマネはできない。
むしろ、変な材料を入れて食中毒でも起こされたら一大事だ。
「・・・無難に野菜でも買うか」
考えた結果、出た結論まで忘年会チックになってしまった。
とりあえず簡単な手品にでもするか的なアレである。
「すいませーん!」
「はいよ、あら、想夢ちゃんじゃない、今日はどうしたの?」
野菜を買うために八百屋へ向かった。
八百屋を営んでいるのは高齢の女性で、人里の皆からは「八百屋のおばあちゃん」と
親しまれている。
誰にでも「ちゃん」をつけて呼ぶらしく、以前、八雲紫を「紫ちゃん」と呼んでいるのを
見かけた。本人は「もうちゃん付けで呼ばれるような歳じゃない」と言っていながらも、
まんざらでもなさそうだったのを覚えている。
「今日の晩御飯、鍋にしようと思ってるんですが何かオススメあります?」
「そうねえ、今日は白菜とネギが安くてオススメだよ」
「じゃあ、白菜1つ下さい」
「はい、ありがとうねえ」
結局無難に白菜ですますことにした。
・・・・・・・・・
さて、買い物もすませたし、少しブラブラしてから帰ろう。
想夢がそんなことを考えていた時だった。
「あ、想夢さーん!」
どこかで聞いたような声がする。
想夢が振り向くと、そこには稗田阿求が笑顔でこちらに手を振っていた。
「なるほど、あの男が阿求の言っていた・・・」
阿求の隣には青い服の見知らぬ女性が立っていた。
「お久しぶりです!お元気ですか?」
「ああ、まあまあ元気だよ。それで、そちらは?」
「初めまして、私は
貴方のことは阿求から聞いています。どうぞこれからよろしくお願いします」
「これはご丁寧にどうも、こちらこそ新参者ではありますがよろしくお願いします」
なんというか、身が引き締まる。
咲夜以上の丁寧さを慧音から感じた。真面目ちゃんなんだろうか?
「ところで、つかぬ事をお聞きしますが想夢さん、お歳は?」
「歳ですか?22ですけど?」
聞かれなかったから誰にも言っていなかったが、実はもう成人している。
故に、能力の影響とはいえ、博麗の巫女服姿は若干恥ずかしかったりするのだ。
「22ですか・・・外の世界ではもう成人していますね。ならば都合がいいです。
想夢さん、もしよろしければ寺子屋で教師のアルバイトをしてみませんか?」
「教師って・・・会ったばかりの僕なんかで大丈夫なんですか?
それに僕教員免許なんて持ってませんけど・・・」
「そこは問題ありません、最初の挨拶で貴方が真面目な人物であろうことは分かりましたし、
ここは外の世界ではなく幻想郷ですので、ちゃんと教えられれば免許は要りません」
「な、なるほど・・・」
幻想郷というのはわりと文化的には緩い世界なのかもしれない。
よくよく考えたら霊夢も酒を飲んでいたような気がする。
「それじゃあ、立話もなんですし、そこの茶屋に入りましょう!」
阿求が提案する。
それから、慧音のアルバイトの話や、阿求の幻想郷での常識の話などを聞いて過ごした。
途中で昔の幻想郷について聞かれたので、レミリアの時と同じく「よく覚えていない」で
押し通した。
考えてみると、自分が3代目博麗の巫女「博麗想夢」であることを幻想郷の住人に
信じさせる材料が「自身の能力」と「八雲紫の証言」しかないことに気付いた。
幻想郷に来てから、特に事件を起こしているわけではないが、問題は山積みだった。
・・・・・・・・・
「おう、想夢遅かったな、メンバーは想夢で最後だぜ?」
想夢が博麗神社に戻ると、魔理沙が声をかけてきた。
魔理沙と霊夢の他に3人の人の姿が見える。
その内2人は霊夢と話しており、1人は・・・
「あら、想夢様」
「咲夜さん、こんにちは」
3人の内の1人、咲夜がこちらにやって来た。
「今日はお嬢様に休暇を頂いてこちらに来たんです。闇鍋では調理を担当しますので、
他の人に材料がバレてはいけませんから、あとで材料を私にこっそり渡してください」
「分かりました。ところで咲夜さん、今日は紅魔館の客人としているわけではないので
『様』をつけるのはやめませんか?なんか小恥ずかしくて・・・」
「フフ、そうですね、では『想夢さん』で」
そう言って咲夜はクスクス笑っていた。
「お?おお!アンタが想夢かあ、霊夢から話はきいてるよん」
気が付くとすぐ側に頭から2本の角を生やした、酔っぱらった少女がいた。
さっきまで霊夢と話していたと思ったが、いつの間にこっちに来たのだろう?
「私の名前は
「博麗想夢だ。よろしく」
「おう、よろしくなー」
至って普通の自己紹介。
それをこうも何度も続けていると、クラスの生徒1人1人に挨拶して回る転校生のようだ。
そんな酔狂な転校生などいないだろうが。
「では、ついでに私のことも知ってもらいましょう」
背中から黒い翼を生やした少女がこちらにやって来る。
「私、烏天狗の新聞記者、
私の書いている
「あー、博麗想夢です。よろしくお願いします」
「はいこちらこそ。近い内取材に伺いたいのでその時はお願いしますね?
っと堅苦しい会話はここまでにしましょう。今日は闇鍋なんだし、
実際に楽しめるかどうかは別として、テンションは上げていきましょう?」
自己紹介を済ませると、文の口調は砕けたものとなった。
「そろそろ始めるわよー!?」
霊夢が皆に呼びかける。
さて、闇鍋の始まりだ。
・・・・・・・・・
扉を閉め、灯りも最低限しかない。
意外にも、博麗神社にあったのはIHの小さなクッキングヒーターだった。
霊夢によると、紫からのプレゼントだとか。
テーブルの上には全員分の受皿と何種類かのタレがある。
「正直、これを出すのは気が引けるというか・・・」
「何よ、そんなにヤバいものでも入ってるの?」
咲夜の言葉に霊夢が反応する。
「いえ、食べるのに問題はないんだけど・・・」
「ならいいじゃない、とりあえず私から時計回りの順で食べていきましょ?」
暗い部屋で鍋の中身もよく分からない中、霊夢が最初の一口を食べる。
「・・・普通に美味しいじゃない」
霊夢に続くように魔理沙、萃香、文、想夢、咲夜と食べ進めるが特におかしなものは
入っていないようだ。
「・・・おかしい、おかしいぜ・・・」
闇鍋を3週したあたりで魔理沙が呟く。
「流石にこんだけ食べて何のリアクションもないのはおかしいぜ、
咲夜、そろそろ鍋の具材のネタばらしをしてくれないか?
この中で鍋の中身を知っているのは調理した咲夜だけだし」
「分かったわ」
そして咲夜は一息入れて、口を開いた。
「豆腐、白菜、ネギ、白滝、えのきの5つ」
部屋の中がしんとして、突如魔理沙が、
「すき焼きの具材かよ!?」
と叫んだ。
部屋の電気をつけると、鍋の中には量が半分程減った豆腐、白菜、ネギ、白滝、えのき・・・
「なんでだよ!?なんで全員無難に終わらせようとしてんの!?
なんで全員で示し合せたかのようにすき焼きにしようとしてんの!?
こんなの闇鍋じゃねーよ!ただの鍋パーティーだよ!
っつーかそれなら誰か1人ぐらい肉持って来てもよかったじゃん!?
なんで皆して空気読んでヘルシー路線で行こうとしてんの!?」
魔理沙がツッコミを入れる。
よくそんな長いツッコミを噛まずに言えるなと、想夢は感心していた。
叫ぶ魔理沙を萃香が落ち着かせる。
「まあまあ落ち着こうよ、魔法少女まどか☆マリサ」
「何でアンタまでその名前知ってんだ!?」
落ち着かせるどころか漫才が始まってしまった。
こうして、闇鍋はただの鍋パーティーへと姿を変える形で、終わりを告げたのだった。
・・・・・・・・・
夜、枯山水の庭園が見える屋敷の縁側で紫は話をしていた。
「今日、博麗神社で闇鍋をしたらしいわ」
「あらひどい、そんな楽しそうなイベントがあったなら私も参加したかったわあ」
紫と話しているのは、水色の着物に身を包んだ女性だった。
「貴方が参加したら鍋の中身が足りなくなってしまうわよ」
「フフ、それもそうねえ」
女性は月を見上げていた。
満月でもなければ三日月でもない。なんとも中途半端な形の月であったが、
女性は薄ら笑いを浮かべながら、縁側に用意した酒をチビチビと飲んでいた。
「ところで紫、その闇鍋には噂の彼も?」
「ええ、魔理沙が幻想入りした人相手によくやるアレだから」
「ああ、アレね・・・フフ」
「・・・どうしたの?」
さっきから笑い続けている女性を不審に思った紫が問いかける。
「ええ、ちょっとね」
女性は笑っている。
「噂の彼に会いたくなっちゃった」
そう言ってフフッと無邪気な子供のように笑う女性が何を思っているのか、
紫には分からなかった。