なんだか奇妙な話に仕上がりました。
23・見た目の話、見る目の話
「ねえ想夢、アンタ女装に興味ない?」
「ない」
・・・・・・・・・
想夢が幻想郷に来てからもうすぐ1ヶ月になる。
夏の終わりが近づきもうすぐ秋になる。
「なんでいきなり女装の話?」
朝、博麗神社にて霊夢が突然口に出した「女装」の話に対する疑問を想夢は尋ねた。
「想夢は知らないかもしれないけど、1ヶ月後に幻想郷で『文化祭』があるのよ」
「ぶ、文化祭・・・!?」
文化祭。
小学校や中学校、高校で年に1回やるアレだ。
クラスや部活の出し物準備のために日中又は放課後などに頑張るアレだ。
準備期間に異性の生徒となんだか良い雰囲気になるけど、結局ただのクラスメートで
終わってしまうアレだ。
リア充共が馬鹿みたいに騒いだり、デートしたり、
周りからみるとうざったいテンションではしゃぐアレだ。
・・・失礼、口が悪かった。
まあいろいろ変な例えを出したが、文化祭とは本来初等教育、中等教育の正規の教育課程であり、
生徒の出席が義務付けられている。
文化祭もしっかり「授業時数」に含まれているというワケだ。
ちなみに、大学で行う大学祭(又は学園祭)は授業ではなく課外活動として行われるので、
文化祭とは趣旨が違う。
「これまた外から取り入れた文化なんだけどね、まあ夏祭りの秋版とでも思ってくれればいいわ。
といっても、寺子屋じゃ人数が少なすぎるから幻想郷の文化祭は人里全体でやるんだけど。
それに、文化祭には妖怪も参加するわよ。奴ら面白そうなことならすぐに参加したがるから。
文化祭・・・『祭』と聞いたら参加せずにはいられないってね。
春にお花見、夏に夏祭り、秋に文化祭、そして冬は大晦日。これが幻想郷の四大イベントよ!」
「はあ、まあ聞く限りは確かに夏祭りみたいなモノらしいけど、
何か文化祭特有のモノってないの?」
「勿論あるわよ。ちゃんと外の世界の文化祭について調べてあるんだから。
だから文化祭らしい出し物だってちゃんとやるわ」
「例えば?」
「劇とかミスコンとか」
「なるほど、確かに文化祭らしい」
正直、ミスコンは文化祭というよりは前夜祭か後夜祭などで行うモノだと思うが、
そこは深く考えないでおこう。余計なツッコミは無用だ。
「まあ、ミスコンっていっても、参加するのは女じゃくて男だけど」
「待て、待って、いや待ってください」
訂正、ツッコミはやっぱり必要だった。
「ミスコンの『ミス』ってもしかしてミスターのミス!?」
「いやミスはミスよ。ミスターの略ではないわ」
「じゃあなんで男なのさ!?」
「いや文化祭を始めた頃は普通に女のミスコンやってたんだけどね?
幻想郷の女性ってレベル高いのが多いのよ。それも人間妖怪関係なく。
それでやたらと揉めてなかなか優勝が決まらないのよね。
だったらいっそのこと男の女装コンテストにしてしまおう!
それなら笑いもとれるし優勝が誰かで揉めることもないだろうし一石二鳥だ!って」
「いやいやいやいや!その発想はダメだって!
やってみたら思いの外気持ち悪くて『うぇ・・・』ってなるパターンだって!」
「そうは言っても伝統だし・・・」
「伝統って・・・そんなに長くやってんの?」
「男の方は今年で3回目よ」
「全然じゃないか!」
「でも実際アンタなら大丈夫だと思うのよ」
霊夢が真剣な顔で想夢を見る。
そんなことで真剣になられても想夢としては困るのだが。
「普段から優しそうな表情をしているけど目はキリッとしてるし髪も少しハネてるけど
耳が隠れる程度には長め。それでいて肩には届かない。カツラも必要ないわね。
体型もガッシリはしていないから大丈夫。
正直、服装さえ変えれば、美人なアネゴ系・・・両性にモテるタイプの女性にはなるわね」
「全然嬉しくないんですが・・・」
「むしろ女装をした方がモテるかもしれないわ!」
「やめて!その『女装しないからお前はモテないんだよ』みたいなセリフやめて!」
考え込む霊夢に呆れる想夢。
もしかして女装コンテストに出ることはもう決定事項なんだろうか?
気が重くなる・・・。
「ちょっと、出かけてくる・・・」
「分かったわ、こっちも帰って来るまでに何か衣装を準備しておくわ」
決定事項だった。そもそも女装用の服を買いに行くわけじゃねえと言いたかったが、
今の想夢にはそんな気力も湧かなかった。
・・・・・・・・・
「はあ・・・」
神社を出て人里に来る間にいったいどれだけのため息をしただろうか。
自分も戦闘時は見た目をいじっているとはいえ、巫女服を着ているのだから
そこまで恥ずかしがることではないのかもしれないとも考えたが、
そもそも戦闘中だからシリアスな空気だから誰もツッコミなんぞしない。
それが女装コンテストとなればどうだろう。完全にギャグじゃないか。
下手をすれば人間妖怪合わせて不特定多数、幻想郷中に恥をバラまくことになる。
考えれば考える程気が重くなっていく。
「「・・・はあ」」
「・・・む?」
「・・・あれ?」
ため息が重なった。
「佐藤君?」
「想夢さん?」
いつの間にか目の前には佐藤壱人がいた。
壱人とはサイフを拾ってもらったあの日から、時々会うようになった。
約束している訳ではなく、会うのは偶然だが、話していくうちに仲良くなってきたというカンジだ。
「ため息なんてついて、何か悩み事ですか?」
「いやそれは佐藤君も一緒・・・まあいいや。
ちょっと女装コンテストに参加しなきゃならないらしくて・・・」
「ああ、アレですか・・・。想夢さんも参加するんですね・・・」
「・・・『も』?」
「僕も去年参加したんです。周りに『よくよく見てみたらお前可愛い顔してるじゃん!
ちょっと文化祭で女装コンテストに出てみないか!?』って言われて・・・。
最初は断ったんですけど、あまりにも多くの人が僕に参加させようとしてきて・・・
押し切られてしまいました・・・」
「周りって?」
「家のご近所さんは勿論、よく行く茶屋、雑貨屋、貸本屋、蕎麦屋の店員、店主、寺小屋の先生など
それはもういろんな人です」
「うわあ・・・」
予想以上に周りの人が多い。自分以上に悲惨だった。
「しかもあんな結果になったにも関わらず今年も強制参加なんです・・・」
「あ、あんな結果って・・・?」
嫌な予感がする。
「実は、優勝したんです、去年。それもブッチギリで」
その言葉に、想夢は思わず思ったことを正直に言ってしまった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・普通だな」
「そんなに間を置いて言う言葉が普通ってなんですか!?」
壱人が怒る。怒り方も普通だ。
「いや、こう言っちゃアレだけど、ぶっちゃけ佐藤君可愛い顔してるし。
髪もサラサラじゃん?そりゃ周りも勧めるって。
女子の制服着せるだけでハイレベルな女装になるんだもん。男の子が男の娘になるんだもん。
基本的に男が女装なんてしたらギャグになるだけじゃん。
周りだって笑うかドン引きするかどっちかじゃん。
そこに見た目完全に女の子な女装レベルの君を投入してみな?そりゃ普通に優勝するって」
「なにを長々と語ってるんですか!?納得しないでください!」
「いやだってねえ・・・女装コンテストで圧倒的な差をつけて優勝したなんて
本来なら驚くとか爆笑するとかするべき所なんだろうけど、
不思議と君だと『まあ、そうだろうな』って思っちゃうんだよなあ・・・」
実際、佐藤壱人という人間は男でも女でも通用する見た目をしている。
男の制服を着ているから男だと分かるが、これが女の服を着ていたら確実に女と間違う。
「ぐぬぬ・・・そ、それなら!今年はどうなるか分かりませんよ!!」
ビシイッ!!!と、壱人は想夢に向かって指を突きつける。
「想夢さんだって今年は女装コンテストに出るんでしょう!?
だったら想夢さんが優勝する可能性だってあるはずです!!!」
「な、なんだって!?」
想夢が動揺する。壱人の目に強い光が宿る。
「想夢さんだってきっと誰か・・・多分霊夢さんとかに参加を強制されたんでしょう?
『参加しなきゃならないらしい』って言ってましたしね。
それに想夢さんはやたらと僕がどれだけ女装の似合う男かを長々と語っていましたが
それは想夢さんも同じなのでは?想夢さんも言われたんでしょう?
想夢さんがいかに女装の似合う男かを!長々と!語られたのでしょう!?
想夢さんは僕とは違って美人系ですからね。僕とは女装のベクトルが違います!
ならば今年の女装コンテストは結果が分からない!!」
「君はそんなに長々と何を語っているんだ」
自分の言えるセリフではないと思うが、それでも想夢は言っておくべきだと思った。
「「はあ・・・」」
2人同時にため息がでる。どうにかならないものか。
「ようお前ら、どうしたんだ?そんなに貧ぼ・・・辛気臭そうな顔して」
かけられた声に2人が振り向く。
そこには魔理沙がいた。
「・・・今、貧乏臭そうって言おうとしなかった?」
想夢が尋ねる。
「気のせいだぜ」
魔理沙が答える。
「気のせいなら仕方ないですね」
壱人が笑う。
場に妙な空気が流れた。
「ところでもうすぐ文化祭だな!2人は何かの出し物に出るのか?」
「ええ、僕はもう決まってますよ」
「え、だ、出し物?」
魔理沙と壱人の会話に想夢はついていけない。
「あれ、想夢は知らないのか?文化祭で皆が集まって何かいろいろやるんだよ。
例えばほら、あー、マジックとか演奏会とか・・・」
「想夢さんも何かやってみたらどうですか?博麗の巫女には幻想郷を覆う結界の管理があるので
本来は出し物に出演出来ませんが、想夢さんなら結界管理とは無関係ですし」
「そうだ!どうせなら私達の出し物に参加してくれよ!
丁度人手が足りないんだよ!」
魔理沙、壱人、魔理沙の順にまるで畳みかけるように話す。
「待って待って!そんないきなり・・・」
想夢は一瞬、慌てたが、
待てよ?魔理沙と壱人じゃなくて自分が待ってよく考えてみよう。
「ねえ魔理沙、その出し物っていくつも参加できるものなの?」
「いやいや、出し物への参加は1人につき1つまでだぜ?
2つも3つも参加して出し物のクオリティが下がったらいけないからな」
「そうか、なら参加させてもらうよ」
「おお、そっか!助かるぜ!!」
「出し物になんだか興味が湧いてきたしね」
口ではそう言っている想夢だが
心の中は、
(これで魔理沙達の出し物に参加してしまえば僕は女装コンテストに参加しなくてもすむ!!)
といったことを考えていた。
・・・・・・・・・
魔理沙から出し物について教えてもらおうとしたが、文化祭の出し物の内容については
基本的に他の人には秘密らしい。
出し物の内容は同じ出し物に参加しているメンバー内のみで共有する。
見る人の楽しみを奪わないための暗黙のルールというヤツだ。
「ここじゃあ誰が聞いてるか分からないからな、詳しい話は明日にしようぜ」
と言われた。
詳しい話は明日すると魔理沙に言われ、想夢は夕方頃に博麗神社に帰った。
霊夢は本当に女装用の衣装を用意していた。サイズもピッタリだった。どうやって調べた。
そして、夜。
「というワケで魔理沙達の出し物に参加することにしたんだ」
「そう、まあがんばりなさい」
霊夢に報告したが反応が薄い。もっと反対しそうなものだが。
「・・・・・・・・・あの」
「何よ?」
「反対・・・しないの?」
「反対?別にする理由がないわよ」
「いや、ホラ、女装コンテストの方・・・」
「女装コンテスト?ちゃんと参加してもらうけど?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
「随分間を置いたわね。セリフ自体は1文字だけど」
「いやちょっと待って?女装コンテスト、僕参加するの?」
「うん」
「出し物は1人1つまでじゃあ・・・」
「ああ、そういうこと。魔理沙から聞いてないのね」
霊夢がふうっと息を吹く。まるで「やれやれ」と言わんばかりに。
「女装コンテストは例外として他の出し物に参加してる人でも参加可能なのよ」
「えっ」
予想外の言葉だった。
出し物に参加しても女装コンテストには参加しないといけないらしい。
「そんなバカな・・・」
「女装コンテストはほぼぶっつけ本番の出し物だし、
基本的には女装して皆の前でアピールしたり質問に答えるだけだし、
何より参加者が多い方が盛り上がるからね」
もしかして壱人が「出し物はもう決まっている」と言っていたのは
女装コンテストのことではなく何か別の出し物だったのだろうか。
いや、どちらでも想夢にとっては関係のないことか。
どっちにしてもちゃんと文化祭について聞いておくべきだった。
がっくりと項垂れる想夢。
そんな想夢の肩にポンと手を置き、霊夢は笑顔で、
「ま、頑張ってね。魔理沙との出し物も、女装コンテストも、ね?」
とてもイイ笑顔でそう言った。
「マ・・・マジですか・・・?」
想夢は、引きつった笑顔で答えるしかできなかった。
どうしてこうなった。
女装コンテスト、高校の前日祭などでやりませんでした?