シリアスになっちゃった話。
書いてる本人が1番びっくり。
射命丸文。
彼女は「風を操る程度の能力」を持つ。いかにも天狗らしい。
その能力は風を起こす、風を読むなど、風に関することなら自由自在だ。
東風谷早苗。
「奇跡を起こす程度の能力」を持つ。
この場合の奇跡とは、超低確率を引き当てるような「運」に関するものではない。
彼女の奇跡は、主に天候を操ったり雨乞いをしたりすることに使われる。
また、彼女の起こす奇跡はその規模によって呪文を詠唱する必要がある。
天変地異のようなレベルの奇跡を起こすとなれば数日は詠唱を続けなくてはならなくなるため、
早苗の起こせる奇跡の大きさには限りがある。
そんな彼女の能力故か、彼女は「風祝」と呼ばれる。
風祝。
東風谷早苗の正式な役職。
風の神を祭り、風を鎮めるための儀式を行う神職。
風を起こす天狗と風を鎮める巫女。
どちらも風を司るが、その方向性はまるで逆だ。
・・・・・・・・・
「奇跡『神の風』!!」
「風神『風神木の葉隠れ』!!」
早苗と文がそれぞれスペルカードを発動する。
2人の周囲を暴風が回る。
早苗の風は、周りを引き込むように、文の風は周りを押し出すように。
2人を中心として、山を荒れ狂う風が襲う。
空中に上がり、風を纏いそのままぶつかり合う2人。
「なかなかやりますね・・・」
「何があったか知りませんが、私にも負けらない理由があるんです!」
「まだそんなことを・・・ほんっとうにムカつくわねぇアンタッ!!!」
文の口調が荒々しく変わる。
周囲に暴風をまき散らしながら、2人の少女は何度もぶつかり合った。
2人の少女が白熱した戦いを繰り広げている中、想夢はキョロキョロと周りを確認していた。
「天狗達が来る気配はない・・・」
文が現れてから、天狗の増援が全く来ないのだ。
さっきまで襲い掛かって来ていた白狼天狗も、文と同じ烏天狗も。
そして・・・
「・・・残った天狗達はどこに行った?」
想夢と早苗が倒した白狼天狗達の姿が見当たらないのだ。
一体どこに行った?どこに消えた?
「・・・これは」
白狼天狗の1人、犬走紅葉のいた付近を見て、想夢は気付いた。
消えたのは姿だけではない。そこにいたという
「どうなって・・・」
「よそ見とは随分と余裕じゃない!?死んでも知らないわよ!?」
突如、上空から風が襲ってくる。
文が手に持つ扇を振ると、三日月の形をしているであろう風が生まれる。
断言をしなかったのは、それが見えなかったから。
風に関する能力を持たない想夢に風の姿を見ることなど出来ない。
だが、それが確かに
「っ!!」
その場からすぐさま横に躱す。
風は、想夢の巫女服の袖をかすりはしたが、直撃は避けられた。
しかし、
「なっ!?」
風が当たった部分がぱっくりと切れていた。
「
想夢は小さく呟く。
鎌鼬。
日本に伝えられる妖怪、またはそれを起こす怪異。
つむじ風に乗って現れ、人を斬ると言われている。
あるいは、つむじ風の中心に生まれる真空あるいは非常な低圧により
皮膚や肉が裂かれる現象であるとも言われている。
もっとも、この説は現在では否定されている。
つむじ風程度では人の皮膚を斬る程の力はないという理由からだ。
また、皮膚は斬れてもそれ以外、服や周りの物が斬れたという例がないことから、
あかぎれの一種、またはつむじ風で巻き上げられた小石や小枝によるものと言われている。
つまり、文は自身の放った風に真空を作り出し、それを刃として殺傷力のあるレベルで
打ち出したのだ。
天狗でり風を司る彼女だからこそできる芸当だ。
「もう1発!」
続けて文が扇を振って鎌鼬を打ち出す。
そこへ、
「させません!!!」
と、早苗が想夢の前へ飛び出し、鎌鼬に向かって御祓い棒を突き出した。
御祓い棒の周りに風があつまり、槍のような形をとり、前へ打ち出される。
風の刃と風の槍がぶつかり合い、風が霧散する。
「想夢さん!大丈夫ですか!?」
「ああ、助かった!」
早苗は前を向いたまま、確認する。
「ほんっとーうに鬱陶しいわねえアンタは!今更何だってのよ!」
文は叫ぶと、こちらに突っ込んできた。
「来る!」
想夢と早苗はそれぞれ武器を構え、迎撃態勢をとる。
そして、
2人にぶつかる直前で、文の姿が消えた。
即座に背中合わせに周りを見回すが、文の姿は見えない。
上空にいたころはよかったが、山の木々の中に隠れられてしまっては厄介だ。
どこから襲ってくるか分からない。
想夢と早苗、2人の頬を緊張の汗がつたう。
どこから来る?
文のスピードは確かに速いが少しは慣れたつもりだ。
対処ができないわけではない。
そう思っていた。
が、その認識が甘かった。
次の瞬間、360度全方位から弾幕が飛んできた。
「っ!早苗!伏せろ!!!」
想夢が叫び、早苗は片膝を地面についてしゃがむ。
そして、想夢は2人を覆うように結界を張った。
結界に全方位から放たれる多量の弾幕がぶつかる。
人2人を覆う大きさの結界だ。想夢の力量では出しているだけで霊力、精神力が削られる。
さらに、文の弾幕が想夢の霊力の消費スピードを早めていた。
「一体どうやって・・・」
想夢が呟くと、
「元々弾幕は自分の体から離れた場所にも作り出して撃ちだせますから、
そうしているのかもしれません。
あるいは、私達の周りをグルグル回りなが弾を撃ってるかのどちらかだと思います」
と、想夢の後ろでしゃがんでいる早苗が答えた。
「こんな木がたくさんある山の中でそんなことが?」
「妖怪の山は天狗達の庭のようなものですし、文さんのスピードなら可能かと」
そうしている内に、弾幕は止んだ。
だが、文は出てこない。
いつ攻撃がくるか分からないため、結界を解くこともできない。
「・・・私が、文さんの居場所を特定してみせます」
「早苗?」
「私は風祝です。風の神を祭る私なら、風を読んで文さんの居場所を探ることができるかも
しれません。ここは私に任せてください」
早苗の顔は覚悟を決めていた。
ならば、想夢のやることも決まっている。
「じゃあ、頼んだ。文の攻撃は僕が全部防ぐから」
「はい!」
しばらくの間、ただじっと早苗は動かず、何かを聞いているようだった。
想夢も結界を張ったまま動かない。
文は隠れたままだ。
誰も動くこともなく、誰かが現れることもなく、ただじっとそのまま動かない。
まるで時が止まったかのような。
先に動いた方が、先に集中力を切らした方が負ける。
そうした止まった時間がずっと続くかと誰もが思ったその時、
早苗の肩が一瞬、ぴくりと動いた。
「「「!!!」」」
その瞬間、早苗はある方向へ視線を向けた。
その瞬間、想夢は結界を解いた。
その瞬間、文が飛び出し早苗の方へ突っ込んで来た。
すぐさま、想夢は刀を構える。
すぐさま、文は扇を構える。
早苗だけ、出遅れた。
想夢が早苗の前に出る。
文がそのまま突っ込む。
想夢の刀が青白い光を纏う。
文の扇が渦巻く風を纏う。
そして・・・
「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉッッッ!!!!」」
ドッと短く、爆発音に近い音がして、
霊力と妖力、結界と風、振り下ろした刀に薙いだ扇、
お互いに最大限の力で放った1撃がぶつかり合う。
衝撃が巻き起こり、霊力の光と風が周りにまき散らされる。
2つの力は互いに押し合う。
が、徐々に想夢の力の方が徐々に押され始める。
「ぐっ・・・ううぅぅぉおおお!!!」
「あああああああああぁぁぁぁ!!!」
ギチギチを刀が音を立てる。
想夢の顔に嫌な汗が流れる。
体がその場から押し出されそうになる。
文の力に押され、想夢の刀がその手から離れようとしたその時だった。
文の風が急激に弱まった。
「なっ!?」
文の顔が驚愕に歪む。
そして顔を想夢の後ろに向けた。
想夢の後ろ、早苗の周りには風が集まっていた。
文の巻き起こす風の力をを早苗の風を鎮める力が相殺したのだ。
「ま・・・またお前かああああぁぁぁぁァァァァッッッッ!!!!」
文が叫ぶ。
立場が逆転する。
押されていた霊力が風を押し返していく。
そして、
霊力を纏った巨大な力の塊が、文を叩きつけた。
地面に叩きつけられ、1回バウンドして、文は仰向けに倒れた。
決着が、着いた。
・・・・・・・・・
「はぁ・・・はぁ・・・」
「そ、想夢・・・さん・・・大丈夫・・・ですか・・・ぜぇ・・・」
「さ、早苗・・・こそ・・・はぁ・・・」
文を倒した後、想夢はその場から動けず肩で息をしていた。
さっきの1撃に全力を尽くしたため、その場に尻もちをつき、立つこともできない。
それは早苗も同じだった。
想夢程ではないが、その場にしゃがみ込んで荒い呼吸を繰り返していた。
2人共霊力を使いすぎたのた。
正直、この先が不安だ。こんな状態ではさっきの白狼天狗にもあっさり負けてしまうだろう。
だが、行くしかない。
「さあ、そろそろ出発しましょう。想夢さん、立てますか?」
早苗が立ち上がり、想夢に手を伸ばす。
「ああ・・・」
その手を想夢が掴もうとした、その時。
「早苗っ!!!」
想夢は全身を使って早苗に突っ込む。
「え?・・・っきゃ!?」
そのまま早苗は倒れてしまい、結果として想夢が早苗を押し倒すような形になる。
「そ、想夢さん!?」
早苗が少し顔を赤らめ叫ぶ。
それと同時に、
さっきまで2人がいた場所を、風の槍が貫いた。
「なっ・・・!」
早苗の顔が青くなる。
「ま・・・まだ・・・まだ終わってない・・・終わってねェんだよォォオオオ・・・」
ドロドロと地の底から響くような、怨嗟の声をあげながら、文がその場に立っていた。
服も体もボロボロで、所々血を流しながら、目をギラつかせ、膝も腕もガクガクと震えている。
そんな状態で文は笑っていた。
「気を緩めたなァ?その場から動くなよ?絶対にこの手で叩き潰してやるからよォ・・・」
普段の文ならば絶対に言わないような口調で、文はこっちにふらつきながらも
1歩、また1歩とゆっくり近づいてきた。
想夢は立ち上がり刀を構える。
早苗は上半身を起こし、文を見ていた。
お互い、体力はもうほとんど残っていない。
1歩進む度に倒れそうになる体で、文は想夢達に近づいていき、
想夢の目の前までやって来くると。
ボロボロの体を動かし、ボロボロの腕を上げ、ボロボロの拳を握ったボロボロのパンチは、
想夢の胸にぽす、となんの威力もなく当たった。
「私は・・・わ・・・た・・・」
そのまま文は意識を失い倒れ込んだ。
想夢はとっさに文を支える。
今度こそ、終わった。
文を山の木の根元に寝かせ、想夢と早苗は山の頂上を目指す。
お互い、何も話さなかった。
何かを話す余裕もなかったし、何を話していいかも分からなかった。
ただただ、無言で山を登る。
不思議なことに、文との戦いの後、誰かが襲ってくることはなかった。
諦めてくれたのだろうか?そうであって欲しいが、期待はできない。
こちらが山の頂上に向かっていると知って、そこに戦力を集結させているのだろううか?
文が言っていた。守矢神社も守矢の神も朽ち果てたと。
ならば、今、山の頂上には誰もいないということになる。
そこを天狗達が利用したとしても不思議ではない。
何が待っているか分からない。
文よりも強い別の天狗がいるのか、それとももっと別の何かか・・・。
・・・・・・・・・
無言で歩き続け、ようやく山の頂上についた想夢と早苗が見たのは、
ボロボロに朽ち果てた神社だった。
崩れたり倒れたりはしていないが、その姿に2人の知る守矢神社の面影はなかった。
覚悟はしていたとはいえ、心にくるものがある。
想夢も早苗も、何も言えなかった。
昨日の今日で・・・いや、早苗が出てくる時はいつもの神社だったのに
どうしてこうなってしまったのか。
答えのでない思考が頭の中をぐるぐると回る。
ここに来るまで、想夢はこの妖怪の山にたくさんの違和感を感じていた。
違和感しかないと言ってもいい。
頂上に着くまで言わなかった言葉を、想夢は口に出す。
「・・・パラレルワールド」
「え・・・?」
想夢の言葉に早苗が反応する。
どういうことかと問いかけようとしたその時、
守矢神社の戸が開いた。
「!!」
瞬間、2人は身構える。何が出てくるのか、敵か、味方か・・・。
「おやおや、随分と懐かしい力を感じたから見てみれば・・・。
そうか・・・・そういうことか・・・」
現れた者の姿を見て2人は目を見開いた。
「か・・・なこ・・・さ・・・ま・・・?」
早苗が口を手で覆いながらなんとか言葉を発する。
ボロボロの服を着て、ボサボサの髪をして、古くなった薄汚い注連縄を背負った、
神としての威厳などもはやどこにも感じられない弱々しい姿の八坂神奈子が、
そこに立っていた。