それが良い物であろうと悪い物であろうと、それはこれからの糧となります。
つまり、私の小説を書くという行為も、糧になっているはずなのです。
だけど文章は上達しません。あれえ?
「安心しろ。敵じゃあない。武器を下してくれ」
妖怪の山の頂上、守矢神社にて、変わり果てた姿で現れた八坂神奈子はまずそう言った。
ニヒルな笑顔を浮かべているが、その顔は弱々しかった。
「・・・貴方の言葉を信用しろと?」
「まあ、信用できないだろうな。
山の実力者の力がいくつか感じられないが、それはお前達が倒したのだろう?
今の山は殺気立ってるからな、立ち入る者を許さない」
想夢は警戒していたが、神奈子は構わず話し続けた。
「まあ、それならそれでいいさ。武器は構えたままでいいから話をしよう。
私の方から襲わなければお前達から仕掛けることもないだろう?
神社の中に入ってくれ・・・と、言いたいところだが、こうも警戒されてはな・・・
それに、神社の中も荒れてしまってね、どっちにしろ中には入れられない」
自嘲気味に神奈子は笑う。
「敵ではないのでしたら、私の質問に答えてくれませんか?神奈子様」
神奈子の登場に呆然としていた早苗だったが、ここで立ち直り、神奈子に問いかけた。
「何だ?」
「諏訪子様の姿が見えませんが・・・諏訪子様はどうしたのですか?」
「・・・」
早苗の質問に神奈子はしばらく黙っていたが、やがて、ゆっくりと口を開いた。
「消えてしまったよ。もう何年も前だ」
「ッ!!」
早苗の顔が歪む。言葉を発しようとするが、声がうまくでない。
「そうだな、まだ時間はある・・・少し話してやるとしよう」
ふう、と息を吐き、その場に座った神奈子は、懐かしむような顔をして語りだした。
・・・・・・・・・
「あれはもう何年前のことだったかねえ?
その頃の幻想郷はまだ平和だった。
幻想郷らしい、真っ直ぐであるが故に歪な平和さを持っていた。
外の世界の曲がりくねっているが故の平和を懐かしく思えるような頃だったよ。
ある日、幻想郷に1人の外来人がやって来た。
その外来人は当時の博麗の巫女と仲良くなって、そのまま博麗神社に住むようになった。
その外来人にはある能力があった。
・・・はて、どんな能力だったかな?確かサポート系の能力だったと思うんだが・・・。
まあいいか、大事なのはそこじゃない。
とにかく、その外来人は能力を持っていたんだ。
それをある妖怪に目をつけられて、その外来人は妖怪と一体化してしまった。
妖怪は外来人を取り込むとすぐさま異変を起こした。
いや、あれはもう異変と呼べるものではなかったな。
ただの異変なら弾幕ごっこをして皆で酒飲んで水に流せばそれで終わりだ。
だが、その時起こったのは幻想郷そのものを滅ぼしかねないような事件だった。
ことを重く見た幻想郷の管理者は博麗の巫女と守矢の巫女にその妖怪の討伐を命じた。
そこで、妖怪を倒しに行った守矢の巫女は見てしまったんだ。
博麗の巫女がなんのためらいもなく妖怪を外来人ごと殺す瞬間を。
妖怪は死に、その夜、宴会を開いて皆で酒を飲んだ。いつもの異変と同じように終わらせたのさ。
それからだ、守矢の巫女は次第におかしくなっていってしまった。
仲の良かった人が死んでも気にしない博麗の巫女。
そんな博麗の巫女を不思議に思わない周りの人々。
幻想郷という世界と外の世界の違いを見た守矢の巫女は、
どんどん幻想郷になじめなくなっていった。
そして、ある日守矢の巫女は失踪した。恐らく外の世界へ戻ろうとしたのだろう。
守矢の巫女は未だ行方不明のままだ。
外の世界に出られたのか、それともどこかで死んでしまったのか、それも分からない。
だが、1つ確実に言えるのは、守矢の巫女は、ある異変と同時に失踪したということだ。
それが、お前達の見てきた今の幻想郷だ。
山を見れば分かるだろう?この山が今、どれほど危険か。
全ては博麗の巫女が殺した外来人から始まった。
殺された外来人は、死ぬ直前、博麗の巫女を、そしてこの幻想郷を、恨み、憎んだ。
その怨念と元々持っていた能力が合わさり、『黒』が生まれた。
外来人から生まれた『黒』は、幻想郷のあやゆるモノを飲み込んだ。
『黒』に飲まれたモノは、それが存在していた『痕跡』すら残さず消えた。
文字通り『全て』を消し去る黒によって、幻想郷は急激に衰弱した。
『黒』の発生から何年が経ったか、この幻想郷に今、どれだけのモノが残っているのか・・・。
博麗の巫女も消えた。諏訪子も消えてしまった。
これが、この幻想郷の現状だ。分かったかな?」
・・・・・・・・・
「・・・ふう、少し話しすぎたようだ」
一通り話し終えた神奈子はよっこらしょと立ち上がり、またニヒルな笑顔を見せる。
「長々と語ってしまったが、これはお前達には関係のないことだ。
この世界は、お前達にとってはあくまでも異世界でしかないのだから」
そう言って神奈子は悲しそうに笑う。
「ですが・・・」
「手出しは無用だよ、それが例え、守矢の巫女の手だとしても」
何か言いかけた早苗の言葉を、神奈子は遮る。
神奈子の拒絶により、早苗はもう何も言えなかった。
「そんなことより、だ。
お前達は元の世界に戻りたいのだろう?なら、私の神力を使うといい」
「・・・どういうことですか?」
神奈子の突然の提案に想夢が尋ねる。
「何、お前は見たところ博麗の巫女だろう?世界を隔てる結界を管理する巫女ならば、
世界を飛び越えることも可能だろう。
ただ、ここに来るまでの連戦で力を消耗してしまっているだろう?
だから私に残っている全て力をお前にやろう。その力を使って元の世界に帰るといい」
そう言うと、神奈子は想夢の方に手を伸ばす。
「・・・そんなことをしたら貴方は消えてしまうのでは?」
「何、構わんさ。もはやこの山に残っているのも私だけとなった。
お前達が戦った天狗達も消えてしまったようだ。
たった1人で残ったところで意味などない。たった1人の世界に意味などないさ」
想夢の問いかけにそう答える神奈子の目に、揺らぎは全くなかった。
「・・・分かりました」
だから、想夢はこれ以上何かを聞くことはせず、伸ばされた手を握った。
出会った時の警戒心はもうなかった。
「お前達のいた幻想郷を思い浮かべるんだ。
強く想えばあとは、博麗の巫女の力がそこへ連れて行ってくれる」
想夢と早苗が目を閉じ、幻想郷の姿を思い浮かべる。
すると2人の周りを、青白い光が渦巻いた。
光の渦巻く勢いはどんどん強くなる。が、それに合わせて神奈子の姿が透けてきた。
「か、神奈子様!」
思わず早苗が叫ぶが、
「集中を乱すな!!帰れなくなるぞ!!!」
神奈子が更なる大声で黙らせる。
光の渦は想夢と早苗、2人の全身を包み込むまでに大きくなった。
想夢と早苗の体がだんだんと透けて行く。
元の世界への移動が始まったのか。
「ありがとう」
不意に、神奈子が口を開いた。
さっきまでとは違う、優しい笑みを見せて。
「お前達に会って、話したことで、心の整理がついたようだ。
それに最後に良い思いでも作ることができた。
覚えておくといい、命は有限だ。例え妖怪だろうと、神だろうとな。
いずれ終わる時がくるのだ」
そうして想夢と早苗の姿が完全に消える直前、
「――――――」
誰に聞こえるでもなく、神奈子が呟いた。
何と言ったのか想夢には聞こえないまま、2人の姿は消えた。
「行ったか・・・」
2人が旅立ったのを確認した後、神奈子の姿は音もなく消えた。
妖怪の山の頂上、朽ちた神社には、もう誰1人として存在していなかった。
・・・・・・・・・
「ここは・・・守矢神社?」
想夢は、気が付くと守矢神社の前に立っていた。
どこも朽ちた様子もない、見覚えのある守矢神社だ。
「想夢さん」
自分を呼ぶ声に振り向くと、早苗の姿があった。
2人とも無事に移動できたようだ。
「あとは、ちゃんと元の世界に帰れたかどうかを確認するだけだけど・・・」
「それなら、マヨヒガに行ってみませんか?
今の時間帯なら文化祭の準備をしているはずだと思いますし」
そうしてマヨヒガへ向かう想夢と早苗。
マヨヒガの中へ入ると・・・
「ん?おお、想夢!遅かったな!待ってても来ないから置いて行ったけど何かあったのか?
早苗もいるな、2人揃ってどうしたんだ?」
こちらに気付いた魔理沙が手を振ってきた。
「おお!帰ってこれました!」
「帰って・・・来たのか?」
はしゃぐ早苗に対し、この光景を見ても想夢は自分が元の世界に帰れたのか自身が持てなかった。
パラレルワールドというものを知っているが故に。
「んん?おや、想夢さん、お久しぶりです」
こちらにやって来たのは文だった。
「今、文化祭に向けて、出し物をする人達に出し物の希望時間を聞いて回ってるんですよ。
烏天狗は文化祭のパンフレット作製が仕事ですから。
それにしても想夢さん、シンデレラになるんですって?
いやあ、多くの女性を押しのけてヒロインですかあ、これは期待が膨らみます!」
ああ、そういえばそうだった。
自分にはシンデレラの役と女装コンテストの出場という悪夢が待っているのだった。
帰って来たという実感が湧いてきたが、なんだか素直に喜べない想夢だった。
この時、想夢は気付いていなかった。
早苗がどんな様子であったのか。
あの異世界での出来事がどれほど大きな牙を彼女の心に食い込ませたのか、
想夢は知らなかった。
・・・・・・・・・
その日の夜、博麗神社にて、想夢は紫と話すことでようやく帰って来たと確信した。
「お帰りなさい、大変だったみたいね」
「ただいまです・・・って、貴方がそれを言うってことは、ちゃんと帰ってこれたと
思ってもいいみたいですね」
八雲紫は境界を操る。世界と世界の間を覗く彼女の言葉なら大丈夫だろう。
想夢が安心する一方で、紫はクスクスと笑いながらこう告げた。
「演劇の主役が行方不明じゃあ、折角の文化祭n出し物が台無しだものね?」
「ぐ・・・貴方もそれをイジりますか・・・」
そういえばこの人も自分を女装コンテストに推薦した1人だった。
「さ、今日は遅いわ。そろそろ寝なさい」
「そうします、お休みなさい、お母さん」
「誰がお母さんですか」
そのセリフは誰がどう聞いてもお母さんだろう。
いや、母親キャラは幽々子の方が板に付いていた気がする。
そんなことを考えながら、想夢は床につく。
その一方で、
八雲紫はふう、と息を吐き、空を見上げる。
「まずは一段落ついたと思ってもいいのかしら?」
そう呟く紫の前に現れたのは、尾が9つある狐。
「紫様」
その狐を見て、紫は言う。
「貴方、藍じゃないわね?」
「ええ、やはり紫様相手ではすぐにバレてしまいますか」
狐、紫が偽物だと言い放った藍は驚くような素振りもない。
最初から正体がバレることは承知というわけか。
「そりゃあね?伊達に狐を式神にしているわけじゃないわ。
それで?どういうつもりかしら?そんな姿をとらなくても私には貴方の正体は
バレているはずだけど?それに貴方、そんな話し方じゃないでしょう?」
「他者の姿を借りてこの場に立っていることについては申し訳ありません。
そして、口調に関しても、この姿に合わせる必要があるためです。
私のキャラ設定的にまだ姿を明かすことはできません故。
あと、今は私のことは『クロ』とお呼びください。キャラ設定に関わるので」
「キャラ設定って・・・もうちょっとシリアスな理由は言えなかったの?」
紫は呆れる。コイツにシリアスは無理なのだろうか?
気を取り直して、
「じゃあ、クロ、貴方は何の用事で私に会いに来たのかしら?」
紫はクロに問いかける。
「ええ、紫様に聞きたいことと、お願いがあって参りました」
「いいわ、それじゃあまずは『聞きたいこと』から聞きましょう」
「はい、貴方はなぜ、博麗想夢と東風谷早苗を助けなかったのでしょう?
貴方は知っていたはずだ。あの2人が異世界に入る瞬間を。
異世界、特にパラレルワールドは冥界や地獄とは違う。
簡単に行き来できるような場所ではない。そんな場所に巫女2人が迷い込んでは、
流石の貴方も傍観していられるはずもないと思っていたのですが」
クロは八雲藍の姿のまま、八雲藍のように疑問を投げかけるが、
「そうね、普通だったら助けに行くべきでしょうけど、彼らはちゃんと帰って来たわ。
私の助けが必要でないならそれに越したことはないわ」
紫はいつもと変わらぬ調子で飄々と答えるだけだった。
「そうですか・・・では、そういうことにしておきます。
次に、私の『お願い』を聞いてもらってよろしいでしょうか?」
「・・・言ってみなさい」
「私は幻想郷をなくすような異変を起こすような気はこれっぽっちもありません。
ですから、今私が行っていることに関して、知らぬ存ぜぬでいてほしいのです」
紫の目が細くなる。
クロは笑っていた。
「まあ、聞かれたことに答えるのは構いません。
ですが、自分から情報を与えるのは遠慮してもらいたいのです。
どうか、よろしくお願いします」
そう言ってクロは頭を下げる。
「・・・」
それに対して紫は何も言わない。
「・・・分かりました、頭を下げて足りないなら土下座にしましょう」
「・・・はあ、分かったわ、分かったからその姿で土下座は止めなさい」
クロが土下座をしようと片膝を地面につけたところで紫はそれを止めた。
藍の姿でのそんな軽々しい土下座は見たくなかったというのもある。
「いやあ!やってみるモノですね?」
「はあ・・・それはちょっと藍とは言えないわね?キャラ的に」
ニコニコ笑顔のクロに、紫は呆れ気味だった。
・・・・・・・・・
異世界から帰って来てから、想夢はクロを警戒していたが、
あれからクロが襲ってくることはなかった。
そして、時間も経ち、
いよいよ文化祭の日がやって来た。