火消しの仕事ぶりと江戸っ子の喧嘩は威勢がよく
江戸の見ものであるという言葉。
江戸は大火事が多く、火消しの働きぶりは華々しく、
江戸っ子は気が早く、派手な喧嘩が多かったんだとか。
美しさを勝負に取り入れた弾幕ごっこと
似たモノがあるのかもしれません。
「どこか行くの?」
朝早く、まだ日も出ていない時間に神社の外に出ようとした想夢に問いかけたのは、
朝食の準備をしていた霊夢だった。
「ちょっと・・・ね」
「そう、朝ごはんはどうするの?」
「長い用事になりそうだから今日はいいや」
「分かったわ」
どんな用事なのか聞かれないのは
信頼されているからなのか、それともどうでもいいと思われているからなのか。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
いつもと変わらぬ普通の会話をして、想夢は出かけて行った。
・・・・・・・・・
人里の外側、東の門の前。まだ日の出前だからか、雲もないのにやけに薄暗く感じる。
早苗は先に着いていたらしく、門に寄りかかって待っていた。
「・・・待った?」
「いえ、大丈夫です。わたしもさっき着いた所ですので」
想夢の言葉に、早苗はいつもと変わらないように答えた。
「ここでは、人里に近すぎますし、少し移動しましょうか」
そう言って早苗は歩き始め、想夢もそれについていく。
お互いに、心の内は決まっていた。
「ここら辺までくれば、大丈夫でしょう」
早苗が止まったのは、人里から少し離れた草原だった。
いつかの、クロと戦った日を思い出す。
「それで、早苗はどんな要件で僕をこんな時間に呼んだんだ?」
「・・・それ、言わなくちゃダメですか?
想夢さんだって、私が呼んだ理由、分かっているんでしょう?」
「それでも、もしかしたらって思いたくてね」
分かっている。早苗が想夢を呼んだ理由など、分かっているのだ。
覚悟はしている。
それでも、演劇の練習をしたり、一緒に文化祭を見て回ったりした思い出を
壊したくはなかったのだ。
「・・・分かりました、これは私が決めたことです。
私の意思はしっかり口に出しましょう。私の意思を曲げないためにも。
想夢さん、私と、戦ってください」
早苗ははっきりと、大きな声で、想夢の目を見てそう言った。
「理由を聞いても、いいかな?」
「私が外の世界から幻想郷に来たってこと、知ってますよね?
私は幻想郷に来る前、外の世界とは縁を切ったつもりでした。
幻想となれば、外の世界から忘れられる。
だから、外の世界とちゃんと『サヨナラ』して、幻想郷に来たつもりでした。
また外に戻りたいなんて思わないように。
だけど、貴方と会ってから、私は心に寂しさを抱えてしまった。
また外の世界に戻って、あの人達に会いたいと思ってしまった。
そう思わせたのは貴方なんです、想夢さん。
だから私は、貴方を倒して改めて自分にけじめをつけるんです」
「やれやれ・・・」
「不服ですか?」
「いや、そうじゃないよ」
片方の手で頭をかきながら、もう片方の手で刀を取り出し、握る。
その瞬間、想夢の服は巫女服へと変わる。
「なんで幻想郷の少女達はこうも好戦的なんだろうって思っただけだよ」
十六夜咲夜、魂魄妖夢、思えば彼女らと戦ったのも頼まれたからだ。
もっと少女らしさを持ってもいいんじゃないかと思うのは時代遅れだろうか。
「すいません、困ったときは弾幕ごっこで解決してきたものでして」
そう言って、早苗もお祓い棒を構える。
「・・・行きますッ!!!」
・・・・・・・・・
「やあ」
想夢が出て行った後の博麗神社で、霊夢は庭掃除をしていた。
そんな霊夢の所へ尋ねて来たのは、八坂神奈子だった。
「珍しいわね、こんな朝早くにアンタが来るなんて」
「早苗が朝早くから出かけてしまってね。
もしかしたらと思ってここに来たワケだが、想夢はいるかい?」
「お生憎、想夢ならもう出かけちゃったわ。今頃2人でケンカでもしてるんじゃない?」
霊夢の言葉に、神奈子は意外そうな顔をする。
「止めなかったのか?仮にも博麗の巫女ともあろう者が」
「ほっときゃ収まるケンカよ。それに、私には何の被害もないわ」
「そういえばそうだった。お前はそういう奴だったな」
神奈子は呆れたように笑う。
博麗霊夢が異変解決に乗り出す理由はいつだって、
自分に迷惑が降りかかってくるからか、八雲紫に小言を言われるかだ。
このようなタイプの異変とも呼べないような出来事に干渉することは一切ない。
「そういうアンタだって、ここに来たってことは早苗のこと止めてないじゃない」
「まあな。別に親バカで言うんじゃないが早苗はとても良い子でね、滅多に我儘を言わない。
それが私や諏訪子を想ってのことなのか、それとも遠慮しているのか、
とにかく親にとっては本当に『良く出来た娘』ってヤツさ。
そんな早苗が自分の意思で我儘を起こしたんだ。親としては邪魔はしたくないのさ」
そう言って、神奈子はふう・・・と息を吐く。
「本当なら、新しく出来た友達とケンカをするための我儘なんて止めるべきなんだろうけど、
あの子が随分と真剣な表情をしていたからね。つい、見て見ぬフリをしてしまった。
ただ、私は心配しているよ。
早苗と想夢がケンカをして、その結果によっては2人の間に生まれた友情は
壊れてしまうんじゃないかって。
早苗が外の世界のことでここ最近悩んでいたことは知っている。
そのきっかけが想夢であることも分かっている。
だが、私も諏訪子も早苗から聞いた範囲でしか外の世界の早苗の友達を知らないんだ。
これ以上、あの子が友人関係で悩むところを見るのは私達も苦しいのさ・・・」
「別に友情云々とかは、そんなに気にしなくてもいいんじゃないの?」
神奈子の語りを聞いて、霊夢は庭掃除の手を休めずにそう言った。
「随分と、あっさり言うな」
「早苗も想夢もそこまで緩い友達関係なんて結んでないでしょ。
たかだか1回のケンカでぶっ壊れるような関係なら、巫女である早苗の周りは敵だらけよ。
それにね、神様は知らないかもしれないけど・・・
人間にはね、『ケンカする程仲が良い』って言葉があるのよ?」
「・・・は、ははは、なるほど確かにな・・・。やっぱり私は少し親バカ過ぎたようだ」
霊夢の言葉を聞いた神奈子は笑いながら、どこか安心したような顔をしていた。
・・・・・・・・・
風祝。以前にも説明したが、風の神を祭り、風を鎮めるための神職のことである。
しかし、東風谷早苗の場合、普通の風祝からは外れている点がある。
それは風を鎮めるだけにすぎない風祝でありながら、彼女は風を操れる点だ。
天狗のような、風のエキスパートには敵わないだろうが
「神の風」「八坂の神風」といったスペルカード、
以前の戦いのように風の槍を作り出す芸当など、彼女の風の力は相当のものだ。
では、何故、彼女は風を操れるのか。
答えは、彼女が神と同一視されているからに他ならない。
風を鎮める様を見て、人々は風祝を風の神だと崇めたのだ。
それがいつから始まったことなのかは分からない。
早苗よりも前の代の守矢の巫女から始まったことなのかもしれない。
重要なのは、東風谷早苗という人物は人でありながら神としての面も持つということ。
それはつまり、人の身でありながら神の力を持つ
彼女の神としての力は、八坂神奈子と博麗霊夢が「ケンカ」と称した
博麗想夢との戦いにおいても遠慮なく振るわれる。
「・・・行きますッ!!!」
掛け声と共に、早苗がこちらに突っ込んでくる。
想夢も早苗に向かって走り出す。
「「はあああぁぁぁぁあああああ!!!」」
気合いを入れるための叫びと共に、想夢は刀を、早苗はお祓い棒を振るい、
お互いに霊力を込めた一撃をぶつける。
ガキンッ!と大きな音をたて、お互いの武器が弾かれる。
そこからの復帰は早苗の方が早かった。
足に力を入れその場に踏みとどまり、そこからさらに踏み込んで
想夢の胸目がけてお祓い棒による突きを繰り出してきた。
「くっ!!」
なんとか刀を構え、突きが当たるのを防御する。
しかし、
「らああああぁぁぁぁっ!!!」
早苗の突きが刀に当たった次の瞬間、想夢は勢いよく吹っ飛ばされていた。
とっさに刀を地面に突き刺し、無理矢理足を地面につけ勢いを殺し、なんとか態勢を立て直す。
それでも地面には刀を刺した溝や足でめくれた土の跡が数メートルできていた。
「なんて威力だ・・・。人間よりも妖怪を相手にしてるようだよ・・・」
「妖怪?いいえ、貴方が相手にしているのは人間であり神様ですよ?」
そう言うと早苗は、二度目の突進をする。
「まさか私の神の力が純粋な腕力だけだなんて思ってませんよねえ!?」
早苗は想夢の目の前まで来ると、お祓い棒を上に上げる。
とっさに刀を横に、頭の前に構え防御する想夢だったが、
その時、風が吹くのを感じた。上から下に流れる風を。
「まさか・・・」
顔の向きを少し下にし、目線を下に下げる。
目線の先にあるのは早苗のお祓い棒を持っていない方の腕だ。
腕は下がっている。
しかし、手は想夢の頭へと向いていた。
「くそっ!!」
すぐさま頭を後ろに振る。
全力で体を後ろに傾ける。
次の瞬間、ボッと火を点けたような音と共に、
さっきまで想夢の頭があった場所を風の槍が貫いた。
風の槍の一撃は躱せたものの、思い切り後ろに避けたせいで背中から地面に倒れてしまう。
そこへ早苗がチャンスとばかりに追い打ちをかけようとしてくる。
が、
「おおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!」
「!?」
想夢は倒れた状態で地面を蹴り、足を上げる。
思い切り上げられた足は脚を上げ、下半身を上げ、上半身を上げる。
そして、勢いよく上げられた体の動きは、その場で回転するように
早苗への顎を蹴り上げようとする動きとなった。
早苗はすぐに後ろにさがり、蹴りをかわすが、想夢の体はそのまま一回転し、
倒れた状態から態勢を立て直した。
お互いに離れたことで、2人の間には数メートルの距離ができた。
「へえ、結構面白い動きをしますね想夢さん。
あの体制から一回転して立ち上がるなんて、かなりの力が必要でしょうに」
「僕は体操選手じゃないけど博麗の巫女だからね、
あれくらいの動きは霊力を使えばどうにでもなるさ」
「なら、私ならもっと凄い動きができそうかもですね?
なんたって巫女で神様ですし!そうですねぇ・・・こんなのはどうでしょう?」
そう言うと、早苗はダンッ!と、地面を踏んだ。
早苗のいる場に土煙が起こる。
想夢が怪しむ間もなく、それからすぐに風の槍が想夢目がけて飛んできた。
体を横にずらして槍を躱す。
風の槍の発射でかき消された土煙の中に早苗の姿はなかった。
「こちらです!」
想夢の真上から声がする。見上げれば上に早苗が逆立ちのような格好でいるではないか。
「なっ!?」
想夢の真上で早苗はお祓い棒を振り下ろす。
想夢も刀を頭上で構え、防御する。
しかし、
「想夢さん、私が攻撃のためにお祓い棒を振ったと思ってませんか?」
早苗がニィっと笑う。
次の瞬間、早苗の周りに複数の風の槍が現れ、想夢を襲った。
それと同時に、想夢は腕の力を弱めた。
「は?」
想夢が腕の力を弱めたことで、上からお祓い棒を叩きつけていた早苗の体のバランスが崩れる。
上から下への力を抑えるものがなくなったため、想夢の方へ突っ込む形となる。
「ぅおおらああ!!!」
想夢はこちらに落ちて来た早苗の胸元を掴み、地面に叩きつけるように投げた。
「がっ!!」
地面に背中から勢いよくぶつかった早苗はそのまま地面をバウンドする。
「ぐっ!!」
風の槍に斬られ、所々に切り傷ができるが、想夢は倒れなかった。
お互いに苦悶の声をあげ、早苗は立ち上がり、想夢は刀を握り直した。
「まったく無茶しますね・・・服がボロボロですよ?」
「そっちこそ・・・泥だらけのクセに・・・」
「それも、そうですね・・・ですが、準備は整いました」
「準備?」
想夢がいぶかしげに早苗を見る。
すると、
ザァァ・・・と雨が降って来た。
「出かける時は雨どころか雲一つなかったのに・・・」
「まだまだ、これからですよ」
早苗がそう言うと、雨雲の空がカッと光り、想夢と早苗の間に雷を落とした。
「これは・・・!?」
「これが、私の能力、『奇跡を起こす程度の能力』です。
風を操るだけじゃあないんですよ?神の力を振るうだけでもないんです。
私の奇跡は天候を変える。雨だって雷だってご覧の通り。
まあ、戦いながら想夢さんに気付かれないように奇跡を起こすのは大変でしたがね」
どうやらこの雨雲や雷は、想夢と早苗のいるこの草原でのみ起こっているらしい。
人里の方を見るが、そっちに雲は見当たらない。
「さあ、それじゃあ想夢さん、ここからが本番ですよ?」
そう言って早苗はお祓い棒を構える。
「まったく、とんでもない娘だよホントに・・・」
想夢も刀を構える。
雨の降る中、2人の戦いは続く。