〇中身がない。
話が一気に進むけど中身が薄くなった3つ目。
幻想郷。
それは、忘れられた存在の流れ着く場所。
守矢神社には2人の神様がいる。
八坂神奈子と洩矢諏訪子。
片や圧倒的な力を持つ山の神。片や祟り神である「ミシャクジ様」を統括する土着神。
膨大な力を持つ2人の神は現在、弱体化していた。
理由は簡単、人々から信仰が得られないのだ。
神社だからお参りに来る人がいないわけではない。正月などにはたくさんの人が集まる。
だが、そうして神社でお参りする人達の中で
本気で神様の存在を信じている人はどれくらいだろうか?
神様という存在は強大な力、神力を持つが、それは信仰の力がなければ使えない。
神は信仰がなければ、力を失い、その存在すら消えてしまうのだ。
この事態に焦ったのが神奈子だ。
諏訪子は神としては隠居の身、自身の存在がいつ消えようと構いはしなかった。
だが、神奈子は自分が消えることも諏訪子が消えることも良しとしなかった。
そうして力を取り戻す方法を模索した結果、幻想郷という答えに行き着いたのだ。
神社を幻想のものとし、幻想郷へ行き、そこで信仰を集める。
この方法は賭けのようなものだった。
幻想のものとするということは、外の世界の全てが守矢神社を存在を忘れるということ。
当然、人々の信仰は消え、今残っている信仰すらも失ってしまう。
そして幻想郷で外の世界よりも信仰が集められるかもわからない。
だが、神奈子は幻想郷という可能性に賭けることにした。
全ては守矢の未来のために。
・・・・・・・・・
「早苗ちゃん?早苗ちゃーん!どうしたー?」
「あ、いえ!大丈夫です!」
早苗は慌てて返事をする。どうやら自分はボーっとしていたようだ。
文化祭の準備にあまり身が入らない。
昨日、神奈子に言われた言葉が頭の中を巡る。
「私は、この神社を幻想のものにして、幻想郷へ行くと決めた。
諏訪子も特に反対はしていない。
だから早苗、後はお前が決めなさい。自分がどうしたいのか」
巫女として幻想郷へ行くか、1人の少女として外の世界に残るか。
幻想郷へ行けば外の世界の全てが自分のことを忘れてしまう。
これまでの思い出を全て失ってしまうことになる。
外の世界に残れば自分は巫女ではなくなってしまう。
神奈子や諏訪子とも2度と会えなくなってしまうだろう。
すぐに出発するわけじゃないからゆっくり考えろと神奈子は言った。
幻想郷に行っても外に残っても大切なものを失ってしまう。
そんな突然の選択を迫られ、早苗は混乱していた。
頭がうまく回らないそんな状態で文化祭の準備に取り組んでいたものだから、
「早苗ちゃんそれとってー」
「分かりましたー」
「東風谷さんそこ押さえてて―」
「分かりましたー」
「早苗ちゃんこの衣装着てみてー」
「分かりましたー」
と、とにかく何も考えずに従っていた。
それが少しきわどいメイド服を着るという仕事でもためらいなくこなしていた。
普段なら恥ずかしがって周りががんばって説得しないと動かないのだが。
この変化にはクラスメート達も驚いた。
「さ、早苗ちゃんが『ちょいエロ☆メイド服』を着る・・・だと!?」
「あの東風谷さんが!?」
「おい!誰かカメラ持ってないのか!?写真に残さないと!」
「まだ準備期間が始まったばっかだぞ!持ってるワケねーだろ!」
「な、なんだってー!?東風谷さんのメイド姿が見られるかもしれないってのに
記録に残せないなんて・・・くそう!」
「諦めて心の中に記録しておくんだ・・・」
なんともノリのいいクラスメート達だった。
・・・・・・・・・
「・・・」
早苗はぼーっとした状態のまま1人、帰り道を歩いていた。
結局、自分がどうしたいのかも決まらず、学校にも集中できず、1日が過ぎた。
そんな憂鬱に近いテンションでの帰り道の途中でのことだった。
「・・・あれ?先輩?」
早苗の少し前を渡瀬が歩いていた。
「先輩、帰り道はこっちじゃないのに・・・」
そのまま渡瀬は近くの本屋に入っていった。
本を買いに来たのだろうか。
それ以上特に思うことはなかったので、早苗は気にせず変えることにした。
「ただいま帰りましたー」
山の上の神社に早苗の声が響く。
しかし、その声は普段と比べると元気がないように思えた。
「お帰り、ご飯出来てるよー」
帰ってきた早苗に諏訪子が声をかける。
「はーい、着替えて来ますね」
早苗は明るい笑顔で返事を返し、自室へ入って行った。
「・・・なんとかごまかせたかな?」
自室でふぅ・・・と息をつく。
悩んでいる自分を見せて2人に心配をかけたくない。
なるべく早めに決めなければ。
早苗は心の中で誰に言うでもなく、そう誓った。
・・・・・・・・・
次の日。
「おはよー早苗ちゃん!」
「東風谷さん、おはよっス」
「おはようございます森林さん、佐笠さん」
いつも通りにクラスで友人と挨拶をする。
「早苗ちゃん、今日は噂話を持って来たんだよ!」
「噂ですか?森林さんの噂も久々ですねえ」
「それで、その噂ってどんなんスか?」
ふっふっふ・・・と、森林はもったいぶった後、テンション高く口を開いた。
「なんと、『同じ人が2カ所で同時に目撃される』という事件が多数起きているのだ!」
「・・・それって・・・」
森林の話を聞いた瞬間、早苗が思い出したのは1年前のこと。
水原の偽物の件だ。
思わず佐笠の方を見ると、佐笠は慌てて否定した。
「い、いやいやいや!!俺じゃないっスよ!?
あれ以来もう他の人に化けることはしてないっス!信じてー!!」
必死になって否定する佐笠を見て早苗はちょっと驚いた。
そんなに恐れられるようなことをしただろうか・・・?
「まあ、とにかくこの噂を昼休みに先輩に伝えてみよう!」
との、森林の言葉で朝はお開きとなった。
「・・・佐笠君じゃあ、ないんだよね?」
「俺じゃないっスよ!!前科があるからって疑いすぎじゃないっスか!?」
昼休み。
屋上にて、早苗達は噂の件を渡瀬と三中に話した。
「同じ人が別の場所で同時に・・・か。
樹木ちゃん、今回は特定の1人の偽物がいるってワケじゃないんだよね?」
「うん、今回はいろんな人の偽物が現れてるみたい」
「難しいな・・・ターゲットに統一性がないし、
相手が単独なのか複数なのかも分からない・・・」
渡瀬は考え込むが、早苗は他のことが気になっていた。
「そういえば先輩、噂とは全く関係のないことなんですけど」
「うん?」
「先輩、昨日本屋さん行きましたよね?何か買ったんですか?」
「え?本屋?行ってないけど・・・」
「「え?」」
早苗と渡瀬の声が重なった。
「え?でも先輩が本屋に入る所、私・・・」
「それって・・・まさか・・・」
この時、その場の全員っが同じことを考えた。
早苗が見た渡瀬想太郎は、今はなしていた例の偽物なのではないか?
だが・・・。
だからなんだというのだ。
早苗が見たのが偽物だったとしても、その偽物を探す術がないのだ。
「はあ・・・」
全員でため息をつく。
「まだ、大きな被害はないんだよね?」
渡瀬が森林に尋ねる。
「うん、話の中でちょっとした記憶の食い違いが起こってるくらいだけど」
「なら、今はそこまでムキになって探す必要はないかな?
余裕がある時にでも探してみる程度にしておこう」
渡瀬の言葉で昼休みがお開きとなる。
「・・・」
「東風谷さん?どうしたっスか?」
「早苗ちゃん?」
「あ、いえ、何でもありません、行きましょう」
昨日見た渡瀬は偽物だったのだろうか?
だとしたら自分は、偽物とはいえ渡瀬を相手にしなければならないのだろうか。
そんな疑問が早苗の頭の中に生まれていた。
決めなければいけないことは増えるばかりだ。
・・・・・・・・・
その日も結局、授業にも文化祭の準備にも集中できなかった。
「はあーあ・・・」
帰り道を歩きながら早苗は自己嫌悪する。
自分はこんなにハッキリしない性格だっただろうか?
渦巻く問題が多すぎるし大きすぎる。
正直、心がすり減りそうな気分だった。
そんな時だった。
「はあ・・・ん?先輩?」
まただ。
昨日と同じく、渡瀬の姿が見える。
昨日と今日では状況が違う。早苗は渡瀬の後をこっそり追いかけた。
しばらく追いかけて行くと、公園に着いた。
辺りに人の気配はない。
「こんな所で何を・・・」
公園から少し離れた道の角に身を隠し、早苗は渡瀬の様子を窺う。
渡瀬は公園で何をするでもなく立っているだけだったが、ふいにこちらを向いた。
・・・こちらを見ている。
「そこで見ていないで、こっちに来たらどうかな?早苗ちゃん」
自分を呼んでいる。尾行は気付かれていたのだろうか?
「・・・先輩、ではないんですよね?」
バレては仕方がない。早苗は渡瀬(?)の前に出る。
「そうだね、君の知る
そう言いながら、ソイツは渡瀬と同じような笑みを浮かべた。
「君はきっとこう思ったんじゃないかな?『尾行がバレた』と。
そう思っても仕方のないことだけど、訂正させてもらうよ?
全然違う。君は僕を尾行していたつもりなんだろうけど、実際は逆だ。
僕が君をここまで誘導してきたんだ」
「・・・どういうことですか?そもそも、あなたは誰なんですか?」
恐る恐る、不安げに、早苗は尋ねる。
「僕かい?僕は・・・誰なんだろうね?
そうだなあ、とりあえずこう名乗っておこう。僕は『のっぺらぼう』だ」
のっぺらぼう。
それは1年程前に渡瀬から教わった名だ。
聞いた話では、のっぺらぼうという妖怪そのものはいないらしい。
あくまで動物が化けた者である、と。
「あなたは、狐か狸の妖怪ということですか?」
「いやいや、だから僕はのっぺらぼうなんだよ」
自身をのっぺらぼうだと言う男はにこやかに笑って見せた。
その笑顔はやはり渡瀬本人と間違う程にそっくりだった。
「生まれた時から誰かの姿をしていた。
他の人の姿をしていなければ自分を保てない。僕はそんな存在だった。
人の姿をとらなければ僕は存在できない。けど僕はその人ではない。
あくまでもその人の姿をしただけの偽物に過ぎない。
本物がいれば排他されるだけの存在でしかない。
だから僕は考えた。本物にはなれなくとも、本物の
本物がいるから偽物は存在できない。
ならば本物の存在を消せばいい。
・・・と、ここまでは考えたのは良かったんだけどね、
1つ、厄介な問題が発生してしまった。
早苗ちゃん、君だ」
のっぺらぼうは早苗を指さす。
「わ、私・・・ですか?」
「そう、君が1番の問題だった。
僕が本物を消して誰に成り代わろうとも、きっといずれは巫女である君にバレてしまう。
君は巫女として、他者に代わる悪い妖怪である僕を退治にしに来るだろう。
だからまずは君を消しておく必要があった。
そのために君の周りの人物で君が1番好意を持っているであろう彼になったのさ」
そう言ってのっぺらぼうは両手と両腕を広げる。その姿を早苗に見せつけるように。
「な、何を言って・・・」
「隠さなくていいんだよ?君は先輩のことが好きだろう?
それが恋愛か友愛か、愛情か友情なのは分からないけど、
他のメンバーよりも先輩の方が好きなのは確かだろう?」
「・・・」
早苗は何も言えなかった。
自分が考えていなかったことを他者に言われて初めて自分の気持ちを知ったかのような、
自分でも知らなかった自分の面を知ってしまったかのような、
そんな気持ちが早苗の心の中を支配していた。
いつからだ?そんな素振りはなかったはずだ。
いつも皆でワイワイやって、時々巫女としての仕事をする、
皆で不思議な事件について考える、そんな毎日だったはずだ。
自分の心はいつ先輩に動いた?目の前の妖怪はなぜそれを知っている?
考えれば予想できそうなことが、何1つとして分からない。
頭の中がぐちゃぐちゃになる。
幻想郷、巫女、神奈子と諏訪子、先輩、友人、妖怪、
解決しなければならない問題はたくさんあるのに、どうすればいいのか全くわからない。
目の前には敵が自分を消そうと立っているのに・・・ん?敵?
目の前に立っているのは・・・・・・・・・。
「ふむ、どうやら完全に放心してしまっているようだね」
のっぺらぼうは満足そうにうなずきながら、服のポケットから折り畳み式のナイフを出した。
「さて、彼女の心が現実に戻ってくる前にさっさと殺してしまおう」
正直、ここまで上手く行くとはのっぺらぼう自身、思っていなかった。
早苗がこちらに気付き追ってくるまで何日でも続ける予定だった。
そのためにいろいろな人に化けて偽物の噂を流すという下準備までしたのだ。
まさか、こんなにも容易くついて来てくれるとは思わなかった。
まさか、こんなにも容易く心を乱してくれるとは思わなかった。
上手く行き過ぎて調子に乗っていたのだろう。
慢心していたのだろう。
安心していたのだろう。
のっぺらぼうは、早苗の変化に気が付かなかった。
のっぺらぼうがナイフの刃を出し、早苗の胸を刺そうとした瞬間、
目には見えない風の槍が、のっぺらぼうの胸を貫いた。