幻想パラレル(古)   作:灰色平行線

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東風谷早苗のお話はこれで最後となります。
ですが、4話裏はもうちょっとだけ続きます。


(4)在りえたかもしれない未来を想像する話

「・・・は?」

のっぺらぼうは自身の胸を見る。

穴が開いて血が出ている。

口から何か温かいモノが流れ出る。これは、血か?

前を見る。そこには、冷たい目をした少女がいた。

誰だ、こいつは?

自分が呼んだのはこんな少女ではない。もっと揺らぎやすい、心の弱い巫女だったはずだ。

いや、心の強い弱いではない。これは・・・。

「流石、人間に化けるだけありますね。妖怪に比べて死にやすい」

少女が口を開く。

「あなた?誰なんですか?」

その言葉は、自分の正体を問うているのではない。

この少女は、自分を渡瀬想太郎の偽物としては見ていなかった。

ただの妖怪として、ただののっぺらぼうとして、自分という存在を問うていた。

 

自分は、一体誰だ?突如としてこの場に現れた自分は何者だ?

 

誰かに化ける者が存在できる条件はただ1つ。

周囲が自分をその者だと認識してくれることのみだ。

存在を認識してくれる者がいなければ、誰に化けたところで意味などない。

「自分」を持っている狐や狸が化けたのならばバレたところで問題などないだろう。

しかし、のっぺらぼうは本来「存在しない」妖怪なのだ。

自分など持っているハズもない。

誰かに化けていないと存在できない者にとって、化けた者と区別され、

自身を否定されては存在など出来ないのだ。

「そういう・・・ことか・・・くそ・・・」

体が透けていく。胸の穴のせいで体に力が入らない。

のっぺらぼうにはここからどうすることもできなかった。

 

そうして、あっけなく、のっぺらぼうは消えた。

 

自身の体から流れた血すら、その場に残ることはなかった。

 

・・・・・・・・・

 

のっぺらぼうが消えたことにより、公園にいるのは早苗1人となった。

1人になった公園で、早苗は1人でぼうっと、のっぺらぼうの消えた場所を見ていた。

しばらくそうしていた後に、早苗はその場に崩れ落ち、

「あ・・・あああ・・・」

顔をおさえることもせず、静かに泣いた。

 

早苗は知ってしまったのだ。早苗は気付いてしまったのだ。

自分という人間がどのような存在なのかを。

東風谷早苗という人間は割り切ることができる人間だった。

割り切ることができてしまう人間だった。

相手が自分の友人でも、仲の良い先輩でも、自身が仕える神であったとしても、

それが偽物であれば、切り捨てることができてしまう人間だったのだ。

自分の好きな者達と全く同じ姿をしていても、

自分の好きな者達と全く同じ仕草をしていても、

彼ら彼女らが敵であれば、東風谷早苗という人間はきっと、容赦なく相手を倒す。

場合によっては殺す。

それらを敵と割り切ってしまうが故に。

早苗は知ってしまった。自分という人間の本性を、残虐さを、冷酷さを。

それは、今まで知らないふりをして、心の奥底に押し込めて、忘れ去ったものだった。

無意識の内に蓋をして、隠したものだった。

「あああ・・・ああ・・・」

涙が止まらない。

早苗は知ってしまった。

そして、そのまま予想できてしまった。想像できてしまったのだ。

 

自分はきっと、あののっぺらぼうが仮に本物の渡瀬想太郎であったとしても、

躊躇することんあく殺していただろうと。

 

渡瀬だけではない。

森林でも佐笠でも三中でも、神奈子や諏訪子だろうと、敵対すれば自分は容赦しないのだろう。

戦うのだろう。倒すのだろう。殺すのだろう。

そうして、全て終わらせた後で今のように1人で静かに泣くのだろう。

あるいは、そうなる前に相手に殺されるのか。

信じたくないことであるが、この本性を否定すべき材料を早苗は持っていなかった。

自己嫌悪。

不快感。

吐き気に似たような感情が早苗の中に溢れてくる。

「う・・・ぐ・・・ふぐ・・・!!」

思わず口を押さえる。

嫌な汗が流れる。

自身の本性を認めたくない思いと、理解してしまっている頭。

相反する2つの気持ちが、早苗の中をぐちゃぐちゃにしていた。

そうして蹲っているうちにどれだけの時間がたったのか。

ふと早苗は立ち上がる。

 

「帰ろう・・・」

 

・・・・・・・・・・

 

「ただいま帰りました」

守矢神社に早苗が戻ってくる。

「お帰りー、遅かったねー」

帰って来た早苗を諏訪子が出迎える。

「ええ、ちょっと本屋によってました」

「そっか、もうすぐご飯できるから着替えておいでー」

「はい。ああ、諏訪子様」

「ん?」

「私、幻想郷に行くことにしました」

「うんうん、そっかー・・・ってうえぇえ!?」

「それでは、着替えて来ますねー」

狼狽える諏訪子をそのままに早苗は自室へ入って行った。

 

自分は、生きる場所を変えるべきなのだ。

のっぺらぼうを殺してから、早苗はそう考えていた。

この場に残っていても、自分はきっと妖怪がらみで周りに迷惑をかける。

下手をすれば、外面では謝りながらも心の中では全く罪悪感を感じないのかもしれない。

のっぺらぼうを殺した時、自分の中に痛む心はなかった。

渡瀬の姿をしたモノを殺してしまったにもかかわらず、自分の心は何も感じなかった。

ならば仮に、渡瀬を殺してしまったとしても、自分は何も感じないのではないか?

そんな化け物のような考えが早苗の中にあった。

否定したくても否定できない。

化け物は、確かに早苗の中にいるのだ。

だから、生きる場所を変える。

現実から幻想へ移す。

好きな人達を殺さないために。

自分は普通の人間なのだと思い込んでいたいから。

思い込むため、抱え込むため、東風谷早苗は幻想郷に行くことを決意する。

 

・・・・・・・・・

 

「行ってきまーす」

神社に声が響く。

日時は早苗がのっぺらぼうを殺した次の日の朝。

いつものように、早苗は学校へ向かって行った。

 

「早苗ちゃん、おはよー」

「東風谷さん、おはよっス」

「森林さん、佐笠さん、おはようございます」

クラスに入っても、早苗はいつもと変わらなかった。

周りの皆もいつもと同じように接してくれる。

いつもと何も変わらない日だった。

だからこそ早苗は思うのだった。

やはり自分は割り切れる人間なのだと。

昨日の出来事を思い出しても自分の心は何も変わらない。

周りの目は何も変わらない。

変わったものは、その場には何もなかった。

 

昼休み、いつものメンバーでいつものように屋上に集まる。

「はあ・・・」

「あり?先輩どしたの?なんだかユーウツ?」

ため息をつく渡瀬に森林が問いかける。

「あー、次の体育で長距離走やるからじゃないかなあ?」

答えたのは三中だった。

「ああ、なるほど」

「渡瀬先輩、体力ないっスもんねえ・・・」

森林と佐笠が納得したように頷く。

渡瀬の体力がないというのは、周知の事実だった。

早苗は改めて思う。

やはり昨日ののっぺらぼうは偽物だったのだと。

性格が違いすぎるのだ。

こうして早苗は1日を過ごしていくうちに、自分や周りの存在を再認識していくのだった。

 

「ふう・・・そろそろ完全下校時刻ですね」

誰に聞こえるでもそう呟き、早苗は帰る準備をする。

今は文化祭の準備期間だからこうして準備に取り組んでいるが、

文化祭が始まる頃には自分は幻想郷へ行っているだろう。

だとすれば、文化祭の準備に自分が参加する意味などあるのだろうか。

そんなことを考えながら、学校を出る。

そうして帰ろうとした時、

「早苗ちゃん」

と、早苗の背中から誰かが呼びかけた。

「・・・先輩」

早苗が振り返ると、渡瀬が学校の校門から出てきたところだった。

「途中まで、一緒に帰らない?」

「はい、そうしましょうか」

 

「そういえば、結局、長距離走は大丈夫だったんですか?」

「ああ、なんとか完走することはできたよ」

渡瀬は困った様に笑う。

普段通りになんてことない会話をする帰り道。

こうしていつも通りに時間は過ぎて行くのだろう。

きっと自分が消えてしまった後も、その日常が変化することはない。

それは、東風谷早苗という人物が皆の記憶から消えること。

最初から東風谷早苗という人物などいなかったことになるだけだ。

だから自分が幻想郷へ行っても大丈夫。変えたくないものは全て、変わらないのだから。

早苗はそう思っていた。

「・・・早苗ちゃん」

しかし、

「先輩?どうかしましたか?」

早苗の周りの人物はどうだろうか。

「大丈夫?」

「え?」

「早苗ちゃん、なんだか寂しそうな顔してたから」

そう言って、渡瀬は優しく笑った。

早苗は知ってしまった。

自分が非情で、冷血で、割り切ってしまえる人間だということを。

だがその一方で、これまでの東風谷早苗もまた、嘘偽りではないのだ。

温情で熱血で、人のために張りきれる。

それもまた、東風谷早苗の立派な一面なのだ。

早苗の周りの人達が、友達が、先輩達が、家族が、それを知っている。

「・・・先輩」

「ん?」

「頭、なでてくれませんか?」

「こうかな?」

渡瀬が早苗の頭をなでる。

優しくて、温かかった。

「はい、もう大丈夫です。東風谷早苗は大丈夫です」

「・・・そっか」

なんてことのない会話をした、いつもと変わらぬ帰り道だった。

 

・・・・・・・・・

 

3日後。

「おはよー」

「おはよっス」

森林はいつものように学校に来て、友達と挨拶をする。

 

「先輩達はどう思う?」

「それってやっぱり・・・」

「だよねえ・・・」

「やっぱりそう思うっすか・・・」

いつものように昼休みに屋上にいつものメンバーと集まる。

 

「森林さん、メイド喫茶メニューだけどさ」

「あー、うん、どうせ文化祭だし喫茶店のメニューにこだわる必要はないんじゃないかな?」

放課後にはいつものように文化祭の準備をする。

いつも通りに過ごしているはずなのに、森林は何か、物足りなさを感じていた。

「あれ?これって?」

佐笠が不思議そうな声を出す。

「どしたの?」

「いや、こんな服あったっすかねえ?」

森林が見ると、佐笠が持ってたのは丈の短いメイド服だった。

「あり?こんなの作ったっけ?メイド服なんだからスカートの丈は長めにしようって

言ったはずなんだけどな・・・あれ?」

不意に、見知らぬ誰かが頭をよぎった。

顔も見えない。名前も分からない。だけど、よく覚えているような。

「どうかしたっすか?」

「いや、なんかそのメイド服を着た子がいたような気がしたんだけど・・・気のせいだったみたい。

それじゃあ、そのメイド服は私がなんとかしておくよ。

男の佐笠君がメイド服なんていつまでも持ってたら変態扱いされちゃうしね」

「んな!?べ、別にそんなつもりはないっすよ!?」

「分かってるって」

そう言って森林は、佐笠の手からメイド服をとった。

そして、誰にも聞こえないような声で、

「やっぱり、どっかで見たような気がするんだけどな・・・」

と呟いた。

 

 

この日、東風谷早苗の存在は幻想のモノとなった。

もう、彼女を知る者はそとの世界にはいなかった。

 

・・・・・・・・・

 

さて、幻想となった東風谷早苗は八坂神奈子、洩矢諏訪子と共に幻想郷へと向かう。

そして、木々が赤や黄色に染まるころ、早苗は幻想郷で博麗の巫女である博麗霊夢と

対決することになるのだが、それはまた別の話。

 

外の世界での東風谷早苗の、幻想郷に来る前の守矢の巫女の話はここで終わる。

 

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