予想以上に短くなった・・・。
逆に4話表は予想以上に長引いてます。
行き当たりばったりだからこうなっちゃうのも仕方ないね。
11月上旬。
「行ってきまーす」
マンションの一室に声が響く。
「行ってらっしゃあい、気を付けてねえ?」
部屋の中からおっとりとした声が聞こえてくる。
その声を背に、森林樹木は学校へと向かった。
これは、外の世界の物語。
かつて1人の少女が存在していた世界の物語。
・・・・・・・・・
学校についた森林は早速机にノートを広げる。
「よし!さて、と」
森林は趣味で噂を集めている。
聞いた噂はこうしてノートにまとめておくのだ。
「まだ調べてない噂は何かあったかなーっと・・・」
ノートのページをパラパラとめくる。
「・・・ん?」
ふと、ページをめくる手が止まる。
「・・・こんな噂あったっけ?」
山の上に住む幽霊少女の噂(未解明)
ノートのとある1ページに、それだけ書かれていた。
しかもこれは・・・
「私の字じゃない・・・?」
明らかに他者が書いた字の形をしていた。
なんというか、達筆なのだ。
「あれ?これもしかして筆で書いてる!?うっそ!?裏写りとかしてないよね!?」
慌ててページの裏を覗き込むが、幸運にも裏写りはしていないようだ。
それはそれで不思議なことであるが、今問題にすべきはそちらではない。
気になるのはむしろ・・・
「こんな噂、聞いたことんあいけどなあ・・・」
そう、学校でこんな噂など聞いたことがないのだ。
これまでに噂を見つける度にこのノートに書き込み、真偽を確かめてきた。
常に情報の発信地は噂なのだ。自分はその噂を拾っているだけだ。
しかし、これでは自分が怪奇現象の中心にいるようではないか。
いや、現段階では実際に中心にいるのだが。
「・・・まあ、ノートに書かれているからには確かめなくちゃなあ」
気になったらとにかく調べてみないと気が済まない。
森林樹木とはそういう人間だった。
・・・・・・・・・
「山の頂上に幽霊ねえ・・・」
いつもの部室でいつものメンバーに森林はノートのことを伝えた。
「それで、先輩達とか佐笠君とか、この噂を誰かが話してているのを聞いたことってない?」
少しは期待を持って森林は聞いてみたが、3人からの返事は「NO」だった。
予想していたことではあるが、やはり残念な気持ちにもなる。
「しかし、誰も噂していない噂ってのもなんだか変っスよねえ」
佐笠の言葉に渡瀬が頷く。
「でも、調べてみるだけの価値はあるかもね。
よし、それじゃあ今度の日曜日に暇な人は山登りに行こうか」
「山登りって、噂の解明をするにしてもどこの山に登るの?」
三中が問う。
この町は小さなものも含め、いくつかの山がある。
そもそもこの町の山なのかどうかすら分からない。
「あ、1つだけ心あたりがあるカモ」
そう言ったのは森林だった。
別に確証があるわけではない。ただなんとなく「あの場所かな?」と思っただけだ。
それでも、どこか確信を持つ自分の姿が森林の中にいた。
・・・・・・・・・
日曜日。
森林達はとある山の入り口に集まっていた。
山の入り口には「〇〇山」と看板があるが、古くなっていて文字が読めない。
「4人全員集まるとはね、それじゃあ行こう」
渡瀬の言葉で、全員が出発する。
全員、私服に荷物入れ1つという恰好だ。
山登りであるため、動きやすい服装にしてある。
「それにしてもここも奇妙な山っスよねえ。確かこの山にも変なことがあったっスよね?」
「うん。だからこの山が怪しいと思ったんだ」
佐笠の言葉に森林が頷く。
この山には1つの奇妙な出来事がある。
この山の頂上には、昔神社が建っていたのだが、いつの間にかその神社が消えていたのだ。
取り壊されたというよりは、最初から神社など無かったかのように、
文字通り
そして、何より不思議なのが、その神社がいつ消えたのか、誰も覚えていない。
森林達も、そのご近所さんも、学校の皆も、この町の人達も、誰1人として、
いつ神社が消えたのかが思い出せなかった。
神社が建っていたことは思い出せるのに、
神社の消えた日どころか、神社の名前さえ思い出せない。
今、この山に残っているのは、頂上までの石階段と、
神社の跡ととして残った石の庭だけだった。
「あと・・・どれくらい・・・かな?」
「そー君?まだ登り始めて5分くらいだよ?」
早くも渡瀬の息が切れかかってきたようだ。相変わらずの体力の無さである。
「あと半分だと思うよ?ホラ、そこにカエルの石像が置いてあるし」
「ああ・・・そうなの・・・」
「よく知ってたっスねえ、森林さん」
「うん・・・ってあれ?なんで私知ってたんだろう?」
ふと森林は疑問に思った。
自分はなんでこの山のカエルの石像について知っていたのか?
「誰かに教えてもらったとか?」
「誰かに・・・」
三中の言葉が引っかかる。違和感というよりは、記憶に引っかかる感じだ。
誰かに教えてもらった?そう言われてみればそんな気もするが・・・。
「ほら、カエルの石像が見えるでしょう?アレがこの山の半分まで来ましたよって
いうメッセージなんです」
おかしい。確かに教えてもらったハズだ。
でも、誰に?あの子は誰だ?
あの声は誰の声だった?
思い出せない・・・。
「もーちゃん?」
三中が心配そうに呼びかける。
「え?」
「大丈夫?なんだか苦しそうな顔してたよ?」
「あ、うん、大丈夫」
疑問が出てしまったが、とりあえずは登ることにした。
頂上まで登れば、何か分かるような気がした。
・・・・・・・・・
「頂上まで上がってきたけど、想像以上に何もないっスね」
「そ・・・だね・・・」
佐笠の呟きに死にかけの渡瀬が答える。
調査のためとはいえ、こんな体力の低さでよく山登りなんて言い出したものだ。
しかしながら、佐笠の言う通り何もない。
石の床だけがかつてここに神社があったであろう名残として冷たく存在している以外には。
そう思ったが、どうやら違うようだ。
「あれ?」
石の床の上で何が光るのを見つけた。
森林が近づいて光るソレを拾ってみると、キーホルダーのようだった。
そのキーホルダー四角形の小さな透明の板に
蛇が自分の尾を飲み込もうとしている絵が描かれていた。
ウロボロスというヤツだろうか。
噂に関係があるようには思えないが、とりあえず皆に見せてみよう。
「ねえ、これって・・・」
そう思って振り返ると、誰もいなかった。
渡瀬も、佐笠も、三中も、そこにいない。
慌てて、石階段の方へ行っても、誰も見当たらない。
こっそり帰ったというわけではなさそうだ。
何よりさっきまで死にかけていた渡瀬がそう簡単に動けるワケがない。
ならば、他の皆はどこに行ったのだろうか。
とりあえず、石の庭の方に向き直る。
すると、
消えた3人の代わりに、1人の少女が立っていた。
「・・・え?」
青い髪に巫女服を着た少女は寂しそうな顔でそこに立っていた。
「貴方は?」
彼女を見ていると不思議と懐かしさが込み上げてくる。
とても大事な何かを見つけたような、温かいような、優しいような気持ちになる。
だからこそ、森林は少女に問いかけた。
ただの好奇心とは違う、何かを取り戻そうとするかのように。
だが、彼女が少女に問いかけても、少女は返事をしない。
こちらから近づいてみても何も反応を起こさない。
ただ、悲しそうな、泣きそうな表情でこちらをみるばかり。
「・・・大丈夫だよ」
思わず、そう、声をかけていた。
彼女が誰なのか、名前も分からない。
ただ、森林には彼女がただひたすらに寂しがっているように見えた。
「大丈夫、大丈夫だから」
ただ、ひたすらに大丈夫と言ってやる。
子供をあやす母親のように。
大丈夫と言う度に、少女は小さく反応を見せた。
「そうだ、ちょっと待ってね」
そう言って、森林はバッグの中を探す。
「何かないかな・・・あ、これ」
森林がバッグから取り出したのは、2つのキーホルダーだった。
それぞれのキーホルダーには、アニメでよく見るようなキャラクターの人形がついていた。
「この2人のキャラクターはね、恋人同士なの。
こうやって2つのキーホルダーを合わせると手を繋ぐんだ。
だからハイ、片方あげる。ヘヘ、ちょっとベタだけど再開のお守りってヤツ!」
そう言って、キーホルダーの片方を少女の手に握らせる。
少女はそのキーホルダーをじっと見つめると、森林に向かって微笑んだ。
そして、少女は笑いながら、一粒涙を残して消えてしまった。
まるで最初からそこにいなかったように。
「今の・・・」
「どうした?」
「うぇ!?」
すぐ横に渡瀬がいた。
振り返ると、佐笠も三中もいる。
少女と入れ替わるように、3人はそこにいた。
「いや、何か呟いたと思ったからさ」
「え?いや、何でもないよ!大したことじゃあ、ないからさ!」
「そう?なら、いいんだけど・・・」
どうやら、あの少女を見たのは自分だけらしい。
「にしても見つからないっスねえ、少女の『しょ』の字もないっすよ。
あれ?この場合、『しょ』の字?それとも『し』の字っスか?」
「どっちでもいいよ。まあ、何もなかったならないでいいじゃん、帰ろう?」
森林がそう言うと、渡瀬は驚いたような顔をした。
「珍しい、いつもならそんなに簡単に調査を断念したりはしないのに」
「なんとなく分かっちゃったからさ。
この噂は解明しないって。でも、それでいいんだよ」
「・・・まあ、噂を持って来た本人がそれでいいって言うんならそれでいいけどさ。
それじゃあ、皆帰ろうか」
そう言って、皆で石階段を降りる。
その時、森林は少女の声を聞いたような気がした。
ありがとう。
そう、言われたような気がした。
振り返ってみるが、そこには誰もいない。
風の音でも聞き間違えたのだろうか。
だが、それでもいい。
都合のいい話かもしれない。
それでも、森林は彼女の声を信じることにした。
自分はきっと、彼女を知っている。
ならば、きっと・・・。
「また、会えるよね?」
誰もいない石の庭にそう言葉を残して、
森林は石階段を降りて行った。
・・・・・・・・・
それから、森林の噂をまとめたノートは、
噂を書いて、それを調査してと繰り返し、新しいノートに何度も代替わりしていった。
しかし、何冊ノートが変わっても、ノートの1番最後のページには
「山の上に住む幽霊少女の噂」と書いた。
そして、その噂が解明されることはなかったという。