まさか1話全部使うとは思わなかった。
「ボクの能力、『先延ばしにする程度の能力』っていうんだけどね?
文字通り、あらゆる事柄を先延ばしにすることができるんだ。
雑誌の発売を先延ばしにする。テストの日を先延ばしにする。誰かの死を先延ばしにする。
とはいえ、この能力も何でもアリって訳にもいかなくてね、
同時に2つ以上のことは先延ばしにできないし、先延ばせる期間も1週間が限界だ。
本当にちょっとしたことにしか使えない能力だったんだけどね。
それが今、こうして私の寿命を先延ばしにし続けている。
しかもタチの悪いことに自分では解除できないときたもんだ。
そのせいでボクはかれこれ200年以上生き続けているんだ。
フフ、少ないと思うかい?
この幻想郷にはボクなんかよりずっと長生きしてる人が多いからね。
でも、たった200年でもボクには十分過ぎるくらい長く生きたと思ってるよ。
だからいい加減さ、人に戻りたいんだよね。
普通の人にさ」
・・・・・・・・・
百々千代と話した後、想夢は部屋で魔理沙が持って来てくれた漫画を読んでいた。
するとトントンとノックの音がして、声が聞こえてきた。
「ちょっといいかしら」
「あ、はい、どうぞ」
声の主に返事をすると、ガラリと戸が開かれる。
部屋に入って来たのは永琳だった。
「どうかしましたか?」
「ちょっと百々千代のことで話がね」
そう言う永琳の表情はなんだか固い。
薬の説明をしていた時のような笑みを浮かべる余裕など、全く見られない。
「百々千代から、不老不死についての話は聞いたのでしょう?」
「はい、輝夜さんとは不老不死になった経緯が違うと」
「そう、ならまずはそこから話しましょうか」
そう言うと、永琳は少し考える素振りを見せる。
「想夢君は、『竹取物語』って知ってるかしら?」
「あ、はい、中学校の国語の教科書にありました」
正直な話、竹取物語の内容を覚えているわけではない。
まあ「かぐや姫」のお話とストーリーは大体同じだろう。
「そう、なら話は早いわね。
・・・それにしても、貴方自分が昔の人間じゃないってバレてから
隠そうともしなくなったわね?
普通なら中学校なんて単語は口から出ないわよ?」
「まあ、バレてるのに演技しても意味ないですし」
というか普段の行動からして隠しきれているわけがないと自分で思っていたりする。
むしろ自分のプロフィールに全く疑問を抱かない幻想郷の住人達の方がおかしいのでは
ないだろうか。
「まあ、本人がそれでいいのなら別に私がどうこう言う問題じゃあないわね。
それで『竹取物語』の話だけど、まずは内容を簡単に、大雑把に説明するわね?」
・・・・・・・・・
昔、おじいさんとおばあさんがいました。
おじいさんが竹を切りに行くと、1本だけ光っている竹がありました。
その光る竹を切ると、中には3寸程の可愛らしい女の子がいるではありませんか。
おじいさんは女の子を家へと連れて帰り、おばあさんと育てることにしました。
「かぐや姫」と名付けられた少女は3ヶ月程で年頃に育ちました。
かぐや姫のうつくしさ噂として広まり、いろんな男たちがかぐや姫に求婚しました。
しかし、かぐや姫は相手にしません。
特にしつこい5人の男達には無理難題を言って諦めさせました。
そんなかぐや姫の噂は帝の耳にも入りました。
帝はかぐや姫に会おうとあの手この手を使いましたが、結局会えたのは1回だけでした。
それでも帝の熱意が伝わったのか、かぐや姫と帝は文通をする仲となりました。
ある8月のことです。
かぐや姫は夜に月を見て泣くようになりました。
おじいさんが理由を聞くと、かぐや姫は答えました。
自分はは本当は月の住人なのだ。
15日、迎えの者がやって来て私は月に帰らなくてはならない。
それが悲しくて泣いているのだと。
そして当日の夜、事情を知った帝は家来達におじいさんとおばあさんの家を守らせました。
しかし、やって来た月の使者の不思議な力によって、
帝の家来達は戦意を失ってしまいました。
そして、月の使者はかぐや姫を月へと連れ去ってしまったのでした。
かぐや姫は連れ去られる前に、帝に不老不死の薬を渡しました。
しかし、帝はかぐや姫に会えないのに不老不死になっても意味がないと言って、
家来に不老不死の薬を日本で1番高い山の頂上で焼いて来いと命じました。
それからその山は不死の山、後に富士山と呼ばれるようになったのです。
・・・・・・・・・
「少し童謡みたいなカンジになったけど、大体こんなトコね」
永琳はどこからか取り出したのか、お茶を飲みながらそう言った。
「さて、話の中に出てきたしょう?
かぐや姫が帝に渡した『不老不死の薬』が。
簡単に言ってしまえば私や姫様・・・ああ、姫様ってのは輝夜のことね。
私や姫様はこの『不老不死の薬』を飲んだから不老不死になってしまったワケ」
永琳はそう言うと、これまたどこから出したのか、右手に小さなナイフを持っていた。
「・・・」
嫌な予感がする。
想夢の顔色が変わる。
「もう聞いているとは思うけど、私や姫様の不老不死と百々千代の不老不死は
性質が異なるモノなの」
そう言って永琳はごく自然な動作でナイフを使って自分の左腕に小さく切り傷をつける。
傷口から少し血が出るが、数秒もすれば傷そのものがすぐに治り出血は止まる。
・・・。
永琳がナイフで自分を傷つけるのを止める暇もなかった。
というかたった2日で3人の女性の自傷を目にしてしまっている。
トラウマになったらどうしてくれるんだ。
それでもまあ永琳のは優しいレベルだが。
輝夜も百々千代もこれくらい大人しくしてくれてもいいのにと想夢は思う。
なにもナイフで胸を思いっきりぶっ刺したり銃で頭をブチ抜かなくてもいいはずだ。
「とまあ、こんな具合で私や姫様の不老不死は・・・ってどうかした?
固まっちゃって、なんだか気分も悪そうよ?
もしかして血とか見るのダメなタイプだった?」
「あ、いえ・・・大丈夫なんで、続けてください」
永遠亭の人達の自傷に対する軽さに引いてるなんて言えるワケがない。
「そう?それじゃあ続けるけど、私や姫様の不老不死の特徴は今見た通り、
どんな傷を負っても完治してしまう点にあるわ。
病気にだってなるし毒にだって侵されるけど、それもしばらく辛いのが続くだけ。
最終的には完治する」
ゲームで言えば常にHPが回復し続けているようなカンジだろうか。
そして絶対にHPが0にはならない。
「それに対して百々千代の不老不死の特徴は絶対に体が傷つかない点にあるわ。
外側からだろうと内側からだろうと彼女の体は絶対に傷がつかない。
病気にもならない。毒を飲んでも何も異変がない。
挙句の果てにはコインみたいな異物を飲み込んでも消化してしまう。
同じ不老不死の私が言うのもアレだけど、どんなチートよ」
永琳や輝夜がHPを回復し続けるタイプだとすると、
百々千代の場合はそもそもダメージを受けないタイプなのだろう。
どんな攻撃をしても受けるダメージは0。状態異常にもならない。
まあ、どちらも死なない点で言えば同じレベルのチートだと思うが。
「まあ、唯一の救いは彼女の不老不死は私や姫様のように薬でそうなったのではなく、
あくまでも『彼女自身の能力』によるものだということね。
能力によるものならば手はある。能力を使えなくするとかね」
「ちょっと待ってください」
ここで想夢は話を止める。
少し気になることがある。
確かに想夢の「断ち切る程度の能力」ならば本人とその能力の繋がりを断ち切って
一時的に能力を使えなくすることも可能だ。
事実、咲夜と戦った時、想夢は咲夜の能力を封じることに成功している。
さらに言えば、想夢と咲夜が戦ったことはすぐに噂として人里に広まっていた。
それに新聞記者の烏天狗の存在もある。
想夢の能力を永琳が永琳が知っていたとしても何の問題もない。
気になるのはそこではない。
想夢が気になっていること、それは・・・
「試したことがあるんですか?」
「ええ、当然でしょう?」
想夢の質問に永琳は「当たり前だ」とでも言いたげに答えた。
「だけど結果は大失敗。
中途半端に成功してしまったせいで失敗していた方がマシだったと思う結果になってしまったわ」
そう言って永琳は小型の銃のような形をした機械をどこからか取り出した。
本来銃口のあるであろう部分には青い球体がついており、
まるでおもちゃのレーザー銃のようだ。
「コレは『能力不活性銃』といってね、人間や妖怪の霊力、妖力を不活性化させることで
その者が持つ能力を極端に弱らせ、使用不能に近い状態する装置よ。
射程がとてつもなく短く目の前にいる相手にしか使えない代わりに効力はかなり大きい。
百々千代の持つ『先延ばしにする程度の能力』は同時に2つ以上のことは先延ばしにできない。
自分の寿命を先延ばしにし続けているため、能力によって能力を消そうとする事実を
先延ばしにすることはできない。
彼女は自分の能力が消される点については完全に無防備な状態なの。
故に彼女の能力を打ち消す方法はいくらでもある。
八雲紫に頼んで彼女と能力の境界をいじってもらうとか、能力を封印する装置を作るとか。
だけど、1つ問題があってね、彼女自身のそもそもの霊力が強すぎるのよ。
あまりにも強い霊力によってどんな手を使っても彼女の能力を消しきることができない。
完全な無防備でありながら絶対の防御力を持っている。それが今の百々千代なの。
だから『能力不活性銃』で彼女の能力を弱体化させてから能力を打ち消す予定だった。
だけど・・・それでも彼女の能力を打ち消すには至らなかった。
能力を弱体化させても、まだ彼女の能力は、彼女の霊力は強力だった。
そして、中途半端に能力を弱体化させた代償として、彼女の脚は動かなくなってしまった。
まるで足だけが寿命を迎えてしまったかのように」
ここまで言って永琳はふうと息をつく。
「ここまで、長々と語ってしまったけど大丈夫かしら?」
「えっと、つまり・・・超強力な能力で百々千代の不老不死は成り立っていて、
中途半端に能力を消そうとすると逆に悪い結果になるってことですか?」
「まあ、大体そんなカンジね。
そこまで短くまとめられると長く語った私の頑張りがアホらしく思えてくるわ」
セリフは刺々しいが言い方は冗談を言うようなカンジだった。
永琳の表情はここで初めて柔らかくなった。
「それで、ここまで僕に聞かせたってことはやっぱり何か意味があるんですよね?」
逆に、今度は想夢が緊張した顔になる。
「ええ、百々千代が貴方に自分の不老不死について話したということは、
きっと貴方に何か感じるものがあったのだと思うの。
貴方になら賭けてもいいと思えるような何かが。
だから想夢君、これは私と百々千代からの勝手なお願い。
貴方にはすでに新薬のテスターをしてもらっているから治療のお礼とかそんなことは
一切考えなくていいわ。
あくまで個人的なお願いとして、百々千代を不老不死からただの人間に戻すのを手伝ってほしい」
永琳はそう言って頭を下げる。
お互い座った姿勢でいるので、所謂土下座の形となる。
永琳のそんな姿に想夢は、
「・・・明日、明日まで待ってください・・・」
としか言えなかった。
・・・・・・・・・
夜。想夢は布団の中で考える。
そもそも自分の力で永琳や百々千代の助けになるのだろうか。
想夢が自分の能力でできることは限られている。
相手と能力の繋がりを断ち切り、一時的に能力を使えなくすることはできる。
だが、強固で強力な百々千代の能力を断ち切ることなどできるのだろうか。
もし失敗すれば、今度は脚だけじゃすまないだろう。
だが、永琳に頭まで下げられてしまった。
新薬のテスターをしてもらっているからお礼とかは考えなくてもいいとは
言ってくれているが、その新薬も今のところ副作用とかは全くない。
全てにおいて、今の想夢は助かっているのだ。
「・・・どうしよう・・・」
今夜はなかなか眠れそうにない。
長い夜になりそうだ。
・・・・・・・・・
その一方で、百々千代は自分の部屋で本を読んでいた。
「入るわよ」
部屋の襖が開く音がする。
百々千代が振り返ると輝夜がそこにいた。
「おや、姫」
「2人の時はその姫っての止めろって言ってんでしょ?
っつーか貴方別に私の家来じゃないじゃないの」
百々千代の言葉に輝夜は呆れ気味に返す。
「そろそろ寝ようと思って誰かに布団に横になるのを手伝ってもらおうと思っていたけど、
流石に姫相手に手伝ってくれとは言えないな。とてもとても畏れ多くてね」
「ウソつけ、本当はそんなことこれっぽっちも思ってないでしょうに。
それにそれぐらいなら私だって普通に手伝うわよ」
「そうかい?それじゃあよろしく頼むよ」
そんな軽口を叩き合いながら、輝夜は百々千代を布団に移動させる。
「百々千代、貴方、想夢に自分の不老不死について言ったらしいわね」
横になった百々千代の側に座り、輝夜は問いかける。
「それは姫も同じだろう?」
「私と貴方じゃ理由が違うでしょーが。
貴方がわざわざ自分の不老不死について話したのは、
彼なら解決できるかもしれないと思ったからでしょう?
正直、私にはそうは思えないわ。
彼の能力がいくら強くても、彼自身の霊力は貴方には及ばない。
彼の能力が貴方の能力に力負けするところしか想像できないわ?
それでも貴方は博麗想夢に賭けるというの?」
「ああ」
輝夜の質問に、百々千代は力強く頷いた。
「彼はボクにとって都合のいい能力を持っている。
それに彼は博麗の巫女なのだから」
そう言う百々千代の目には自信と希望があった。
そんな目を、輝夜は久しぶり見た気がした。